第五抱 更なる成長

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第五抱 更なる成長

サンドルフたちがサンダイス星に帰星すると、ランスたちはもう帰ってきていました。 サンドルフたちはランスたちに労いの言葉をかけましたが、苦笑いを浮かべ、全員が肩を落としています。 何かとんでもないことが起きたんだと、サンドルフは予感しました。 ですが魔王軍隊員全員が椅子に座っているので、サンドルフはほっと胸をなでおろしました。 そして誰かが失敗したわけでもなさそうで、慰めるような気は流れていません。 となると、現地住民を助けたかったのにそれが叶わなかったということだと、サンドルフは察しました。 サンドルフが察した時点でサンサンがその想いに気づき、天使デッダに変身して、ハルと一緒に全員に抱かれました。 ほんの少しでも元気が出ると、食欲も沸くはずだと、サンドルフはみんなを見て笑みを浮かべました。 すると半数ほどが薄笑みを浮かべて力強く立ち上がり、お風呂に向かって歩いて行きました。 ランスも付き合うようで、マキシミリアンと肩を組んで歩いて行きました。 「…どうしようもなかったんだ…  だけど助けたかった…  だが、いつもでも落ち込んではいられないっ!!」 ダンが自身を奮い立たせるように言って立ち上がり、部隊員の肩を叩いて風呂に誘いました。 やはり隊長が腐っていては隊員たちも元気が出ません。 そして今は、ダンと肩を並べて、お互いの無事を喜びあいました。 「…何があっても、落ち込んじゃダメだ…」とサンドルフは自分に言い聞かせるようにつぶやきました。 「あ、俺、そろそろ寿命だから」とベティーが言うと、ロア部隊全員が凍りつきましたが、セイランダがすぐにあることを思い出したようで、少し怒った顔をしています。 その雰囲気を察したサンドルフが、「出撃一回停止…」と言うと、「ま、待ってくれっ!!」とベティーは大声で言いました。 動物としての寿命なのは本当のことなのですが、ランスの奇跡によってベティーの寿命は、今まで生きた分だけ延びているのです。 セイランダがサンドルフに説明すると、「なんだか安心したなっ!!」とベティーは言って大声で笑いました。 仲間に心配してもらったことで、ベティーはさらにこの部隊が好きになりました。 「仲間の不幸が一番堪えるんだろうけどね。  だけど戦場で落ち込んでいたら全滅するかもしれない。  冷淡かもしれないけど、  その場を何とかして安全に切り抜ける必要があるんだよ」 隊長という役職の厳しさをサンサンたちは今日始めて知ったような気がしました。 サンドルフたちは修行の続きを開始しました。 学校が終ったカレンも合流して基礎体力訓練を開始しましたが、サンサンと話をしてすぐに、かなり怒った顔をしてサンドルフに詰め寄ってきました。 「…キャコタはまた次の機会に。  学校で習ったんじゃないの?」 サンドルフが言うとカレンは、「ハイエイジクラスになってからよっ!!」とかなりのお冠です。 「今はサンクック君の映像で我慢して」とサンドルフが投げやりに言うと、「しょうがないわね…」と言いながら、妙に楽しそうに映像を見始めました。 ハイエイジクラスの授業内容を今することが、カレンにとってテンションが上がることだったようです。 夕食の席はお通夜のようにはならず、かと言って騒ぐわけでもなく、ごく自然な席となりました。 すると、「…ロア部隊…」というダンの声が聞こえました。 大樹も同じような言葉をつぶやいたようにサンドルフには聞こえてきたのです。 するとランスは腕組みをして考え始めました。 そしてランスがひと言言うと、ふたりは肩を落としましたが納得したようです。 「ロア部隊がいれば癒やされるかもしれない。  だけど僕たちはサンサンとハルを除いて癒やしの対象ではない。  だからランス師匠は申し出を却下した」 サンドルフが声を抑えて言うと、サンサンがまた天使デッダに変身して、ハルと手をつないで飛び、ランスたちにまとわりついてから戻ってきました。 「サンドルフ君、ほんとにすごいっ!!」と人間に戻ったサンサンはもろ手を上げて喜んでいます。 「ハルだけをランス師匠に献上してもいいかなぁー…」とサンドルフが少し意地悪く言うと、ハルはサンサンの後ろに隠れてしまいました。 サンドルフは知っています。 堕天使には堕天使仲間が必要なのです。 ランスたちも仲間には違いありませんが、堕天使がひとりでいると心細く思ってしまうのです。 ですがハルの場合、星にいた唯一の堕天使でした。 それが普通のことだったのですが、今は環境が変わってしまったので、本来の堕天使の性質に戻ってしまったのです。 そしてそれを、サンリリスがきちんと説明をしたからです。 説明したことで、ハルは今までよりもずいぶんと能力を上げているのです。 人間に例えると甘やかしのように感じるでしょうが、天使の場合、多少の甘やかしは必要なことなのです。 「ハルは一日何をして過ごしていたの?」 サンドルフはまずは素朴な質問をしました。 すると、『あっ!!』と言ってハルはあることに気づき、肩をすぼめるようにして落ち込みました。 「お母さんに会った方がいいのかなぁー…」とサンドルフが察して言うと、ハルは顔を上げて、『お母さん、すっごく悲しんでくれたって思うの…』とハルは泣き声でサンドルフに言いました。 「うーん…」とサンドルフは考えてから、まだ確認はしていませんが笑みを浮かべました。 「サランさんがきっと伝えてくれているって思ったんだけどね」 サンドルフの言葉はハルを大いに喜ばせました。 「はい、それはもう」と言って、サランはサンサンの体から飛び出してきました。 ランスが立ち上がろうとしましたが、サランはランスに笑みを向けて、微笑んで頭を下げただけです。 今はサンドルフたちに話があるといった雰囲気をかもし出していたので、ランスも少し頭を下げただけです。 「お母さんはね、生きていればそれでいいって言って、  大声で泣いていたわ。  さびしい気持ちもすごくわかるけどね。  同じぬいぐるみ仲間としてここで生きていくことが  ハルちゃんのためになるの。  そう言ってお母さんに説明したの」 サランがやさしい言葉で話すと、ハルは顔を上げてお礼を言うように頭を下げました。 「じゃ、旅行に行こうか」とサンドルフが言うと、ロア部隊の士気が一気に上がりました。 「お母さんにきっちりと見てもらった方がいいと思ったんだよ。  それに、今のハルは堕天使ひとりでは生きていけないからね」 サンドルフが言うと、ハルはサンサンを抱きしめました。 ハルはもう、サンサンなしでは生きていけないのです。 「あとは、堕天使仲間を増やそうか。  そうすれば、サンサンだけにこだわることもない。  ずっとふたりセットでいることもないんだからね」 サンドルフは少し厳しい言葉をハルに投げかけました。 『…うー…』と言って、ハルはうなっています。 「さらに、サンサンも僕とセットでなくてもいいはずなんだよねぇー…」 サンドルフが言うと、サンサンは猛烈な怒りをサンドルフにぶつけたのですが、すぐにハルを見ました。 「…ああ…」と言ってサンサンは頭を抱え込み始めました。 「ロア部隊としては仲間だ。  だけどもっと広い意味の仲間や友達が必要だと思う。  さすがに、ベティーさんたちにはちょっと厳しいけどね」 サンドルフが言うと、まずはセイランダが困った顔をしました。 このロア部隊の居心地がいいこともあるのですが、この部隊員以外はセイランダを恐れているのです。 さすがにそういった者に寄り添うことはできないのです。 もちろんランスであれば、誰もが寄り添いますが、ひとりという条件だと、少々厳しいと、利家以外は思ったようです。 「やっぱり珍獣だっ!!」と言ってサンドルフは笑い転げました。 カレンはセイランダたちとほぼ同じ考えを持っているのです。 カレンはホホを膨らませましたが、納得もしてしまって、肩を深く落として、上目使いでサンドルフを見ています。 「その点、利家君は本当に人間でもあるよねっ!」 サンドルフが言うと利家は頭をかきながら、「ひとりでも大勢でも、知らない人でもぜんぜん大丈夫なんだ」と笑みを浮かべて言いました。 やはり、人懐っこい性格が利家には顕著に現れています。 「あ、みんながこうなれとは言っていないからね。  だけどね、理解をして欲しいんだよ。  相手の立場に立って考えること」 「あー…」とまずはサンサンが声を上げてから、セイランダたちも考え始めたようです。 もちろんハルもですが、今はどうしてもサンドルフかサンサンのそばを離れたくないようで、今はサンサンにぴったりと体をあわせています。 「考えはするが…  俺の場合、実践すると妙な行動を起こすかもしれんなっ!!」 ベティーは堂々と言ってから、大声で笑いました。 「それでいいんですよ。  頭の片隅にでも相手を知ろうとする想いがあれば、  さらに分かり合えると思うからね」 サンドルフが言うと、「あ、僕の場合…」と利家が言いました。 サンドルフは興味津々で利家を見ています。 もちろん、ロア部隊全員が利家がら出てくる言葉に大注目しました。 利家はあまりのことに、苦笑いを浮かべました。 「何も言わないけどね、  ベティーさんって、僕のご主人様なんだよねぇー…」 利家が言うと、動物たちは深くうなづき、ベティーはわざわざ立ち上がって、ドヤ顔をして、腰に手を当てて大声で笑い始めました。 そして、「忘れてたなっ!!」と叫ぶと、ロア部隊全員が笑い転げました。 世界の騎士団に所属するニ匹一頭の動物たちは、みんなベティーの僕のようなものです。 今の利家があるのも、雄雄しきベティーのおかげでもあるのです。 確実に守ってもらえる強い力がベティーにはあるのですから。 「力こそ全ての動物の世界。  だけど、それだけじゃないんだよね?」 サンドルフが言うと、利家は笑顔で大きくうなづきました。 「一声ほえただけでね、身が引き締まるんだっ!!」 「なるほどなぁー、気合が入る。  そして、わが主…  頼りがいがあって頼もしい…」 サンドルフが言葉を重ねるたびに、ベティーのホホは緩んでいきました。 「ほえようか?」「いえ、今は団欒の時なので」 ベティーが言うとすぐにサンドルフが答えました。 「ですが、みんなの食事が終わってからでも。  本気のベティーさんの雄叫びを聞かせて欲しいのです」 サンドルフが真剣なを顔をして言うと、ベティーも表情を引き締めました。 「いいぜぇー…」とベティーはまるで悪魔のように言って、軽い畏れを流しました。 サランは、―― やっとたどり着いた… ―― と思って笑みを浮かべています。 しかし問題はここからなのですが、サランは何も心配していませんでした。 サンドルフをはじめ、強い力がこのロア部隊にはあるからです。 サンドルフはわくわくしていました。 サンドルフは一瞬ですがぬいぐるみとして生まれ、そしてすぐに、恐竜という生物として生きました。 今はすっかり人間ですが、元動物として、そしてロア部隊の隊長として、このイベントは真摯な気持ちで望もうと思ったようです。 食事が終わり、ロア部隊は囲いの外に出ました。 この近隣にいる動物の様子を探りたかったからです。 ドズ星でもベティーは動物の王として君臨していたのですが、タレントがいることで一度だけしか雄たけびは上げていないのです。 ドズ星の動物の王はタレントでしたから。 今はそのボスがいなくなったドズ星の囲いの中にいる、農園の番人の大きな草食の岩の恐竜と岩の番犬二頭は、毎日さびしそうに自分の務めを果たしています。 この三頭が、ドズ星では動物のボスとなったようですが、カノンと友達の岩の怪鳥が時々レッドベティーに会いに来ます。 そのカノンは、現在は立ち入り禁止になっているドズ星を訪れます。 修行という名目ですが、源次郎はあまりいい顔はしません。 そして岩の怪鳥を探して遊んだりしています。 ブライは、レッドベティーが目を光らせているせいなのか、何も行動は起こしません。 ランスの怒りを買ったブライは、以前の千分の一ほどの、小さな仏となってしまいました。 ブライの場合、自分に力がつくと余計な事をしてしまうようなので、源次郎は今のままでいいと、とりあえずは思っているようです。 そして古い神としてのブライの母であるブルダこと山根桂子もブライと同様で、毎日をつまらなさそうに生きています。 ドス星にいた50人の子供たちがランスについていってしまったので、本来の仕事である小学校の教師の仕事が終ると、仏頂面で食堂のカウンター席に、「どっこいしょ…」と言って座ります。 桂子自体に何の罪もないので、源次郎は監視だけをしています。 源次郎はこの状況をやはり何とかしたいと考えているのですが、ランス、覇王と相談する必要があるのです。 そして源次郎もドズ星で修行をしたいのです。 ですが成り行き上、それは叶わないことになってしまっていることを悔やんでいるのです。 ベティーはロア部隊から少し離れて、雄雄しきトラに変身しました。 まさに存在自体は、動物の王に違いありません。 そしてベティーはサンドルフをにらみつけています。 まるで戦いを挑むような目です。 サンドルフの全身に力が入ってしまったのですが、すぐに気づいて力を抜きました。 もうこの時点で、動物の王だと、サンドルフは感じています。 ベティーは少し前傾姿勢になりました。 そして、『グルガアアアアオウッ!!!』と、空気が裂け、天が割れるほどの途轍もない声を放ち、同時に言い知れぬ畏れが流れ出ました。 サンドルフはもちろん、利家たちもベティーを羨望の眼差しで見ていますが、ライバルのセイランダだけは苦笑いを浮かべています。 すると、『グルルルルル…』とベティーがうなり始めたのです。 そして、妙に苦しそうにして首を振り始めたのです。 さらには、その黄色い体毛が、徐々に黒く変わって真っ黒になってしまったのです。 「えええええっ!!」とサンサンが叫び、サンドルフは苦笑いを浮かべました。 「…悪魔、そのものだと思う…」とサンドルフはつぶやくように言いました。 そしてサンドルフは臨戦体制を取って、サンドルフとベティーだけを結界に閉じ込めました。 ベティーは、『グルルルルル…』と低くうなりながら、サンドルフを中心にして時計回りに回り始めました。 これはこのロア部隊のボス争いなのです。 「勝手なことしないでっ!!」と言ってセイランダが結界を叩きますが、サンドルフの結界はびくともしません。 するとサンサンとハルがセイランダに抱きつきました。 セイランダはダイゾに変身しようとしたのですが、心が落ち着いたので、この戦いを見ることに決めました。 「僕だって、動物だったんだぞっ!!」と叫んだサンドルフはとんでもない畏れをまとって、天使デッダに変身したはずなのですが、本物の恐竜デッダにその身を変えていました。 『えっ?! なになにっ?!』とサンドルフが思って首を振って慌てふためくと、ベティーは暴れ出したと思ったのかかなり怖かったようで、慌てて結界の限界まで下がりました。 サンドルフの体高は10メートルほどあり、かなり困った表情で首を横に振っています。 べティーが変身を解くと、その身は人間ではなく悪魔に変わっていました。 「サンドルフッ!! 降参だっ!!」と言って、ベティーは苦笑いをサンドルフに向けています。 『いやぁー、これは一体…』と思いながら、サンドルフは落ち着いていきました。 手足を見ると確実に恐竜だと思ったサンドルフは、どうして変身したのかを調べました。 すると、勇者の変身の中に、恐竜デッダが増えていたのです。 『ベティーさんの畏れを受けたせいで…  じゃ、サンサンは?』 サンドルフはサンサンに念話を送ると、『サンドルフ君、かっこいいっ!!』とまず言われてしまいました。 『いやー、ありがと…  サンサンも恐竜に変身できるの?』 サンドルフが言うとサンサンは自分自身を探ったのですがそれはないようです。 どうやらサンドルフだけが、ベティーの畏れに強く反応して覚醒したようです。 『食べちゃうぞぉー…』とサンドルフが思うと、『グギャァーオウッ!!』と恐竜デッダは叫んで素早く首を振ってベティーを見据えました。 「降参だと言ったぞっ!!」とベティーは言って、かなり困った顔をしていました。 ベティーはほんの少しですが、怖くて涙がこぼれそうになったようです。 『あ、調子に乗っちゃった。  子供だから許してね』 サンドルフが都合よく言うと、「誰が子供だ…」と言ってベティーは悪態をつきました。 とんでもない気を察知したランスたちが急ぎ飛んできて、この状況を見て、素早く全てを探ったあと、苦笑いを浮かべました。 そして、「魔王軍は最強の軍隊となったっ!!」とランスは言い放ち、大声で笑い始めました。 するとデッダが恐竜の姿に変身しました。 姿はサンドルフの恐竜デッダと瓜二つです。 ですがサンドルフよりもデッダの方がかなり大きいのです。 しかしランスは素早く探って、「硬さがまるで違う…」とつぶやくように言いました。 デッタも認めたようで、変身を解いて苦笑いを浮かべました。 「戦ったとしても防御されただけで戦闘不能になりそうだ」とデッダが苦笑いを浮かべてたまま言いました。 「サンドルフ君じゃなかったら、浮気してたっ!!」とサヤカが叫ぶと、ランスはかなり困った顔をしていました。 「へー、すごいねっ!!」と言って、満面の笑みで結界に近づいてきたサンドルフと同年代の少年がいます。 セルア平和学園の教師でもある、御座成爽太です。 「ねえねえっ!  抱きついていいかなっ?!」 爽太が言うと、サンドルフは変身を解かずに結界を解きました。 「あー、怖かった…」とベティーは小さな声で言って、苦笑いを浮かべました。 『あ、はい、どうぞ』とサンドルフが爽太に念話を送ると、爽太だけでなくサヤカもデッダに抱きつきました。 『サヤカさんには許可してませんっ!!』 サンドルフはこの場にいる全員に念話を送りました。 もちろん、デッダの気持ちを慮って言ったのです。 ですがデッダは気にもしていないようで、サヤカに向けて笑みを浮かべているだけです。 「サンサンちゃんと戦っちゃおうかしら…」 サヤカは心が揺れているようです。 『もう二度と変身しませんよ?』とサンドルフが言うと、それは困るようで、サヤカは必死になってサンドルフに謝りました。 爽太はまだ抱きしめ足りないようで、まるで幼児のように、サンドルフにまつわりついています。 これが爽太の精神修行のひとつでもあるので、サンドルフはあまり強く言えません。 「サンドルフ君が困ってるから、もういいでしょ?!」となんと、悦子が叫んで、保奈美に笑顔で拍手されています。 さすがの爽太も悦子に言われてはやめるしかなかったようで、渋々、その雄雄しき体を放しました。 サンドルフは、悦子にひとつ頭を下げてから変身を解きました。 「いやぁー、驚いてしまいました…」とサンドルフが言うと、ランスは笑みを浮かべて、「本当の意味のロア部隊になったな」と言ってサンドルフの肩を叩きました。 「誰よりも何よりも怖い隊長が誕生したっ!!  度胸試しに、ロア部隊に入りたい者っ!!」 ランスが言うと、キャサリンとサラがすぐに手を上げて、ランスの目の前に立ちました。 「あ、しまったなぁー…」と言ってランスは失言だったと、後悔したようです。 「ほかにはいないのかっ!!」とランスは声を張り上げて叫びましたが、戦士たちは顔を見合わせるだけで誰も入りたくないようです。 「俺が入っていいか?」とランスが言ってから、大声で笑いました。 「明日は、キャサリンとサラはサンドルフに預けるっ!!」とランスは申し渡してから、宙に浮かんで囲いの町に飛びました。 「あはは、得しました…」とサンドルフが言うと、キャサリンとサラがすぐにサンドルフの前に立って頭を下げました。 「僕なんかよりもおふたりの方が雄雄しい…」とサンドルフが言ったところで、「いいえっ!! それはありませんっ!!」とキャサリンがかなり力強く叫ぶように言いました。 キャサリンはなんと敬語で言葉を発したのです。 キャサリンはランスには友達に話すようにタメ口なので、この場にいる全員がかなり驚きました。 「僕も入りたいんだけど…」と爽太までが言い始めたので、悦子は怒って爽太を連れて空を飛んで囲いの町に戻りました。 「…あー、よかったぁー…」とサンドルフはほっと胸をなでおろしました。 「あの頑強な肉体。  どれほど大きいものであっても、  打ち倒せるものではないのですっ!!」 キャサリンが声を張って言うと、「そ、そうなの?」とサンドルフはかなり困った顔をしてデッダを見ました。 デッダは笑顔でうなづいています。 「じゃ、機会があったら、色々と試してみるよ」とサンドルフが言うと、キャサリンもサラも、「ああー…」と言って感嘆の声を上げ、恍惚とした表情になりました。 「あれ?」と言って、サンサンが首を振って何かを探しています。 サンドルフはすぐに気づいて、ベティーを見ました。 ハルはベティーの腕にしがみついて上機嫌のようです。 どうやらハルは恋しさのあまり、ベティーを母にしてしまったようです。 そのベティーはハルに何も言いません。 ただただ、その雄雄しき肉体をこれでもかと言わんばかりにそらせているだけです。 「ベティーさん、不自然…」とサンドルフが言うと、「ん? そうか?」と言ってベティーはとぼけて返しました。 「寿命を延ばしたことが、さらにいい結果を生んだようね」 サランが言うと、サンドルフたちはサランに、少しだけ頭を下げました。 「さらにはサンドルフ君まで。  パニックにならなかったことがさすがだわ」 サランが言うと、サンドルフは照れながらも、「はい、ありがとうございます」と言ってから頭を下げました。 「動物に、しかも恐竜に変身できる勇者。  きっとね、この世で一番強い存在になれるはずだわ。  力も、心もね」 サランが感情を込めて言うと、サンドルフはあることに気づいて、少しにやけていた顔を真剣な表情に変えました。 「あらいけない、ごきげんよう…」と言って、サランは消えてしまいました。 サンドルフはほっとため息をつきました。 サランから恋慕の気持ちをサンドルフは感じたのです。 さらには敏感なサンサンが感じていないわけがなく、戸惑いの笑みを浮かべています。 「お父さんじゃないんだぁー…」とサンサンは言って、今は悲しんでいます。 「サランさんだったら、  ランス師匠にぶっとばされても死ぬことはないと思う」 サンドルフが真顔で言うと、サンサンは泣き笑いの顔になりました。 するとハルが、ベティーの腕を離れてサンサンに抱きつきました。 『サンサンちゃんっ! がんばってっ!!』とハルはサンサンを応援する言葉を投げかけました。 サンサンは一気に回復して、「ライバルは、お母さんっ!!」と言って胸を張りました。 胸を張れないのはサンドルフで、かなり困ってしまったようです。 今のサンドルフでは、どうあがいてもサランに対抗できないのです。 こういった時には必ず救世主が現れるものなのです。 「あ、映像見たよっ!!  すごいよねっ!!」 サドンが、ほぼ神の三人とともに姿を現しました。 「あははは、皆さんほどではありません」とサンドルフが言うと、サドンは首を横に振りました。 「僕たちよりも強くなるっ!!」とサドンが言うと、サンドルフは背筋を伸ばしてお辞儀をしました。 「サランさんは大丈夫だから。  サンサンちゃんが大人になるまで待つからね」 サドンは言うだけ言って、三人とともに消えました。 「はー、やっぱり怖いなぁー…」とサンドルフが言うと、ベティーですら異論を唱えませんでした。 … … … … … 翌朝、ロア部隊はハルの故郷であるサニ星に飛び立ちました。 どうやらすでに、細田が何かをしていたようで、かなり離れている宇宙なのですが、いつものように一瞬にして到着しました。 すると、怪訝な空気をサンドルフは感じたのですが、それはすぐに消えました。 「御座成功太さんが来ていたようだね」とサンドルフが言うと、ハルはわざわざサンサンをベティーのとなりに誘って、自分が挟まるようにふたりを立たせました。 「年長者を盾にするとはいい度胸だハルッ!!」とサンドルフが怒るとハルは、『ごめんなさい、ごめんなさいっ!!』と言ってサンドルフとベティー、サンサンに謝りました。 「いいじゃあないかぁー…  俺はハルの母だぁー…」 ベティーは言ってから、ハルを抱え上げて頬ずりをしました。 サンドルフとしては別にどうでもよかったので、苦笑いを浮かべただけです。 サンドルフは、ハルがあまりにも敏感に身の危険を感じることに異議があっただけなのです。 とっさの場合に、ハルもろとも誰かが犠牲になるかもしれないのです。 「というわけで、ハルは不合格」とサンドルフが言うと、ハルはさらに肩を落としました。 サンドルフの考えはサンサンがきちんとわかっているので、ハルに説明しました。 ハルはかなり反省して、ざんげを始めました。 するとまた御座成が来たようですが、すぐに消えました。 「どうしてもハルが欲しいようだけど…」とサンドルフは言って、しばらく様子を見ることにしたようです。 「閉じ込めましたっ!!」とサランの声がサンサンから聞こえてきました。 その声は愉快そうに笑っているようです。 サンドルフは安心して、宇宙船をサニ星の大気圏に突入させました。 サニ星は、少し科学技術が発達しているようで、鉄道のようなものが走り、道路もあって車のようなものが走っています。 主に電気を使っているようで、空気は比較的きれいなようです。 当然ですが、細田の科学技術を上回るものはありません。 「軍事関連…」とサンドルフが言うと、モニターに詳細な情報が表示されました。 やはり機械を使っての武器が主戦力のようです。 戦車のようなものや、プロペラを使った戦闘機などがあります。 「戦闘の状況…」 モニターには五カ所で戦争が行なわれている映像が映し出されました。 統計の情報によれば、比較的平和といえる星のようです。 十を超える戦地がある場合は、暫定的に平和ではないと魔王軍は認識しているのです。 ハルの案内で、大魔王が住むフロアという場所にサンドルフたちは誘われましたが、ただただ空があるだけです。 ですがハルに先導されるがままに飛ぶと、いきなり広い室内に出ました。 そして正面に見える立派な机に、悪魔が腰掛けていたのです。 悪魔を守るように、人間に見える大勢の者たちが悪魔を守るように囲んでいます。 「ボクはサンドルフといいますっ!!」と声を張って言うと、人間たちはへなへなと腰を床につけてしまいました。 畏れは放っていなかったはずなのですが、多少恐竜の畏れが混ざっていたようです。 悪魔は一瞬にして、顔中に汗がにじみ出てきました。 『お母さんっ!!』とハルが叫びました。 すると悪魔は、「ハルッ!!」と言って、天使デッダのぬいぐるみを見ました。 当然サランから聞いていたはずなので、悪魔に動揺はありませんでした。 ハルは一生懸命に走って悪魔に抱きつきました。 「…ああ、ハル…  さらに軽くなってしまったなぁー…」 悪魔は眉を八の字に下げて言い、涙を流し始めました。 ハルがひと言話すたびに、悪魔は泣き叫びます。 カレンは感情移入したようで、悪魔と同じように泣き始めました。 セイランダたちもこの感情を多少は理解できるようで、真顔で状況を観察しています。 ベティーにいたっては泣き声を上げずに号泣しています。 ハルと悪魔の母のふたりが落ち着いたところで、サンドルフたちは改めて自己紹介をしてから、サンドルフとサンサンは、天使デッダに変身しました。 「おおー…  信じなかったわけではないが…」 悪魔は言って、サンドルフとサンサンを見て笑顔でうなづいています。 母子の対面を果たしたサンドルフたちは、早々に引き上げることにしました。 あまりにも短い時間でしたが、未練が残らないと悪魔は思ったようで涙を飲みました。 サンサンがかなり怒った顔でサンドルフを見ているのですが、そのサンドルフは笑みを浮かべていたのです。 ―― なにかある… ―― とサンサンは思って、サンドルフに意見はしませんでした。 後ろ髪引かれているハルに誘われてロア部隊は外に飛び出し、誰もいない公園のような場所に降り立ちました。 「ここからが僕たちの仕事だよ」とサンドルフが言ってから、「死後の魂にロックオンッ!!」と叫びました。 するとサンクックが映像を宙に浮かべました。 「よっしゃぁ―――っ!!!」とサンドルフが叫び、生体反応が多く固まっている場所に急行しました。 サンサンたちは一体何があるのかよくわかりませんでしたが、急いでサンドルフを追いかけました。 サンサンたちが現地に到着した時、サンドルフはひとりではありませんでした。 その腕には安心しきった堕天使がサンドルフに抱かれていたのです。 「おいおい、手品かっ!!」とベティーが雄雄しくほえるように言いました。 「説明はあとだよ」とサンドルフは言って、堕天使をハルとサンサンに託しました。 サンクックがまた映像を出し、多くの魂が固まっている場所を探し出しました。 すると今度は、「カレンッ!! 大急ぎで行って堕天使を連れて帰って来いっ!!」とサンドルフが叫びました。 あまりにも遠いので、カレンしか堕天使を無傷で救えないとサンドルフは判断したのです。 サンドルフの初めてとも言える命令に、「う、うんっ!!」とカレンは笑顔で答えて、満面の笑みを浮かべてから、一筋の光が残されました。 そして一拍おいてからまた光が現れ、カレンとその手に抱かれた堕天使が姿を現しました。 堕天使は何があったのかわからず、大きな目を見開いていました。 「よしっ! 珍獣、よくやったっ!!」とサンドルフの気合の入った声に、珍獣と言われてもカレンは怒りもせず、ただただほめられてうれしかったようです。 サンドルフたちは場所を替え、適材適所で救い出す隊員を選んで、なんと堕天使を八人も獲得したのです。 「もういいだろう。  ハル、エリアに戻るよ」 サンドルフが笑顔で言うとハルは、『うんっ!!』と明るい声で答えました。 サンドルフたちがまたエリアに戻ってきて、そして大勢の堕天使を見つけて、悪魔は大いに喜んだのです。 「…救えなかったはずの命をこんなにも…」と悪魔は言って涙を流し、堕天使一人ひとりに熱い抱擁をしています。 そう。 堕天使の命は救うつもりにならないと救えないのです。 この星の死神はレベルが低すぎて、素早く飛べる者は皆無だとサンドルフは察していたのです。 堕天使となった者はほんの数秒前まで自分自身もそうだった新生天使に攻撃を受ける対象となるのです。 これは新生天使の本能です。 ですが、攻撃を与えない新生天使が、堕天使となれる資格を得るのです。 天使の世界は動物と同じで、厳しい掟があるのです。 新生天使として生まれて50年の修行を経て、誰も傷つけなかった新生天使だけが堕天使となるのです。 ハルもサンサンも納得して、悪魔と堕天使たちに手を振ってお別れをしました。 ですがひとりだけ、悪魔の手を離れてサンドルフについてこようとしたのです。 それは一番初めにサンドルフが助けた堕天使でした。 「サンドルフッ!! 連れて帰ってやれっ!!」と悪魔は満面の笑みで言いました。 すると堕天使は満面の笑みでサンドルフに抱きつきました。 そして、「…神様…」と言って、堕天使はサンドルフの体を放して祈りを捧げ始めました。 「かなり怖い神様だけどなっ!!」とベティーが言って大声で笑いました。 「なにぃーっ!! サンドルフは怖いやつなのかっ?!」と悪魔は驚きと興味と期待であふれていました。 「あー… たぶん、想いは人それぞれだと思うけどね…」とサンドルフは頭をかきながら言いました。 「意識を失わなかったらすごい人…」とサンドルフがさらに言うと、悪魔は腰が引けたようですが、「やれるもんならやってみろっ!!」と虚勢を張って言い、サンドルフにケンカを売ってきました。 サンドルフは苦笑いを浮かべてから、みんなから少し離れて、恐竜デッダに変身しました。 「…へっ?」と悪魔は言って恐竜デッダの顔を見上げたまま固まってしまいました。 ですが堕天使たちの反応は違います。 恐竜デッダをまるで神のように崇め始めたのです。 サンドルフは変身を解きました。 「やっぱり気絶しちゃったよ…」とサンドルフはかなり困った顔をして頭をかきました。 ですが7人の堕天使が意識を失った悪魔を抱きしめると悪魔は、「おわっ!!」と言って意識を取り戻しました。 そして恐る恐る、サンドルフを見ています。 「…幻術…」「使えないよおー…」 悪魔の現実逃避した言葉に、サンドルフはすぐに答えました。 すると堕天使たちが、母である悪魔に丁寧に説明を始めました。 サンドルフたちは再び悪魔と別れを告げて、宇宙船に戻りました。 サンドルフに寄り添っている堕天使は名前を持っていました。 そして、「私、テンテと言いますっ!!」と今までの甘えん坊ぶりはどこに行ったのか、はきはきとした声で言いました。 ですがそれはあいさつの時だけで、今はサンドルフの足にしがみついています。 「テンテ、よろしくね」とサンドルフは優しい言葉を投げかけましたが、みんなにもあいさつするように言うと、かなり困った顔をしたのです。 「…怖い…」とテンテが言うと、「サンドルフが一番怖いに決まってるっ!!」とベティーが豪語して大声で笑いました。 「あ、みんな本来の姿に」とサンドルフが言うと、キャサリン以外は動物の姿に変身しました。 サラはキャサリンと同じ龍の戦士姿に変わりました。 「うわぁー…」と言ってテンテは笑顔で全員にあいさつを始めました。 「動物大好き?」とサンドルフがカレンを見て言うと、「そうだと思うわ…」と言って笑みを浮かべました。 ひと通りあいさつを終えたテンテはサンドルフの目の前に立って、「サンドルフ様が一番強いですっ!!」ともろ手を上げて言ってから、そのままサンドルフの足にしがみつきました。 サンドルフは少し考えて、「早速テンテに試練を与えよう」と爽やかな笑みを浮かべてテンテを見ています。 テンテはサンドルフの足を離して、「はいっ! サンドルフ様っ!!」と背筋を伸ばして言いました。 「堕天使担当はサンサンだから。  仕事中はサンサンに寄り添うように」 サンドルフが言うとその言いつけは守るようで、すぐにサンサンのとなりに立ちました。 「なんだか、すごくメリハリが…」とカレンが言うと、「最低でも50才だよ」とサンドルフが言うと、誰もが納得の笑みを浮かべました。 「半端な人間の50才よりも、  堕天使の50才の方が心はかなり鍛え上げられているはずだ。  だけど、テンテはその平均以上だと僕は思うんだ。  ハルは?」 サンドルフが聞くとハルは、『…私の方がお姉さんなのに…』と言って肩を落としました。 テンテにも念話が届いていたようで、テンテは笑顔でハルを抱きしめました。 サンドルフ星に帰りつき、ほぼ同時に帰還したランスに、映像を交えて今日一日の仕事の報告をしました。 ランスは終始笑顔で映像を見ていました。 「土産が堕天使」とランスが言うと、テンテはすぐにランスにあいさつをしました。 当然のように、誰が一番偉いのかよくわかっているのです。 「数日後に、  サンレリカとほか数名の堕天使も同行してもらうことになっている。  予定がないのなら、ハルとテンテも一緒にきてもらいたいんだ」 ランスが言うと、「はい、最高のチャンスだと思いました」とサンドルフが答えましたが、ハルはかなり不安そうな顔をしています。 「ハル」とランスが言うと、ハルは体をびくつかせて今にも泣きそうになっています。 「そんなにサンサンがいいのかい?」とランスがやさしく言うと、ハルはこくんとうなづきました。 「テンテは?」とランスが言ってテンテを見ると、「あのー、仲良くできそうでしたら…」と控えめな解答をしました。 「それはその通りだな。  もうすぐ天使たちもここに来るはずだから、  コミュニケーションをとってくれ」 ランスが言うと、「はいっ! ご主人様っ!!」とテンテが言うと、ランスは少し笑いました。 ランスはまさかご主人様といわれるとは思わなかったようです。 「…あのぉー、一番偉い方なので…」とテンテが申し訳なさそうに言うと、「いや、それで構わないよ」とランスは優しい笑顔でテンテに言いました。 サンレリカたち天使軍団がサンドルフ星に帰って来てすぐに、サンドルフはテンテを紹介しました。 「…ふーん…」と天使軍団の長のような存在のアリスがいぶかしげな顔をしてテンテを見ています。 「何を隠してるの?」とアリスが言った途端に、テンテは体が凍りついたように動かなくなりました。 見た目はそれほど優秀そうではないアリスですが、ひとりだけ天使なので、簡単なことはすぐに見抜いてしまうのです。 「…ああ、ああ…」とテンテは言葉にできないほど、アリスに怯えているのです。 ランスもサンドルフもテンテに何か悪いものがついているとは思えませんでした。 ですので、アリスの尋問を何も言わずに見ていることに決めたのです。 もし悪いものであれば、すぐにサンドルフに逃げ込むはずですが、それはしないようです。 「通報しないでくださいっ!!」とテンテは言って、少しだけ目に涙を浮かべました。 「私、テンテの魂、知ってるの」とアリスが普段は使わないような言葉で言うと、ランスもサンドルフも笑顔でうなづきました。 「通報すると、連れ戻される可能性が大きい。  御座成功太の知り合い…」 ランスが言うとアリスは、「うんっ! そうなのっ!!」といつものようなかわいらしい笑みを浮かべ、かわいらしい口調で言いました。 「消えたと思ったらここに現れるなんて…」とアリスはまた一気に冷淡そうな天使に早変わりしました。 誰もがテンテよりもアリスの方が悪者のように感じたようです。 「でも、前世の記憶が戻るなんて…」とアリスが言った途端にランスはテンテを探り、「なるほどな」と言って納得の笑みを浮かべました。 ランスが納得したのでサンドルフは何も探りませんでした。 ですがサンサンは少し気に入らないようで、後ろからサンドルフを突いています。 「この、大悪党め」とランスが言うとテンテは、「はい、ごめんなさい…」と言って素直に謝りました。 「消えたのは50年ほど前、だよね?」とランスはアリスに聞くと、「うんっ! そうなのっ!!」と言って、幼児らしくアリスが答えました。 「そして魂だけとなり、計算して新生天使となった。  理由は、前世で自分自身の能力が頭打ちになって、  自暴自棄になって記憶を失ったから。  自殺とは判断されなかったので、ごく普通に転生できた。  新生天使の時に、全ての記憶が覚醒。  よって、50年経って、新生天使の本分である、  堕天使イジメさえしなければ、堕天使となれることも知っていた。  だが、知っていただけで、特に違反はしていない。  だが、黙っていたこと自体が気に食わねえ…」 ランスが語ると、テンテは深くうなだれました。 「ああ、それで、大人のような行動…」とサンドルフは言って納得しました。 ランスはサンドルフに笑みを向けています。 「確かに50年も生きていれば、クールな堕天使もいるし、  悪魔に転生する堕天使は大人びて見えるからな」 ランスが言うと、天使たちも深くうなづいています。 「それにこれを知られると、御座成功太が黙っていないだろうな」 ランスが言うとこの件が一番困るようで、テンテは拝むような目をランスに向けました。 「ハルの件もあるからな、  どちらかが御座成功太の下に行ってもらった方が丸く治まりそうだ」 ランスが冷たい言葉を放つと、テンテは泣き崩れ始めました。 『…あ、ああ…』とハルはどうすればいいのかわからず、ただただぼう然としています。 「どうでもいいから、ささと自分の口で正体を語れ」とランスが言うと、テンテはすぐに背筋を伸ばしました。 「私、前世ではユーリと名乗っていました。  星の大天使をして、新生天使を生み続けていました。  私はそこにいるデヴィラの母でした」 テンテが語ると、ランスは苦笑いを浮かべました。 デヴィラはもうすでに探っていたようで、苦笑いを浮かべています。 テンテが何も言わなくなったので、「ざんげ」とランスが言うと、テンテは涙を流しながら、前世の悪行を語りました。 これには誰もが驚きを隠せませんでした。 魔王軍はほんの数日前、人間の実験による厄災という化け物を退治していたのです。 その可能性のある星に行くので、サンレリカたちも連れて行くとランスは言っていたのです。 前世ユーリは退屈な時間を、千年に一度だけという決め事をして、厄災を生み出していたのです。 この厄災により、多くの人間たちが死んでしまいました。 いえ、人間だけではないのです。 戦った多くの死神たちも、この厄災によって転生せざるを得なくなっていたのです。 セイラの前世もこの厄災によって命を落としていた事実があります。 「おまえ、かなりの憎まれ者になると思うぞ」とランスが言うと、居たたまれなくなったテンテは大声で泣き出し始めました。 「もう二度としないという証明…」とランスが言うと、テンテは泣き止んですぐに、「…できません…」と言いました。 「一応、合格だ」とランスは笑みを浮かべて言いました。 もし悪い心があるのなら、かなり考えたあと、歯の浮くようなセリフを放つはずだからです。 それがなかったので、一応合格とランスは言ったのです。 「となると、能力はそこそこ高いようですね」とサンドルフが言うと、ランスはサンドルフに笑みを向けてうなづきました。 「前世の続きをすれば、  前世よりもさらに能力は上がるはずだからな。  すぐにでも天使にすらなれると思うぜ」 ランスが言うと、テンテはこくんとうなづきました。 「アリス預かり」とランスが言うと、アリスは少し嫌がったのですが、サンレリカがアリスに寄り添ってきたので安心したようです。 「もちろん、アリスだけに面倒を見ろとは言ってねえからな。  みんなも協力してやってくれ」 ランスが言うと天使たちは、「はぁーいっ!!」と言って、テンテを囲んでコミュニケーションを取り始めました。 「ほら、ハルも行ってきて」とサンドルフが言うと、ハルは渋々、天使仲間に加わりました。 サンサンはどうしようかと迷っていますが、「天使だけの集まり」とサンドルフに冷たく言われてしょぼんと肩を落としました。 「いいじゃあねえかぁー…」とベティーが言うと、「そうだね、副隊長の意見も取り入れよう」とサンドルフが言うと、ベティーもサンサンも大いに喜びました。 サンサンは走りながら天使デッダに変身しました。 「…副隊長…」とベティーはつぶやいて笑みを浮かべました。 「利家君にしようと思ってたんだけどね。  その上司の方がいいだろうと思ったんだよ。  だけど、隊員に命令するのは僕の仕事だからね。  副隊長は隊長のサポートと相談相手だよ」 「うっ、くっそぉー…」と言ってベティーは悔しがっています。 このやり取りは当然、セイランダを意識してのものです。 悪魔に変わってからのベティーは、どう考えてもセイランダの上を行っていると感じていたからです。 戦わずしてもわかるほどの畏れが、今のべティーには十分にあるのです。 さらには、ベティーに役職をつけることで、ベティーを大人しくさせる意味もあるのです。 このようなことは、サンドルフが様々な過去の映像などから勉強したものです。 夕食後に、ベティーは爽太に胸を張って修行を手伝うように申し付けています。 ―― 逆だろ… ―― と誰もが思いますが爽太は笑みを浮かべて、「うん、いいよ!」と快く引き受けました。 悪魔となったベティーは今までのベティーとは、ひと味もふた味も違います。 もうすでに、悪魔として人間などの種族の考えも簡単に理解できているのです。 もうベティーは動物ではなくなっていたのです。 当然、黒いトラに変身できるのですが、立場としては逆転しているのです。 今は悪魔が、ベティーの全てを支配しているのです。 しかしこれはベティーにとって、遅い覚醒でした。 ですが古い神としての能力が、これから大いに発揮されていくのです。 「古い神、だったんだなぁー…」とサンドルフはテンテを見て言いました。 テンテはまだ堕天使たちとコミュニケーションを取っています。 なんとか違和感なく溶け込めているようで、ランスも喜んでいるようです。 「全然わかんなかったわぁー…」とけだるそうな声でサンリリカが言いました。 「サンリリカさんも同じじゃないですか…」とサンドルフが言うと、「あはは、まあねっ!」と言っておどけました。 覇王が調べたところ、テンテの場合はセイントから見て、子孫といっていいほど遠いものでしたが、セイントの家系には違いありません。 セイントの家系は古い神として10代ほど続いています。 そのあとは神としては途絶えているのです。 その最後の末裔が、テンテだと断定しました。 よってテンテの場合、どれほどがんばってもそれほど能力は上がらないはずなのです。 やはり脂の乗っている世代は、セイントから見て、ひ孫までに当たる者がほとんどなのです。 ですが、古い神としては本物なので、現世で大いに奮起するかもしれません。 何の切欠もなしに前世の記憶を得ていることがその証拠です。 そして、そのキーワードがあります。 それは厄災。 いいものではありませんが、それを創り出す能力をテンテは持っているようなのです。 それを善行に使えないかと、ランスは考え込んでいるようです。 「ああ、今日が終ってしまう…」とキャサリンが言って嘆いています。 ロア部隊の居心地がよかったようで、サラもキャサリンに同意しているようです。 「ランス師匠のサービスだったんだから…」とサンドルフが言うと、「そうなのですか?!」とキャサリンが大いに驚いた声を出しました。 「ランス師匠は全てを察して言ってくださったんだよ」とサンドルフが言うと、「私、まだまだです…」とサラが肩を落として言いました。 「おふたりは本隊に必要な存在だから。  でも必ずこの先、また一緒に仕事をすることはあるよ」 サンドルフが笑みを浮かべて言うと、キャサリンもサラも大いに期待して喜びました。 … … … … … 翌日、ロア部隊は魔王軍を送り出したあと、サンドルフ星で修行を始めました。 ハルとテンテはサンサンとは別行動で、エラルレラ山のトンネルに行っています。 テンテがアリス預かりなので、これが自然だとサンドルフが思ったからです。 昨夜、天使たちとコミュニケーションを取ったからなのか、それほど嫌がることなくふたりはセルラ星に行きました。 邪魔者だった、と言うわけではありませんが、サンドルフとサンサンのふたりの修行は大いにはかどっています。 昼食を終えてすぐ、サンサンはウーリア星に出かけていきました。 特に用事があるわけではありませんが、ヴォルドに会いたくなっただけのようです。 そして当然のように、サンサンはヴォルドにサンドルフが本物の恐竜に変身できるようになったことを告げました。 ヴォルドは落ち着きを失くしてしまって、どうしてもサンドルフに会いたいとサンサンにお願いをしました。 「あ、扉、通れるから」と神出鬼没の細田が満面の笑みで言いました。 「僕もこの目で見たいのでね。  一緒にお願いしようか」 細田が言うと、ヴォルドはかなり喜んで、三人でサンドルフ星に移動しました。 サンドルフは精神修行を始めているようで、食堂の席に座って、サンクックが出している映像を見ています。 ちょっとした時間があれば、サンドルフはいつもこうやって知識を仕入れているのです。 今は厄災について、古いもの、新しいものの映像に引き込まれているようです。 サンドルフはひとつ身震いをしました。 ランスたちが対峙した厄災があまりにも巨大で気味が悪かったからです。 「おいっ! なんだそれはっ?!」と言ってヴォルドが映像を見て目をむいています。 「あ、いらっしゃい。  はは、細田さん、こんにちは」 サンドルフは爽やかにふたりにあいさつをしました。 ヴォルドはそれどころではなくなって、映像を見入っています。 「サンドルフたちはいないじゃないかっ!!」とヴォルドは映像に向かって怒っています。 「今の僕たちじゃなかったからね。  僕が人間の姿になる前だから。  サンサンはまだ勇者じゃなかったし」 サンドルフが言うと、「うっ… そうだったのか…」と言ってヴォルドは騒いだことを謝りました。 そしてベティーを見て、「なぜ悪魔だっ?!」と言ってまた騒ぎ始めました。 ベティーはにやりと笑ってから、妙にどす黒いトラに変身すると、さすがに引き込まれてしまったヴォルドは、一瞬身動きできなくなってしまいました。 「なるほどねっ!  黒い模様だった部分はさらに濃い黒なんだね」 ですがその黒は漆黒。 ベティーの存在をさらに雄雄しく見せているのです。 サンドルフが話しをしたおかげで、ヴォルドは体の自由が効くようになりました。 「…見入てしまった…」とヴォルドは苦笑いを浮かべて言いました。 そしてすたすたと歩いて、サンドルフに甘え始めました。 「…ううっ! 手が出せないっ!!」と言って、ヴォルドはふたりの邪魔をしてはいけないと感じています。 そしてサンドルフが恐竜に変身すると、ヴォルドは凍り付いてしまいました。 『へー、さすがだね、ヴォルド』とサンドルフの念話がヴォルドに飛んできました。 「…とんでもなく強くなってしまったんだなぁー…」とヴォルドは悲しい顔をして言いました。 『この姿の時だけだよ。  勇者の僕はそれほど変わっていないから、  さらに鍛えないとバランスが悪いんだよ』 サンドルフとべティーはひとしきりじゃれたあと、本来の姿に戻りました。 「最低でも、ベティーを倒す必要がありそうだ」とヴォルドが言うと、ベティーはにやりと笑いました。 ですが、ヴォルドは体が重くなっていることにようやく気づき、無理をせずに芝生に寝転びました。 「なるほどな、よくわかった」と言って、ヴォルドは瞳を閉じました。 サンドルフ星の重力が、体の重いヴォルドの自由をさらに奪ったのです。 サンサンが少し心配そうな顔をしてヴォルドに寄り添いました。 「俺もここで鍛えたい…」とヴォルドが言うと、「となりの家に遊びにきたって感じでいいよ」とサンドルフが答えると、ヴォルドは瞳を閉じたままにやりと笑いました。 「それに、悪魔仲間もいるからな。  さらにここで鍛える必要がある」 能力的にはベティーと比べてヴォルドが数段上ですが、体力的には圧倒的にベティーが上回っています。 やはり武闘派悪魔は、己自身の肉体の強さを求めます。 ベティーもそれがわかっているので、何も言いませんでした。 「サンドルフ様、ありがとうございました」とサンサンからサランの声が聞こえたと同時にその姿を現しました。 「いえ、僕たちができることをしたまでですよ」とサンドルフは笑顔で答えました。 「あなた方のように簡単に堕天使たちを救い出せる者はあまりいません。  私の仲間でもほんの一握りなのです。  その者たちですら、救えないことも多いのです。  できればどなたか手伝っていただきたいのですけど…」 「いえ、それはできません。  僕たちは魔王軍ロア部隊ですので。  動く時は全員で動きます。  そして、僕が勝手に動くわけにはいかないのです。  僕はランス師匠から魔王軍ロア部隊を預かっているだけですので」 サンドルフがはっきりと言うと、サランはかなりバツが悪そうな顔をしました。 「その通りね…  魔王軍はランス様の大宇宙のみの救世主…  ランス様に楯突くことはできませんわ…」 サランはまずはランスに相談する必要があると思い、サンドルフに無礼をわびてから消えました。 「はぁー、助かったぁー…  超常識人で…」 サンドルフが言うと、「俺に向かって言ったのかぁー…」とベティーとヴォルドが同時に言ったので、サンドルフは笑い転げました。 ヴォルドは比較的早くこのサンダイス星の重力に慣れたので、軽い基礎訓練を始めました。 サンサンがかなりうれしそうに話しをしながらヴォルドに付き合います。 ですがサンサンとは運動量がまるで違うことに、ヴォルドは歯を食いしばって無理をしないことを心に決めています。 悪魔はどうしても競おうとしていまうので、この行動は大いなる精神的な修行にもなるのです。 ベティーとセイランダが、人型の姿のまま組み手を始めました。 その動きの俊敏さに、ヴォルドは見入ってしまいました。 「見ることも修行よっ!」と言って、サンサンはヴォルドを誘って、芝生に座りました。 「変身すると、二人ともとんでもないよな…」とヴォルドが感慨深く言うと、「この場にいられないって思う…」とサンサンが真剣な眼差しで言いました。 「ああ、そうだったな…  ダイゾのあの嫌な音…」 ヴォルドは心底不快感を表情と体で表現しました。 「私もね、まだ慣れないの。  でもね、サンドルフ君は克服しちゃったの。  だから隊長なの」 サンサンはうれしそうに言いました。 「そうか…  サンドルフが大好きだからなー…」 ヴォルドが言うとサンサンは照れてしまって、下を向きましたがすぐに顔を上げて、ベティーたちの戦いを食い入るようにして見始めました。 見た目は大人と子供のふたりですが、一番仲のいい友達なのです。 「グッ!!」と言ってセイランダが素早く引いて攻撃を中止しました。 言葉はいらないようで、ベティーはゆっくりと歩いて、基礎体力トレーニングを始めることにしたようです。 「…どういうことだ…」とヴォルドはぼう然としていました。 ほんの数秒前まではふたりの力は拮抗していたはずです。 「ベティーさん、抑えていたの。  そうじゃないと、ベティーさんの修行になんないから」 サンサンが何事もでもなかったように解説すると、「サンサンもすごいんだな」とヴォルドは言って笑みを浮かべました。 「私のはね、全部サンドルフ君のおかげ。  いつもいつもサンドルフ君の考えていることをやっているだけなの」 サンサンは言ってから笑みを浮かべてのですが、急に肩を落としてうつむいてしまいました。 ヴォルドは少し慌てましたが、察することは可能でした。 「今は修行の時。  それでいいじゃないか」 ヴォルドが言うとサンサンは素早く顔を上げて、ヴォルドに笑みを浮かべてから、「うんっ! そう決めたのっ!!」と言ってすぐに元気になりました。 ヴォルドはこのサンサンの笑顔が大好きなのです。 セイランダが落ち込んだ顔をしたまま、サンサンの目の前にぺたんと座りました。 「…すっごい上、行かれちゃったあー…」とセイランダはかなりの勢いで肩を落としました。 サンサンはすぐにぬいぐるみに変身してセイランダに抱かれました。 いきなり元気になったセイランダはサンサンに大声でお礼を言って、猛然と基礎体力訓練を始めました。 ヴォルドはサンサンに笑みを浮かべて見ているだけでした。 … … … … … 翌朝、急展開がありました。 ロア部隊も魔王軍に加わることになったのです。 まだサンドルフにもランスにも認められていないハルは、テンテとともにお留守番です。 ですが、それほどハルは不安に思っていないようで、妹のはずのテンテに寄り添っていました。 サンサンは内心微妙ですが、『いってらっしゃいっ!!』とハルはサンサンにだけ念話を送ってきたので、サンサンは笑顔でハルに手を振りました。 獣人が支配する星アレタを見張っていた細田からの情報により、ランスはロア部隊を組み込むことにしたのです。 この星は要注意として見張っていたのですがそれが的中したのです。 このアレタ星の獣人たちのせいではなく、ガレルという星の武器商人が、アレタ星の獣人たちに武器を売ろうと計画していたのです。 そしてついに、アレタ星を二分する勢力両方に、まるでばら撒くように武器を提供することに決まったのです。 よって魔王軍は、武器がアレタ星に渡る前に何とかしようと思ったわけです。 最悪の場合はロア部隊に出張ってもらえば、何も心配はいらないのです。 よってロア部隊は今のところ、ランスの部隊の末席にいます。 まずは宇宙空間の戦いとなるはずなので、ロア部隊の出番はありません。 しかしランスの代わりに、サンドルフが宇宙空間でも戦うことになります。 それだけでも、ロア部隊の士気は大いに上がったのです。 ランスは苦笑いを浮かべてロア部隊を見ています。 「反対したんだけどな。  実は俺も本当はずっとロア部隊を同行させたいんだよ」 ランスの言葉に、ダンも大樹も笑顔でうなづいています、 今ここでランスの本当の想いを知ったダンも大樹も、大いに士気を上げました。 魔王軍の宇宙船ははるかかなたに大輸送船団を発見しました。 先頭には護衛用の戦艦が多数配備されています。 ランスはすぐに停船するように呼びかけましたが、それと同時に、戦艦が発砲してきたので、これ幸いと、宇宙船を透明化して一斉に攻撃を始めました。 この攻撃の功績などにより、給料が上乗せされることになるので、誰もが大いに張り切り、そして冷静に敵艦の武器だけをそいでいきます。 その状況はすぐにモニターに出るので、非戦闘員はそれも大いに楽しみにしているのです。 ロア部隊から大きな歓声が上がりました。 多くの猛者たちを差し置いて、サンドルフが一位の成績を収めたのです。 これにはランスも驚いて苦笑いを浮かべています。 しかしランスは、「俺の代わりだぞ」と少し冷静ともいえる態度で言ったのですが、「関係ないっ!!」とベティーにひと言でねじ伏せられて、さらに大いに盛り上がりました。 そして非戦闘員のキャサリンとサラも、ロア部隊に加わって喜びの声を上げています。 ランスはガレル星の武器商人の旗艦に通信を送らせましたが、それには答えようともせず、きびすを返すようにして、全速力で反転し後退していきました。 戦艦のエンジンは破壊していなかったので、全ての艦がこの星域を離脱しました。 「先にやっちまうかなぁー…」とランスは言って、ガレル星の内情などの映像を出しました。 「ライバルの星多数か…  それを何とかしてからじゃねえとなぁー…」 今、ガレルの戦力を全て殺いでしまうと、ガレルが弱者として標的になってしまうことをランスは恐れたのです。 しかしランスはガレル星に向けて宇宙船を飛ばしました。 ランスはガレル星の軌道上から武器商人の本部に通信を入れましたが、すぐに切られてしまいました。 「宣戦布告できねえ…」とランスが苦笑いを浮かべると、ダンも大樹もほっと胸をなでおろしましたが、ランスと同じ顔もしました。 仕方がないので、この星の代表に通信を入れると、ゴマをするような態度で、代表らしき男がモニターに現れました。 「あ、武器商人の工場とか全部壊していいよな?」 ランスは妙にフレンドリーに言うと、マキシミリアンが大声で笑いました。 この代表にもその連絡は入っているようで、「魔王… ランス・セイント…」と言って、態度を一変してランスをにらみつけ、モニターにその顔をさらしています。 「時間稼ぎか?  あっという間に終らせてもいいんだぜ。  この星はほかの星に占領されることになるんだけどな」 ランスの本気は代表に正確に伝わったようで、武器商人がらみの施設は破壊しても構わないことに決まりました。 よってこの星の防御体制は、被害をこうむることはないようです。 ランスは武器商人の本部に強制的に回線をつなぎ、星の代表との話し合いで決まったことを話すと、施設からわらわらと大挙して人々が逃げていきました。 ランスたちはまずは生体反応を探って、人間などを追い出した後に工場や貯蔵庫などを全て破壊しました。 この星の収益の半分以上はこれで得られなくなったので、今日からは質素な生活をしないと生きていけなくなるでしょう。 魔王軍と知っていたので、当然のように反撃はありませんでした。 防衛用の戦艦なども残しているので、魔王軍に守れとも言えません。 魔王軍は早々にこの星を脱出して、アレタ星に移動しました。 アレタ星は獣人たちが武器がいつ届くのかと、今か今かと空を見上げています。 ランスはアレタ星の軌道上から両軍の軍施設に通信を入れ、客は来ないことを告げました。 魔王が来たことだけでも脅威だったようで、一旦は終息しかけたのですが、一部の部隊が敵軍に向かって既存の武器で攻撃を始めたのです。 それほど威力はないものなので、逃げれば当たる事のないほどの、おもちゃのような武器です。 「おいおい、統率、とれてねえなぁー…」とランスがあきれた顔で言うと、両軍の大将は画面を見られなくなってしまったようです。 「いいもの、みせてやろうか?  すぐに戦闘が終るぜぇー…」 ランスが畏れを流しながら言うと、「まさかっ! 両軍ともっ!!」と双方の大将が言いました。 当然魔王軍の戦い方を知っているので、この言葉が出たのです。 「それをしてもいいんだけどな。  星にはそれぞれ武器のそぎ方っていうものがあるんだよ。  全てを奪うと、魔王軍がほかの星の侵略などから守る必要が出る。  できればそれはやりたくねえんだよ」 双方の大将は一旦は期待したようですが、深く肩を落としました。 「戦場のど真ん中に怖いものを落とすぜ。  せいぜい、驚いてくれ」 ランスは満面の笑みを浮かべて言ってから、「ロア部隊、出番だっ!!」とランスが言うと、サンドルフはランスに素早く頭を下げてから、出撃の準備を始めました。 宇宙船が大気圏に突入してすぐに、ロア部隊は戦地のど真ん中に降り立ち、サンドルフが恐竜デッダに変身しました。 多くの獣人たちは一気に闘気をそがれ、遠くにいた者は妙な叫び声を挙げ、転がるようにして自軍に引き返しました。 ベティーとセイランダも黒いトラとダイゾに変身してさらにこの戦地を恐怖の底に叩き落しました。 恐竜デッダの周りにいる腰を抜かしてしまった獣人たちは、あたふたとするだけで逃げようにも逃げられません。 『こらっ! キャサリンッ!!』と宇宙船からランスの声が聞こえてすぐに、キャサリンは火龍に変身しました。 いつもよりも胸を張っているように見えます。 そしてサラも金龍に変身しました。 この二柱は地面に転がっている獣人たちを、その大きな翼で吹き飛ばしてしまいました。 『あはは、片付けが楽になったよっ!』とサンドルフが念話を送ると、ふたりはさらに張り切り始めました。 この戦場には何もありません。 心地いい風が吹いているだけです。 ランスは大将たちと話しをして、もう戦争はしないという制約を交わしました。 そして、恐竜デッダを神と崇めることも獣人たちが勝手に決めてしまいました。 もし戦争を起こせば神が暴れる。 これがこの星の掟になってしまったようです。 『ほえた方がいい?』とサンドルフがロア部隊全員に向けて念話で言うと、『いいと思うぜぇー』とベティーが返してきました。 サンドルフはたくさんの空気を胸いっぱいに吸い込んでから、 『ギヤアアアアアアオウッ!!』 と妙に金属質の大声をあげ、陣地内にいた獣人たちに、さらに恐怖を植え付けたのです。 『あ、そうだっ!!』と言ってサンドルフは恐竜デッダの姿のまま、自分そっくりの等身大のモニュメントを出しました。 『ここにおいておこう』とサンドルフが言って、しっかりと地面に固定しました。 かなりの勢いで笑っているロア部隊員たちは、宇宙船に向かって飛び上がりました。 宇宙船に戻ると、ランスは大声で笑って、サンドルフを満面の笑みで迎え入れました。 「いいなぁー、あれ…」と少し落ち着いたランスは、恐竜デッダのモニュメントの映像を見ています。 そして、そのモニュメントに近づいていく獣人は誰一人としていません。 遠くからそのシルエットを見ているだけです。 「脅しとしてはかなり平和でいいシンボル、だなっ!!」とランスが言うと、ダンも大樹もランスの意見に賛同しました。 しかしランスは怒りをあらわにして、キャサリンとサラを見ました。 さすがのサンドルフも何も言えないのですが、サンサンが天使デッダに変身してランスにまとわりつき始めました。 「…うーん…」とランスはかなり困った顔をしています。 ダンも大樹も、満面の笑みでサンサンを見ています。 「サンドルフ、ふたりに罰…」と言ってランスはサンドルフに命令しました。 サンドルフは少し困ってしまいました。 通常であれば、出撃停止処分ですが、このふたりに魔王軍を抜けられるわけにはいかないのです。 よってサンドルフは、「ロア部隊参加、一回休み」と言うと、―― それはないっ!! ―― と言った顔でキャサリンもサラも嘆願の目をサンドルフに見せました。 「本当は二回休みにしようと思ったんですよ。  だけど獣人たちを片付けてくれたので一回は免除で」 サンドルフが言うと、キャサリンたちは真摯にサンドルフの言葉を受け止めて、深々と頭を下げました。 ランスは納得したようで、満面の笑みをサンドルフに向けています。 あと二カ所、星を移動して戦地に赴きましたが、ロア部隊の出番はありませんでした。 魔王軍はいつもよりも少し遅い時間にサンドルフ星に戻ったのですが、戦士たちは比較的元気です。 サンサンが天使デッダに変身して、戦士たちを癒やしていたからということがその理由です。 よって、すぐに反省会を行ない、その最後に、今日の貢献度の発表がありました。 サンドルフは一戦しか戦っていませんが、なんと五位という高成績に誰もが驚きを隠せませんでした。 「さらに精進しろということだぞ」とランスが戦士たちにハッパをかけました。 ロア部隊はここでまた大いに士気を上げました。 「僕たちはまだまだ修行中の身だ。  ランス師匠はまだ僕たちを本当の意味で認めてくれていないんだよ」 サンドルフが言うと、ベティーが食って掛かろうとしましたが、サンドルフの顔を見てやめました。 あまりにも穏やかなので何かあると感じたようです。 「僕たちは自由に修行をしている。  だけどね、ほかの部隊の人たちは  その時間って戦地で戦っているんだよ」 「そうだよね。  圧倒的に修行の時間が足りないんだ。  常に実戦っていうのも考えものなんだよねぇー…」 利家がサンドルフのフォローをすると、サンドルフは利家に笑みを向けました。 「だからね、ちょっとだけでしゃばることにしたんだ」 サンドルフが言うと、誰もがサンドルフに引き込まれるように前のめりになりました。 「今、魔王軍にはロア部隊を含めて五つの部隊がある。  ランス師匠の決めた予定で、ひとつの部隊は出撃停止にしてもらって  修行に当ててもらおうかなぁーって思ってね。  その空いた部隊に、ロア部隊が参入する」 「あー…」と言って部隊員は大きくうなづきました。 「だけどね、それをするにはもう少しだけ人員を増やしたいんだよ。  動物系の人で強い人知らない?」 サンドルフが言うと、利家だけが満面の笑みですぐに手を上げました。 「え―――――っ?! いいのぉ―――っ?!」とセイランダがかなりの驚きの声を上げました。 「暇そうだし、さびしそうだったからね。  ドズ星の、岩の恐竜と岩の番犬二頭。  彼らはもう、人間の心を十分に備えているんだよ。  源次郎さんのおかげでね」 サンドルフは笑顔でうなづきました。 「…その見返りが必要だね。  心当たりはあるけどね」 サンドルフの言葉は、利家にだけは正確に伝わりました。 「源次郎さんはドズ星で修行がしたいんだよ。  だけどランス師匠の手前、それをするわけにはいかない。  放棄すると言い出したのは源次郎さんだし、  ランス師匠の信頼を裏切ることはさらにできないんだ。  もちろん僕たちもしてはいけない。  ロア部隊が解散することにもなってしまうからね」 サンドルフの最後の言葉は、隊員たちの心に嵐を呼び寄せました。 それだけは避けて通りたいという意思を全員が固めたのです。 「一番の問題はね、星の主のブライさんだよ。  もう二度と、悪い心を持たないと植えつけることが重要だ。  その結果をランス師匠に見せれば、  ドズ星にも自由に出入りできるはずだからね」 サンドルフが言うと、隊員たちはさらにうなづいています。 「怪鳥がいたよね?」 サンドルフが言うと、利家は笑顔でサンドルフを見ました。 サンドルフは、―― 人間化可能 ―― と判断して、笑みを浮かべました。 「さらに珍獣をもう一頭飼おうと思うんだよ。  かなり強力な珍獣だよ」 利家だけは驚いた顔をしてサンドルフを見て意見しようとしましたが、きっとサンドルフなりの考えがあるはずだと思い、その言葉を止めました。 「それ、協力するから」と細田がサンドルフの肩に手を置いて現れました。 「あはは、心強いですっ!!」とサンドルフは言って、細田に素早く頭を下げました。 「会長もね、  その件で落ち着きがなくなるほどに大いに悩んでいるんだよ。  ブライさんの改心の件は、僕に任せてもらいたいんだ。  珍獣の件は、サンドルフ君の手腕を拝見したいと思っているんだ」 細田が言うと、サンドルフは笑みを浮かべて、「はい、きっと大丈夫ですよ」と胸を張って言いました。 「じゃ、ランス師匠に報告に行ってくるよ」とサンドルフが言うと、ロア部隊全員がサンドルフを引き止めました。 「サプライズじゃないのかっ?!」とベティーが言いましたが、「そんなことをして疑われたら実もフタもないもん」とサンドルフは平然とした顔で言いました。 細田も驚いてしまったようで、ここでようやく笑い始めました。 「神たちにも手伝ってもらえば簡単だよね」と細田は笑顔で言いました。 サンドルフは笑顔でランスと話しを始めました。 話の途中からランスはホホを引きつらせて苦笑いに変わりましたが、話しを聞き終えて、「でかした、サンドルフッ!!」と言って何度も何度も、サンドルフの肩を叩きました。 「さすが俺の息子だっ!!」とランスは自信満々で言いました。 「よく調べ上げていたようだな」とランスは笑みを浮かべてサンドルフに聞きました。 「はい、それはもう。  魔王軍のためであるのならと。  そしてランス師匠には何事も隠さない。  そうすればきっと、  ランス師匠も譲歩してくださると信じていたのです」 「いや、それでこそだ。  俺にとって猜疑心は毒でしかないからな。  細田さんが現れた時点で何かあるとは思っていたが、  まさか全ての計画を話しに来るとは思わなかったっ!!」 ランスはこの時点で、サンドルフだけは裏切るまいと心に決めました。 ランスに全てを託されたサンドルフは翌日、ロア部隊とともにドズ星を訪れました。 すぐにブライが現れて、サンドルフは快く話しを始めました。 サンサンが天使デッダに変身してブライにまとわりつきましたが、顔色が少し曇っていると、サンドルフは判断しました。 「蓮迦さんは死んだんですよ?」とサンドルフがいきなり言うと、ブライは平常心ではいられなくなって、男泣きに泣きました。 「そして結城覇王さんが、サンレリカさんを嫁に取るようです」 「えっ?」とサンドルフの言葉にブライは驚いて固まってしましました。 「もう確実に手は届かないので、諦めてください」とサンドルフははっきりとブライに告げました。 今のブライは猜疑心が少し弱いので、サンドルフの話しを全て信じています。 もちろんサンドルフの言葉に、一欠片のウソ偽りはありません。 今のサンレリカであれば、ブライの仏を上回った力があるので、抵抗できるはずだとサンドルフは感じています。 「さすがに、父親の妻になる女性を奪うわけにはいきませんよね?」 サンドルフが言うと、ブライは深くうなづきました。 仏としては絶対にやってはならないことなのです。 「あ、もう、ほとんど終っちゃったけど、僕が代わるよ」と細田は苦笑いを浮かべてサンドルフに言いました。 サンドルフは笑顔で細田に席を明け渡しました。 大人の話しを終えて、サンドルフはほっと胸をなでおろしました。 「子供のする話じゃないよね」とサンドルフが言うと、「だからおまえは大人だ」とベティーが苦笑いを浮かべて言いました。 利家が岩の恐竜たちに術をかける前に、サンドルフは恐竜デッダに変身しました。 その雄雄しさに、岩の恐竜も二匹の番犬も頭を下げるように大地に伏せました。 「くっそぉー、配下を取られた…」とベティーがかなりの勢いでサンドルフを見ましたが、両腕に鳥肌が立っていたので、強がることはやめたようです。 利家が三頭に術をかけると、ひとりは大男、ふたりは痩身の男性と女性に変わって、まずはわが身の手足を見てから笑みを浮かべました。 そして人間に戻ったサンドルフに頭を下げました。 「君たち三人をスカウトに来ました。  魔王軍ロア部隊に入ってもらおうと思ってね」 サンドルフが言うと三人は、「主の思うがままにっ!!」と言いましたが、「少しは疑うとかした方がいいよ」とサンドルフに言われて三人はかなり困った顔をしました。 そしてサンクックが、ロア部隊の仕事の内容の説明をしました。 さすがに体からビームを発することはできないと、三人は腰が引けてしまったようです。 「すぐにこうなれとは言っていないからね。  君たちの能力を生かしたものが必ずあるはずだ。  それをボクたちと君たちで考えようよ」 サンドルフの言葉がかなり気に入ったようで、三人は素早く頭を下げて、「よろしくお願いいたしますっ!」と言いました。 「あら?」と言って、今日の最大級の目的のカノンがドズ星に現れました。 「あ、カノンさん、ロア部隊に入りませんか?」 サンドルフがいきなりスカウトを始めました。 カノンは言葉を失ってぼう然としています。 「あ、珍獣としてカレンもいますので、同じ扱いで」とサンドルフがいうとカノンは怒っているカレンを見てかなり愉快な気持ちになったようで、大声を上げて笑い始めました。 「あ、ランス師匠にはもう了解をとってあります。  カノンさんの気持ち次第で決めてくださって結構ですから」 サンドルフが言うとカノンはさらに言葉を失ってしまったのです。 すべてに先手先手を打たれて、今は途惑うしかないようです。 「さらに、お友達の岩の怪鳥も仲間に引き入れるので、  できればカノンさんもロア部隊に入ってもらいたいんですよ」 サンドルフが言うと、カノンはかなりあきれた顔をしてサンドルフを見ています。 カノンは反論すらできません。 今、唯一の友である岩の怪鳥を無条件で連れ去られるわけではないのです。 カノンがロア部隊に入れば、人間として怪鳥とも話ができるのです。 するとその怪鳥がカノンを見つけて勢い勇んで飛んでこようとしたのですが、サンドルフに恐怖したようで、上空で旋回を始めました。 「怖がってたら食べちゃうぞっ!!」とサンドルフが空に向かって叫ぶと、怪鳥はすばやく地上に降りてきて、カノンの影に隠れました。 「あははっ!  保奈美さんの怪鳥と同じ事したっ!」 サンドルフは大いに笑い転げました。 「あの怪鳥はどうしよう…」とサンドルフは少し考えましたが、保奈美と相談することに決めました。 利家は笑顔なので、どうやら人間にできるようです。 早速利家は岩の怪鳥と話しをしてから、術をかけました。 怪鳥は女性だったようで、両腕を持っていますが普通に人間ではなく、大きな翼も持っています。 「へー、美人だよねっ!!」とサンドルフが言うと、恥ずかしかったのかここでもまたカノンの影に隠れてしまいました。 今回はカノンの影にうまく隠れられたので、さらに安心したようです。 サンサンが翼を持った美人に抱きつくと落ち着いたようで、カノンのとなりに立って、サンドルフに頭を下げました。 翼を持った美人がサンドルフの周りを見ると、岩の恐竜も岩の番犬も人間になっていたので、「あんたたちも入ったのっ?!」と言って驚きの声を上げ、自分が発した人間の言葉にも驚いています。 「当然のことですよ、隼麗(しゅんれい)さん」と大男が言いました。 「イワノフ、人間の言葉に驚かなかったの?」と隼麗が言うと、「望んでいたことですから」とイワノフは平然として答えました。 「あんたたちも…」と言って隼麗は岩の番犬だったふたりを見ました。 「相談も何もない、なあ、フレア」「当然だわ、キース」とふたりはいい雰囲気で言葉を交わしています。 「あ、魔王軍は隊員同士の恋愛は禁止だから」とサンドルフが言うと、キースとフレアはかなり驚いたようですが、「別れますっ!!」とふたり同時に言いました。 「あはは、その気持ちだけでいいから。  出撃しない時はいつも通りで」 サンドルフが言うと、ふたりは深々と頭を下げました。 「カノンさんはすぐに答えを出さなくてもいいよ。  この四人は僕が脅してスカウトしたようなものだからね」 「滅相もございませんっ!!」とイワノフは胸を張って言いました。 「サンドルフ様やランス様のために働く。  これほどうれしいことはございませんっ!!」 イワノフは心からの言葉をサンドルフに告げました。 「本当にやさしそうだ。  でもね、戦場に出ると、  そのやさしさを捨てなきゃいけないことがあることを  忘れないで欲しいんだ」 サンドルフの言葉が四人を厳しい顔に変えさせました。 しかし四人は素早くサンドルフに頭を下げました。 「ちなみに、源次郎さんへの想いもあるよね?」とサンドルフが言うと、特にイワノフは想いが強いようで、かなり困った顔をしました。 「四人は、世界の騎士団にも所属して欲しいんだ」とサンドルフが言うと、ロア部隊全員が、「えええ―――っ!!」と驚きの声を上げました。 「そうすれば、源次郎さんへの恩も返せるからね。  ちなみにベティーさんも利家君も、  世界の騎士団員で魔王軍にも所属してるから。  魔王軍の出撃が多い分、経験はかなり積めるよ」 サンドルフが言うと、さらに四人は何も問題ないと言わんばかりに、サンドルフに向けて頭を下げました。 「それはありがたい」と言って、源次郎がドズ星に姿を現しました。 サンドルフたちは源次郎に素早く頭を下げました。 「俺が礼を言いたいほどだ。  今日から俺はここで修行を積むことにした」 源次郎は晴れ渡った空のように、その笑顔をサンドルフに向けました。 そして続々と、世界の騎士団員が姿を見せました。 「この星の住人たちもまた鍛えようと思う。  自分たちの利益だけで動くことは愚の骨頂だと、  俺は猛反省したんだよ」 源次郎は笑みを浮かべてサンドルフに言いました。 サンドルフは笑みを浮かべて源次郎を見ているだけです。 「世界の騎士団の出撃はしばらくはない。  どうか、しっかりと鍛えてやって欲しい」 源次郎はサンドルフに頭を下げてから、猛然たるスビードで、「うおおおおっ!!」と大声を上げながら走って行きました。 「うわぁー…」と言ってサンサンがよろこびの声を上げました。 「待ちに待った解禁日、と言うことだよね」とサンドルフが言うと、サンサンはサンドルフに笑みを向けました。 サンドルフがふと視線を農園に替えると、なんと岩の恐竜がいました。 しかしイワノフはサンドルフを守るようにして隣にいます。 「細田さん、造っちゃったんだ」とサンドルフは笑みを浮かべて、時々動いている岩の恐竜を見ています。 サンドルフは帰ろうと思って黒い扉に向けて歩き出した時、「私も、入りたいっ!!」とカノンは心からの声を上げました。 「はい、いいですよ」とサンドルフはごく普通に笑みを浮かべて言ってから、「サンダイス星でまずは修行をしましょう」と言って、歩を進めました。 カノンは空中訓練場にある、サンダイス星に続く黒い扉を見入っています。 カノンはやはりくぐれないのではないのかと思っているのです。 その時のショックは計り知れないものがあるのです。 「あ、僕が認めたので」とサンドルフはカノンに笑みを浮かべて、黒い扉に入って行きました。 そして続々とロア部隊員たち入っていって、カノンとサンサンだけが残されました。 「カノンさん、いこっ!!」とサンサンが笑みを浮かべてカノンを急かしました。 「うんっ! いこっ!!」とカノンは極力明るく言って、黒い扉を潜り抜けました。 カノンは、ぼう然としてサンダイス星の景色を見ています。 どう見ても、今までいたドズ星の景色そのものだったのです。 「ドズ星じゃないっ!!」と言って、カノンは大声で笑い始めました。 「ピラミッドはないよ」とサンドルフが言うと、カノンは辺りを見回して、「その通り…」と申し訳なさそうな顔をして言いました。 「さて、珍獣二号は何ができるんだろうか」とサンドルフは言って、カノンに向けて構えを取りました。 いきなりの組み手に、カノン以上にベティーたちは驚いたようです。 「僕に勝てないと、帰ってもらうから」とサンドルフは冷たい言葉をカノンに投げかけました。 カノンはサンドルフの言葉は耳に入っていますが、今はどのような攻撃をするのかだけを考えています。 先手はカノンでした。 素早い掌底が、サンドルフの胸と腹を襲います。 サンドルフは指先だけでその掌底の軌道を変えます。 あまりにも軽くあしらわれたのですが、カノンは腹を立てることなくスピードを上げました。 サンドルフはいとも簡単に追いついて、同じようにしてカノンの攻撃をかいくぐります。 ―― うっ! これはマズいっ!! ―― とカノンは思い、すぐさま下がってから、すぐに前に出ました。 その間に、サンドルフの回し蹴りが空を切っていたのです。 今はサンドルフの背中が見えています。 カノンは無心で掌底を繰り出しましたが、そこにはもうサンドルフはいませんでした。 カノンは考えることなく、大きく回りこみました。 「はい、合格っ!」とサンドルフは言って拍手をしました。 サンドルフは回し蹴りの回転力を利用して、カノンの背後に素早く回り込んで移動していたのです。 カノンはまだ足りないと思っています。 しかしサンドルフは、「この先はおいおい知っていこうって思ったんだ」と言われてしまって、カノンは恥ずかしく思ったようです。 サンドルフはカノンよりも年少者ですが、カノンも知っている前世の陽鋳郎の記憶も持っています。 よってカノンと同様に、サンドルフはもうすでに子供ではありません。 ですが今の戦いだと、子供はカノンの方です。 ―― 力を見せ付けるっ!! ―― という強い想いがカノンは大失敗だったと思い、恥ずかしくなったのです。 サンサンが笑顔でカノンを見上げています。 「お父さんがダメでも、サンドルフ君がいる」とサンサンが感情を殺して言うと、「それは今は考えないことにしたの」とカノンは笑みを浮かべて言いました。 「考えたと同時に、私はここにいられなくなってしまう」 カノンが言うと、サンサンは笑みを浮かべました。 「みんなね、意地悪だからっ!」と言って一番意地悪なサンサンは、カノンを基礎体力訓練に誘いました。 カノンはついついサンサンのペースに巻き込まれ張り切りすぎて、目を回して意識を失ってしまいました。 カノンが目覚めると、見たことのない温泉場でした。 「あはっ! 起きた起きたっ!」とサンサンが言ってカノンに笑みを向けています。 「おっとなぁー…」と言って、サンサンはカノンの胸を凝視しています。 「こんなもの、武器にも何にもならないわ。  なくてもいいほどよ」 カノンが言うと、サンサンはため息をつきました。 「サンドルフ君、少しは反応してくれるって思ったのに…」と言ってサンサンはふくれっつらをして自分の少し膨らんでいる胸を見てから、水面をにらみました。 「ランスも同じだもの…  内面をもっともっと磨かないとね」 「私ね、サンドルフ君に甘えてばかりなの…  でもね、サンドルフ君の役にも立っているって思うの。  だけどね、その割合がね、甘えている方が多いって思って…」 特にサンサンは何かを考えてカノンと話しをしているわけではありません。 ただただ、誰かに話しを聞いてもらいたかっただけなのです。 「嫌がられてないんだったら別にいいじゃない」 カノンが言うとサンサンは、「うんっ!!」と言ってカノンに笑みを向けました。 カノンのことが心配だったのか、隼麗が浴室に入って来ました。 隼麗は元気そうなカノンを見てほっとしてから、笑顔をカノンたちに向けました。 「あー、いいなぁー…」と言ってサンサンは隼麗の美しい翼をうらやましく思ったようです。 「飾りだと思ってたんだけど飛べたの」と言って、隼麗は一度だけ鋭く翼を仰ぐと、簡単にその身は宙に浮きました。 「人間じゃないよねっ!!」と隼麗が軽く羽ばたきながら言うと、カノンもサンサンも声を出して笑いました。 三人は早々に風呂場を後にして、基礎体力訓練を再開しました。 カノンは今度はマイペースを保つことにしたのですが、やはり心が焦っているようで、どうしてもサンサンにあわせようとしてしまいます。 ―― これも修行っ!! ―― と心で叫び、カノンはサンサンを見ながらマイペースで基礎体力訓練を再開しました。 ランスたちが帰星してすぐに、サンドルフはロア部隊に入った新しいメンバーを紹介しました。 早百合もサヤカもダフィーも、カノンがここにいることに驚きを隠せなかったようです。 「有言実行。  さらにはここにいられることがその証明。  ドズ星がほぼ元に戻ったことは細田さんから聞いた。  俺は全てに納得した。  ありがとう、サンドルフ」 ランスは言ってから、サンドルフに頭を下げました。 サンドルフは笑顔でランスを見ているだけです。 「初顔が四人…  どこで…」 ランスが言って考え始めましたが、思い当たらないようです。 さすがに、岩の恐竜や岩の番犬の魂までは探っていなかったようです。 サンドルフがそれぞれに自己紹介を兼ねて元の姿に変身させると、ランスは苦笑いを浮かべて四人にあいさつを始めました。 「ひとりだけ、変わってるよな」とランスが隼麗を見て言うと、隼麗もそれを認めてランスに笑みを向けて翼を大きく広げました。 「だがさすがロア部隊、と言っておこうかっ!!」とランスは言って大声で笑いました。 「あ、ランス師匠」とサンドルフはランスに真剣な眼を向けました。 「お、おおー、なんだ?」とランスは何事かと思って少し驚いたようです。 「僕は源次郎さんのように仲間を見捨てない精神を持って、  仲間と接したいと思っていますっ!」 サンドルフが言うとランスは、「ああ、何人も源次郎さんを裏切ったのに、結城さんたちに引き戻されたようだな」とランスは真顔で答えました。 「カノンさんは裏切るかもしれませんが、何度でも引き戻しますので」 サンドルフはランスに素早く頭を下げました。 ランスは苦笑いを浮かべてから一度だけうなづいて、「ああ、いいぜぇー…」と言って簡単に許可しました。 ここまで言われてしまっては、簡単にサンドルフを裏切るわけにはいかないと、カノンは気持ちを強く持ちました。 しかし、何度でも引き戻してくれるという気持ちを、カノンはうれしく思ったのです。 ―― サンドルフ君も素晴らしい… ―― とカノンは思って目を細めました。 まるでランスという太陽に寄り添う太陽がサンドルフでした。 ―― サンドルフ君でいいかも… ―― とカノンが思ったとたんにカノンはサンダイス星から消えました。 「どうしようもねえなぁー…」とランスが苦笑いを浮かべて言うとサンドルフは、「あははは、行ってきますっ!」と言ってサンドルフはサンサンを連れて消えました。 サンドルフは精神間転送を使って、カノンの魂に飛び込んだのです。 カノンが飛ばされた先は空中訓練場の農園でした。 「お、カノンが生えた」と源次郎が言うと、世界の騎士団員たちは大声で笑いました。 「さて、何回ここに飛ばされるんだろうなぁー…」と源次郎が言った途端に、サンドルフとサンサンがカノンから飛び出してきました。 サンサンは悲しい目でカノンを見ています。 「略奪愛愛好家でごめんなさい…」とカノンなりのジョークを飛ばして、源次郎たちをさらに笑わせました。 「何事も修行だけどね、いきなりだったよね」とサンドルフがかなり困った顔をカノンに向けました。 「はい、今から大反省します」と言ってカノンは芝生の場所に移動してから座り込んで瞳を閉じました。 やはり、古い神の一族は魅力的なのです。 特にカノンに年齢が近いものほど、どうしても恋慕の気持ちが沸いてしまうのです。 ―― 相手の立場に立って… ―― もしカノンが自分の彼氏を誰かに見初められたと仮定すると、その女性はカノンとしては憎むべき相手となるでしょう。 ですが今のサンサンは違います。 ただただ、この結果を悲しんでいるのです。 きっとカノンは、サンサンのようにはなれないと感じました。 するといきなり、心が軽くなりました。 カノンが目を開けると、サンサンが天使デッダに変身して、カノンに抱きついていたのです。 「…助けて…  ううん、ありがとう、サンサンちゃん…」 カノンは言ってから、天使デッダのサンサンを抱きしめました。 「へー、早かったね。  これほど早いとは思わなかったよ」 サンドルフが言うと、カノンはサンドルフを見上げました。 「まだ子供じゃない…」とカノンはサンドルフの見た目だけで言いました。 「それがさぁー、ベティーさんが大人だって言うんだよねぇー…」 サンドルフが言うと、源次郎はベティーの気持ちがよくわかるようで、笑顔でうなづいています。 「だからベティーさんもここに飛ばされるって思うよ」 サンドルフが言うと、カノンはあきれた顔をしてから大声で笑い始めました。 「仲間が増えてうれしいけど、ほどほどにしておかないとね」とカノンは言って、ゆっくりと立ち上がりました。 「ところで、カレンちゃんはいいの?」とカノンが聞くと、「ボクの方が先に興味を持ったからね」とサンドルフはごく自然な態度で答えました。 「そう」とだけカノンは言って、余計なことは考えずに、鍛え上げることだけに集中することにしました。 サンサンは変身を解いて、地面に足をつけました。 「カノンさん、いこっ!!」とサンサンが笑みを浮かべてカノンの手を取りました。 「うん、いこっ! サンサンちゃんっ!!」とカノンは叫んでから、黒い扉をくぐって行きました。 「ほうっ!」と源次郎は感心した声を上げました。 「だけどきっと、また何度も来ることになると思います」 サンドルフが言うと、源次郎は一声笑って、「おやすみ」と言いました。 サンドルフは、「おやすみなさい」と言ってから丁寧に頭を下げて、黒い扉をくぐっていきました。 「時には、ロア部隊ごと雇おうかな?」と源次郎は言って大声で笑いました。 あまりにも早くカノンが戻ってきたので、ランスは驚いています。 確かにカノンには、ランスにもサンドルフに対しても恋慕の気持ちがないことをランスは感じています。 やはりサンサンの存在がかなり大きいとランスは感じて、サンサンに笑みを向けました。 ごく普通に早百合たちが話しをしていたのですが、いきなりサヤカが消えました。 あまりのことに早百合とダフィーは目を見開いていなくなったサヤカの席を見つめています。 サンドルフはすぐに察知して、「今頃は源次郎さんに大声で笑われてから説教だろうね」とサンドルフは言って、サヤカを迎えに行く気はないようで、メリスンに寄り添いました。 そのメリスンが少し怒っていたのです。 サンドルフはあることに気づいて、「もう、聞きましたよね?」とメリスンに申し訳なさそうな顔をして言いました。 「聞いたわ、本人から…」とメリスンはため息混じりに言いました。 「僕は石化魔法は怖くありませんから」とサンドルフが堂々と言うと、特に聞き耳を立てていたわけではありませんが、誰もが凍りつきました。 「えっ?」と言ってメリスンの目が泳いでいます。 するとメリスンは悪魔メリルに姿を変えました。 「その自信、どこから…」とメリルは途惑いながら言って、サンドルフを見ています。 「石化魔法を解ける人たちを知っているからです。  しかも、150人もいますっ!」 サンドルフが言うと、メリルは苦笑いを浮かべてメリスンに変わりました。 サンドルフが、ウーリア星の小人たちの話しを始めると、魔王も興味津々でチェニーを抱いてカウンター席に座りました。 サンドルフの話しを聞き終えた魔王は、「それって、すげえな…」と言って感心しています。 「そうだよね。  はっきり言って不死身なんだけど、  人間と同じで寿命を持っているから、半不死身?」 サンドルフが言うと、魔王は愉快そうに笑いました。 「強い人はマグマ溜まりに落ちても溶けない石になるんだ。  だから150人ほどしか生き残らなかった。  だけど、生きていてよかったって思ったよ」 魔王は感慨深くうなづいています。 「修行になる話だったわ。  サンドルフ君、ありがとう」 メリスンはサンドルフに笑みを向けて言いました。 「あはは、いえ…  でもボクが石化魔法を解けるわけじゃないんですけどね。  でも解ける人がいることの方が驚きでしたから」 サンドルフが言うと、メリスンは笑顔でうなづいています。 「覇王さんでも、魂の開放しかできなかったのに…  すごい人たちね」 メリスンが感慨深く言いました。 「え? まさかあの恐竜の…」とサンドルフが言うとメリスンは笑顔でうなづきました。 幼稚園施設のとなりに驚いた顔をしている5メートルほどの石の恐竜が立っています。 それはメリルの怒りに触れ石化されたものなのですが、魂まで石になっていることが発覚したのです。 なんとかしたいと思っていた覇王は、ランスの育ての親のデゴイラ・ハリアークの術を利用して、なんと魂の中身を取り出して、新しい魂の入れ物に移し替えたのです。 「あはは、それもすごい…」と言ってサンドルフは笑顔になりました。 「だからランス君、少し態度が変わっちゃったの。  あ、でもね、今までよりもフレンドリーな関係になってうれしいの」 メリスンが言うと、サンドルフは笑みを返しました。 「全てはウーリア星が不完全だったからです。  その150人は、ウーリアで生きて、  ずっと生き残るための修行をしていたんだと思いました」 「最悪の環境が、奇跡のようなものを起こしたのねぇー…」とメリスンは感慨深く言いました。 サンドルフとの語らいは本当に有意義だったようで、メリスンはまるでサービスのようにサンドルフの好物の料理ばかりを大量に用意しました。 さすがにサンドルフは食べきれなくなったのですが、残すことは絶対にできないので、恐竜デッダに変身して、全てをきれいに平らげました。 まさか恐竜の食事を垣間見ることになるとは思わなかったランスたちは、背筋に冷たいものが走ったようです。 いつの間にかサヤカも帰ってきていました。 源次郎にかなり叱られたようで、肩をすくめています。 カノンは早百合たちと席を同じにしません。 もししてしまったが最後、またここにいられなくなることがどちらもわかっているからです。 なのでサヤカは、デッダと話しをすることにしたようです。 カノンはサンサンに寄り添っています。 サンサンは迷惑でも何でもないようで、姉に甘える妹のようなにカノンに接しています。 ロア部隊はカノンの顔見知りばかりなので、何の不安もありません。 セイランダにいたっては、カノンは妹のように思っています。 セイランダもその感情を快く思っているので、簡単にロア部隊の一員で仲間という意識を持っています。 そして多くの仲間が増えたことを、セイランダは喜んでいるのです。 ですが悲しいこともあります。 セイランダは恋をしないのです。 セイランダの感情に、他人へ向ける愛はあるのですが、恋する気持ちが沸かないのです。 ですが、一度だけ体験はしたのです。 ですがそれは、セイランダの脳に寄生虫がいたからなのです。 もうその時の感情は消えてしまったので、思い出すことは不可能なのです。 ダイゾが恋をしない理由はその肉体にあります。 生殖機能を持っていないことで、ダイゾは男にも女にも恋はしないのです。 これは変身能力を持っている者も共通して言えることで、変身すると恋心は消えてしまうようなのです。 「お母さんもかなぁー…」とセイランダがいきなり言ったので、みんなはまったく話がわかりませんでした。 サンサンは気になったのでセイランダに聞くとセイランダは恥ずかしそうな顔をして全てを話しました。 「強制的に恋をしないことはできるけど、変身を解くと戻っちゃう。  だけど、恋をしないという感覚は手に入れられるのかも…」 カノンが言うと、セイランダは少し喜びました。 セイランダはセイラもここにいて欲しいと思っているようなのです。 ですが今は、セイラはセルラ星イルニー国の王として仕事をしていますので、無理なことは言えないのです。 「私も今は精神修行にも力を入れたいから、  申し訳ないけど、できればセイラちゃんに会いたくないわ…」 カノンが言うと、セイランダも理解はできているようなのですが、落ち込んでしまいました。 しかしセイラは王になってから魔王軍で働いた実績があるので、カノンよりも先を行っているのです。 カノンもそのことは知っているので、魅力ある異性の古い神の一族への想いをどうやって断ち切ればいいのかだけを考えます。 ―― そもそも、どういった原理で… ―― とカノンは思い、魂の先頭の情報を探りました。 そしてそれがあったのです。 これは悦子のいたずらだとしか思えなかったのです。 こういう時には必ず救世主が現れるものなのです。 覇王が満面の笑みでサンドルフ星にやってきました。 そしてすぐにカノンを見つけて、『ほう』と言った顔をしてから目を細めました。 カノンも覇王に笑みを向けました。 「ここにいられることだけでもすごいことですね」 覇王の言葉使いに、カノンはあ然としました。 まるで別人になってしまったと感じているのです。 覇王はこのように変わってしまった経緯をカノンに話しました。 「…サンサンちゃんも、サンドルフ君もすごい…」と言ってカノンはただただ感心しました。 「えへへ…」と言ってサンサンは照れ笑いを浮かべました。 「あ、お父さん…」とカノンは言って、魂の情報の先頭にある件について質問をしました。 覇王はこの件に関しては苦笑いを浮かべるしかなかったのです。 「それが、古い神としての修行となっているのです。  そしてそれを決めた本人も克服できてはいないのですよ」 覇王は言って、覇王たちに笑顔で手を振っている悦子を見ました。 「修行として…  私、何回もここから放り出されるだろうなぁー…」 カノンが言うと、覇王は怪訝そうな顔をしましたが、サヤカを見て今の感情から全てを察したようで、少しだけ笑いました。 「チャンスは何度でもあるのですが、それに甘えてはいけませんよね」 覇王の優しい言葉が、カノンの心に染み渡りました。 「うん、それだけはしたくないから。  でもね、サンドルフ君が説得もしないで  ランスをうなづかせたことがすごいって」 カノンが言うと覇王は笑顔で大きくうなづきました。 「サンドルフ君はサラさん以上の存在になってきたようですね。  そして動物の王にもなりました。  チョモランマ君はどう思いますか?」 覇王は何もないところに笑みを向けると、小さなゾウが現れました。 彼は動物の妖精のチョモランマで、古い神としてはヤマと言う名前を持っています。 この広い宇宙で始めて誕生した、動物の始祖なのです。 「実はね、まだ不完全なんだよねー…」とチョモランマが言うと覇王は、「ほうっ!」と言って少し驚きました。 「何もかも、今の何数倍にも上がるんだよ。  恐竜の方を鍛えてもいいんだけどね。  人間の体との実力差があまりにもあるから、  サンドルフ君は恐竜はあまり鍛えないことにしたようなんだ」 チョモランマの言葉を聞いて、覇王は納得の笑みを浮かべました。 「それでこそでしょう。  そして合格とも言えます。  彼は暴君にはなりえないと感じました」 覇王が言うと、チョモランマは笑顔のままその姿を消しました。 「ランスとは別の太陽…」とカノンが言うと、覇王は笑顔でうなづきました。 「純粋にそこにあって当たり前の太陽。  ランス君とは少々違いますが、どちらも太陽には違いありません。  さすが佐藤さんの息子だと、私は感慨深くうれしく思いました」 覇王の言葉を聞いて、カノンは佐藤と双子なのに、ぜんぜん違うと嘆きました。 ですがカノンなりの修行の積み重ね方をカノンは知らないだけなのです。 カノンは愛欲だけに生きてきて、まだ一度もその修行をしていないのです。 佐藤の場合は、素晴らしいものを見て感動するという精神修行を今も行なっています。 カノンは自分探しをしなければならないと思い、今までの愛欲全てを断ち切るかのように素早く立ち上がり、全ての力を足に込めふんばり、大きく息を吸い込んでから、 『うおおおおおおおっ!!!』 と、人ならざる声で叫びました。 当然、周りにいた者全てが驚きの顔をカノンに向けました。 カノンはステップアップを果たしました。 ですがこれは前世ですでにできていたことです。 しかし実際に見たランスたちは驚き、そしてカノンに拍手を贈りました。 「やっぱり珍獣だったっ!!」とサンドルフが言って大声で笑うと、ランスたちも後を追うようにして笑い始めました。 「あー、この感覚だわ…」と天使のカノンが言いました。 「出てきたくはなかったがな…」と悪魔のカノンが言いました。 どちらも同じ肉体を持っているのですが、顔は少し違います。 やはり悪魔の方は美人で、天使の方はかわいらしい面差しをしているのです。 「これが佐藤さんと二分した、  カノンさんなりの天使と悪魔の始祖なんですよ」 覇王の言葉に、誰もが驚きの顔を覇王とカノンたちに向けました。 「佐藤さんだけが、天使と悪魔の始祖じゃなかった…」とサンドルフがぼう然として言いました。 その佐藤は今は俊介として幼児の姿です。 その俊介は青空と一緒になって、カノンに拍手を贈っています。 「佐藤さんとカノンさんは双子です。  ふたりは同じ実力を持って生まれてきているのです。  違いは男女ということだけ。  カノンさんはそれをさらに自覚して欲しいですね」 「はい、父上っ!!」とカノンは言って、覇王に抱きつきました。 やはり一番驚いているのはランスでした。 実力は佐藤と同じ。 わけ隔てなく平等にセイントはセントとセイラレスを生んだ。 今のランスはかなりの身の危険を感じて、苦笑いを浮かべることしかできませんでした。 一方のカノンは今は恋どころではありません。 どうにかして自分なりの修行方法を確立したいと、悪魔と天使で協議を始めました。 「うーん、自問自答合戦…」とサンドルフが言うと、サンサンがサンドルフをにらみつけました。 「あはは、おちゃらけるつもりはないんだよねぇー…」と言ってサンドルフはスケッチブックを取り出して様々な絵を描きました。 まずは佐藤と同じような修行方法から確認してもらおうと思っただけの行動です。 サンサンはサンドルフの想いを察知して、サンドルフの描いた絵を見てから、造形セットを取り出して、フィギュアを造り出し始めました。 ―― これも修行… ―― と魔王軍の戦士たちは、サンドルフとサンサンを見入っています。 悦子が喜び勇んで二人に近づこうとしましたが、「はい、ここでも見えるわよね?」と保奈美に言われてしまったので、3メートル手前でその歩みを止めました。 カノンはふたりに心の中で頭を下げました。 そしてふたりの作品を見て、純粋に感動しました。 ですがごく一般的な人間と変わらない感情だったので、少し落ち込みを感じました。 するとサンドルフは映像で見たかなり笑えるものを絵に描きました。 目線を変えた五つの絵を描いて、サンサンに見せたのです。 サンサンは、「なに、これぇー…」と言いながらも、パテを使って造形として再現しました。 「あっ!!」と悦子は叫んで、かなり恥ずかしそうな顔をして、サンサンの造り出したものを見ています。 そしてカノンもそれに気づいて見たとたんに、大声で笑い始めたのです。 カノンはこれは初めて見たものではないと思い出しました。 前世でも見ていたはずなのですが、ただただ面白かっただけという感情しかありませんでした。 ですが今は違います。 自分自身の笑い声が、魂の中に蓄積されているように感じたのです。 ―― これだっ!! ―― とカノンは確信しました。 カノンの最高級の修行は心の底から笑うこと。 今までの生涯とはほぼ逆の行為だったと、カノンは思い知らされたのです。 敏感に察知したサンサンは、変形させたものとごく自然なものとを並べて置きました。 カノンはこの方がさらに笑えるようで、ふたつを見比べて窒息しそうなほどの勢いで笑い転げました。 「あ、死んじゃうかもしれないから…」とサンドルフが言うと、サンサンはつまらなさそうな顔をしましたが、「何事も程々…」とサンサンは言って、素早く動かしていた手を止めました。 「造りかけは造っちゃおうっ!」とサンドルフが言うと、「うんっ!!」と言ってサンサンはまた新しい笑いのネタを造り上げました。 「…うう…  私が笑われているようでイヤだわ…」 悦子が言うと、「一体、どういうことなの?」と保奈美が不思議そうな顔をして悦子を見ました。 「あのね…」と悦子は話づらそうにして、ゆっくりと語り始めました。 話し終えた悦子は、「もう克服したから大丈夫なんだけどね」とさらに恥ずかしそうにして言いました。 話しを聞いていたのは保奈美だけだったので、サンドルフ以外はこれがどういうものなのかまったくわかりません。 保奈美は少し迷いましたが、ランスにだけは伝えることにしました。 ランスには聞いておく権利があると保奈美は感じたからです。 カノンがランスの妻になる可能性が大いに上がったのですから。 ランスは保奈美の話しを聞いて、身の危険を感じていただけでなく確信に変わりました。 「母ちゃんとはないと思っていたんだけどなぁー…  やはり、佐藤さんの双子の兄妹だから侮れないです」 ランスは保奈美の話しを真摯に受け止めました。 保奈美は少し落ち込んでしまいましたが、―― これでよかったはず ―― と、強く思いました。 ランスを虎視眈々と狙う女性がまたひとり増えましたが、さらにもうひとり増えるはずなのです。 保奈美はひとつため息をこぼして、わが父ランスの不本意な気持ちを慮りました。 ―― 私は、人間にならないでおこう… ―― 保奈美は、強く念じると、なんと保奈美自身が光り始めたのです。 「違うっ! そうじゃないのっ!!」と保奈美が言うと、光はゆっくりと収束していきました。 保奈美に魂が定着したことは、保奈美自身がよくわかっています。 保奈美は実はゼンドラドよりもランスを好きになってしまっていたのです。 そして、魂が沸いてしまうと、ランスに寄り添ってしまう予感があったのです。 さらには、悪魔と天使の代わりのものも、もうすでに準備は整っていたのです。 もうひとつ、ランスが一番安心する、自分自身の身を守ることも、保奈美には可能です。 ―― 欲を持ってはいけないのっ!! ―― 保奈美は生まれて魂に初めて強く念じました。 今の保奈美はさらに生まれ変わった気分です。 今はランスよりもゼンドラドがいいと思っています。 決して強がってはいません。 ゼンドラドはランス以上の猛者なのですから。 「…ああ、保奈美ちゃん…」と悦子が心配そうな顔をして保奈美を見ています。 「あ、大丈夫よ。  魂が沸いただけだから」 保奈美がごく自然に言うと、これが当たり前だったと、誰もが感じたようですが、さすがに驚きの表情をして固まっています。 ランスがすぐに保奈美に駆け寄ってきて、満面の笑みを浮かべています。 サンドルフ率いるロア部隊も、保奈美を囲みました。 行動力があるので、こういった時は真っ先に駆けつけるのです。 そして口々に保奈美に祝福の言葉を投げかけました。 特にサンサンは、「よかったねっ! よかったねっ!!」と言って、わがこと以上に喜んでいます。 保奈美は感動して、生まれて初めて涙をこぼしました。 「いやぁー、いきなりだったなぁー…  何か切欠でも?」 ランスが聞くと保奈美はランスをまっすぐに見て、「ランスさんのお嫁さんになることを決心したのです」と保奈美がとんでもないこと口走りました。 ランスはあまりのことに苦笑いを浮かべているだけです。 ですが、サンドルフだけはごく自然な笑みを保奈美に向けています。 「ですけど、諦めました。  それを始めて、心に強く刻み込みました。  ですけど、私以下の方はお父さんを諦めてくださいませ」 保奈美は自信満々に言って、今までに見たこともないものにその姿を変えました。 「…はは、すっげぇー…」とランスは恐竜のようなダイゾを見上げて、感動の声を上げました。 「私が造り上げました」と保奈美はかなり恐ろしい顔なのですが、ごく自然に言いました。 「ほかにも、天使と悪魔のようなものにも変身できます。  今回は細田さんの手を借りずに、私ひとりで造ってみました」 ランスは保奈美を見上げたまま拍手をしています。 「保奈美さんの父でよかったと、心の底からそう思います」 ランスが言うと保奈美は笑みを浮かべて元の姿に戻りました。 「オレからは何も言うことはありません。  これからも自由に生きてください」 「はい、お父さん」と保奈美は言って新たな涙を流しました。 今の保奈美には、ランスを父と思う気持ちしかありません。 ですが保奈美の灰色の存在は、そう思ってはいないようでした。 この感情はサンサンもサンドルフもランスもそして覇王ですら察することは不可能でした。 保奈美は悦子に対する感情は現状維持にして、そのほかの感情は今までと変わっていくはずなのです。 保奈美はランス恋しさに、過ちを犯してしまったのです。 そして悦子だけは、保奈美の変化に悲しみを抱きました。 … … … … … サンドルフは、保奈美とこのサンドルフ星にいた怪鳥と話しをすることにしました。 もちろん、ロア部隊へのスカウトの件です。 「隼麗さん本当にきれい…」と保奈美はあこがれるような眼差しを隼麗に向けました。 ですが怪鳥の方は、あまりにも強そうな動物が大勢いるので尻込みをしているようです。 「あ、無理に入ってもらうことはないんだよ。  その気になったらいつでも言って欲しいんだ」 サンドルフが言うと、怪鳥は理解できたようで、保奈美の影に隠れたまま、サンドルフに何度も頭を下げました。 「いいチャンスなのに…」と保奈美が言った途端、不穏な空気が流れたのです。 サンドルフとサンサンがまず始めに気づきましたが、ロア部隊全員が保奈美から少し離れて囲みました。 「いやぁー、これは…」とサンドルフはかなり困ってしまったようで、保奈美に戸惑いの笑みを向けました。 悦子も察していたことなので、今は保奈美に寄り添いません。 サンドルフとサンサンなら、何とかしてくれると願いを込めているだけです。 もちろん、悦子自身でもできることなのですが、さすがに友達を自分の手で変えてしまうことには戸惑いがあったのです。 「…悪いものが憑いているって感じ…」とサンドルフが言うと、ロア部隊全員がうなづきました。 ランスが近づいてきたのですが、悦子の様子を察して悦子に寄り添うことにしました。 そして当然のように、細田がその姿を現しました。 「はあ… これでふたり目です…」と言って、細田は肩を落としました。 ベティーと利家は細田の言葉に素早く反応しました。 世界の騎士団員、皇一輝の影だったハヤトのことだろうと、サンドルフは素早く察知しました。 当然のようにサンドルフは調べ上げていたのです。 細田を信じないわけではありませんが、いくら機械といっても人間とさほど変わらないので、裏切りに走る者もいるはずだと思っていたからです。 「肯定できない自分自身が悪いものに変化しようとしているようだね、  保奈美さん」 サンドルフが言うと、保奈美はぼう然として考えましたが、保奈美自身にはわからないのです。 さらに魂が引き起こしている分、細田にも出が出せないのです。 正常化できるとすれば、覇王か悦子しかいませんが、ふたりとも傍観を決め込むようで、遠くから見ているだけなのです。 その手で変えてしまうよりも、改心させた方がいいと、覇王は思っているようなのです。 「天使にも悪魔にも変身できる。  当然灰色の存在にも」 サンドルフが言ったとたんに、猛然たる畏れがこの場を覆いつくしました。 まるで悪そのものの存在感をかもし出した保奈美が現れたのです。 「…ランスは俺のものだぁー…」と保奈美は世にも恐ろしい顔をしてサンドルフに近づいてきます。 サンドルフを倒さない限り、ランスを手に入れることは不可能と考えるに至ったようです。 悦子は震えています。 そしてもう半分以上諦めています。 せっかく出会えた最高の友人を、こんなに短期間で手放してしまうことに、深い悲しみを抱いているのです。 サンサンは素早く移動して悦子に抱きつきました。 そして何かを放ったのです。 この場が一気に正常化して、保奈美が胸を抑え込んで苦しみ始めました。 サンサンは悦子を誘っただけです。 悦子の持つ本能である慈愛を一気に放出したのです。 新しくロア部隊に参入した四人は笑みを浮かべてその場にひざをつけました。 そのほかのロア部隊員たちも、深い笑みを浮かべて保奈美を見ています。 「…お、俺は間違ってなどいない…」と保奈美は言いましたが、「ぐわっ!!」と言ってすぐに、地面にひざをつけました。 その姿は間違っていると肯定したようなものでした。 おろおろとしていた保奈美の友の怪鳥が、保奈美を守るようにその大きな翼で覆い隠しました。 すると利家が、『人間にして欲しいってっ!!』とサンドルフに念話を送ってきました。 『すぐにっ!!』とサンドルフは利家に念話を返しました。 利家は素早く怪鳥に駆け寄り術を放つと、隼麗と同じような姿の人間に変わっていました。 「…おお、おお…」と保奈美は言って、人間となった怪鳥に笑みを浮かべました。 悦子とは別に、保奈美の心のよりどころになっていた怪鳥が人間になったことで、保奈美の荒ぶる心は、少し落ち着いたようです。 「…キレイだなぁー…」と保奈美は苦笑い気味に翼を持った人間に笑みを浮かべました。 「私は全てをあなたに捧げます。  どうか、お好きになさってくださいませ」 翼を持った怪鳥が言うと、保奈美はゆっくりと首を横に振りました。 「私にはできませんわ…  でもね、ランスさんのことが大好きなの…」 「はい、何度もお聞きしましたわ…  それでいいじゃありませんか…」 翼を持った人間が言うと、さすがのランスも苦笑いを浮かべました。 「抑えこんだことが誤りなのです。  ですが私、知っています。  人に迷惑をかけないこと。  相手の気持ち、立場に立って物事を考えること」 翼を持った怪鳥が言うと、保奈美は一気に正常化しました。 そして、翼を持った怪鳥を、保奈美は優しく抱きしめました。 「保奈美ちゃんっ!!」と言って、悦子が大声で泣きながら走り出し、しっかりと保奈美を抱きしめました。 「心配かけちゃってごめんなさい…  やっぱり、押さえ込んじゃいけないのね…」 保奈美は言って反省しました。 「難しい選択だけどね、保奈美ちゃんだったらできるのっ!!」 悦子の言霊は保奈美に勇気と元気を与えました。 「私もデヴィラさんのように、がんばってみるわ…」と保奈美は言いました。 「うんっ! うんっ!!」と悦子は泣き笑いの顔で保奈美に向けてうなづいています。 サンサンが笑みを浮かべたところで、サンドルフは部隊員全員に、『散開っ!!』と念話を送りました。 全員がゆっくりと包囲網を解き、遠回りをしてサンドルフに寄り添いました。 ランスは保奈美も見ていますが、サンドルフも見ています。 素晴らしい統率力だとランスはさらに感心したようです。 さらに利家にもランスは再注目しました。 人間よりも人間らしい心を持った動物の利家が魔王軍にいることを、ランスは誇りに思ったのです。 サンドルフが副隊長にしたいと思っていた気持ちがランスにもよくわかったのです。 「サンドルフ」とランスが言うと、サンドルフは一瞬にしてランスの目の前にいました。 「俺の教育係、頼んだぞ」とランスが言うとサンドルフはかなり途惑いましたが、「はいっ! 了解しましたっ!!」と出てきた言葉は違っていました。 「サンドルフが魔王軍の総司令官かぁー…」と言ってベティーが妙な畏れを流して言いました。 「…全然違うよ…」と利家が言うとベティーは苦笑いを浮かべました。 ベティーとしては、自分自身の高揚感を上げるために言っただけです。 利家はそのことに今気づいて、「あはははは」と愛想笑いを浮かべました。 「新しい隊員の件は少々微妙かなぁー…」 サンドルフは翼を持った人間に笑みを向けて言いました。 保奈美の友の怪鳥の人間の姿は、隼麗とは少し違った美人で、隼麗よりも体の線は少し細いようです。 しかし、同じような環境で育っているので、この怪鳥も侮れないはずだと誰もが思っています。 「今はね、まだ早いって…」とサンサンは少し残念そうな顔をして言いました。 サンドルフは納得して、無理強いはしないことに決めました。 保奈美から一番の友を連れ去ることはできませんから。 ですがその保奈美がその友とともに、サンドルフに向かってゆっくりと歩いてきました。 「私も、ロア部隊に…」と保奈美が言ってサンドルフに頭を下げたのです。 「あはは、驚いちゃったっ!」とサンドルフが言うと、サンサンはすぐに保奈美に抱きつきました。 「サンサンちゃん、ありがとう…  サンドルフ君よりもサンサンちゃんの方が怖いわ…」 保奈美が言うと、サンサンはかなり困ったようですが、その心はわかるので、笑みを浮かべたままです。 「入隊を許可します。  監視と言う意味も含めますので」 サンドルフは少し厳しい言葉を保奈美に投げかけました。 するとサンサンのホホが一気に膨らみました。 「サンサンを信じていないわけじゃあねえ。  こう言わねえとな、ほかの者に示しがつかねえんだよ」 ランスが言うとサンサンは、「はぁーい、ごめんなさい…」と言って、サンドルフとランスに謝りました。 「しかし、一気に大きな隊になったなぁー…  だが、俺はさらに安心したぜ」 ランスは言って、サンドルフの肩に手を置いてから、いつもの席に戻っていきました。 「あ、利家君も副隊長で。  これが僕の思っていたベストだからね」 サンドルフが言うと、利家は笑みを浮かべました。 ベティーは少し気に入らないようですが、「楽しくなりそうだ…」と言って笑みを浮かべました。 「だけどね、さびしそうな人がひとりいるんだけど…」とサンドルフは少しいじけている悦子を見て言いました。 サンドルフの声を聞いた悦子は、懇願の眼をサンドルフに向けています。 「エッちゃん先生は珍獣四号で、仕方なく採用するよ」 サンドルフがため息混じりで言うと、全員に戦慄が走りましたが、悦子の機嫌がかなりよくなったので、サンドルフとサンサンだけは喜んでいます。 「エッちゃん先生に試練を与えよう…」 サンドルフが言うと、悦子はかなり困った顔になりました。 「気功術、マスターAに上げてね。  できる限り早く。  あ、僕、昨日なったから」 サンドルフが言うと、「うー…」と悦子がうなり始めて、保奈美を見ました。 「私はこれからがんばるから。  一緒に修行しましょう」 保奈美が言うと悦子は、「うんっ! そうするっ!!」と言って悦子は保奈美に抱きつきました。 「別の軍なんじゃないのか?」とマキシミリアンがサンドルフたちを見て言いました。 「実はな…」と言ってランスは覇王を見ました。 「ここでか…」と言ってマキシミリアンは苦笑いを浮かべたのです。 この親友はもうすでに阿吽を持っていますので、多くの言葉は必要ありません。 「今、セルラ自由学園にいるそうだ。  その騎士にサンドルフをあてがいたいそうだ。  今のところ拒否はしているけどな。  まずはサンドルフの考えを話しておこう」 ランスはサンドルフが提案した、部隊交代制の訓練休暇の件を話しました。 当然休みではなく修行に当てるためです。 その空いた穴にロア部隊を入れる。 そのスパンを広げれば、ロア部隊も修行ができることになるのです。 「いや、だが、ロア部隊はどちらかと言えばアタックだろ…」 マキシミリアンが言うと、「ああ、そうだけど、サンドルフひとりでも後方支援は可能だぜ」とランスは簡単に言ってのけました。 この言葉に、ダンと大樹はため息をついて肩を落としました。 それほどの実力差はあると、誰もが思っているのです。 ですがふたりは、サンドルフがいることで、安心感を抱いています。 「それにほかのメンバーも後方支援は特に問題ねえぞ。  力持ちが大勢いるからな、星再生もはかどるってわけだ」 ―― そうだったっ!! ―― と誰もが思い、できれば早く、自分なりの修行を重ねたいと思ったようです。 「と言う理由もあるので、  ほかの大宇宙の騎士の件は遠慮してもらおうと思っているんだ。  だがな、サンドルフに近い考えと行動力を持った者が現れた場合、  ロア部隊を二分することは可能だ。  今のところはいねえから、これから探すしかねえけどな」 ランスの主張は仲間たちを納得させました。 「だが問題はあるんだ」とランスが言うと、仲間たちはその先の言葉がわかったようでうなだれてしましました。 「ロア部隊が空いている時は連れて行こうとするだろうな」 予想通りの言葉が返って来たので、誰もが深くうなだれました。 それをされてしまうと、ロア部隊だけでなく、魔王軍自体も締め付けられることは容易に考えられるので、自分たちの修行があまりできなくなる可能性があると感じたのです。 「よって、ロア部隊は魔王軍ロア部隊として、  俺の許可なく動かさない。  サンドルフはもうきちんと理解していて、  サランさんに意見したようだぜ」 「おおー…」と仲間たちは低い声を上げました。 真実であってもそれを曲げて欲しいとサランに願がわれたのですが、サンドルフは縦に首を振らなかった。 自分たちにはサランに抗うことなど到底無理なことだと、誰もが思ったようです。 「だけど、ここで恩を売ろうと思って、  ロア部隊を御座成功太の宇宙に派遣することに決めた。  みんなの修行はその後だ」 ランスの言葉に、誰もが喜びを隠せませんでした。 しかし、実戦よりも自分たちの修行は厳しいはずです。 ですがその分、実戦が楽になっていくはずだと、誰もが疑いもしませんでした。 … … … … … 数日後、ロア部隊はサランに引率されて、堕天使がいない星に誘われました。 「あれ? 来てないんですか?」とサンドルフがサランに聞くと、「縛り付けてきたわっ!!」と言って大声で笑いました。 もちろん、御座成功太のことをふたりは話していたのです。 「堕天使どころか、仕事ができなくなちゃうもの…  面倒な者は縛り付けておくことが一番よ」 サランが言うと、悦子は超高速でうなづきました。 「エッちゃんもその対象じゃないっ!!」とサランが言って大声で笑いました。 「うー…」と悦子はうなってサランを上目使いで見ています。 サランの言った通りで、誰かが悦子のお守りをする必要があるのです。 ランスでもいいのですが、あまりトラウマのないサンドルフが適任者なのです。 そして人間よりも動物主体の考えを持つロア部隊の方が、悦子としては少々付き合いにくいので、大人しくしているはずだとサランは思っているのです。 そして悦子には力があります。 部隊のためにならないわけがないのです。 前回のように、死後の世界の魂を探って、ほんの数十分で12名の堕天使を救い出しました。 この星の大魔王のよろこぶ顔を見てから、次の星に移動しました。 4時間後、五つの星の堕天使を救い出したロア部隊は昼食にすることになりました。 「今日用意した星はあとふたつだけです。  あと少しですので、どうか、よろしくお願いします」 サランが丁寧に頭を下げると、サンドルフとサンサン、保奈美だけがサランに頭を下げました。 「あー、人間は三人しかいないんだなぁー…」とサンドルフは言って、カレン、カノン、悦子を見て言いました。 三人はもうすでにロア部隊になじんでしまっていたので、人間ではありますが動物のように少し粗野な面も顕著に見えるようになっているのです。 三人はかなり恥ずかしそうな顔をして、人間に戻ることにしたようです。 食後の運動として、サンドルフとサンサンはカノンの修行の手伝いをしていて、誰もが笑い転げています。 当然のように悦子だけが引きつった苦笑いを浮かべています。 「あら、懐かしいわぁー…」と言ってサランが妙なフィギュアを手に取った途端、大声で笑い始めました。 カノンはさらに輪をかけてサランとともに笑い始めました。 ロア部隊は合計7つの星を回って、100人の堕天使の命を救いました。 今日はこれで満足なようで、サランはロア部隊に労いの言葉をかけました。 仕事をやりきった面持ちで、ロア部隊は意気揚々とサンドルフ星に帰ってきました。 まだ夕方にもなっていないので、魔王軍は帰還していません。 今は休息することにして、サンドルフは隊員たちに自由時間を与えました。 自由なので修行をしても構わないわけですが、基礎体力訓練と精神力鍛錬を始めたのはカノンと保奈美だけでした。 「保奈美さんはいい手本になっていいかもしれない。  何も言わなくても人間だったらその行動に倣うだろうなぁー…」 サンドルフが言うと、サンサンはすぐに保奈美に寄り添って、精神力鍛錬を始めました。 ですが自由にしろと言われて訓練を始める動物はまずいません。 ほとんどの者が本来の姿に戻って安らぎの時間を楽しんでいます。 これも当然のことで、やはり人間の姿に無理があるからなのです。 特に新規加入の5名の獣は芝生に寝転んで背伸びをしています。 さらには動物は子供と同じで、長時間縛り付けられると癇癪を起こします。 ですがさすがにサンドルフが怖いので、その態度を見せたものはひとりもいません。 さらにはサンサンの存在自体がみんなを癒やします。 これにより、ほぼ半日ですが平静を装えたと言っても過言ではありません。 ロア部隊の弱点は、長期の依頼には応えられないことなのです。 もちろんランスもそして源次郎も十分に理解できていますが、サランはまったくその件に関しては無頓着だとサンドルフは考えています。 ですが今はもうサランは気づいているので何も問題はありません。 サンドルフたちの全てを見ているのはこの私、サランなのですから… … … … … … 「昨日は本当に申し訳ありませんでした…」 サランは丁寧にサンドルフに頭を下げました。 サンドルフはすぐに察して、「今日から少し休憩を長めに取りますから」と笑顔で言いました。 サランは笑みを浮かべただけで異論はありませんでした。 変わった事件は何もなく、今日も大勢の堕天使をロア部隊は助け出しました。 まだ見習いの7名は、指をくわえてみているだけですが、いずれはサンドルフの役に立とうという熱い気持ちは常に持ち続けています。 そして星を去る前には、必ずと言っていいほどロア部隊に寄り添おうとする堕天使が現れます。 今回も言い聞かせてこの星でがんばってもらおうと思ったのですが、母である大魔王がかなり困った顔をしていたのです。 このパターンは初めてで、この堕天使は悪魔を母と思わないようなのです。 今この堕天使が興味があるのはサンドルフとサンサンです。 心に疾病でもあるのかとサランは探ったのですが、その兆候はまるでありません。 「カノンちゃん…」とサランが言うと、カノンはこの堕天使の魂を探りました。 「関係者…」とカノンが言うと、カノンから大勢の妖精が姿を現して、堕天使の体を調べ始めました。 「ありましたっ!!」と満面の笑みで、緑の妖精のチックが手を上げました。 そしてすぐに、その印を拡大して宙に浮かべました。 「カレラス…」とサンドルフが言って、古い神の一族の家系図を、サンクックが宙に浮かべました。 「あー… ゼンドラド師匠の娘だ…」とサンドルフは少し興奮していましたがそれを押さえ込んで言いました。 「このことは内密に…  確実にうるさくなりますので…」 サランが言うと、ロア部隊は全員、サランに頭を下げました。 「バレても押さえ込むので構いませんけどねっ!!」とサランが言うと、全員が大声で笑いました。 カレラスはやはりサンドルフとサンサンがお気に入りで、無理やりふたりと手をつなぎました。 「…ああ、子供ができちゃったわ…」とサンサンはかなり喜んでいますが、サンドルフは少々迷惑顔です。 「おままごと…」「違うわよ、ねぇー…」とサンドルフの軽口に、サンサンはカレラスに同意を求めると、カレラスは満面の笑みで、「うんっ!!」と答えました。 「あ、ちなみに今の名前って…」とサンドルフが聞くとカレラスは、「キライ、なのぉー…」と言って自分の名前を言いませんでした。 カノンが探ると、それを簡単に理解できたようです。 カレラスの今の名前は、『ウサギ』だったのです。 この星にはウサギという名を持った動物がいます。 それは獰猛なワニのような生物です。 どうしてもそれを思ってしまって、自分の名前を言いたくないようなのです。 カノンは余計なことと思いながら、サンドルフに念話をして全ての事情を話しました。 サンドルフは快く話しを聞いて、カノンに丁寧にお礼を言いました。 宇宙船に乗り込んでから、サンドルフはある計画を実行します。 「さて、これから行く宇宙にある星の、  小さなかわいい動物についてお話しをしよう」 サンドルフが言うと、比較的子供が喜ぶ動物を、サンクックが3D映像で出しました。 カレラスは満面の笑みで立体動物図鑑を見入って喜び、そして見つけました。 「ウサギ… この子、ウサギなのぉ―――っ?!」と言って驚きとそして興奮をあらわにしました。 「そう、かわいい動物だよね」とサンドルフが言うと、「私の名前もウサギですぅー…」とカレラスは恥ずかしそうにして言いました。 「そうか、ウサギちゃんか。  かわいい名前だよね」 サンドルフが笑みを浮かべて言うと、「うわぁーっ!!」と言ってウサギは喜び勇んで、全員に自己紹介を始めました。 子供の現金さはどこの宇宙に行ってもあまり変わりはありません。 ロア部隊は意気揚々と戦利品を連れて、サンドルフ星に戻ってきました。 すると食堂に佇んでいるゼンドラドが少し落ち込んでいます。 誰もが話しづらいのですがサンドルフは、「ゼンドラド師匠、お土産がありますっ!!」と言ってウサギを抱いてゼンドラドに差し出しました。 ゼンドラドはどういうことかよくわからなかったのですがすぐに、「…カレラス…」とつぶやいて笑みをサンドルフとウサギに見せました。 「違うよ、私、ウサギと言いますっ!!」とウサギが言うとゼンドラドは、「そうかそうか、申し訳なかったな、ウサギちゃん」と満面の笑みでウサギを見ています。 ウサギもゼンドラドを気に入ったようで、サンドルフを離れてゼンドラドのとなりの席に座りました。 ゼンドラドは失恋の痛手はどこかに行ってしまったようで、楽しそうにウサギと話しをしています。 ゼンドラドはトンネルでも頻繁に仕事をしているので、当然のように堕天使の生体をよく知っているので、ウサギをかなりの勢いで喜ばせています。 サンドルフはほっと胸をなでおろして、カノンへの礼とばかり、新しい作品を造って大笑いをさせました。 はっきり言って拷問のようなものですが、ほんの数回で目に見えてカノンの表情が変わっているのです。 今までは少し構えた気取ったお嬢様でしたが、今はやさしさがにじみ出ているお嬢様になっているのです。 よって、よほどのことがない限り、もうこのサンドルフ星から追放されることはないのではないかと、サンドルフは思っているのです。 まさか一回だけで済むとは思ってもいませんでしたが、それはそれで喜ばしいことだと感慨深く感じているようです。 ―― さらに笑えるもの… ―― と思い、サンドルフは怖いものをベースにして、そのギャップで笑ってもらおうと思ったようで、恐竜デッダを見事に笑えるものに変形させました。 サンドルフは描きながら笑ってしまいました。 サンサンもそれを見て、笑いながらフィギュア完成させました。 当然のように、カノンは正確なフィギュアと、変形させたフィギュアを手に持ったまま、笑いすぎて引付を起こしてしまいました。 「死にそうだね…」とサンドルフが冷静に言うと、「大丈夫、大丈夫っ!!」とサンサンが笑いながら言って、カノンをすぐに蘇生させました。 「はっ!」と言ってカノンは目を覚ましてから、手に持ったフィギュアを見て、また笑い転げ始めました。 「…これって、笑いの連鎖…」とサンドルフは少し心配になってきましたが、カノンは少し慣れたようで、今度は意識を失わないようです。 「…ああ、面白いけど素晴らしい…」と神出鬼没二号が、カノンが手に持っているフィギュアの観察を始めました。 佐藤は、「友情…」と言って、瞳を閉じて胸を押さえつけました。 確かにその感情は、サンドルフにもサンサンにも大いにあります。 そしてできれば大笑いして欲しいと、様々な仕掛けも施してあります。 さらには、造る題材も考え抜いたものです。 「あー… これは言っては…」と佐藤が言うと、「それ、一番に考えましたけど、断念しました…」とサンドルフは苦笑いを浮かべて佐藤に言いました。 佐藤は笑みを浮かべてうなづいていますが、もろ手を上げて天を仰いで、「見てみたいっ!!」と豪語しました。 「逆効果が怖いので、造りませんよぉー…」とサンドルフが言うと、さすがに佐藤もその意見に賛成してサンドルフに謝り始めました。 「あ、でも、イメージだけ…」とサンドルフは言って、そのイメージごと佐藤に念話で送りました。 佐藤はすぐに笑い転げましたが、「…あ、さすがに叱られそうだ…」と言って、笑うことは控えたようです。 「…こっそりと、フィギュア、ください…」と佐藤が言いましたが、「サンサンが造りませんよ…」とサンドルフが言うと、それもその通りだったので、佐藤はあきらめたようです。 その対象はもちろんランスです。 確かに笑えるでしょうが、カノンは精巧に造った方を見入ってしまう可能性があります。 さらには変形させた方に怒りをぶつけるかもしれないのです。 これはカノンの立場に立つとよくわかることなのです。 そして、こういう時には必ず、空気を読まない人が現れるものなのです。 「ラ」と悦子が言ったと同時に、「エッちゃんっ!!」と言って保奈美が怒った顔で叫びました。 「え?」と悦子は言って、保奈美のあまりの剣幕の驚いてしまったようです。 そして保奈美はまずは悦子が何を言おうとしたのか確認をしてから、悦子に説教を始めました。 納得した悦子は、「ごめんなさい…」と言って肩を落としました。 「認識力は今までの数倍の早さだ…」と神出鬼没一号が言いました。 そして細田は保奈美を見て笑顔でうなづき始めました。 「多くの魂が、保奈美さんを簡単に正常化した。  ハヤテには気の毒なことをしてしまいました…」 細田は落ち込みを隠しきれませんでした。 サンサンがすぐに天使デッダに変身して、細田を抱きしめました。 「いや、彼は僕の戒めと決めたんだっ!!」と細田は元気よく言ってから消えました。 「うっ! サンサンを…」と言ってサンドルフが消えてしまった細田とサンサンがいた場所を見ています。 ですがサンサンはすぐに、黒い扉をくぐって戻ってきました。 そしてそのサンサンの顔色が冴えません。 落ち込んでいるわけではなく、戸惑いを感じているようです。 サンサンはすぐに、「あのね…」と言ってサンドルフに説明を始めました。 話しを聞いたサンドルフは、精神間転送とテレポテーションを試しました。 ですがどちらとも違うと、サンサンはサンドルフに言ったのです。 「細田さん、とんでもない移動方法ができるようだね…」とサンドルフは苦笑いを浮かべて言いました。 「ちなみにサンサンはテレポって試したの?」 サンドルフが言うと、「あー… 怖いから…」と言ってサンサンはひとつ身震いをしました。 「とっさの時に使わなきゃいけないこともあるから、  しっかりと集中して訓練しなきゃダメだよ…」 サンドルフが諭すように言うと、「うん、そうするの…」とサンサンはサンドルフを上目使いで見ながら言いました。 「ところで、区分と種類は?」とサンドルフが聞くと、「あー…」と言って、サンサンは今それを数え始めました。 サンドルフは困った顔をサンサンに向けています。 数え終わったようで、サンサンはサンドルフに顔を向けました。 「区分は9で、種類は205だよ…」とサンサンが言うと、サンドルフは目を見開きました。 「…多いね…」とサンドルフが言うと、「あはっ! そうなんだっ!」と言ってサンサンは喜んでいます。 「それ、全部試した?  あ、やってないよね」 サンドルフが言うと、サンサンはふくれっつらを見せましたが、サンドルフの言った通りなので、何も言えませんでした。 「僕が付き合ってもいいけど…」とサンドルフは言ってから、その役目をカノンに頼むことに決めました。 サンサンに異議はないようで、サンドルフとふたりしてお願いに行きました。 カノンは満面の笑みで快く承諾しました。 カノンにとっても修行になることなのです。 そしてその数を聞いて、「多すぎるわよっ!!」と大声で言って笑いました。 今のこの笑い声も、カノンの魂に蓄積されているようです。 笑い終えたカノンは一気に真剣な顔をして、「マジメにやらないととんでもないことになっちゃうからね」と言って、さらに顔を引き締めました。 サンドルフは安心して、サンサンをカノンに預けました。 そしてサンドルフは、サランに念話を送りました。 星の選定作業があまりはかどらないので、明日は休みということに決まりました。 ロア部隊は明日一日はのんびりと修行ができそうです。 そしてランスから、不穏な星への出撃する日をサンドルフは聞きました。 当然その日はロア部隊も魔王軍に合流します。 サンドルフはその予定を、またサランに念話をして伝えました。 『あのぉー、できればその日…  あ、いえ、ごめんなさい。  ランス様に念話をしますわっ!!』 サランとの念話は切れました。 サンドルフはほっと胸をなでおろしました。 さすがに、サンドルフに部外者を引き入れる権限はありません。 すぐにランスに念話が入ったようで、どうやら快くサランを迎え入れることが決まったようです。 「あ、サンドルフ」とランスが言ってすぐに、「サランさんの窓口な」とランスが苦笑いを浮かべて言いました。 「えー、あ、いえ、ですが…」 さすがのサンドルフも戸惑いを隠せなかったようで、かなり慌てています。 「硬すぎて肩がこる…」とランスが言って苦笑いを浮かべました。 サンドルフもランスと同じ顔をしています。 「准ロア部隊員ということでいいぜ。  サンドルフが状況を判断して決めてくれ」 それならばと、サンドルフは笑みを浮かべて快く承諾しました。 サンドルフがランスに頭を下げると、ロア部隊が全員集合していました。 そして、「さすが隊長っ!!」と誰もが喜んでいるのです。 「あはは、ありがと…」とサンドルフは照れて頭をかきながら席に戻りました。 さすがに、『厄介払い受付』などとは口が裂けてもいえません。 この先きっと、数名はサンドルフが受け持つことになるはずです。 その筆頭は御座成功太ですが、さすがに御座成はランスが相手をするはずだと、サンドルフは疑いもしませんでした。 しかしよく考えると、御座成が統治した宇宙は、今は火檀友梨が長として君臨しています。 御座成はその他大勢として、サンドルフが相手をしなくてはならない状況があるはずです。 よって、あまりやりたくはなかったのですが、精神修行として、御座成功太のすべてを調べ上げることに決めました。 当然そこにはサランたちの情報も含まれるので、一石二鳥とも言えます。 するといきなり、サンドルフは胸騒ぎを感じました。 これは予感ではなく、自分自身の身に何かが起こっていると理解しました。 能力などの変動とよく似ているので魂を探ると、とんでもない数の目が、サンドルフを見ていました。 「うわぁっ!!」とサンドルフは叫んで、慌ててしまたので椅子から転げ落ちたのです。 サンドルフは地面に腰をつけたまま、―― あー、あれだぁー… ―― と思って納得しています。 「サンドルフッ!!」と言って真っ先にベティーがサンドルフを抱き上げて、そのまま抱きしめています。 こちらも一石二鳥だったようで、ベティーは恍惚とした表情のまま、姿を消しました。 「あーあ、やっちゃった…」とサンドルフは言って、あっけにとられているロア部隊員の顔を見て少し笑いました。 「驚いたのは初体験だったので僕が未熟だからだよ。  ベティーさんが消えたのは、カノンさんと同じ理由だ」 サンドルフが言うと、みんなは深くうなずいてから、苦笑いを浮かべました。 「ベティーさんの場合、帰ってこられるかなぁー…  数日かかるかもしれないなぁー…」 サンドルフが言うと、セイランダは真顔で深くうなづいています。 ですが心配は杞憂だったようで、ベティーはすぐに黒い扉をくぐって戻ってきました。 「早かったですね」とサンドルフは言いましたが、今は不安定なのでベティーはサンドルフに視線をあわせません。 そしてそっぽをむいたまま、席につきました。 今はこのままでいいだろうと思ったサンドルフは、「ここからが大変だ…」と言って、また自分の魂を探りました。 そして多くの目が見ていましたが、今回は驚きもしませんでした。 サンドルフは一計を案じて、恐竜デッダの心でその目に対抗しました。 すると、サンドルフを見ていた目が半数以下となったのです。 それでもまだかなりの数の目が、サンドルフを見ています。 『一次試験は合格。  同じ属性の人たちは力比べ』 サンドルフが念話で伝えると、一気にその数が減ってしましました。 しかし20の目がサンドルフを見ています。 『どうしようかなぁー…』とサンドルフが言うと、その目は一気に懇願に変わったのです。 今まではサンドルフを探る目だったと感じています。 サンドルフは一人ひとりと話しをしました。 みんなはなかなかかわいい妖精で、それほど強いとは思えませんでした。 しかしその中でも一番は風をまとった妖精でした。 『君… たぶん、どこかで…』とサンドルフが言うと、猫のようなキツネのような妖精は、『家出してきたんだっ!!』と堂々と胸を張って言いました。 『いや、それはダメだろ…  きちんと元のご主人様にあいさつしてこなければ雇わないから』 サンドルフが言うと、10人のうち9人までもが消えてしまいました。 そして、ランスと覇王に実体としてその身をさらして、あいさつなどをしているようです。 サンドルフはかなり困ってしまったのですが、これは妖精の主張なので、ランスも覇王も、所有権を固辞することはしません。 サンドルフは、一人残った火の妖精に笑みを向けました。 『あ、あれ? 君もどこかで…』とサンドルフが言うと、『お姉さまに修行に行って来いって言われました』と言って、よくよく探ると、なんと妖精ではないとサンドルフは感じたのです。 『君って、かなり特殊だね…』とサンドルフが言うと、『はい、悪魔の眷属が本業ですっ!!』と胸を張って言いました。 『ふーん、君のご主人、火檀友梨さんだよね』とサンドルフが言うと、火の妖精はかなり困ったようですが、『大正解っ!!』と言ってサンドルフを笑わせました。 『あ、君は不採用』とサンドルフはごく自然に言いました。 『えー…』と言って、火の妖精は涙を流しながら消えました。 雇い主が雇わない意思を見せると、妖精はすぐに消えなくてはならない性を持っているので、それほど面倒なことにはなりません。 サンドルフとしては雇ってもよかったのですが、スパイのような妖精を抱え込むのは、ランスを刺激するだけだと思ったからです。 どう考えても悪い方向にしか転がらないと、サンドルフは判断したのです。 サンドルフの心に静寂が訪れましたが、二次試験で落ちた火の妖精が戻ってきました。 なかなかレベルは高いようなので、少し話しをして、採用第一号の妖精を、サンドルフは心の中から取り出しました。 「えー…」と言って、サンサンが火の妖精を見て笑みを浮かべました。 「ボクの妖精第一号だよ。  名前は?」 サンドルフが聞くと、火の妖精は、「あ、はい、ドスボランですぅー…」とかなり恥ずかしそうに言いました。 「うーん…」とサンドルフは考え込みました。 「名前、気に入ってないよね?」とサンドルフが確信したように言うと、ドスボランは涙を流してうなづきました。 「だったら、僕がつけてもいい?」とサンドルフが言うと、ドスボランは泣き顔を笑みに変えて、丁寧に頭を下げました。 「君はステファニー。  サン・ステファニーと名乗ってね」 サンドルフが言うと、「ああ、うれしくて…」と言ってステファニーはフラフラとして倒れそうになったので、サンドルフがその体を支えました。 「喜んでくれて何よりだよ」とサンドルフが言うと、「どんなことでもいたしますので、なんなりと…」とステファニーがホホを赤らめた瞬間、その姿は消えてしまいました。 「あーあ、最終試験で落第だよ…」とサンドルフはあきれた顔をしました。 これを見ていたカノンに戦慄が走りました。 細田はどこまですごいんだと再確認できたようです。 ですがくじけない性質のようで、ステファニーは気合を入れ直してすぐに戻ってきました。 「あ、早かったね」とサンドルフは笑みを浮かべて言いました。 「はい、いい修行になると思いましたぁー…」とステファニーが言って、恥ずかしそうに身をねじった瞬間、また消えてしまいました。 「懲りない性格だね…」とサンドルフは言ってかなりあきれました。 「ダイゾに変身したりして…」とサンドルフがさらに言うと、誰もが驚きを隠せませんでした。 「面白いから雇うけど、使い物になるのかなぁー…」とサンドルフは少しだけ困った顔を見せました。 「重要な任務は与えられないわね…」とカノンがわが事のように言いました。 サンドルフはカノンの意見に賛成しました。 「名前をつけた責任があるからね。  これは僕への罰で試練だ」 ステファニーはすぐに戻ってきました。 「あんたのことなんか好きじゃないんだからねっ!!」 ステファニーはツンデレになっていました。 ステファニーは大声でサンドルフに向けて悪態をつきました。 どうやらこの方がステファニーにとってよかったようで、消えることはないようです。 「矛盾しているけど、それでいいよ」とサンドルフが言うと、ステファニーはほっと胸をなでおろしましたが、腕組みをしてぷいっと横を向きました。 「あはは、かわいいよねっ!!」とサンドルフが言ったとたん、ステファニーは消えました。 「しばらくこれ、続きそうだね…」とサンドルフは言って、これも修行にすることに決めました。 「普通は雇わないわよぉー…」とカノンがかなりあきれた顔で言いましたが、サンドルフが名前をつけた手前という言葉を思い出して、この話題には触れないことに決めました。 ステファニーは戻ってきたのですが、今度は何も言わないことにしたようです。 サンドルフのそばにいて慣れる作戦に出たようです。 すると、ぞろぞろと、妖精たちがサンドルフの目の前に現れました。 7人しかいないので魂を探るとふたりいました。 サンドルフは手を差し伸べて、魂から二人の妖精を引き上げました。 「さあ、自己紹介して。  本採用はその後だよ」 サンドルフが言うと妖精たちは、『それは困るっ!!』と言った顔になりました。 「僕の次の人のところに行けばいいじゃん。  ここには勇者も悪魔も天使も大勢いるんだから。  でも、雇ってもらえるのかは知らないよ」 サンドルフはかなり厳しい雇い主だと、妖精たちはその目の前で噂話を始めました。 「本人の前で堂々と陰口を叩かない」とサンドルフが言うと、妖精たちは姿勢を正しました。 「えーと君…」とサンドルフが小さな風をまとったキツネに言うと、「あ、ボクは疾風のシロです」と言いました。 「ああっ! そうだそうだっ!  映像で見たんだっ!」 サンドルフは胸の支えが降りてほっとしました。 「君って普通じゃないよね?  悪魔の眷属であり、そして風の妖精でもある。  しかも動物で、言葉を話せる。  君は僕の妖精じゃなくて、ロア部隊に入って欲しいんだけど…」 サンドルフが言うと、「うん、いいよっ!!」とかなりフレンドリーにシロは答えました。 「全然変わってないのね…」とカノンが言うと、「あはは、まあねっ!」と言ってから、シロはかわいらしい獣人の女の子に変身しました。 「こういうことができるようになったんだよっ!!」と言って、カノンに笑みを向けています。 「あ、そっか、知り合いのようなものだからね。  シロちゃんはカノンさんの監視込みで」 サンドルフが冷たい言葉を放ちましたが、カノンはなんとも思っていないようです。 するとサンサンがすぐにシロに飛びつきました。 サンサンの友達がまた増えたようです。 「あはは、妖精よりもこっちの方がいいかもっ!!」と言って、シロは喜んでいます。 「悪魔の眷属なのに、本当におかしな子なの…」と悦子が言って眉を下げてシロを見ています。 「あとひとりは誰だろうって思っていたんですよ。  シロちゃんはその候補だと感じました」 サンドルフが言うと、悦子はすぐに察しました。 すると細田が満面の笑みでやってきました。 今回は普通に黒い扉をくぐってやってきたので、サンドルフは逆に驚いています。 特に急ぐことはない、もしくは照れくさい、などと、サンドルフは予想したのです。 案の定、細田は照れくさそうな顔をして、サンドルフとシロを見ています。 すると細田が、一枚の映像を出しました。 見知らぬ男性と、どう見ても妖精の四人がいます。 「あー、これはシロちゃんだってわかる…」とサンドルフが言うと、細田は笑みを浮かべました。 映像の中の風の妖精も、風自体が具現化していて、今のシロとまったく同じものをまとっていたからです。 そしてそこから印を読み取れたのです。 ですがさすがに、サンドルフは声に出して言いませんでした。 「僕の始めての家族の写真なんだ。  やっとみんなに会えた」 細田は照れながらもうれしそうにサンドルフに顔を向けて言いました。 「でも、シロちゃんは結城さんの妖精もやっていたんだよね?」 サンドルフが言うと、「うん、そうだけどね、あんまり出番がなかったからほとんど穏形してたんだよっ!」とシロは女の子らしく、かわいらしく言いました。 「じゃ、その分、ロア部隊のために働いてもらうよっ!」とサンドルフは爽やかに言いました。 シロは早速、新しい仲間にあいさつに行きました。 「印ですけど、わかってしまいました」とサンドルフが言うと、「はは、さすがだよね」と細田は言って苦笑いを浮かべました。 「不規則のようで不規則じゃないからね。  じっと見ていれば残像でわかってしまう。  彼女はまだ本当の覚醒をしていないから、かわいいだけなんだよ」 細田の言葉は少々恐ろしいものがあるとサンドルフは感じました。 本当の名前を知ると、荒れ狂う風神にでもなるのではないかと感じたのです。 「実はね、もうひとりいるんだよ。  この映像にはいないけどね」 細田が言うと、「雷の妖精…」とサンドルフは答えました。 細田は満面の笑みでうなづきました。 「この四人がひとりの雷の妖精を生んだんだよ」 細田は言ってからランスを見ました。 「あー、サンジェリルちゃん…」とサンドルフが言うと、細田は笑みを浮かべたままうなづきました。 「どっちだろうと思ってね。  サンロロスちゃんを観察していて、違うと判断したんだ。  やはり妖精は妖精。  シロちゃんのように器用ではなかったようだね」 サンドルフは全てに納得しました。 そして細田に、「再会、おめでとうございます」と言うと細田は、「いやぁー…」と言ってかなりの勢いで照れました。 「本来ならね、僕はここで消えるはずだったんだよ。  全てに満足してね」 細田が言うと、サンドルフは悲しげな顔をしました。 ですがその気持ちは十分にわかりました。 サンドルフの前世である陽鋳郎も同じようにして御座成の世界から姿を消したのですから。 「だけど、問題が山積みなので、転生している暇なんてないんだよ」 細田が言うと、サンドルフは笑みを細田に返しました。 細田はランスにも報告に行くようで、サンドルフに頭を下げてランスに向けて笑みを浮かべています。 サンドルフは感慨深く思っています。 陽鋳郎は御座成功太の一部だったのです。 その記憶も残っています。 そして、神経質ではありましたが、おおむね大らかで器もそこそこ大きいと、当事の陽鋳郎は感じていたのです。 ですが今の御座成は、そこいらにいる盗賊のボスとなんら変わりありません。 サンドルフは御座成を悲しく思ってしまったのです。 するとランスが血相を変えてサンドルフの目の前に現れました。 「御座成は俺に任せておけっ!!」とランスは胸を張って言いました。 サンドルフはあまりのことに驚いてしまったのですが、「あ、はい… よろしくお願いしますっ!!」と大声で言って頭を下げました。 「御座成のやつ、どうしてくれようか…」と言ってランスは指を鳴らしながらいつもの席に戻っていきました。 サンドルフは愛されていると、今ほど思ったことはありません。 息子の窮地に、まずは親が飛び込む。 過保護かもしれませんが、それにはほどというものがあります。 御座成相手では、サンドルフとしても荷が重いのです。 ですが悦子という武器もあるので、それほど心配はありませんでしたが、悦子には御座成の下を離れたという後ろめたさが大いにあります。 本来の悦子の力をフルに発揮で気ないのではないかと思いましたが、逃げ道はあります。 古い神でいえば、悦子は御座成の母に当たりますから。 御座成は悦子ことデヴォラを、いい意味で苦手なのです。 サンドルフはこの件も調べ上げていました。 サンドルフはサンクックと二人三脚で、精神的には大きく飛躍したのです。 妙に不穏な空気が漂い始めました。 危険はないのですが、少々怒っているような感覚に、サンドルフとサンサンは辺りを見回したのです。 すると、デヴィラから火檀友梨と、顔を涙で濡らしている、サンドルフの魂の中に現れた火の妖精が、本来の悪魔の眷属の姿で現れたのです。 悪魔の眷属の感情としては、『母に叱られて悲しい』でした。 サンドルフもサンサンも素早く察知して、ランスに向けて歩を進めた友梨たちを見ているだけに留めました。 悦子が笑顔で友梨に駆け寄ろうとしましたが、すぐに保奈美が止めました。 今のこの雰囲気から、少々面倒なことになるかもしれないと保奈美は思ったようです。 聞き耳を立てるわけではないのですが、「私に他意はありませんけど?」と友梨の言葉が全員に聞こえました。 「サンドルフの判断ですよ。  俺の猜疑心を揺さぶるようなことは絶対にしませんからね。  そもそも、自分の手下を妖精としてサンドルフに宛がう行為は、  疑われても当然でしょ?  それをするのなら、  こうやって面と向かって願い出ればいいだけです」 サンドルフが言うと、友梨は言葉を失くしてしまったようです。 そして黙ってしまったことが、友梨としては不利になってしまったのです。 手下の悪魔の眷属をスパイに出したと認めたも同然だったからです。 悪魔の眷属はランスによって拒絶されたと、友梨は思っていたのですが、ランスにとっては、寝耳に水だったと友梨は理解しました。 友梨はサンドルフを見据えようとしましたが、そこには巨大な恐竜が、友梨を食らわんばかりに大きな口を開けていました。 さすがに友梨は固まってしまいました。 いきなりだったので、抵抗のしようがないのです。 友梨の体は恐怖で硬直していました。 「まだまだだね、友梨さん」とランスはあきれたようにいうと、友梨は我を取り戻しました。 「サンドルフ君、怖いわよ…」と友梨は虚勢を張って言いました。 サンドルフは鳴き声を発する代わりに、下あごを閉じて、『ガキンッ!!』と牙を鳴らしました。 これには、周りにいた者全てが大いに反応して、もだえ苦しみ始めました。 その標的となっていた友梨は今回はさすがに我慢できなかったようで、白目をむいて倒れこんでしまったのです。 「あーあ、かわいそー…」と悦子は言って、友梨の眼を手のひらで閉じました。 「友梨さん、長い付き合いだったわね…」と言って悦子は拝み始めましたが、友梨は意識を失っているだけです。 ランスが大声で笑うと、牙鳴りの呪縛が解けたように、意識を失っていない者はほっと胸をなでおろしました。 「いい実力試験だったなっ!!」と言って、ランスは大声で笑いました。 ランスの親友で側近のマキシミリアンとセイルはほっと胸をなでおろしました。 「ふーん、僕の牙鳴りもダイゾとよく似た効果があるようだね」 人間の姿に戻ったサンドルフはセイランダを見たのですが、サンドルフに怯えてしまったような顔をしています。 「僕には部下を食べる習慣はないよっ!!」とサンドルフが言うと、―― ロア部隊に入っていてよかった… ―― とセイランダだけでなく全員が同じ事を考えたようです。 セイランダはすぐに正常化して、サンドルフを笑みで見ています。 ロア部隊でまったくダメージがなかったのは悦子とカノンだけでした。 カノンは悦子同様に少し笑みを浮かべるほどだったのです。 「今までの私じゃないわっ!!」と言って、カノンは大声で笑い始めました。 もっとも、元々の能力の高さはランスにも劣らないので、耐えられて当然なのです。 そして、カノンの杞憂が、今このサンドルフ星にやってきてしまったのです。 カノンはセイラを見て息を呑みましたが、笑みを浮かべて手を振りました。 セイラは一瞬にして、カノンの目の前にいました。 サンドルフもサンサンもふたりに笑みを浮かべて見ているだけです。 「カノンちゃん、驚いちゃった…」とセイラは平静を装って言いました。 セイラの驚きすぎて胸の高鳴りが聞こえてくるほどだったのです。 そしてセイラは辺りを見回しました。 「サンドルフ君の…」と言ってから、セイラは大声で笑い始めました。 カノンはこの笑いがどういう意味だかすぐにわかって、「私、動物だから許されたようなものよ」とごく自然に言いました。 「動物?」「珍獣…」とセイラの言葉にすぐにカノンは答えて、天使と悪魔に変身しました。 「へっ?」と言ってセイラは身動きできなくなりました。 ですがすぐに笑みを浮かべました。 セイラはカノンがこの変身ができることを知っていたからです。 「やっと?」とセイラがいうと、「気合入れたわよ…」と言ってカノンはマジメな顔をして言いました。 積もる話はあるのですが、本題を手早く済ませるため、セイラはランスに素早く寄り添いました。 カノンは落ち着いています。 セイラと会っても、余計なことは考えず、自分自身の修行についてのみ考えられたのです。 ですがやはり、セイラは一番仲のいい友達だと再確認できてうれしく思ったようです。 「セイラさんをロア部隊の隊長にしようと思っているんですよ」とサンドルフが言うと、カノンはかなり驚いています。 ですが出てきた言葉は、「私は賛成だわ」でした。 セイラはまさに動物で、ダイゾとさらにフローラという子猫ですが猛獣に変身できます。 ちなみにこのフラーラの元祖はベティーです。 しかしべティーはまだ覚醒していなかったので、セイラとベティーが仲良くしている頃はベティーはセイラを師匠としていました。 ですが今のべティーにその気持ちはありません。 そしてこれが、ベティーが超えなくてはならない高い壁なのです。 一方セイランダはセイラに寄り添おうと思ったようですが、すぐにランスの下に行ったので、つまらなさそうな顔をしています。 ランスとセイラはかなり真剣な面持ちで話しをしていましたが、もう終ったようで、セイラはすぐにセイランダに寄り添いました。 セイランダは満面の笑みを浮かべてセイラを抱きしめました。 「あら? すっごく強くなっちゃったのねっ!!」とセイラがいうとセイランダは、「うんっ!!」と言ってセイラに笑みを向けました。 「サンドルフ君がね、すっごいからっ!!」とセイランダが言うと、セイラはかなり困った顔をサンドルフに向けました。 「なんだか知らないけど、どうしてみんな寝てるのよ…」とセイラは辺りを見回して初めてこの件に触れました。 「サンドルフ隊長の修行っ!!」とセイランダが笑みを浮かべて言いました。 もし、セイラが修行を受けるつもりがあるのなら、サンドルフは恐竜デッダに変身しようと思っていました。 そして、もうひとつの武器も試そうと思っているのです。 しかし相手は、ロアプリンセスというあだ名を持つ猛者。 サンドルフの方が家来になってしまうかもしれないのです。 セイラの実力はそれほどに高いのです。 セイラはセイランダに笑みを浮かべてその体を放して、サンドルフに歩み寄りました。 「一番、とんでもなく成長しちゃったのね」とセイラがごく自然に言った途端にセイラは消えました。 「プッ!!」とカノンが吹き出して大声で笑い転げました。 サンドルフもカノンにつられて笑うと、ロア部隊全員が笑いました。 「元師匠、どうしようもねえな…」とベティーが自分のことは棚に上げて、苦笑いを浮かべて言いました。 今頃セイラは、源次郎にお小言を言われているはずです。 「私、できればもう消えたくないわ…  私も、今の私のように笑われるって思うもの…」 などと言いながら、カノンはまだ笑っています。 どうやら修行の軌道に乗ったようで、今のカノンは恋や愛よりも笑うことに全神経を集中できるようになっています。 サンドルフはもう頃合だと思って、カノンに近づきました。 「カノンさんはロア部隊を抜けてもらってもいいですよ」とサンドルフが言いました。 カノンはかなりの戸惑いの顔をサンドルフに向けたのです。 確かに、抜けても問題はないとカノン自身も自信があります。 ですが、友達よりも仲間といる方が、今のカノンは幸せなのです。 カノンは、「あ、あ」としか言葉にできませんでした。 やはり仲のいい、早百合たちの席にも興味があります。 ですが今は、早百合たちは仰天した顔のまま寝ているので、カノンは大声で笑いました。 サンドルフがカノンの視線を追って笑った理由を理解したので、カノンに笑みを向けました。 「異動は僕が下してもいいですし、  ランス師匠に直接言ってもらってもかまいませんから」 サンドルフが言うと、今すぐに決める必要はないようなので、カノンはほっと胸をなでおろしました。 「…ランス、師匠…」とカノンは考え込んで言いました。 カノンには師匠と呼べる者はいません。 一応は覇王が師匠になるのですが、どうしても父親の意識が高いのです。 ですがサンドルフも同じ心境のはずです。 カノンは、きちんと覇王に弟子入りしようと決めたようです。 そして、幼かったふたつの過去の記憶が、カノンを笑みに変えました。 それは今世での父覇王と、カノンの魂がセイラレスとして生まれた時のセイントという父への想いです。 カノンは暖かいものを抱くように、柔らかな笑みを浮かべて、自分の両肩を両手で抱きしめました。 するとサンサンが天使デッダに変身してカノンにまとわりつき始めました。 どうやら今回のこの行動は、サンサン自身の修行のようです。 「ふーん…」と言ってサンドルフも天使デッダに変身して、カノンに抱きつきました。 『なるほどねっ! これは修行になるよっ!!』とサンドルフがサンサンに念話を送ると、『そうだよねっ!!』とサンサンが答えてから、ふたりはカノンに集中しました。 「一体、なんなんだ…」とベティーは言ってから立ち上がり、ぼう然として三人を見ています。 「修行らしいよ。  あ、邪魔しちゃダメだよ。  カノンさん、今は集中してるから」 利家が言うとベティーは、―― 仕方ない… ―― と思って荒っぽく席につきました。 この間も、サンドルフに雇われるために来ている妖精たちは、苦笑いを浮かべながらこの様子を見ています。 ―― これも試験なのっ?! ―― などと思っているようですが、単にイベントが多過ぎて忘れられているだけです。 正規に雇われたステファニーは穏形せずにサンドルフの行動を理解しようと必死でした。 そしてステファニーが何もわからないまま、サンドルフとサンサンはカノンの体を放してから、元の姿に戻りました。 「あー、風の妖精がいないね…」とサンドルフが言うと、―― 忘れてなかったっ!! ―― と妖精たちは思ってサンドルフに笑みを浮かべています。 「あ、忘れてたんだけどね、ゴメンね」とサンドルフが謝りましたが、さすがに苦情を言うわけにも行かず、笑みでサンドルフを見ているだけです。 サンドルフが自分の魂を探ると、シロに負けた風の妖精が戻ってきていました。 『どこで聞いたの?』とサンドルフが風の妖精に問いかけると、『あ、はい、この辺りにいたので…』と申し訳なさそうに答えました。 サンドルフは笑みを向けて、魂から風の妖精を引き出しました。 「うっ!!」と言って、半数ほどの妖精が少し身を引きました。 どうやら風の妖精と何かの因縁があるような雰囲気です。 「君って有名人?」とサンドルフが風の妖精に聞くと、「はあ… 前のご主人が少々…」と言ってかなり困った顔をサンドルフに見せました。 「悪者…」とサンドルフが言うと、「一般的にはそう言われていました」と風の妖精は真実を淡々と答えます。 「じゃ、命令を下された時の心境…」 「はい…  極力、誰にも迷惑がかからないようにと…  だから僕、主人にまったく信頼されていませんでした」 「ふーん…  それっていいんだろうか、悪いんだろうか…」 サンドルフは自問自答するように言いました。 サンサンは、「いい子に決まってるじゃないっ!!」と反論しましたが、サンドルフは首を横に振りました。 「どんな理由があっても、主人には従うべきだと僕は思ったね。  妖精自ら主人に仕えるためにこうやって来るんだから。  君は一般的にはあまりよくない妖精だと、僕は感じたね」 サンドルフが言うと、風の妖精は肩を落としてうなだれました。 「主人が強いから仕えたの?」とサンドルフが聞くと、「…はい、そうです…」と言って涙を流しながら言いました。 風の妖精は、とんでもない過ちを最低でも二度していたことになります。 「その主人が死んだから開放された」とサンドルフが言うと、風の妖精は小さくうなづきました。 「亡くなり方が、最悪でした…  妖精が殺しちゃったんですぅー…」 風の妖精が言うと、ほかの妖精たちもロア部隊の隊員たちも、風の妖精に注目しました。 「きっと、  僕もあの子のようになっていたかもしれないって思いましたぁー…」 サンドルフは深くうなづきました。 「その妖精は、動物の妖精かな?」 サンドルフが言うと、風の妖精がうなだれていた頭を素早く上げて、「…どうして…」とサンドルフに聞きました。 「主人を殺せるほどだからね、動物の妖精が一番可能性が高い。  その時の状況を教えて欲しいんだ」 サンドルフが言うと、風の妖精はポツリポツリと説明を始めました。 荒れ狂う戦禍の中、主人が意気揚々と戦いを挑もうとした時、動物の妖精が主人の脚に、近くにあった棒切れをぶつけたのです。 うしろから飛んできたので、主人は避ける暇もなく地面に倒れ、大勢の敵に囲まれて、簡単に命を落としたのです。 妖精は基本的には身を呈してまで主人を助けようとはしません。 それをすると、厳しい罰があることを知っているからです。 この風の妖精もほかの妖精も、何とかして主人を助けようと術を放とうとしたのですが、動物の妖精の長いしっぽで全員が飛ばされてしまっていたのです。 よって、簡単に主人は死んでしまったのです。 「ひどいけど…  その動物の妖精、主人にひどいこととか…」 サンドルフが聞くと、風の妖精は涙ながらにうなづきました。 「気に入らないと、必ずカノンを叩いていました」 「うっ!!」とサンドルフはうなって、カノンを見ました。 カノンは驚いた顔をしていますが、首を横に振っています。 カノンには特に心当たりはないようです。 たまたま名前が同じだったようで、サンドルフはほっとしました。 風の妖精はサンドルフを見てからカノンを見ました。 そしてただただどういうことなのか考えているだけでした。 「あのお姉さんもカノンっていう名前なんだ。  たまたま同じ名前だったようだ」 「ああ、はい。  ご主人様と同じ名前の妖精もいましたから。  別のご主人様でしたけど…」 「あ、君の名前は?」とサンドルフが聞くと、「フーロンと言います」と言って、サンドルフに頭を下げました。 「その動物の妖精、どこにいるか知らないかな?」 サンドルフは一応聞いたのですが心当たりはありました。 セイラが雇っているかもしれないし、御座成の家にある巨大食堂にいてまだやさぐれているかもしれないと思ったのです。 「はい、僕も少しだけいた、  御座成功太さんの食卓に住み付いています。  主人はもういらないと言って…  あ、でも、セイラ・ランダという人が来た時に、  ついていこうか迷ったようです。  だけど結局は、また同じ事をするんじゃないかって思ったようです」 そのセイラがサンドルフ星に姿を見せると、フーロンは、「あ、ここに…」と言って少し驚いた顔をセイラに向けました。 「この星は強い人が大勢いるからね。  セイラさんについている妖精、見覚えあるよね」 「あ、はい。  全員、御座成功太さんの家にいましたから」 「じゃ、カノンちゃんに会いに行こうかっ!」とサンドルフが言うと、誰もが驚きの顔をサンドルフに向けました。 「ここには動物の妖精がいないからね。  わかりあえたら僕の妖精になってもらうよ」 サンドルフは言ってから、眠ってしまっている友梨と悪魔の眷族を起こして、今の話しを友梨にしました。 友梨はかなり驚いたようで、「とんでもない子なのに…」と言ってサンドルフを見上げています。 「いい子になれるかもしれないじゃないですか」 サンドルフが言うと友梨は、「なるかもしれないわね…」と言って、サンドルフにまぶしそうな目を向けました。 「だけど、功太の方も放し飼い状態よ?」と友梨は少し笑って言いました。 「面倒だったら黙ってもらいますし…」とサンドルフが言ってからランスを見ると、「俺も行く」と言って素早く席を立ちました。 「あーあ、コーちゃんかわいそう…」と友梨と悦子が同時に言いました。 悦子も久しぶりに里帰りをするようで、心強い仲間が増えて、サンドルフは喜んでいます。 「さて…  利家君とサンサンもついてきて。  あ、もしよかったらセイラさんも行きませんか?」 サンドルフが聞くとセイラはすぐに、「ええ、行くわ」と答えると、サンドルフはさらに喜びました。 「あ、僕も行くよ」と言って覇王に手を振りながらチョモランマがサンドルフに飛びついてきました。 「あはは、やっぱりすごいですね、チョモランマ君っ!!」 サンドルフは大いに喜びました。 「戦場に行くメンバーよね。  きっと、誰にも負けないわ」 カノンが言うとサンドルフは、「カノンさんも行きますか?」とサンドルフが言うと、カノンは勢い勇んで立ち上がりました。 「行きたいに決まってるじゃないっ!!」と言って、カノンは大声で笑い始めました。 ベティーが苦虫を噛んだ顔をしているのでサンドルフは、「隊長代理で」と言うと、「お、おう…」と言って、満更でもない顔をして胸を張りました。 そしてサンドルフは保奈美に目配せをしました。 保奈美はすぐに察知して、サンドルフに笑みを向けました。 悦子は今回は空気を読んだようで、保奈美を誘うとはしませんでした。 大勢が友梨の体に触れると同時に、御座成の家の食卓にその身はありました。 当然のように全てを知っているサランが御座成を突き飛ばしてサンドルフの前に立ちました。 「ようこそいらっしゃいました。  さあ、こちらですわ」 サランが言うと、御座成が何か言おうとしましたが、悦子がかなりの勢いで、「おまえ、調子に乗ってると…」と言ってとんでもない畏れを流しました。 「ゴ、ゴメン、母ちゃん…」と御座成が言うと、「…母ちゃん、だとぉー…」と言ってさらにとんでもない畏れを流し始めました。 ―― これがデヴォラかぁー… ―― とサンドルフは感慨深く思いました。 確かにとんでもない人だとサンドルフは感じました。 その証拠に、利家はかなりダメージに苛まれたようで、サンサンに抱きとめられています。 ですがすぐに回復して、サンサンに丁寧にお礼を言いました。 天使たちが、「ランスく―――んっ!!」と言って叫び始めました。 まるでランスはアイドル歌手でした。 これは当然のことなので誰も驚きませんでした。 大勢いる天使たちも興味津々で、ランスたちの後を追いかけてきました。 サランの案内で、とんでもない数の、おどろおどろしい扉のある部屋に通されました。 「あー、やさぐれてる…」とサンドルフが言った途端に、ほとんどの妖精が姿を消しました。 どうやら、サンドルフがかなり怖かったようです。 「カノンちゃんはいるのかな?」とサンドルフが言うと、ひとりだけ驚いた顔をしたゴリラのように逞しい肉体を持った動物の妖精がいました。 「立派だなぁー…」とサンドルフが言いましたが、妖精カノンは驚いた表情のまま固まっています。 「君がカノンちゃんでいいの?」とサンドルフが言うと、妖精カノンはこくんとうなづいただけです。 「君がしたことは、風の妖精のフーロンから聞いたよ。  そして君がされていたことも」 妖精カノンは驚いた表情のままうなだれました。 サンドルフはフーロンに聞いた話しをもう一度ここでしました。 妖精カノンに異論はないようで全てを認めました。 「僕の妖精にならない?  動物の妖精、大募集中なんだよねぇー…」 サンドルフが言ったとたん、妖精カノンに隠れるように、大勢の動物の妖精が列を成しました。 「あはは、行儀いいんだね。  みんなも、カノンちゃんと同じような目にあったんだよね?」 サンドルフが言うと妖精たちは一斉にうなだれました。 「今並んでいる人は、本当に僕を主人として仕えられると思ってるの?」 サンドルフが言うと、妖精たちは一斉に顔を上げて、そして、妖精カノンも含めて、首を横に振りました。 「どうして仕えられないんだろうね?  カノンちゃん」 サンドルフが言うと、妖精カノンは唇を震わせて、「俺、ろくなことができねえから…」と言って肩を落としました。 「でも、力はあるんじゃないの?  それに、本当は優しそうだし」 サンドルフが言うと、妖精カノンは下を向いてホホを赤らめました。 サンドルフが天使デッダに変身すると、サンサンもすぐに変身しました。 「…ああ…」と言って、動物の妖精たちは、サンサンではなくサンドルフに大注目しています。 「よくわかったね」とサンドルフが言って、冗談で威嚇するように大きな口をあけると、「ひぃ―――――っ!!」と叫んで、妖精たちはその場で頭を抱え込みました。 「そんなに怖いのかなぁー…」とサンドルフが言うと、「怖いわよ…」とセイラとカノンが同時に言いました。 「僕は勇者で、動物の心も、魂のないものの想いまでわかるんだよ。  だからここでテストをします。  みんなはそのままで動かないで欲しいんだ。  あ、もちろん、痛いことやひどいことはしないよ。  抱きつくだけだから」 動物の妖精たちは、サンドルフを信じたようで、頭を抱え込むしぐさはやめて、ごく自然に座り込みました。 サンドルフたちは動物の妖精たちに抱きつきながら、その心を読み取りました。 そしてそのついでに、サンサンが癒やしを流しています。 二人に抱かれた動物の妖精たちは恍惚の表情に変わりました。 そして、二人に向かって涙を流し始めました。 「みんな辛かったんだよね。  でも、もう大丈夫だ。  ここでやさぐれてないで、  ご主人様にしたい人のところに行っていいよ」 動物の妖精の半数は、サンドルフたちに頭を下げて消えました。 もう半数は、サンドルフだけでなく、カノンとランス、そしてサランにも寄りそったのです。 そしてサンサンにも、かわいらしい小鳥らしき妖精とネズミらしき妖精が寄り添いました。 サンサンは無条件で、このふたりを雇うことに決めたようです。 「やっぱり私には来てくれないのね…」とセイラは言って落ち込みました。 セイラ自身が妖精と認識されているので、特殊な妖精しかセイラには寄り添いません。 よってセイラは、「ご主人」と呼ばれるのではなく、「姐さん」と呼ばれています。 新しい主人に寄り添った動物の妖精たちはみんな採用されて、喜びの涙を浮かべています。 「あまり張り切り過ぎないようにね。  ご主人に叱られちゃうからね」 サンドルフが言うと、誰もが笑みを浮かべて、サンドルフに頭を下げました。 妖精カノンは消えてどこかに行ってしまいましたが、これでよかったんだと、サンドルフはうれしく思いました。 帰りも御座成に捕まることなく、友梨に別れを告げて、サンドルフたちは保奈美の魂に飛び込んで、サンドルフ星に戻りました。 変った様子はないようで、みんなが口々に、「おかえりなさい」と言っています。 「カノンちゃん、気に入った人がいたんだなぁー…」 サンドルフが言うと、「なんだ、カノンにフラレたかっ!!」とベティーが大声で言ったところで、その姿は消えました。 「ベティーさんの方が、カノンさんよりも重症だよ…」とサンドルフは唇を尖らせて言うと、カノンは腹を抱えて笑い始めました。 『ご主人…』とサンドルフに念話が入って来ました。 「あれ? カノンちゃんっ!!」とサンドルフが叫ぶと、この場にいる全員がサンドルフに大注目しました。 『探したのだが、見つからない…  俺の、ご主人…』 「へー、どんな人なの?」 『あ、いや…  特定の者ではなく、俺が仕えたいと思った主人だ』 「そうかあー…  でも、ひとりじゃさびしいよね?  そうでもないの?」 『あ、まあ…  今まではやさぐれてはいたが、大勢いたからなぁー…  さびしいと言えばさびしい…』 「しばらくはじっくりと探すのもいいんじゃないの?  きちんと内面まで探らなきゃ、また失敗しちゃうよ」 『…あ、ああ…  そうすることにする』 妖精カノンからの念話は切れました。 サンドルフは少しさびしい想いがしましたが、妖精カノンが真に心を開くまで待とうと思ったようです。 「雇うって言ってあげればいいのにぃー…」とサンサンは妖精ふたりと戯れながら言いました。 「雇ってくれと言ってくるまで、僕は待つから」 すると、サンドルフに例の心のざわめきがあり、魂を除くと、申し訳なさそうな顔をした妖精カノンがいました。 『正式な入り口から来たんだね』 『あ、ああ、まあな…』 『きちんと願い出ないとずっとこのままだよ』 サンドルフが言うと、妖精カノンはかなり慌てて、『雇いやがれっ!!』と大声で言いました。 『うん、いいよっ!』とサンドルフは言って、妖精カノンに手を差し伸べて、魂から引き上げました。 「あはは、すごくりっぱだっ!!」とサンドルフと同じほど背丈がある妖精カノンをサンドルフは抱きしめました。 妖精カノンは何も言わずに泣いているだけでした。 結局は、残った妖精たちをサンドルフは全員雇いました。 やはり体が大きい分、妖精カノンは目立ちます。 「妖精になった時に宿ろうとした人の能力がちょっと微妙だったようだね」 サンドルフがいうと、「ああ、そうだったと思う」と妖精カノンは答えました。 「このままでもいいんだけどね、かわいらしい妖精の方がいいよね?」 サンドルフが聞くと妖精カノンは、「あ、ああ、まあな…」と照れながら答えました。 サンドルフが覇王に相談を持ちかけると、「簡単なことですよ」と笑顔で言いました。 「俺の胸に飛び込んで来いっ!!  と叫んで、動物が飛び込むだけです。  妖精化している動物はその声に反応して本来の姿に戻りますから。  彼女は本当に大物だと思いますよ。  しっかりと食事をしておいた方がいいと思います」 覇王が丁寧に説明すると、サンドルフは丁寧に頭を下げてお礼を言いました。 手ぐすね引いて待っているメリスンがいる食堂に行って、サンドルフと妖精たちは食事会を開きました。 これはランスが時々やっていたので、サンドルフもマネをしたいと思っていたようです。 しっかりと食事を終えたサンドルフは、広く誰もいない芝生に妖精カノンを立たせました。 サンドルフはその正面にいて、笑顔で妖精カノンを見ています。 「俺の胸に飛び込んでこぉ―――――いっ!!」とサンドルフが気合を入れて言うと妖精カノンは、「ぐおおおおおおおっ!!」と叫んで、とんでもない大きさに変身してすぐに、サンドルフの胸に飛び込んで来ました。 「すっごく大きかったよね!  あ、終った…」 サンドルフが言うと、覇王は苦笑いを浮かべています。 サンドルフの心の器が広いので、どれほどの動物でも一瞬にして取り込めるようです。 「あははっ!! 小さくなれるよっ!!」と言って、妖精カノンははしゃぎながら小さくなったり大きくなったりしています。 「性格まで変わっちゃったね。  これが本当のカノンちゃんだったようだね」 サンドルフが言うと、「ご主人様が本当にすごいからっ!!」と言って、もろ手を上げて喜んでいます。 「ちなみに、カノンちゃんの動物の時の大きさって、  何メートルあったの?」 「あ、それ自慢なんだっ!!  45630フェルタで、宇宙一だってっ!!」 長さの単位のフェルタがわからなかったのですが、サンクックがすぐに調べて調べて判明しました。 「うーん…  カノンちゃん、残念なお知らせだよ…」 サンドルフの様子から、大きさが一番ではなかったことに、妖精カノンは少しだけ落ち込みました。 「大きい人はね、あと二桁足した大きさなんだよねぇー…」と言うと、妖精カノンはあっけにとられました。 「ほ、星よりも大きいんじゃ…」 「まあ、それに近いよね。  立ち上がろうとしただけで、宇宙空間に簡単に頭が出ちゃうから」 「はぁー…」と言って、妖精カノンは残念がるよりもあきれてしまったようです。 「ランス師匠の妖精のサンジェリルちゃんに、  あいさつしておいた方がいいよ。  あとは、結城覇王さんのチョモランマ君」 サンドルフが言うと、妖精たち全員であいさつ回りをするようです。 この行動は、サンドルフの内面を読みとった結果のようです。 妖精たちが戻ってきて、かなりのショックを受けたようで肩を落としています。 やはり自分たちと比べて能力差が著しいと感じたのです。 さらに鍛えないと、サンドルフに見捨てられるとでも思ったようで、穏形せずにサンドルフにまとわりつき始めました。 「あ、そうだ、いい機会だから言っておくね」 サンドルフが言うと、妖精たちは素早く一列に並びました。 この行動も、サンドルフから読み取った結果です。 「穏形禁止」とサンドルフが短い言葉で言うと、妖精たちはあっけに取られました。 これを命令した主人は、今まで皆無だったのです。 「君たちは確かに僕の(しもべ)として雇われたんだけど、  僕はそう思いたくないんだ。  君たちは僕の仲間として一緒にいて欲しい。  だから、能力を使ってできないことは、  手足、体を使ってやって欲しいんだよ」 さらに妖精たちは驚きの顔をサンドルフに向けました。 「どうしてもできない時は仕方ないけどね。  極力、全ての仕事を手伝って欲しいんだよ」 「はいっ! サンドルフ様っ!!」と妖精たちは意気揚々と、サンドルフに頭を下げました。 妖精は肉体を持っていないので、基礎体力訓練はやっても意味のないことです。 よって、精神面を大いに鍛え上げる必要があります。 さらには、妖精は天使と同じで、遊ぶことが大好きです。 しかし、主人に抑圧されることが多いので、穏形して妖精仲間と遊ぶのです。 サンドルフはサンサンたちとともにウーリア星に行きました。 「さあ、遊ぼうか」とサンドルフが言うと、「はい、ご主人様っ!!」と妖精たちは満面の笑みで言って、小さくなったサンドルフと歓声を上げて遊園地で遊び始めました。 「ふーん、妖精かあー…」とヴォルドが言ってサンドルフに羨望の眼差しを向けました。 ただただ感心と敬意を表しただけですが、サンサンは恋心だと感じてしまったようで、悲しみの顔をヴォルドに向けました。 「いや、違うぞっ!!  サンサンはもう少し細かいところまで探れるようにならないとな」 ヴォルドがごく自然に言うと、その感情からサンサンが間違っていたと感じて、ヴォルドに謝りました。 「さあ、オレたちも行こうか」とヴォルドが笑みを浮かべてサンサンを見ると、「うんっ!!」と言ってサンサンは元気よく答えて、ヴォルドと手をつないで遊園地に向かって走りました。 遊園地内の休憩所で、サンドルフがヴォルドに話しかけていました。 「遊園地の使用料を払いたいんだけど、何がいい?」とサンドルフが言うと、「そんなものはいらん、あ…」とヴォルドは何かを思いついたようで、「あー、採掘作業をだな…」とヴォルドは申し訳なさそうな顔をしてサンドルフを見ました。 「うん、いいよ!」とサンドルフは爽やかに言いました。 これは妖精の実力を試すにもいい機会だったのです。 妖精たちが星再生の手伝いをどこまでできるのか、見極めることができます。 妖精は新しく創ることは得意ですが、再生や修復などは不得意なのです。 サンドルフとサンサンは天使デッダに変身して、妖精たちにまとわりつきました。 「ああ、ああ…」と言って妖精たちはふたりに笑みを浮かべています。 遊園地で遊び疲れて使ってしまった精神力が復活していると感じたようで、妖精たちは一斉にサンドルフたちに笑みを向けました。 サンドルフは変身を解きました。 「ボクはかなりのスパルタだよ。  これからすぐに仕事をしてもらうから」 サンドルフが言うと、妖精たちは姿勢を正して、「はいっ! ありがとうございますっ!!」とお礼を言ったのです。 妖精は主人に命令を下されることに喜びを感じます。 しかもサンドルフには悪い心がないことを妖精たちは知っているので、さらにやる気が出るのです。 サンドルフはゆっくりと飛んで、採掘場に行きました。 この間も、サンドルフは妖精たちの能力の監視を怠っていません。 妖精カノンは、自力で飛ぶことが少し不慣れなようです。 もちろん、妖精カノンもそのことを認識できたことを喜んでいるのです。 自由時間は空を飛ぶ訓練に当てようと、妖精カノンは心に決めました。 サンドルフがサンクックを使ってどのように採掘場を変えるのかを、ヴォルドとも話しをしながら妖精たちに説明しました。 早速妖精たちは細かい作業の振り分けを始めました。 ひとり気をはいているのは、火の妖精のステファニーで、少々気合が入りすぎているようにサンドルフは見えましたが、妖精カノンと妙に馬が合うようで、このふたりが中心となってほんの数分で打ち合わせは終りました。 妖精たちは笑顔で作業に挑みます。 どうやら何をどうすればいいのか、自分は何をすればいいのかよく理解できた笑みです。 「うおおおおっ!!」と言って、妖精カノンはかなりの力で、固い岩盤などを砕いていきます。 そしてほかの妖精たちが目ざとくお宝を運び出します。 「おいおい…」と言って、ヴォルドは苦笑いを浮かべました。 穴に残った山積みとなった土や石岩は、土の妖精のダガンデが種類別に分けて丁寧に地上に積んでいきました。 ヴォルドが驚いたのはやはり選別作業で、今まで丸一日ほどかかっていたことをほんの数分で、しかも原石が磨き上げられたかのようにきれいにして並べられています。 この洗浄作業は、風の妖精のフーロンと、水の妖精のアリアの共同作業です。 ヴォルドは感心して、何度も何度も笑みを浮かべてうなづいています。 そして少し短い坑道なども作り始めたのです。 この先にはお宝がびっしりと詰まっていると、サンクックが判断した場所なのです。 範囲が狭いので、ウーリア星人とこの星の悪魔に任せることにしたようで、ほんの数メートルしか掘っていません。 そしてその坑道内を、ステファニーが弱い炎で焼いて固めています。 決して崩れないように、表面は陶器のようになってしまっています。 妖精カノンは指示のあった深さ100メートルまで掘り進み、しばしの休憩にすることになりました。 これも決まっていたことで、「お疲れさまぁーっ!!」と妖精たちは妖精カノンに笑みを向けて言いました。 この後の妖精カノンの仕事は、ダガンデの手伝いだけです。 土砂はとんでもない量なので、ダガンデはマイペースで選別しているのです。 こういった一見いらなくなったように見えるものも、この先町を広げたり、新たな町を作る時に必要な資源となるはずなので、すべてを大切に扱っています。 約二時間で、ヴォルドの構想した採掘場の拡張工事は終了しました。 ヴォルドは満足げに両手を腰に当てて大声で笑いながら、巨大になった採掘場を見下ろしています。 「みんな、よくやったねっ!!」とサンドルフは言って、妖精たち全員をしっかりと抱きしめました。 妖精カノンは感極まったのか、泣いて喜んでいます。 そしてステファニーとダガンデとは親友になったようで三人で抱き合いました。 妖精たちは、これほどに充実した気持ちになったことがないと口々に各々の言葉で言って、笑みを浮かべたままその場に寝転んで眠ってしましました。 「不得意なはずなのに、すごいなぁー…」と言ってサンドルフはサンクックに、この作業の全ての映像を共有するように言いました。 サンクックは喜びの声を上げてから、サンドルフに笑みを浮かべました。 サンドルフたちがお茶をしていた時に、『見たぜぇー…』と妙に気合の入った声のランスが念話を送ってきました。 「あはは、はい、ありがとうございます!」とサンドルフは笑みを浮かべて言いました。 『俺の妖精たちでもできるんだけどな、尻込みした』 ランスが少々気に入らないような声で言いました。 『確実に三人は途中でぶっ倒れるそうだ』とランスが言うとサンドルフは、「あー、力自慢の三人ですよね?」と言うと、『その通り』とランスは答えました。 『あれほどに精密な作業は、精神力をかなり使うようなんだ。  星とか銀河とか、大雑把なものを造る方が簡単だと言ったぜ』 「はい、それは聞いていて知っていました。  ですので、  できれば作業が終っても元気でいて欲しかったんですけどね。  でも、初めての作業だったので、  これくらいでいいと思ったんですよ」 サンドルフが言うとランスは、「相変わらず厳しいな」と言ってから、サンドルフを大いにほめて、念話を切りました。 すると今度は、源次郎からも念話がありました。 話の内容はランスとまったく変わりのないことでした。 そして機会があれば、ロア部隊とともに仕事がしたいと、源次郎が言ってから念話は切れました。 するとロア部隊が情報を仕入れたようで、全員が勢い勇んで採掘場に飛んできたのです。 そして、かなり巨大になった採掘場をぼう然とした顔で見ています。 特にカノンは、妖精たちに色々と聞いて落ち込んでいるようです。 これほどに器用な妖精はどこにもいなかったと口々に言ったのです。 「サンドルフ隊長の性格?」とカノンが緑の妖精のチックに聞くと、「はい、たぶん、そうかと思いますぅー…」と言ってから、肩を落として消えました。 「サンドルフ隊長の真似したら怒っちゃう?」とカノンが聞くと、大勢いる妖精たちが姿を現しました。 そしてカノンを見上げてに笑みを浮かべています。 「命令はしないわ。  あの映像とここを見て、感じたままに行動してくれていいわ」 カノンが言うと、妖精たちは一斉に遊園地のある方角を見ています。 「…ちゃっかりしてるわね…」とカノンは苦笑いを浮かべて言って、あとでその予定を立てることに決めたようです。 「あー… ねずみの獣人以外にも遊園地に遊びに来たの?」とサンドルフがヴォルドに顔を向けて言うと、「ああ、ディックのところの住人と、ハスラという星の小人族が来たぞ」とヴォルドは笑みを浮かべて言いました。 「お土産ものとか、作る計画があるんだけどね」とサンドルフが言うと、ヴォルドは早速カミを呼んでから、サンドルフと概要だけの話しを始めました。 そして細かい打ち合わせは、サンドルフ側は悦子がカミの相手を始めました。 悦子はまた新たな仕事が増えてうれしそうです。 悦子はかなり良心的なので、カミの方が恐縮したようですが、ほぼ商談がまとまりました。 「みんな、忙しくなっちゃうっ!!」と言うと、カノンとカレンが顔を見合わせて、少しうんざり顔をしています。 ふたりも工員の一員なので、時間があれば造る必要があるのです。 しかも相手はほぼ小人なので、細かい作業が必要になるのです。 そして悦子は、とんでもない新たな商品を考えているようです。 そしてカミと話しを始めて、このウーロン星にも似たようなものがあったことを悦子に告げると、悦子はその商品をカミに見せました。 当然、通常の人間サイズ用のものなので、カミと同じほどの背丈があります。 「はー、これは…」と言って、カミは驚いています。 「この星の若い女性が欲しがりそうですね」とカミは笑顔で言いました。 その調査もするとカミが悦子に約束すると、悦子はランス特製の、『着せ替え人形セット』をカミに渡しました。 「ここではこのサイズのままでも、  マネキンのようにして楽しめると思いますね。  まるで本物の人間のようです」 カミは言って、感心した顔をしてから、ホホを赤らめています。 少々リアルなので、カミには刺激が強かったようです。 悦子は何も言わずに、笑みを浮かべているだけでした。 … … … … … サンドルフ星にランスたちが帰星してすぐに、「あとで話しがあるのっ!」と悦子は上機嫌で言って、異空間部屋を見ました。 「はあ、いいんですけど…」とランスはうんざり感一杯に答えました。 「宇宙の子供たちや女の子たちのため…」と悦子が言うとランスは、―― あれかぁー… ―― と思い、さらにうんざり感が沸いたようです。 「サイズと個数…」「十分の一で、とりあえず1000個っ!!」 ランスの言葉に、まるで用意していたかのように悦子が答えました。 「…サンドルフッ!!」とランスがかなり怒りながら、サンドルフの名を告げました。 サンドルフはいつものように笑顔で素早くランスの目の前に立ちました。 「映像になかったこと…」「はい、お土産の件を話しましたっ!」 ランスの言葉に、サンドルフはすぐに答えました。 「大勢のかなり小さな子供たちのために…」「わかったわかった…」 サンドルフの言葉に、ランスは即答しました。 「サンサンッ!!」とランスが名を呼ぶ前に、サンサンはサンドルフの影から顔をのぞかせていました。 「俺に弟子入り…」とサンドルフが言うとサンサンは、まるで天にも昇るように両手のひらを合わせて背伸びをして、「はいっ!! よろしくお願いしますっ!!」と言って大喜びしています。 サンドルフはふたりを笑みで見ていたのですが、「サンドルフも付き合えよ」とランスが苦笑いを浮かべて言うと、「あ、はい…」と言って、サンドルフは覚悟を決めたようです。 ―― これも修行っ!! ―― とサンドルフは改めて決意しました。 反省会と食事が終わった後に、サンドルフとサンサンは悦子たちとともに異空間部屋に入りました。 「あっ!!」とサンサンは言って、何かを思い出したようです。 サンドルフは心当たりがあったので何も言いませんでした。 細田は異空間を使って素早く移動していたんだと察しました。 「なんえでー…」とランスは少々ご機嫌斜めの様相でサンサンに言いました。 「細田さんって、異空間も操れるんですね」とサンサンが言うと、「ああ、そうだろうな」とランスは簡単に答えました。 「普通は一部の能力が高い悪魔しかできねえが、  悪魔でもねえ細田さんはできる。  複合技で再現できるんじゃねえの?」 ランスは予想して言いました。 「それに、黒い扉」とランスが言うと、サンサンたちは納得の笑みを浮かべました。 そもそも、あの黒い扉が一番不思議なのです。 「あー、そういえばそうだぁー…」とサンサンはさらに納得したようです。 黒い扉の場合、時間経過なく行きたい場所に行けるので、サンサンはその件は除外して考えていたようです。 早速悦子は、「これがスタンダードねっ!!」と言うと、肩にいる妖精の保奈美が細やかなその映像を出しました。 「はあー、小せえ…」とランスはため息をついてから、素早くワンセットを造り終えて、サンサンの天使デッダに癒やされ始めました。 ランスはかなり復活して、サンサンにお礼を言ってから、「サンサンも造れ」と言って笑みを向けました。 「うーん…」とサンドルフがうなって、「ランス師匠、この服だけもう一着造ってください」とサンドルフが言うと、全てを察したランスは、「ああ、いいぜぇー…」と言って笑みを浮かべてあっという間にかなり小さな洋服が現れました。 「あはは、指人形…」と言ってサンドルフは右手の小指に服を着せておどけました。 そしてすぐに洋服が消えると同時に、同じものが100ほどサンドルフの手の中にありました。 「イリュージョン増幅っ!!」と言って、悦子が驚いています。 ランスは笑顔でひとつを摘まんで、「ああ、これでいい」と言って、サンドルフに笑みを向けました。 「じゃ、サンドルフ君はこれ、お願いねっ!!」と悦子は言って、スケッチブックをサンドルフに手渡して、対象ページを広げました。 そこには、様々な洋服のデザインがありました。 「スタンダードと十分の一を一万セットお願いねっ!!」と悦子はかわいらしく言いましたが、数量はかわいらしくありませんでした。 ですが、混沌を使うので、ほんの数十分で全てを完成させたのですが、「じゃ、次のページもっ!!」と悦子は言ってさらにエスカレートしてきました。 今度は下着も含まれていたので、サンドルフは赤面しながらも簡単に創り上げました。 検品はランスと悦子が担当して、全ての作業が終わった時、作業開始から35時間が経過していました。 調子に乗りすぎた四人は、フラフラになって異空間部屋から出ました。 メリスンと魔王が四人をさらうようにして、食堂のカウンター席につかせると、四人は猛然たる勢いで食事を始めました。 「猛獣…」とベティーが苦笑いを浮かべて言うと、誰もが大声で笑い転げました。 悦子は箱詰めした商品を持って、ますは地球に行きました。 どうやら要望のあったオプション用の衣類なども、商品にするようです。 「ま、かなりの金持ちになれたな」とランスが言うと、「あははは…」とサンドルフは苦笑いを浮かべて笑いました。 「遊びに行きたいっ!!」とサンサンがサンドルフにおねだりしましたが、「結局は、お茶するだけじゃん…」と言うと、「それだけでもいいんだもんっ!!」とサンサンはホホを膨らませて言いました。 「明日、二時間だけ時間を作れ。  一応、命令な」 ランスが笑みを浮かべて言うと、サンサンはランスを抱きしめてから、サンドルフに満面の笑みを向けました。 「はあ、妖精たちの修行にもなりそうですから…」とサンドルフが言うと、サンサンは面白くなかったようで、ホホを膨らませたままサンドルフを見ています。 「妖精たちはその二時間だけ穏形。  これも修行な」 ランスが言うと、サンドルフの周りにいた妖精たちは、ランスに向かって頭を下げました。 「はあ、そういう修行もあった方がいいと思いました…」 サンドルフは仕方がないと思い、少しだけ楽しむことに決めました。 ですが、ロア部隊も全員ついてくるだろうとサンドルフは思いましたが、ここでは言わないことにしたようです。 … … … … …
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