第三抱 底なき成長

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第三抱 底なき成長

ランスたちが余裕の笑みを浮かべて、サンダイス星に帰ってきました。 サンドルフたちは、「お帰りなさいっ!!」と満面の笑みを浮かべて言いました。 そしてサンサンが、「お父さんっ!」と言って、一歩前に出ました。 ランスはサンサンが妙に上機嫌なことに気づいただけです。 「なんだ?  いいことでもあったようだな」 ランスが言うと、カレンが心中穏やかではいられなくなったのか、サンドルフに無言で詰め寄りました。 「精神的な修行はまだ行き届いていないようだね」 サンドルフに言われてしまったカレンは、すぐにサンドルフに謝りました。 「私… サンドルフ君と結婚しますっ!!」とサンサンが言うと、「ちょっと待ってっ!!」とサンドルフは慌てて言いました。 「ぐはっ!!」とサンドルフが叫びました。 どうやら、カレンの光移動のハイビームをモロに食らったようで、大地に背中をつけています。 「いってぇー…」とサンドルフが言うと、サンサンが慌てて、「あなた、しっかりなさって…」と言って抱き上げました。 カレンは錯乱状態に陥ろうとしましたが、動けなくなっていました。 「おかしいな…」とランスは言ってサンサンを見ています。 サンサンにはカレンが思うようなことは何一つないと、ランスは確信しています。 ただただ、少し悪乗りしているだけと思い、大声で笑い始めました。 「サンサンが誰と結婚しようが俺は反対しないし、  サンドルフはまさに適任だとも思っているぞ」 ランスがごく普通に言うと、サンサンはかなり喜んでランスに抱きつきました。 サンサンは上目使いでランスを見ています。 「サンドルフ君に、命令、とか…」 「結婚するようにって?  それは言わないぞ。  サンドルフにも選ぶ権利があるからなっ!」 ランスが言うと、サンサンは少し落ち込みました。 ですが、本題に入ろうとサンサンは思い、ランスから少し離れて、姿勢を正しました。 「お父さんっ!  組み手、お願いしますっ!!」 サンサンの気合の入った言葉はランスの心に響いたようで、「ああ、いいぜぇー…」とランスは想いを込めた気迫をサンサンに向けました。 ですがサンサンは、真剣なまなざしをランスに向けているだけです。 ランスは、「ふっ…」と息を吐いてから苦笑いを浮かべました。 「いつでもいいぜぇー…」とランスは言って、基本的な型の構えを取りました。 「いきますっ!」とサンサンの気合の入った言葉とともに、サンサンは一気にランスに詰め寄って攻撃を開始しました。 「なにっ?!」とさすがのランスも度肝を抜かれて、大きく後退しましたが、サンサンは簡単に間合いを詰めました。 ですがランスはスピードを上げて回り込みました。 直線的な動きはサンサンが有利ですが、回り込まれると逆に不利になります。 ですが右足をこれでもかというほどに踏ん張って、サンサンは少しだけ弧を描きながら、ランスに詰め寄ります。 「サンドルフ、何やったぁ―――っ!!」とランスは叫びました。 「朝夕二回、組み手をしただけですっ!」とサンドルフはもちろん本当のことをランスに言いました。 「そんな動きじゃねえぞっ!!」とランスは大声で言いましたが、楽しくもなってきたようです。 サンサンの上からの攻撃はランスの足を止めます。 サンサンはサンドルフとじっくりと組み手をすることでよくわかっています。 ランスは何とかかいくぐりますが、かすっただけでも、サンサンの蹴りは重く、一瞬ですが体の自由を奪われるのです。 サンサンはその一瞬を狙って、猛攻を仕掛けてくるのです。 「こりゃ参ったなっ!!」とランスは言いましたが、今のこの状況をかなり楽しんでいます。 サンドルフよりも動きが俊敏なランスを相手に、サンサンは10分もの間攻撃をしましたが、ついに失速を始めました。 「よっしっ!! サンサン、もういいだろ?!」とランスが言うと、サンサンは足を止めました。 今は自分自身の体重の重みでバランスをとって立っているようなものです。 「お父さん、どうでしたかっ?!」とサンサンはあらん限りの声を張り上げて言いました。 「おまえは最高の俺の娘だっ!!」と言って、ランスはサンサンを強く抱きしめました。 サンサンはうれしくて涙を流して喜んでいます。 「あ、これからオレに挑戦する者は、サンサンに勝ってからな」 ランスがお気軽に言うと、マキシミリアンたちに戦慄が走ったようです。 マキシミリアンはホホを引きつらせて、「あの上段からの早い蹴りを…」と苦笑いを浮かべて言いました。 「高揚感まとっててもかなりきたぞ」とランスは言って、マキシミリアンにさらに苦笑いを浮かべさせました。 「あ、サンサン、やる時は少しだけ手加減してやってくれ。  死んじまうかもしれないからな」 「あ、はい、十分に気をつけますぅー…」とサンサンが言うと、更なる恐怖が、魔王軍の精鋭たちを襲いました。 「あ、でもグローブとシューズ…」とサンサンが言うと、「そうだった、そうだったっ!」と言ってランスはサンサンに笑みを向けました。 「おまえら、命拾いしたなっ!」とランスが言うと、マキシミリアンたちはサンドルフが持っている、異様に軽いグローブとシューズを見て苦笑いを浮かべ始めました。 ランスはひょいとサンサンを肩に担いで、風呂場に向かいました。 「あはは、普通に軽いようにしか見えない…」とサンドルフはランスたちを見て苦笑いを浮かべました。 「ランスが造ったのかい?」とマキシミリアンがサンドルフが持っているグローブとシューズを見て言いました。 「はい、まさに温い組み手を体験できます」とサンドルフは答えました。 マキシミリアンは、「だが今は風呂にしよう…」と苦笑いを浮かべて風呂に向かって歩いていきました。 「どうなってるのよっ!」とカレンが怒ったように言ってサンドルフに詰め寄りました。 「今日一日で今のサンサンになったんだよ」とサンドルフが言うと、「愛のパワー…」と言ってカレンはサンドルフをにらみつけました。 「そんなことであそこまでになるのなら、  カレンにもしてあげたいところだよ」 サンドルフが言うと、カレンはひどく落ち込みました。 「デヴィラさんと変わんないじゃないっ!」とカレンはさらにクレームをつけました。 「スタミナがないだけで、まさに同等だと思うね。  成長させたら、今の倍、かなぁー…  背伸びをさせたら、デヴィラさんに追いつくかもね」 「うう…」とうなってから、カレンはひどく落ち込んで、とぼとぼと風呂に向かって歩いていきました。 今日も魔王とチェニーがサンダイス星にやってきました。 今日は一日中ガロンがふたりに付きっ切りだったのでここにやってきたようですが、そのガロンもメリスンとともにサンダイス星に姿を見せました。 ガロンはサンドルフを見つけて、丁寧に頭を下げています。 サンドルフも倣うようにしてガロンに頭を下げました。 そして、サンドルフが持っているグローブとシューズに興味を示したようで、一瞬のうちにサンドルフの目の前にガロンが立っていました。 「面白いものを持っているね」とガロンが言うと、「はい、殴っても蹴っても痛くないグローブとシューズです」とサンドルフが言うと、どうやらガロンは魔王と組み手をしたいようで、サンドルフに言って貸してもらいました。 ガロンと魔王はかなり楽しそうに組み手を始めました。 まさに男悪魔同士の戦いですが、荒っぽい感情はまったくここにはありません。 成長したいと願う子の心と、成長させたいという親の心だけがありました。 たった5分でふたりとも息が上がったので、組み手を終了しました。 「いい運動になったよ。  ランス君にお願いしておこう」 ガロンはグローブとシューズをサンドルフに返してから、魔王を連れて風呂場に行きました。 サンドルフも風呂に行くことにしたようで、ふたりの後ろについて歩き出しました。 風呂場に行くと、ランスとサンサンを囲んで大騒ぎしていました。 サンサンはかなりうれしそうな顔をして、ランスに寄り添っています。 「…胸がなくてごめんなさい…」とカレンが言ってサンドルフに寄り添いました。 すると、割って入るかのように一瞬にしてサンサンがサンドルフの目の前にいました。 「早いねっ!」と言ってサンドルフはサンサンを褒め称えました。 サンサンは振り返りました。 「私もね、光になろうって思ったから…」とカレンを見据えて言いました。 あまりの迫力にカレンのホホは引きつっています。 サンサンの今のスピードではカレンの足元にも及びませんが、サンサンは元々は生物ではありません。 ひょっとるすと簡単にやってしまうのではないかと、カレンは戦々恐々としました。 「よく考えたらどうして今朝、  黒い扉から光速で飛び出してきたんだよ…」 サンドルフが怪訝そうな顔をしてカレンに言うと、「ノリで…」と答えたので、「危ないからやめて欲しいね…」と言われてしまったので、もうしないことに決めたようです。 カレンも魔王軍の一員で許可を得ているので、ごく普通にサンダイス星に渡って来ることは可能です。 サンドルフたちが風呂を出てメリスンが待ち構えている食堂に行くと、ゼンドラドが来ていました。 今は悦子、保奈美と食事をしながら歓談していますが、もっぱら悦子が話しているだけで、保奈美とゼンドラドは話していないように、サンドルフには見えました。 「…あー…」とサンサンが全てわかったように言いました。 「僕はお似合いのカップルだって思ったよ」とサンドルフが言うと、「うんっ!」と言ってサンサンも喜んでいます。 「…えっ? 悦子さんとゼンドラドさん?」とカレンが言うと、ふたりは同時に首を横に振りました。 「マキシミリアンさーんっ!」と言って、ひとりの小さな妖精が飛んできました。 何もかも保奈美にそっくりな妖精です。 妖精はマキシミリアンに丁寧にあいさつをして、その大きな肩に座りました。 マキシミリアンとしてはまったく問題はないようですが、少し照れているようです。 この妖精はランスが創り出した、ミラクルマシンというものを数億個使って体を構成しているヒューマノイドです。 人体に溶け込むようにもぐることができるので、ランスが飼っている猫のミーと同じように、治療行為に長けています。 戦いにおいては、体内にもぐり込んだ時点で、勝ちは確定的なものになります。 こういったランスと細田のコラボレーションが、友情として花開いたようです。 もっとも、機械が友達だった細田は、「人間の友人ができたっ!」と言って、かなり喜んでいたようです。 ゼンドラドとマキシミリアンはほぼ同じ思考を持っています。 よって女性の好みも同じなのです。 マキシミリアンの場合、機械にはまるで抵抗はありませんので、小さな妖精の保奈美を恋人としてもなんら支障はありません。 ですがゼンドラドは、本気で保奈美が好きなようで、いつものスケベ心はまるで出てこないので、相反して何も話せないのです。 悦子はがんばってふたりに話しをさせようとしますが、その願いはなかなか成就しません。 サンドルフはふたりの仲のことなので何もしないと決めていますが、サンサンはそわそわとしています。 「仲良くしてもらいたいって?」とサンドルフが苦笑いを浮かべてサンサンに言うと、真剣な眼差して小さくうなづきました。 「そんなの、簡単じゃないか」とサンドルフが言うと、サンサンは食い入るような目でサンドルフを見つめました。 「まずはゼンドラド師匠のひざの上に座って、  保奈美さんと話しをして、ゼンドラド師匠にも話しかける。  サンサンって、橋渡し、得意だろ?」 サンドルフが言うと、「すっごくいいのっ!!」と言ってサンサンはゼンドラドに承諾を得てから、そのひざの上に座りました。 そして早速、サンサンの橋渡しが始まって、あっという間にふたりは会話を始めました。 サンサンは役目は終ったと思ってゼンドラドから離れようとしましたが、そのゼンドラドがサンサンを放しませんでした。 サンサンは仕方なく、今のこの状況を楽しむことにしたようです。 「やっぱ、サンサン、ああいうことってうめえなぁー…」と魔王が言って感心しています。 「平和の象徴よりも平和だからね。  しかも、戦の女神でもあるぞ」 サンドルフが言うと、魔王は右の眉を上げました。 「あ、99号君、映像の記録、再生して見せてあげてよ」とサンドルフが言うと、その影から影99号が姿を現しました。 「あ、はい、すぐにっ!!」と言って、影99号はサンサンの勇姿の映像を流し始めました。 「…映像にも驚いたが…」と魔王は言って、影99号を見ています。 「僕につくように言われたの?」とサンドルフが言うと、影99号はバツが悪そうな顔をしてうなづきました。 「こんなにすぐに悟られるって思わなかったんだ…」と影99号はかなり落ち込んでいます。 「サンサンと組み手をする前に、僕の影に隠れたよね?」とサンドルフが言うと、「うん、そうなんだよねー…」と影99号は力なく言いました。 「僕はサンサンと同じでぬいぐるみとして生まれたからね。  魂を持っていない人のこともよくわかるんだよ」 サンドルフが言うと、「ああ、なるほどなっ!」と言って、魔王は感心しています。 影99号も理解できたようで、サンドルフに今更ながらですがあいさつをはじめました。 「あー、名前だ…」とサンドルフが言うと、影99号は喜んでいます。 「お師匠様につけてもらおうかなぁー…」 影99号はそれもありだと思いましたが、笑みを浮かべてだけで何も言いませんでした。 「ん? 欲?」とサンドルフが言うと、「マジか…」と魔王が言って、影99号を見ています。 「…ああ、ごめんなさいごめんなさいっ!!」と言って、影99号は必死になって謝っています。 「スーランちゃんも、99号君のように優秀だったって聞いたよ。  魂、定着しちゃったし…」 「はい、スーランちゃんたちが  僕たちの希望と言っても過言ではないのです…」 影99号は言ってから、肩を落としました。 「でも欲はいけないね。  …だけど僕もお師匠様と同じように、  今の名前と未来の名前をつけることに決めたよ」 サンドルフが言うと、影99号はサンサンの名前の件を知っていたようで、神妙な顔つきでサンドルフに礼を言っています。 サンドルフは少し考えて、もう決めたようです。 「今の君の名前はサンクックだ」とサンドルフが言いました。 「かわいいな、おい…」と言って魔王は笑顔でサンクックを見ています。 サンクックと命名された影99号は喜んでいますが、少々微妙な笑みです。 「この名前を早く脱げるように、精進して欲しいね」とサンドルフが言うと、サンクックは心を改めたかのようにサンドルフに礼を言って頭を下げました。 「クックサンでもいいよっ!」とサンドルフが言うと、魔王は大声で笑いました。 「あ、いえ、サンクックでお願いしますっ!!」とサンクックは神妙な顔をしてサンドルフに頭を下げました。 「あだ名はクックで。  コックさんって呼ぶ時もあるかもねっ!」 サンドルフの想いを知ったサンクックは涙を流して喜びました。 「では、クックに第一の試練だ」となんとサンドルフは早速修行を開始するようです。 サンクックはさらに姿勢を正して、神妙な顔つきをさらに硬くしました。 「メリスンさんと料理勝負を。  だけど、好感を持ってもらえるように仕向けて欲しいんだ」 サンドルフが言うと、サンクックにとって簡単なことだったようで、「はい、今すぐに、行って参りますっ!」と言って頭を下げてから、メリスンに寄り添って話しを始めました。 「…無謀な…  下手すると壊されっちまうぞ…」 魔王が少し震えながら言いました。 「大丈夫だよ。  クックには武器がある。  メリスンさんが食いつかないはずがないんだよ」 もうすでに打ち合わせは終えたようで、メリスンはサンクックとともに笑顔で料理を作り始めました。 「うっ… 心配して損したって感じ…」と魔王が言うと、サンドルフは少し笑いました。 サンクックの造り出す料理の秘密。 それはいたって簡単なことでした。 サンドルフたちは目の前にある料理の半分以下しか食べられないのです。 食べられないもう半分は、実は映像だったのです。 サンクックは料理と映像のコラボレーションをやってのけていたのです。 ですので、食べすぎだと思ったのは勘違いで、実はいつも通りの量を食べていたのです。 メリスンはこの方法を使えば、さらに効率が上がると思って、見た目には超大量の料理を造り上げて、ランスたちに無理やり勧め始めました。 そして、「おっ! うめえっ!!」とランスが一声叫んだとたんに、メリスンは笑顔のまま意識を失ってしまいました。 メリスンがお腹一杯になった瞬間でした。 サンクックは昼やおやつの時間と同じようにみんなの接待をします。 もちろん、これは自己紹介を兼ねてのことです。 「さすがサンドルフ」という言葉を多く聞いて、サンクックはさらに自慢げに胸を張りました。 「欲張りすぎたようだね…」とサンドルフがメリスンを見ながら言うと、「面目次第もねえ…」と魔王は言って、かなり恥ずかしそうにして肩をすくめました。 ランスたちはこのからくりをまったく知りません。 そしてサンドルフたちのように、「満腹だっ!」と言って腹をさするばかりです。 しかしその顔には充実感があります。 サンドルフは知っているのですが、やはりついつい食べ過ぎてしまいます。 しかしその量はいつもと同等か少ないくらいなので何も問題はありません。 ひと心地ついたランスは、腹ごなしをするように、子供たちのための遊具を造り始めました。 サンドルフもサンサンも手伝いたいようですが、これはランスの仕事だと、ふたりとも認識して、手伝うことは諦めたようです。 それをわかっていないカレンがランスに近づいて何かを言いましたが、簡単に拒否されて、肩をすくめて戻ってきました。 「…叱られちゃった気分…」とカレンは言ってかなり落ち込んでいます。 「子供たちのためだからね。  できれば手伝ってもらいたくないんだよ。  この程度は察するべきだと僕は思うよ」 サンドルフはやけに落ち着きのないマキシミリアンたちに指を差しています。 「ううっ! 私と同じ人がいたっ!!」と言いましたが、行動に出るのと出ないのとでは大違いだと、カレンは思い知ったようです。 遊具がひとつ完成して、50人の子供たちと天使たちはランスに礼を言ってから競い合うように遊具を楽しみ始めました。 どうやら待ちに待っていたようで、今日は列を作らずに早い者勝ちだったようです。 ですが、力のある子供と、力のある天使はみんなに道を譲っています。 ランスは微笑ましく思ったようですが、「きちんと並べよっ!」と言って子供たちを戒めました。 「はいっ! ごめんなさい、お父さんっ!」と謝ってはいますが、口先だけでした。 ですが、子供たちはきちんと反省はしています。 さらには、力の強い子供たちが待っていることで理解を深めたようです。 自分はあっち側にいるべきではないのかと気づき、ここでさらに反省しています。 … … … … … 翌日の夕方に、ランスが帰星してすぐ、ゼンドラドがサンダイス星に姿を見せました。 ランスは手放しで大歓迎しています。 どうやら龍退治のドラゴンスレーヤーを造ったようなのですが、出来上がったものは小さな短剣だったのです。 ですがこの小さな短剣には、千もの龍の魂が宿っているので、持てる者はほとんどいないのです。 ランスは笑顔で、短剣の素晴らしさを絶賛しました。 サンドルフは持ってみたいと思いましたが、今は邪魔をするべきではないと思い、同じ気持ちのサンサンも押さえつけています。 覇王が龍を喰らったダイゾを発見したと知り、ゼンドラドはついに行動に出たのです。 ゼンドラドは剣、覇王は盾を持ち戦うのです。 もちろんランスはその事実を知っていたので、ふたりへの協力は惜しみません。 ランスはゼンドラドが望む、今、背中に担いでいるドラゴンスレーヤーと同タイプの剣を素早く創り上げ、ゼンドラドに献上するかのように、恭しく渡しました。 「…おお、これは… すごいなっ!!」と言ってゼンドラドは満足したようです。 さらには柄に短剣を押し込むことで、パワーアップできるのです。 ゼンドラドが笑顔で短剣を柄に差し込むと、剣はさらに重みを増しました。 かなりの重量なのですが、ゼンドラドの笑顔は変わりません。 そしてランスは、想いがこもった投げナイフを収めてあるベルトも、ゼンドラドに献上しました。 ゼンドラドはランスに丁寧に礼を言って、黒い扉をくぐっていきました。 「あいつ、さらに大迫力になったな…」とマキシミリアンがつぶやきました。 ゼンドラドをあいつ呼ばわりできるのはマキシミリアンだけです。 何しろ本人とほぼ同一人物なのですから。 ですが、実は違います。 マキシミリアンだった悪の部分や修行のためにゼンドラドが捨てたものはもうすでにゼンドラドが回収を終っているのです。 よって今のマキシミリアンはその記憶があるだけなのです。 さらには元の神の魂がそれを引き継いで、重厚な魂のマキシミリアンとなっているのです。 今は学生で魔王軍の一員なのですが、ゼンドラドと同じく、マキシミリアンも相当に強い神なのです。 「お師匠様、怖いほどになっちゃったね…」とセイルが言いました。 セイルは悪魔メリルがセイラにかけていた術でした。 戦禍荒れ狂う中、少女が生きていくには危険極まりない時代だったのです。 よって悪魔メリルはセイラに術をかけて、男の子のセイルとして成長させたのです。 そしてセイルは今もまだゼンドラドの弟子です。 ランスはすでに免許皆伝をもらっていますので、実質的な弟子はセイルと、十二勇者だけです。 マキシミリアンとセイルのふたりは機械の体ですが、まったく違うものでできています。 マキシミリアンは保奈美と同じく、影の体を強化したヒューマノイド。 セイルは猫のミーや妖精の保奈美のようなミラクルマシンで体を構成しています。 よってセイルにも医療行為は可能です。 マキシミリアンはただただ力を。 セイルは柔軟性を帯びた強い力を持っている最強のマシン兄弟なのです。 ランスは笑顔で、ふたりを見ています。 そしてランスはとんでもないものを創り出しました。 ですがそれは、手のひらに収まるものでしかありません。 そしてかなり重厚なゴムのようなものを地面に置いて、小さな剣と小さな盾を、その上に置きました。 「さあみんな、力比べだぜ」とランスが言うと、一瞬にして列ができました。 「じゃ、列の逆からなっ!!」とランスが言うと、一番に並んでいたマキシミリアンがランスをにらみつけました。 ランスは時々こうやって仲間たちに精神鍛錬を課すのです。 サンサンもサンドルフも笑みを浮かべて列の中央に並んでいました。 特に急ぐ必要はないと、サンドルフが考えたからです。 そして、サンドルフにあの小さな剣も盾も持ち上げられないと確信していました。 ドラゴンスレーヤーは資格があってこそ持ち上げられるのです。 重さに換算して、小さな剣と盾は、数トンほどあると感じています。 ですがサンドルフは諦めているわけではありません。 できれば持ち上げたい、と思っているようです。 当然のように、誰も持ち上げることはできません。 持ち上げるどころか、ピクリとも動かないのです。 ついにサンドルフの番になり、ひとつ気合を入れました。 いつもならその気合を抜いてリラックスするのですが、今はそれは必要ありません。 サンドルフは瞬間的にでも、少しでも動けばいいと思っているのです。 「リャッ!!」とサンドルフの気合が飛んで、ほんの一瞬ですが、剣と盾が同時に台の上から持ち上がりました。 「えっ?」とサンドルフが言った時、剣も盾も、元の位置に戻りました。 「龍退治班の候補なっ!!」とランスは笑みでサンドルフを見て言いました。 これは非常に名誉なことだと、サンドルフは感動しましたが、「ほら、もてたもてたっ!!」とサンサンが満面の笑みでごく自然に剣と盾を持っていたので、サンドルフは苦笑いを向けて、「やっぱ、すごいね…」と言ってサンサンををほめました。 「どんだけ力持ちなんだっ!!」とランスは言って、サンサンの頭をなでています。 「だが、持ち上げられたサンドルフにもしっかりとその資格はあるからな。  サンサン相手にさらに修行だ」 ランスの言葉に、サンドルフは笑顔で恭しく頭を下げました。 最終的に持ち上げられたのはサンサンとサンドルフだけで、マキシミリアンはかなり悔しかったようです。 「これがマックスと父さんの差なんだよ。  唯一のな」 ランスが言うと、「わかっているっ!」とマキシミリアンはかなり怒った様相でランスに言いました。 「素手で、などと思ったろ?」とランスが言うと、マキシミリアンは驚いたようです。 「素手では無理だと思う。  父さんが今担いでいるドラゴンスレーヤーでも厳しいはずだからな」 ランスの言葉を重く受け入れたマキシミリアンはランスに少しだけ頭を下げました。 そして、体の調整を始めました。 もちろんこれは無謀なことではなく、細田と連絡を取って行なっています。 「新しい剣なら問題はないんだけどな。  理由は星まで切れっちまうからっ!!」 ランスは言って大声で笑いました。 さすがのマキシミリアンもサンドルフも驚きを隠せませんでした。 「セルラ星、なくなってないだろうな…」とマキシミリアンは常識的なことをつぶやきました。 … … … … … 今のところなくなっていないセルラ星で、イルニー国の新しい王が誕生しました。 王制血統者第一位のフェイラ・クリッテ・イルニーことセイラが王となったのです。 セイラは孤独の道を歩み始めましたが、それほど孤独でもありません。 ふがいない貴族に目を光らせ、実質的に政権を握る、サンドラ・クライン・イルニーの補佐を勤めます。 ですがさすがに暇なので、「王のプロフィール映像を作るっ!!」とセイラは言ってにやりと笑いました。 「いいんだけど、って、まさか…」とサンドラはセイラの思惑に気づいたようです。 「ここでは戦いはないからね。  ほかで戦ってくるわ」 セイラは言って、自信はありませんがゼンドラド・セイント町に急ぎ飛んで戻りました。 メリスンの店に入ってセイラは大歓迎を受けましたがそこそこにして、メリスンの部屋にある、黒い扉の前に立ちました。 「…ランスはもうどうでもいい…  私自身が、強くなりたいっ!!」 セイラの思いが通じたのか、セイラの右足は吸い込まれるように黒い扉に交わりました。 そしてセイラは今はサンダイス星に立っています。 ランスはすぐに、「うわぁー、来ちまった…」と言って苦笑いを浮かべています。 「だが、気合は十分のようだぜ」と言ってセイラを見ないで言いました。 「だが、おまえと話すと元通り…」とマキシミリアンが言うとランスは苦笑いを浮かべています。 「ダン、代行な。  理由はセイラがかわいそうだから」 ランスが言うと、ダンたちは大声で笑い始めました。 ダンはことあるごとにランスの代行をします。 もちろん指令官職も視野に入れていますが、かなり保守的な攻撃となるので、戦いにおいてはそれほど起用することはありません。 ダンは早速立ち上がって、セイラを歓迎しました。 ですがセイラはランスと話しをすることを望んでいるのですが、「本当にいいんだな?」とダンに念押しされて、セイラは迷ってしまったようです。 「もし失敗すると、ここから消える…」「わかってるわよっ!!」と言って、明日は出撃するとだけ言って、憤慨した様相でセイラは黒い扉をくぐっていきました。 「ダメダメだな…」とランスはあきれたように言いました。 「ああ、あれじゃあダメだな」とダンもランスに同意しました。 「でも、くぐってきちゃったよね?」とサンサンは少しうれしそうにサンドルフに言いました。 「でも、その先が難しいよ…  まだまだ修行不足だと思うんだよねぇー…  それに、どうやって修行をすればいいのかもわかんないからね…」 サンドルフが言うと、サンサンは住良木を見ています。 「話だけでもしておこうかなぁー…」とサンドルフが言ってすぐに、サンサンはもうすでに住良木の目の前に立っていました。 「セイラさんを、昔のセイラさんに戻して欲しいのっ!!」とサンサンは住良木に願いをかけるように言いました。 住良木は笑顔で、「そうしよう、それを俺の修行にしよう」と簡単に同意を得ることができました。 住良木はサンサンに笑みを向けています。 サンサンもサンドルフも大いに住良木に感謝しました。 ランスは三人を笑顔で見ているだけでした。 … … … … … 翌日の朝、セイラがサンダイス星に訪れてからずっと、住良木はセイラに付きっ切りになっています。 もちろん、愛の言葉などはまったく交わしません。 ですがその内容は、3年前についてのことばかりです。 セイラはランスと向き合いたかったのですが、やはり一瞬にしてサンダイス星を追い出されてしまうという恐怖が襲っていたのです。 住良木を隠れ蓑にして、ランスを見ておこうと、セイラは思ったようです。 セイラは早百合の班ではなく、皇大樹の班に配属になりました。 セイラは当然、後方支援だと知っています。 そして、ランスに楯突くわけにはいかないのです。 セイラはかなりがっかりとして、住良木に気のない返事を返すばかりです。 ですが住良木はまったく態度を変えません。 もちろん、住良木から話しかけているので、くじけるわけにもいきませんし、これは最大級の精神修行だと言わんばかりです。 しかし、もしセイラが住良木を完全に無視した時は、でしゃばることをやめようと思っています。 しかしセイラは、住良木の言葉をきちんと聞いています。 そして、住良木に夢中だったあの頃のことも思い出しています。 「あ、ちあきちゃん…」とセイラが言うと住良木は、「少しだけ強くなったぞ」とだけ、笑みを浮かべて言いました。 ちあきは、住良木が専属のボディーガードとしてついていた令嬢です。 ほんの短い時間で、ちあきは住良木を父としました。 そしてセイラを母と思うようになったのです。 ―― 私… すごく強かったのに… ―― とセイラは考え込んでしまいました。 やはりグレラスの裏切りが、セイラの人格をも完全に塗り替えてしまったのです。 「私… ちあきちゃんに会った方がいいと思う…」 セイラが言うと、住良木は何も言わずに笑顔でうなづいています。 「実は俺も、かなり長い間会っていないんだよ。  ちあきのガードは西條に任せっきりだ」 住良木はかなりバツが悪そうな顔をしました。 「ダメなお父さんだわ…」と言ってから、セイラは始めて住良木に笑みを向けました。 「ふー… 多分もう大丈夫…」とサンドルフが言うと、サンサンも笑みを浮かべています。 「急ぐことはないから…」とサンサンは願うようにつぶやきました。 今回、ランスの要望で、サンドルフもサンサンも後方支援として、魔王軍に参加しています。 ですがサンサンは、後方支援といえども攻撃はできません。 しかもサンサン自ら攻撃はしたくないと、ランスにはっきりと告げています。 ランスは顔色を変えることなくそれを了承しています。 よってサンサンは雑用係兼自然な癒やしを担当します。 これこそがサンサンの真骨頂なのです。 天使たちもそろそろ旅に連れて行く動きもあります。 ですが肝心の蓮迦を軍に加えるわけにはいかないのです。 隊員同士の恋愛はご法度。 これはランスが決めた法律です。 どれほど鍛えていても、まず第一にわが恋人。 そして周りに疎まれたりすることもランスが嫌っているのです。 男女間のトラブルは、軍に災いしか呼ばないのです。 それをさせないための法律なのです。 もちろんサンサンも例外ではなく、出撃前にランスの審査を受けて合格をもらっています。 さらには、サンサンはランス付きの後方支援なので、常にランスのそばにいる必要があるのです。 サンサンはサンダイス星に、サンドルフへの恋心は置いてきているのです。 今回の旅も、内戦の鎮圧と星の正常化です。 今見えている星は、どこもかしこもどんよりと曇っています。 まるで数年前のセルラ星のように、いたるところで戦いが繰り広げられているのです。 「今回はかなり忙しいぞ。  戦場は…  全部で58だ」 うんざりしたいところですが、戦士たちは背筋を伸ばしました。 「よって、全て簡単に済ませて移動する。  武器さえ壊せば、逃げ惑うことになるはずだからな。  ただし、素手で殴り始めたら放っておいていいぞ」 ランスが言うと、戦士たちは少し笑いました。 まずは一番大きい戦いから止めにはいることになりました。 この星の主な武器は、剣、槍、弓です。 投石器などもありますが、砦攻略に使うためのものです。 特に作戦はなく、ランスが宣戦布告を行なったと同時に、両軍の武器、防具だけを正確に壊すだけです。 あまりのことに、両軍ともに自軍の砦に引き上げました。 ですがまだ武器は砦の中にたんまりとあります。 ここで勇者の登場です。 主に武器庫を解体して、武器を宙に浮かせてハイビームで一斉攻撃をしました。 まるで神に、『戦うな』と言われたと感じた兵士たちは、地面に腰を落としてしまいました。 「…魔王軍と言ったよな…」と兵士のひとりが言うと、「…あ…」と今更ながらに驚きの顔を見合わせました。 「よーし、成功ぉー…」とランスは言って笑みを浮かべました。 魔王軍は丁寧に戦いではなく作業のように、戦地を次々と替え、武器だけを壊し始めました。 「おっ! 銃を持ってるぜっ!!」とランスが言いましたが、それほど威力も精度も高くない、試作品のようなものでした。 「あれは危険だからな、粉々にしろぉー…」とランスは魔王のように言いました。 この戦地でも、魔王軍が現れたと聞き、自ら武器を全て放棄しました。 そして魔王軍は武器を全て壊しました。 少々時間はかかりましたが、すべての戦いを止めた魔王軍は、見晴らしのいい丘で昼食にすることになりました。 もうどこにも火の手は上がっていません。 この星が自然を取り戻せば、とても素晴らしい場所ばかりなのです。 まさに自然の芸術品です。 ですがこの星は蝕まれています。 火山が増えすぎて、大気の上昇が激しくなっているのです。 ですが科学技術を持っていないおかげで、自然がそれを抑え込んでいました。 ランスは休憩しながらも、星の状態を確認して必要ない火山などを全て止めてから、緑のオーラを流しました。 「うわぁー…」とサンサンが感激の声を上げました。 辺り一面が、濃い緑に覆われたのです。 ここはまさに芸術作品でした。 「戦いの原因は食料だけにあると言っていいな」 ダンの調査報告を聞いてランスは笑顔でうなづいています。 「やせた土地が多すぎて、まともな食料が育たない」 ランスが言うと、誰もがうなづいています。 「食後は龍を中心に作業だ」 ランスのひと言はキャサリンを喜々とさせました。 その反面、セイラは落ち込みを隠せません。 セイラの術でしかなかったキャサリンがランスに見込まれていることに、うらやましさを感じました。 「…いけないことなのに、なつかしい…」とセイラは薄笑みを浮かべて言いました。 「この星で、セイラのできることを見出してみてもいいと思うね」 住良木が言うと、セイラは表情を変えずにうなづきました。 セイラも勇者なので、それなりの力はあります。 そしてわずかな勇者だけが持つ、その勇者独自の術もセイラは持っています。 これは攻撃的なものではなく、人助けとして使えるものです。 今はいなくなってしまった、混沌の龍の妖精とよく似た能力で、助けを求めるものたちの声が聞こえるのです。 まさに勇者のための能力と言っても過言ではありません。 セイラは気功術にも長けているので、魂を探ればその場所の詳細な特定も可能です。 話しを聞いた住良木は、ダンと大樹に相談するとセイラに言いましたが、セイラ自らがふたりに報告しました。 そしてダンはランスを交えて会議が始まり、ダンと大樹の班は人助けに尽力することに決まりました。 食事が終わり、セイラが術を発動するととんでもない数の救いを求める声がセイラの頭を過ぎりました。 重要度が高い者にロックオンしてセイラが飛び立つと、ダンたちもそれに従うように飛び立ちました。 「サンドルフッ!!」とランスが叫ぶと同時に、サンドルフは笑みを浮かべてダンたちを追いかけました。 「…あー、いいなぁー…」とサンサンはついついつぶやいてしまいました。 「おまえはこっちの癒やし担当だ」と言って、ランスはサンサンの頭をなでています。 セイラの飛行速度は尋常ではありません。 ですがそれほど重要度が高いと思い、ダンたちは歯を食いしばってセイラを追いかけます。 ダンたちもこれが初めての経験ではありません。 セイラは三年前に混沌の龍の妖精に変身し時に、人助けと同時に数多ある戦争も全てひとりで止めたのです。 それだけで平和にはなりませんでしたが、平和になる切欠をセイラが作ったのです。 どう考えても盗賊が人々を襲ってる場所にたどり着き、セイラはハイビームを使って武器を全て粉砕しました。 助けを発信していた主を助けることができましたが、大勢の人たちが地面に倒れています。 「フローラ、お願いっ!!」とセイラが叫ぶと、セイラの体の中から一匹の獰猛そうですが小さな猫が現れ、『ニャンッ!!』と小気味よく鳴いてから、命に関わる重傷を負った者の体に入っていきました。 それは数秒のことで、セイラにフラーラが戻ってすぐにセイラは飛び立ちました。 ダンは数人に指示を与えてからセイラを追いかけます。 初めての体験ではないので、ダンは要領は得ています。 大樹もダンに続きましたが、セイラを見失いそうになります。 ですがサンドルフがダンたちを先導するように前に出ました。 「助かったっ!!」とダンが言うと、サンドルフは一瞬振り返って笑みを浮かべています。 セイラはもう何十も人助けに奔走しています。 しかしまだまだ困っている人は大勢いるようなのです。 ですが、セイラは休むことなく飛び続けます。 当然この星中の助けを求める声なので、今まで助けた数倍の助けを求める声が聞こえるのです。 サンドルフはセイラに遅れないように、ダンたちの先導役を勤めます。 ですが、命に関わる助けは少なくなったようで、セイラは少しだけペースを落としました。 しかし、ダンも大樹ももうすでに憔悴の域を超えていますが、勇者の心得を思い出し、歯を食いしばってセイラとサンドルフを追いかけます。 ダンと大樹の位置を知った救助班だった者たちが次々と合流してきます。 ですが半数ほどは目に見えて憔悴しています。 するとサンドルフが振り返りざまに、ハイビームのようなものをダンたちにぶつけました。 「…うっ!!」とダンたちはうめきましたが、「気功術を飛ばしたのかっ!!」とダンが叫び、そして体力も精神力も元に戻っていることを知りました。 「なんてやつだ…」とダンはつぶやいてからサンドルフに大声で礼を言いました。 ―― まだまだ甘いっ!! ―― とダンは自分自身を戒めました。 全てが終わったのは夕暮れ近くになった時です。 さすがのセイラも、もう立っているのがやっとでした。 「すごいですね、セイラさん」とサンドルフが言うとセイラは、「…ああ、ランス…」と言ってサンドルフに歩み寄ってきましたが、倒れそうな足取りです。 素早く住良木がセイラを支えましたが、その助けと想いを振り切って、サンドルフに歩み続けています。 「僕、お師匠様じゃないんだけど…」とサンドルフが困った顔で言うと、セイラは眼が覚めたようで、苦笑いを浮かべて、地面に崩れ落ちそうになりました。 住良木がやさしく抱きしめるとセイラは、「…ありがとう…」とだけ言って、意識を失いました。 サンドルフが気功術でほんの少しだけ、セイラの体力と精神力を復活させました。 完全に目覚めてしまうと、また無謀にも飛び立つだろうと思ったからです。 セイラは意識を取り戻しましたが朦朧としているようです。 「さあ、本隊に戻りましょう」とサンドルフが言うと住良木は、「役得だな」と少し笑って言って、セイラをしっかりと抱きしめて宙に浮かびました。 住良木は能力者でも勇者でもないので、地力で空を飛ぶことはできません。 ですので、細田製のスーツを着ているのです。 このスーツは防御と空を飛ぶ機能も兼ね備えています。 「住良木さんって、あきれるほど体力あるんですね」とサンドルフが言いました。 ダンたちには気功術を飛ばして回復させたのですが、住良木にだけは飛ばしていなかったのです。 「やせ我慢だよ」と住良木は言って少し笑いました。 サンドルフも笑みを浮かべて宙に浮き、本隊を目指して飛びました。 ダンたちとも合流して、セイラを守るようにして併走を始めました。 「セイラ、なかなかすげえな。  胸がなくなって運命が変わったんだろうなっ!」 ランスが大声で言って大笑いを始めました。 セイラは朦朧としながらも、ランスをにらみつけています。 「この三年間のセイラはもういない。  新しい本来の道を進むべきだ」 ランスの言葉はセイラだけでなく住良木の後押しをするものでもありました。 ですが住良木はセイラに向けて笑みを浮かべているだけです。 「…わかったわ…」とだけ言って、セイラはランスから視線を外しました。 「この程度で手助けがいるようじゃあ、俺のそばにはいられない。  デヴィラ、蓮迦、イザーニャはおまえの倍ほど活躍するぜ。  特にイザーニャは、おまえのように倒れても、  ダイゾに変身するからな。  これ以上に安心することはねえんだよ」 ランスの言葉はセイラの心に激しく衝撃を与えました。 「…私って、普通の人、だったんだぁー…」と言って涙を流してます。 「それ相応の相手を見つけな」とランスは冷たく言いました。 「今度言い寄ってきたら、立ち上がれねえほどにぶっ飛ばすっ!!」 ランスの本気の気迫のこもった言葉に、サンサンはおろおろとしています。 「…顔の形まで変えられそうだわ…」とセイラは言ってから、住良木を強く抱きしめました。 「…明日、ちあきちゃんに会いに行くわ…」とセイラが言うと、「ああ、よろしく頼む」と住良木は笑顔で答えました。 サンサンはウルウルとしながらも、乙女が祈りを捧げるポーズを取って感動しています。 「…ああ、戦場での恋は美しい…」とサンサンが言うと、「それ、ご法度なんだけど…」とサンドルフに軽く言い返されて、サンサンはホホを膨らませました。 「サンドルフの言った通りだ。  セイラは許可するまで除隊な」 ランスが言うとセイラは、「…わかったわ…」とだけ言って、瞳を閉じました。 ランスたちの星再生の仕事はもう終っていました。 すると、どうやってこの地まで来たのか、各国の王たちが魔王に謁見しようと砂煙ならぬ草煙を上げて迫ってきています。 ランスはにやりと笑ってサンダイスに変身しました。 変身といっても、ランスの人間である本来の姿がサンダイスなのです。 サンダイスは身の丈15メートルに達しています。 数百メートル離れていてもサンダイスの姿は確認できるはずです。 よって、一番近くにいた王たちの行進は一斉に止まり、どうしようかと思案を始めたようです。 まさにサンダイスの存在感は魔王そのものです。 何も言わなくても、一国の主であればわからないはずはないのです。 「ふーん… 魔王を倒そうっていうやつもいるな…  踏んづけてもいい?」 サンダイスはサンサンとそしてサラを見て言いました。 「ダメに決まってますっ!!」「ダメに決まってますぅー…」とサラとサンサンに簡単にとめられたサンダイスは、「そうだよなっ!!」と言って、大声で笑い始めました。 その太くて響く笑い声がかなり怖かったようで、王たちは引き返す者が続出しました。 怒りに触れると、どうなるかわかったものではないとでも思ったのでしょう。 しかし興味本位の者と、この先の展望を企む者、さらには純粋に魔王に礼を言おうという王たち10人ほどが、サンダイスを遠くから見ています。 「来るのならさっさと来いっ!!」とサンダイスが叫ぶと、まず乗っていた動物たちが一斉にサンダイスから離れて行きました。 「この状況で戻ってきた者がこの星の主、とか…」とサンダイスが言うと、「それもありだな」とマキシミリアンが答えました。 サラは困った顔をサンダイスに向けましたが、サンサンは笑顔を向けています。 「おっ! 意見が分かれたなっ!!」とサンダイスは愉快そうに、サラとサンサンを見ています。 「ひとりだけっ!  きっと、いい星にしてくれるって思うから…」 サンサンが笑みを浮かべていうと、サンダイスはサンサンをひょいと摘まんで、肩に乗せました。 「サラは留守番な」とサンダイスが言うとサラは、「はい、いってらっしゃい、お爺様」と言いましたが、少し悔しそうです。 「強くてね、やさしいのっ!  あ、でもね…」 サンサンが杞憂があるような憂いに帯びた表情をしました。 「以前の結城のように優しすぎる」とサンドルフがいうとサンサンは、「うん…」と言って小さくうなづきました。 「誰か残すか、教育係…」とサンダイスは言ってからにやりと笑いました。 このようなことは今回が初めてではありません。 この宇宙の元のランスの仲間と言ってもいい、嫌がっていたサーリアも二週間ほど星に留め置いたことがあります。 サンダイスが歩を進めるたびに、動物たちは遠のいていきます。 ですが、ひとりの王が動物から降りて、かなりのスピードで、サンダイスを目指して走ってきました。 「スーザンヌ王、待たれよっ!!」という衛兵の制止も聞かずに、一目散にサンダイスだけを見据えて走ってきます。 「なんだか、戦いを挑まれているように感じるが…」 「気持ちはね、そうなの。  だけど、平和なのっ!」 サンサンがいうと、サンダイスは大きくうなづきました。 「能力者のようだが、少々弱い。  だが、タフだな」 サンダイスが言い切ったあと、スーザンヌという王は、サンダイスに片ひざをついて頭を垂れました。 「キース国王のスーザンヌ・パレ・シーダと申すっ!!」とスーザンヌは自己紹介をしてから顔を上げました。 「俺はその行為は好まんっ!!」 サンダイスが怒ったようにいうと、スーザンヌはすぐに立ち上がりました。 「申し訳ない」「謝る必要はないな」 サンダイスはスーザンヌの言葉にすぐに返答しました。 「俺は全てもものを壊す習性を持っているが、  そのような者におまえは頭を下げるのかっ!!」 サンダイスが厳しい言葉を投げかけるとスーザンヌは、「その通りかも知れぬが、大勢の者を助けたっ!」とさも当然のように答えました。 「なるほどな、おまえとは話しをしてもいいと思った。  …ほかに来る者はいないのかっ!!」 サンダイスが叫ぶと、動物から降りてくる勇気ある王はいないようで、動物がサンダイスを離れるがままに遠ざかって行きました。 「他愛のない…  しかも、おまえは部下のしつけもなっていないようだな」 スーザンヌの衛兵たちも、ほかの王と同じく遠ざかっていきます。 しかしひとりだけ、やけにめんどくさそうにして歩いてくる者がいます。 「おまえの騎士か?」とサンダイスが遠くを見ていうと、「…まあな…」と言って苦笑いを浮かべました。 「能力者…  勇者にはなれそうにないな。  あまりにも横柄過ぎる。  多少は謙虚な気持ちにならないと、勇者にはなれない」 勇者になるためのこの条件は初耳だったようでスーザンヌは、「ご教授、ありがたくっ!」と言って少しだけ頭を下げました。 サンダイスはサイコキネッシスを使って、歩いてくる男をこっけいに躍らせて操りながら、スーザンヌのとなりに立たせました。 さすがに男は驚いたようで、「怖ええ…」と言ってサンダイスを一瞬だけ見てから、素知らぬふりを決め込みました。 「…おまえ、生意気だから踏み潰すっ!!」とサンダイスが言うと、さすがにまずいと思ったのか、男は直立の姿勢を取りました。 サンダイスが大声で笑うと、男は口角を上げて、笑っているのか嘆いているのかわからない顔をしています。 「僕であれば、王のそばを離れるな」 サンダイスがごく普通に言うと、「はっ、これからはいかなる時も寄り添いましょう」と男はにやりと笑みを浮かべました。 「やっぱり、踏み潰す…」と言って、サンダイスは右足を大きく上げてから、大地を踏みしめました。 『ドオオオオンッ!!』という途轍もない音とともに、地面が1メートルほどくぼみました。 男はさすがに怖くなったようで、「あ、臨機応変に…」と言い換えてサンダイスに頭を垂れました。 「わかればそれでいい」とサンダイスが言うと、男はほっとしたようです。 さすがにスーザンヌも、今のサンダイスに畏れを抱いたようです。 腰を抜かすことはないようなのですが、何とか立っていられるだけです。 「昔の俺はな、言う前にやっていたぞ」 サンダイスが言うと、目前のふたりはさらにサンダイスに怯えたようです。 「それではいかん言ってな、孫娘がオレに教育をしたんだ」 サンダイスが言うと、男はサンサンを見ましたが、スーザンヌは遠くにいるサラを見ているようです。 サンダイスはスーザンヌを見て、「なぜわかった?」と聞くと、「はい、妙に悔しそうなので、そうなのかと…」とスーザンヌは答えました。 「なるほどな、人を見る目は十分にあるが、やさしすぎるのが欠点。  それを正していたのが、おまえの騎士」 サンダイスが言うと、男は苦笑いを浮かべたまま、うなづいています。 今声にすると、何を言っているのかわからないはずと、男は感じていたようです。 「そのままでいいと思うけど…」とサンダイスはサンサンに聞きました。 サンサンは少し考えて、「相手の想いを叶えすぎっ!!」と言って、スーザンヌにとって厳しい言葉を投げかけました。 「ま、その行為は毒でしかないな」 サンダイスが言うと、スーザンヌは見透かされたと思い、深く頭を垂れました。 「改めよ。  次にきた時に変わっていなかったら、踏み潰すっ!!」 サンダイスが豪快に笑うと、「意に適うように変わろうぞっ!!」とスーザンヌは気合を込めて言いました。 「この星、そなたたちに託す。  あ、教育係、いる?」 サンダイスがかなりフランクに言うと、ふたりは度肝を抜かれたようですがスーザンヌが、「はいっ! ぜひともっ!!」と言って笑顔でサンダイスに言いました。 「俺の父を置いていく。  期間限定だからな、遠慮なく教えを乞え」 サンダイスが言うと、スーザンヌと男は顔を見合わせてから、恐る恐るサンダイスを見ました。 「デゴイラッ!!」とサンダイスが叫ぶと、「ええっ?!」とスーザンヌもそして男も驚きの声を上げました。 「有名人だから、知っていても当然だが、別人になっているからな」 サンダイスがうと、「じゃ、じゃあ… ランス・セイント…」と男が言いました。 サンダイスはランスの姿に変身しました。 「うわぁー…」と言って、男は頭を抱え込みました。 そしてランスの背後にいるデゴイラを見て一瞬怪訝そうな顔をしましたが、その存在感がデゴイラだと気づいたようです。 「ふん、根性なしが…」とデゴイラは言いました。 ランスはにやりと笑っています。 男は態度を一変して、「俺、ほかの国に…」などと言い始めましたが、これはこの男のユーモアです。 「逃げたと思ったらこんなところにいたか、ダレス…」とデゴイラは言って苦笑いを浮かべました。 「次は逃げられん。  覚悟しておいた方がいいな」 デゴイラが言うと、ダレスは諦めたように頭を垂れました。 「俺と入れ替わり?」とランスがデゴイラに聞くと、「ああ、そうだ」とデゴイラは苦笑いを浮かべて言いました。 「宇宙船は… ああ、隠してあるな…  壊しておこう…」 デゴイラが言うと、ダレスは今にも泣きそうな顔をしています。 もっともこの星には星間連絡船もあるので、逃げようと思えば逃げられます。 しかしダレスは数年前の修行を再開する決心をしたようです。 魔王からは誰も逃げられないと、半分諦めたようです。 「この星はいい星だから、デゴイラの故郷にしてもいいぜ」とランスが言うと、「隠居にはまだ早い」とデゴイラは苦笑いを浮かべて言いました。 期間を7日間と決めて、デゴイラはこの星に留まることに決まりました。 この星の騒動は一旦終結しましたが、小さなこととしてはまだまだやることはあるので、デゴイラが暇になることはないはずです。 さらに、この星の長として、スーザンヌを立てることを気に入らない者たちもいるはずです。 当然デゴイラは様々な覚悟を持って、この星に留まるのです。 … … … … … ランスたちは宇宙船に乗り込んで、サンダイス星に戻りました。 食堂には、手ぐすねを引いて待っているメリスンが笑顔でランスたちを迎え入れました。 ですが、半数以上は憔悴し切っていて、セイラは住良木に抱えられている状態だったので、「先にお風呂、いってらっしゃい」とやさしい笑みでメリスンは言いました。 この顔は真の優しさと、セイラが本気で戦ったうれしさからきていると、サンサンは思って、メリスンに抱きつきました。 「すっごくやさしいっ!!」とサンサンがいうとメリスンは、「そうね、本当のセイラを久しぶりに見た気がしたからかな?」とメリスンは笑みを浮かべてサンサンを抱きしめました。 「あー、力持ちだぁー…」とサンサンがいうと、「うふふ…」とメリスンは意味ありげに笑いました。 サンサンは不思議そうな顔をして、メリスンから離れました。 「サンドルフ君ならわかってるかもなぁー…」とメリスンが言うと、それだけでサンサンはうれしいようで、メリスンに手を振ってから、ランスたちの後を追いかけました。 風呂場で、まだ10才ほどなのですが女のにおいがぷんぷんするサンサンがサンドルフを見上げています。 「…また悪巧み?」とサンドルフが苦笑いを浮かべていうと、魔王が大声で笑い始めました。 もちろん、魔王はサンサンの、『サンドルフと結婚する!騒動』を知っているからです。 サンサンは少しふてくされた顔をしましたが、すぐに思い直して、「メリスンさんって、私の重さをあまり感じていないようで…」と言うと、サンドルフは驚きもせず、「ああ、なるほどね」とごく普通に言いました。 魔王はまったくわからないので、怪訝そうな目をサンドルフに向けています。 「人間の方の母ちゃんは普通に女性だぞ。  まあ、そこらにいる女性とはかなり違うけど…」 魔王が言うと、サンサンもサンドルフもうなづいています。 「ドラゴンスレーヤーを持つ資格…」とサンドルフが言うと、サンサンはすぐに納得しました。 「これはお師匠様も同じ事をしているって感じたんだよねー」とサンドルフは笑みを浮かべて言いました。 「その証拠だけど…」とサンドルフが言うとサンクックが現れてその証拠映像を出しました。 その証拠はランスとメリスンの足元にありました。 「僕がサンサンを抱き上げている映像と比較すれば簡単にわかるよ」とサンドルフが言うと、サンサンは少しホホを赤らめました。 「…うわっ! その通り…」と魔王は言って納得したようです。 当然、サンサンも気づいたようです。 「芝が、つぶれてないっ!」とサンサンは元気よく言うと、「いつ撮ったの?」と言ってサンドルフはサンクックに聞いています。 「あ、色々と撮っておけば参考になるかなーって、思って…」とサンクックが言うと、サンドルフは笑顔でサンクックをほめました。 「答え、聞いてくれた?」とサンサンは少し怒ってサンドルフに言いました。 「そんなの、わからない方がおかしいよ」とサンドルフに冷たく言われて、サンサンはがっくりと肩を落としました。 「サイコキネッシスも考えたんだけどね、  発動した形跡は見当たらなかったんだよ。  だから、自分ルールで、サンサンは子供、  などと決め付けた術を発動していたって思うんだ。  メリスンさんならきっとその程度ならできるって思うんだよねぇー」 サンドルフが言うと、「あ、俺もかっ?!」と魔王が言って、さらに自分の母を理解できたと思い、喜んでいます。 「きっと、魔王君の術に便乗させたんだろうね。  お師匠様は古い神の術にでもあるんじゃない?」 サンドルフが言うと、サンサンと魔王は仲間たちに囲まれているランスを見ました。 「だからこそ、メリスンさんはかなり不思議な存在なんだ。  でもね、ボクの予感だけど…」 サンドルフが言うと、サンサンも魔王も、これ以上ない位置までサンドルフに顔を近づけました。 「いや、別に内緒話でもないから…」「…早く言えぇー…」と魔王が間髪入れずに畏れを流して言いました。 「メリスンさんも古い神の一族の一員だと思ってるんだ」 サンドルフが言うと、サンサンも魔王も、「はぁー…」と息を吐き出しました。 「一番古い神の子供たちはもうみんな判明している。  だけどね、まだいたんじゃないかって思ってるんだよ。  結城さんが知らない人もいたようだからね。  さらには、一番古い神のカミサン様は、結城さんたちが旅立った後に、  何人か産んでいるからね。  さらには、カミサン様は自分の持っていた術の譲渡をするという、  お師匠様が言うには蛮行をしていたって聞いたんだ。  これって、自分の体を子供に分け与えることと同じなんだよ。  だから、結城さんはカミサン様よりもかなり強いんだ。  ゼンドラド師匠も同じだね。  さらにはお師匠様も」 サンサンも魔王も、かなり勉強になったようで、サンドルフに深く頭を下げました。 「そして、メリスンさんがそれを隠す理由もあるよね?」とサンドルフが言うと、またふたりはサンドルフに最接近しました。 「それは僕にもわからない」とサンドルフが言うと、ふたりはサンドルフをにらみつけました。 「だけどね、想像はつくでしょ?」とサンドルフが言うと、またふたりはサンドルフに近づこうとしましたが、今度は自分で考えることにしました。 「嫌われたことがある…」とサンサンが言うと、「あるだろうね」とサンドルフは答えました。 「頼られてしまう」と魔王が言うと、「大いにあるね!」とサンドルフは少し声を上げて言いました。 サンサンは気に入らないようで、少しホホを膨らませています。 「ほかには?」とサンドルフが言うと、またふたりは考え始めました。 サンドルフはふたりを見て笑みを浮かべました。 「結局はね、過去の記憶が、メリスンさんに隠させているんだよ。  ということはね…」 サンドルフが言うとサンサンはわかったようで、満面の笑みを浮かべています。 ですが、魔王が考えているので、答えは言わないことに決めました。 「おいおい…」という声がして、三人はかなり驚きました。 ランスが驚きの顔をサンドルフに向けていたのです。 「…あ、言っちゃあいけねえんだよな?」とランスは魔王に顔を向けて言いました。 「ランスさんもわかった…  知っていたんですか?」 魔王は10才程度の言葉でランスに問いかけました。 ランスは苦笑いを浮かべて、首を横に振りました。 「わかったのはサンドルフの問答の途中でだ」とランスが答えると、サンサンは飛び跳ねながらサンドルフの腕を抱え込みました。 すると業を煮やしたようで、カレンが光速で移動してきて、ふたりを素早く引き剥がしました。 「両思いなのに…」「そんな話は聞いていませんっ!」とカレンは間髪入れずにサンサンに言いました。 「僕はいろんな意味でふたりとも好きだよ」とサンドルフが言うと、サンサンもカレンもかなり気に入らないようで、サンドルフをにらみつけました。 「…会話の趣旨を変えてるんじゃあねえぞぉー…」と魔王が言うと、カレンはかなり怯えて、サンドルフの影に隠れました。 サンサンは笑顔ですが、カレンがサンドルフの背後からよからぬことをするのではないかと警戒しているようです。 「魔王、宿題なっ!」とランスは言ってから、仲間たちの下に戻っていきました。 「…うう、宿題になっちまった…」と魔王は肩を落として言いました。 宿題ということは、サンドルフとサンサンから聞いてはいけないということなのです。 魔王は、「これも修行?」とサンドルフとサンサンを見て言いました。 ふたりは笑顔でうなづいています。 「ねえねえ、何の話?」と言って、カレンは背後からサンドルフを覗き込みました。 「…胸がねえ…」とサンドルフはランスの口マネをして言いました。 「あんた、なぐるよ…」とカレンは言って苦笑いで怒りを表現しています。 サンサンはかなり面白かったようで、大声で笑い始めました。 魔王はそれどころではないようで、宿題をまだ考えています。 「カレンに胸がないことについて話し合おうか」とサンドルフが言うと、カレンはついに怒って、サンドルフの下を離れていきました。 「ま、話してもいいんだけどね。  知らなくてもいいって思うし」 サンドルフが言うとサンサンは、「それで、怒らせちゃったの?」と言って驚きの顔をサンドルフに向けています。 「この程度で嫌われるのなら、  僕のことってそれほど好きじゃないって思うよ」 サンドルフの言ったことはもっともなことだと、サンサンは理解してからうなづきました。 「…私、あんまりサンドルフ君に触れない方がいいのかなぁー…」 サンサンが言うとサンドルフは、「サンサンに任せるよっ!」と陽気に答えました。 サンサンは自分の感情を少し抑えて、サンドルフと付き合おうと決心したようです。 夕食の席で、メリスンが意味ありげな視線をサンサンとサンドルフに送っています。 心当たりは大いにあるので、食事を終えたふたりはカウンター席に行きました。 するとメリスンが素早く二人の手を取って、まずは天高く飛び上がり、囲いの外までやってきました。 「…わかっちゃったの?」とメリスンが言いましたが、何を答えればいいのかサンドルフにはよくわかりません。 「あのー、できれば少し具体的に…」とサンドルフが申し訳なさそうな顔をして言うとメリスンは、「ふっ…」と息を吐いてから、「私は古い神の一族」と単刀直入に答えました。 「はあ、なるほど。  ですが、隠さないといけないことなんですか?」 サンドルフがごく自然に言うと、「やっぱり… 知っていたけどほとんど勘…」とメリスンが言うと、サンドルフは笑顔でうなづきました。 「それしか思い当たらなかったんですよ。  さらには能力が高すぎるか、  もしくは大失敗をしてしまった、とか…」 サンドルフが言うと、大失敗の件はサンサンは思い当たらなかったので、かなり驚いています。 「両方っ!!」と言って、メリスンは笑い始めました。 サンドルフとサンサンは苦笑いを向け合っています。 「結城さんも私のことは探ってこないの。  私が話しを切り出すのを待っているって感じね」 メリスンが言うと、サンドルフは感慨深く思いうなづきました。 「私の父はね、幼稚園にいるの」 「あっ!!」と言って、サンドルフは今そのことに気づきました。 ですがサンサンは、まったく違うことを考えていて混乱を始めました。 「巌剛先生じゃないよ」とサンドルフが言うと、「えっ?」と言ってサンサンは驚きの顔をサンドルフに向けました。 巌剛はイザーニャの元夫なのです。 ですがあまりにも天使イザーニャの欲が深いので、話し合った上で離婚したのです。 ですが巌剛は父と慕ってくれる園児たちと離れることはできなかったので、今までと何も変わらず勤務しています。 巌剛は世界の騎士団でもトップクラスの猛者ですので、園児たちはその強さに憧れを持っています。 大人の男性は幼稚園には巌剛か幼児姿の佐藤しかいません。 サンサンはそう認識していましたが、実は違うのです。 「テラルカ君…」とサンドルフが言うと、サンサンはさらに驚いています。 サンサンはテラルカの過去のことをまったく知らないようです。 「テラルカ君はね、本当の古い神の一族の初めに生まれた人なんだよ」 サンドルフがサンサンに言いましたが、サンサンはどういうことなのかよく理解できないようです。 「テラルカ君はね、黒い天使服を着て、天使になっちゃったんだよ。  本人に脱ぐ意思はないし、もう脱げないって思う。  その理由はね、悪い心を持ってしまったので、  結城さんが封印の代わりに、  テラルカ君に黒い天使服を差し出したんだよ」 「…あー…」と言って、サンサンはようやく理解できたようです。 「その通り。  ランス君に聞いたの?」 「あ、いえ、サンクックからですよ」とサンドルフが言うと、メリスンはすっかりと忘れていたようで、「私のお友達だから除外して考えていたわっ!!」と言って、大声で笑い始めました。 サンドルフはメリスンの気持ちをうれしく思ったようです。 「勉強家なのね」「不思議なことは調べておきたいだけです」 メリスンは納得して笑みを浮かべました。 「それにおしゃべりじゃないし、魔王にも伝えていない」 「僕の口からあまり言いたくなかっただけです。  ですので、お師匠様が宿題にしました」 サンドルフが答えると、メリスンはさらに愉快そうな顔をして、「さすがランスだわっ!!」と言って大声で笑っています。 「現在の宇宙の父は結城覇王さん。  以前の宇宙の父はテラルカ君。  ですので、もしテラルカ君が黒い天使服を脱いで逃げ出そうとしても、  結城さんやお師匠様たちに簡単に捕まっちゃうでしょうね」 サンドルフが言うと、メリスンは笑顔でうなづきました。 サンサンは宇宙の父のことを何も知らないのですが、会話の邪魔をしないように、今は黙っていることにしたようです。 「ですけど、ここで困った問題が発生しました」 サンドルフが言うと、メリスンはにっこりと微笑みました。 「どうやって覚醒したか」とメリスンが言った途端に、サンドルフは思い当たりました。 「はあ、念話だ…」「そう、正解よ」とメリスンは簡単にサンドルフの解答に答えました。 「私が奇行に走るといけないので、メリルが無理やり変わったの。  私を抑えられるのはメリルしかいないから」 「はあー、共存する意味があったんですねぇー…」とサンドルフはまた感慨深く言いました。 「話しをもちかけてきたのはメリルなの。  同化すれば、どんなことでもできるって。  …天使の夢見に行った時にね、  偶然出会った宇宙の母にお願いしてみたの。  すると、簡単に認められちゃったわ。  エッちゃんは全部お見通しだったって思うわ」 「はあー、さすが宇宙の母…」とサンドルフが言うとサンサンが、「やっぱり、すごい人だったんだぁー…」と感心しながら言いました。 「でも、欲はいただけないわよね」とメリスンがサンサンに笑みを向けると、「うんっ!」と言って元気にうなづきました。 「能力的にはね、カミサンよりもテラルカ君の方がかなり上なの。  だけど結城さんがそれを超越した強さを持っていたから、  まったくテラルカ君に悟られることなく、簡単に捕らえちゃったの。  私自身は混乱の最中だったからメリルの記憶だけどね」 「はあ…  契ると宇宙の終わり…」 サンドルフが言うとメリスンはうなづき、サンサンは驚愕の顔を浮かべて、手のひらで口を押さえつけました。 「知っていると思うけどね、  今の宇宙ってもう限界を超えていたらしいの。  だけどコツコツと悪を滅ぼして、  ようやくごく自然に生きていけるようになったの。  私も協力したいんだけどね、  どうしても昔の大失敗を思い出しちゃうの。  だからね、私、ランス君のことを尊敬しているの。  過去をすべて知ったのに、すごく朗らか。  乱暴なところがあるけど、節度を保っている。  最高のお父さんに出会えてよかったわね」 メリスンが感情を込めて言うと、サンサンは泣きながらメリスンを抱きしめました。 「あー、本当に癒やされるわぁー…」とメリスンは言って、涙を流しながらも笑みを浮かべています。 「だけどね、自信を持つために少しずつ修練は重ねているわ。  最近は夜も」 「ああ、願いの夢見…」とサンドルフが言うと、メリスンはうなづきました。 「僕はもう十分に理解できました。  貴重なお話し、ありがとうございました」 サンドルフはメリスンに頭を下げましたが、「カナエちゃんにもやったのよね、肩透かし」とメリスンが言うと、「いえ、自主的に話しをしてもらいたかっただけですから」とサンドルフはごく自然に言いました。 「罪の贖罪として伝えておくわ。  宇宙を壊しまくったのって、結城さんと麗子さんだけじゃないの。  そもそも、まず壊し始めたのは私なの」 サンサンもサンドルフもこの話には衝撃が走ったようで、ぼう然としてメリスンを見ています。 「原因はランス君が一番嫌がっていること。  私も、麗子さんと同じなの。  だからね、ふたりが戦い始めた時驚いちゃったの。  だからね、ある宇宙に、生物のいる星を移動させたの」 メリスンの言葉に、サンドルフは納得したようで、深くうなづきました。 「麗子さん、かなりずるいですね」とサンドルフが言うと、メリスンは少し笑いました。 「それが後ろめたさとして出ているのよ。  さらにはひねくれてしまった。  そろそろ、お灸をすえないと、元に戻れなくなると思うわよ。  私がやってもいいんだけどね。  だけどね、これは長兄の結城さんか  母親の悦子さんの仕事だと思っているの」 メリスンの言葉に、サンドルフはただただうなづいているだけです。 「麗子さん、どうすれば幸せになれるのかなぁー…」とサンサンは願いをかけるように言いました。 「唯一、サンサンが嫌いと断言したんですよ」とサンドルフが言うと、「はあ、もう手遅れなのかもね…」とメリスンは諦めたように言いました。 サンドルフもようやくそのことに気づきました。 サンサンに見放された者は、もうまともではないことを。 「でもね、前世ではかなり幸せだったのよ。  それにね、今生きているのは美奈世ちゃんのおかげなの」 美奈世は地球人であり、仏でもあり、さらには勇者でもあるのです。 そしてまたさらに、天使服を来て天使としてもこのセルラ星で活躍しているスーパーウーマンです。 癒やしを得意としていて、さらには医療技術も身につけています。 しかし猫のミーやセイラの飼っているフローラたちの出現により、今のところランスは旅に連れて行く気はないようですが、全てを機械任せにしてもいいのかという想いが、美奈世にもそしてランスにも十分にあります。 その美奈世が、麗子の運命の鍵を握っていたと知って、サンドルフは驚きを隠せませんでした。 「決して、美奈世さんはいいことをしたわけではない。  その真逆で欲を出した結果…」 「はい、大正解!  最近特にランス君に似てきたわね」 サンドルフはメリスンの言葉がかなりうれしかったようで、「ありがとうございますっ!!」と大声で言いました。 「この真実はね、麗子さんは知らないの。  というよりも、記憶が完全に消されているの。  普通だったら古い神の一族として覚醒できないはずだけど、  虚無の世界で失った記憶は除外されるようなの。  だけどね、私にははっきりとその欠損部分が見えるの。  麗子さんはね、転生して10回連続で結城さんと添い遂げたら、  消えようって願をかけていたの」 「消えるって、まさか…」 サンドルフは言うべきことを最後まで言いませんでした。 消えるとは、魂ごと消えてなくなるという意味なのです。 その願いは美奈世によって邪魔されたことにより、麗子は今もなお生きているのです。 「虚無の世界にいる時に決めたようなの。  だけどね、  9回も連続で添い遂げられたんだから  もういいじゃないって思うわよねっ!!」 メリスンは言ってから大声で笑いました。 サンドルフもサンサンも顔を見合わせて苦笑いを浮かべています。 「やっぱり、自分自身への罰…」とサンドルフが言うと、メリスンは深くうなづきました。 「そうしないと、彼女自身を許せなかったんでしょうね。  この話の証明をすれば、きっと麗子さんは眼が覚めるって思うけど、  その逆も考えられるので、あまり言いたくないの」 サンドルフは麗子の件についてはだんまりを押し通すことに決めました。 しかしランスにだけは伝えようと思った瞬間、そのランスがメリスンの背後にいました。 「あはは、内緒話だって、当然気づきますよね?」とサンドルフが言うと、「かなり気になったんだ、サンサンの感情…」とランスが言うと、サンサンはバツが悪そうな顔をしました。 ここはメリスンが全てをランスに話しました。 ランスは全てに納得して、食堂に戻っていきました。 「あー、怖かったぁー…」とサンドルフが言うと、「全然そんな風には見えなかったわよ」と言ってメリスンは笑い始めました。 「あはは…」と言ってサンドルフは愛想笑いを返しただけです。 三人は長い話しを終えることにして、食堂に戻りました。 席についてからサンサンは宇宙の父と母について、サンクックから説明を受けました。 サンドルフから聞きたかったようですが、サンクックが率先して、映像も出しながら熱心に説明してくれたので、丁寧にお礼を言いました。 「ふたりがいる意味がふたつあって、この宇宙の安寧とその逆の破壊…  その破壊も、再生するため…」 「ほんと、極端だよねっ!」とサンドルフは少し笑いながら言いました。 「だからエッちゃん先生は結城先生を諦めているんだね、今のところ…」 「はあ、今のところ」とサンサンはため息混じりで言いました。 「だけどね、セイラさんが宇宙の母をしていたこともあったんだよ。  それほどに高い能力をセイラさんは持っていたんだ。  だけどそれはセイラさんのご先祖様たちの助けがあってのことなんだ。  そのセイラさんは今は裸同然だけど、  生きる希望を見つけてくれてよかったって思うよ」 元気になったセイラは、今は食事をしながら住良木と話しに花を咲かせてます。 サンドルフにはセイラはランスへの思いは吹っ切れたと思っています。 「お師匠様、セルラ星に行ったようだね」 サンドルフが言うと、サンサンは辺りを見回して、ランスがいないことに気づきました。 今は麗子と直接対決をしているか、覇王やゼンドラドに相談を持ちかけているんだろうと察しました。 そのランスが、マキシミリアンから飛び出してきて、ほっと胸をなでおろしています。 ですが心からの喜びの笑顔ではないので、覇王に真実を告げただけのようです。 「あんた…」と言ってカレンがサンドルフを見下ろしていますが、「カレンちゃんっ!!」と言ってカナエがカレンを呼んだので、カレンはサンドルフをにらみ倒したまま、カナエのそばに行きました。 「あー、別によかったんだけど…  カナエさん、気を使ってくれたようだね」 サンドルフが言うと、サンサンは笑みをカナエに向けています。 「本当にやさしい…」とつぶやくようにサンサンは言いました。 今度はメリスンが店の厨房から消えました。 するとサンクックがひょっこりとサンドルフの影から顔だけを出しました。 「店番、お願いするよ」とサンドルフが言うと、「うんっ! 行ってくるねっ!」と言ってサンクックは素早く食堂の厨房に移動しました。 「あー、本格的に戦うみたいだけど…  メリスンさんには誰も勝てないって思う…  麗子さんもその程度のことは知っていると思うから、  無謀なことはしないと思うんだけど…」 サンドルフが言うとサンサンはその目の前から一瞬にしていなくなって、その体はランスの目の前にありました。 サンドルフはほっと胸をなでおろして、ランスに向かって歩いていきました。 「サンサンはここにいろ」とランスが厳しい言葉を告げると、サンサンはひどく落ち込みました。 「理由は簡単だ。  サンサンが人質になっちまうからだ」 ランスが言うとサンサンは反論することができませんでした。 ここは自分のわがままを押し通すべきではないと感じて、ランスに丁寧に謝りました。 「だが、見ておくことにしようか。  サンドルフはサンサンをしっかり捕まえておけよ」 ランスが言うとサンドルフは、「はいっ! お師匠様っ!!」と大声で言って、サンサンをまさに抱きしめています。 「あっあっ…」と言ってサンサンはかなり恥ずかしそうですが、うれしい感情をサンドルフに向けています。 カレンが超光速で移動しようとしたのですが、まったく移動できないことに気づきました。 カレンのその体は光に包まれています。 「ナイスだ、サンライズ」と言って、ランスはサンライズの頭をなでています。 「光の結界…」とサンドルフは振り返ってカレンを見ています。 「カレンよりも強い光は、カレンを封じ込められるんだよ」 ランスが言うと、サンドルフもサンサンも納得したようです。 カレンは一体どういうことなのか理解できずに、ひどく落ち込んでいます。 ですがカナエがやさしく説明を始めたようです。 「カナエはサンサンのためならなんだってするだろう。  だから俺が全てをカナエに話した。  そうすればこうやって、  簡単に平和を手に入れることができるんだよ」 「話しをするだけで平和に…」 ランスの言葉に感動したようで、サンサンはサンドルフからゆっくりとその身を放しました。 サンドルフは少し困ったようですが、ランスは笑顔でうなづいています。 コロネルがメリスンたちを映し出しました。 音声は聞こえませんが、画面にテロップとコロネルが口真似で通訳しています。 ゼンドラドは薄笑みを浮かべて瞳を閉じているだけですが、ランスの創った剣の柄を両手で逆手で握って、堂々とした様子で座っています。 覇王は少し憂鬱そうな顔をして麗子を見ています。 今の麗子は鬼の形相でした。 メリスンはその逆の顔をしています。 まさに女神といった穏やかな表情です。 「…なぜそんな作り話をする…」 「作ってなどいないわよ。  そんなことをする意味もないもの。  あなた自身にはわからないんだろうけど、  私にはわかるの。  面倒だから本当に魂ごと消えてもらってもいいのよ?」 メリスンが笑顔で発した言葉は、覇王に一番堪えたようで、深くうなだれました。 「ワシはそれでいいと思う」とゼンドラドが目を開いて麗子を見て言うと、さすがの麗子も怯えた表情に一変しました。 「麗子はそれほど優秀ではないな。  メリスンはワシなんかよりもはるかに強いのに」 ゼンドラドの言葉を受けて、麗子は探るような目をメリスンに向けました。 「なっ?!」と麗子は言って驚いた表情をしてます。 「古い、神の、一族…」と麗子は放心したような顔をしてメリスンを見ています。 「一番古い神の長姉と言ったところだな。  まさに結城さんの上司と言ってもいいだろう。  さらにはメリスンに悦子さんの持つ、  宇宙の母の能力を移してもらってもいいとワシは考えている。  それが今のこの世界にとって一番いいことだと、  ワシは感じているんだよ」 麗子はゼンドラドが話しをしただけで震えが止まらなくなっていました。 「メリスンは、悦子さん以上に厳しいぞ」とゼンドラドがさらにたたみかけると、麗子は半狂乱の状態に陥りましたが、その身を動かすことは叶いませんでした。 「…私… 私はなんてことを…」と麗子は言って後悔を始めました。 メリスンが術を使って、麗子の空白だった部分の補填をしました。 もちろん、改ざんされてしまったのではと考えるのでしょうが、全ての考えは麗子自身のものだと確認をしています。 麗子は今、覇王を手に入れるために宇宙を壊してしまったことを悔いているのです。 そしてしばらくしてから、今度はランスやメリスンに対しても悔い改めるような言葉を発し始めました。 「麗子、仏を解け」と覇王が言うと、麗子は簡単に仏を解きました。 そしてようやく落ち着いたようで、麗子はうなだれました。 「…美奈世ちゃんがしたことって、本当に偶然ったの?」と麗子は今思っている一番知りたいことを口にしました。 その美奈世も麗子たちを囲んで見守っています。 当の本人の美奈世はこの状況にかなり困っているようですが、蓮迦は堂々として麗子を見ています。 「いなくなってしまうのは惜しいって思ったのよ、麗子ちゃん」 蓮迦が言うと、麗子は全てを悟ったようで、薄笑みを浮かべました。 しかしその反面、覇王が蓮迦に驚愕の顔を見せました。 「私にはメリスンさんのように具体的なことはわからなかったの。  でもね、察することはできたの。  あまりにも執拗に覇王君の前に現れる麗子ちゃん。  そして美奈世ちゃんも。  当然だけどね、美奈世ちゃんも古い神の一族」 覇王はさらに驚いた顔を美奈世に向けました。 「…い、いや、それはないはずだ…」と覇王が言うと、蓮迦は首を横に振りました。 「私の術で…」と蓮迦が言うと、覇王は苦笑いを浮かべています。 サンサンは、―― やっぱりすごい人… それに、怖い人… ―― と蓮迦を見ながら思ったようです。 「覇王君なら私が隠したことは説明しなくても理解できるって思うの」 蓮迦が言うと、覇王は苦笑いを浮かべました。 「さらに面倒になる?」と覇王が苦笑いを浮かべていうと、蓮迦は薄笑みでなづきました。 「強い力が三人になると抑え切れないもの…」と蓮迦は当然のように言いました。 「だけどね、美奈世ちゃんもそれなりの修行を終えたと思うの。  あの、大勢の家族のジオラマに、ひとりだけ知らない人がいたはずよ」 家族のジオラマ… それは覇王の記憶にある、一番幸せだった頃のものです。 カミサンを中心にして大勢の子供たちがリラックスしている様子を、覇王が造り上げたのです。 「いや、それはないだろ…」と言った途端に、ひとりだけ思い当たりました。 「…うっ!」と言って覇王は頭を押さえ込みました。 そして、「やってくれたな、蓮迦…」と言って覇王は蓮迦をにらんでいます。 「うふふ… 遅いわよ、覇王君…」と蓮迦は薄笑みを浮かべたまま言いました。 「俺の第二子…  おっと、名前を言いそうになってしまった」 覇王は苦笑いを美奈世に向けました。 美奈世はただただぼう然としているだけです。 ランスは一時、美奈世に興味があったのです。 ただの勘のようなものでしたが、間違いではなかったとランスは少し自信を持ったようです。 「名前を告げると、美奈世ちゃんは解き放たれるわ。  覇王君がいいと思った時に告げてあげて欲しいの」 「ああ、そうしよう」と蓮迦の言葉に覇王は笑みを浮かべて言いました。 「俊介君も知ってたの?」と覇王が俊介に聞くと、「家系図を見た時にね、何かあるって思っていたんだ」と俊介はごく自然に言いました。 覇王の創った家系図なので、間違いはないはずなのです。 ですが、俊介が知っている妹の名前がありませんでした。 余計な事を言えば混乱を招くと思い、俊介は言わなかっただけです。 俊介はまさか蓮迦の術で記憶を封じ込められているとは思いもよらなかったのですが、今はっきりと理解できて喜んでいます。 覇王が生んだ女子は、必ずと言っていいほど覇王につきまといます。 決して覇王がそのように願って生んだわけではないのですが、必ず同じ事をするのです。 中でも美奈世は、一番執拗に覇王につきまとっていました。 そして美奈世だけが、『お父さんのお嫁さんになるっ!』と自分で決めていたのです。 その願いが叶ったのは、考えられないほど後のことでした。 しかしその幸せの時間はそれほど長いものではなく、たった二十年ほどでした。 しかしこれは、美奈世の策略でした。 美奈世は死んだ振りをして実は生きていたのです。 生きているというよりも、その時は魂しかありませんでした。 美奈世は肉体を持たない仏の存在だけで転生を繰り返していたのです。 このような行為ができるのは、美奈世しかいません。 美奈世は、自分が死んだあとも、覇王は悲しみ、再婚をしなかったことを見届けてから、本来の転生をしたのです。 そして今世は覚醒するのが遅く、18になってやっと自分の仏としての目的を思い出しました。 ですがその時はすでに遅く、覇王と麗子は恋人関係にありました。 ことあるごとに美奈世はふたりの邪魔をしましたが、今世のふたりも仏として最大級の覚醒をしていたので、美奈世には歯がたちませんでした。 そして美奈世は、果てしない仏の修行を始めて開始したのです。 「…私も、古い神の一族…」と美奈世はつぶやくように言って、友人の千石皐月を抱きしめました。 「私のお姉ちゃんなのにちいさぁーい…」と皐月が言うと、美奈世はかなりの勢いでふてくされました。 皐月も覇王の娘で、美奈世と同じで、覇王を付けねらっていたのです。 ですが麗子と結婚したこと、さらには悦子と結婚したことで、もう諦めてしまいました。 覇王は勢いよく立ちあがりました。 「俺は蓮迦と婚姻することを望む」とだけ言って、すぐに椅子に座りました。 きっと、蓮迦がランスに出会う前に言われていたらすぐにでも飛びついたはずです。 ですが今の蓮迦は覇王に未練はないのです。 今はただただ、ランスのそばにいたいと考えています。 「…覇王君、ひどいわね…」と蓮迦は覇王を白い目で見ました。 「さっさとランスを忘れろ」「忘れられるわけないじゃないっ!!」と蓮迦は覇王の言葉に堂々と刃向かいました。 「…そうなの?」と覇王が言うと、ゼンドラドだけがくすくすと笑い始めました。 「俺は強く、蓮迦がランスに振られることを願って待っておこうかっ!!」と覇王が男らしい声であまり男らしくないことを言うと、蓮迦は瞳を閉じて耳を塞ぎました。 話がまったく別の方向に行きましたが、覇王もゼンドラドも麗子をきちんと観察しています。 覇王が蓮迦に言ったこともきちんと耳に入っているようで、少し悲しそうな顔をしました。 「…私、まだランスと戦ってないけど、戦うだけ無駄ね…」と麗子はさびしそうな顔をしてうつむきました。 「記念に戦ってもらえばいい。  まずは、黒い扉をくぐれたらの話だがな」 覇王は言って、カウンターの奥にある扉を指差しました。 「きっとそれは大丈夫」と麗子は言ってからすくっと立ち上がって、つかつかと靴を鳴らしてドアに近づきました。 ドアを開け、麗子は黒い扉を見据えて、ごく自然に歩きました。 「何よ、ドズ星じゃない…」と麗子は言ってから辺りを見回しました。 「…うっわっ! 来たぁー…」とランスは言って首をすくめました。 サンドルフもサンサンも少し喜んでいるようです。 そしてサンサンは、「もう嫌いじゃないよっ!」と言ってサンドルフとランスを笑顔で見ています。 「そうかい… そりゃあよかった」とランスが笑顔で言って勢いよく立ち上がりました。 ランスが一気に麗子との間合いを詰めると、麗子は冷静に回り込みました。 ランスはすでに高揚感を体一杯に張り巡らせています。 ランスはまったく麗子を確認せずに後ろに下がったと思った瞬間に消えていました。 麗子は冷静になりましたが、ランスの前蹴りが麗子の背中を襲い、麗子は地面に転がされました。 「…弱ええ…」とランスが言うと、麗子は無言で立ち上がり、ランスに素早く詰め寄ったのですが、またランスが消えました。 「ふーん…」とサンドルフは少し感心した声で言いました。 「えっ? サンドルフ君、見えてるの?」とサンサンがうと、サンドルフは笑顔で首を振っています。 「でもね、僕だったら…  目の細かい虫取り網でも用意しようかな?」 サンドルフが笑って言うと、「あっ!」とサヤカが叫びました。 「あの作品造りで…」とサヤカは言って笑顔をサンドルフに向けています。 「そう。  天使の寝床の球を造っていた時のお師匠様」 サンドルフが言うと、サンサンもやっと気づいたようで喜んでいます。 「目に見えないほどに小さくなって、これ造ったなんて…」と保奈美が言って透明の球を覗き込みました。 遠目では透明の球としかわからないのですが、目を近づけて覗き込むと、大勢の天使が住んでいるのです。 そして球を揺らすと、天使が一斉に踊りだす、ランスのヒット商品なのです。 もちろん企画は悦子で、かなりお金をもうけたようです。 ランスは何度も何度も麗子の目の前から消えます。 ですが麗子はまったく表情も心も変えていません。 「仕方ねえ」とランスは言ってから、足を止めて打ち合いに転じました。 麗子は水を得た魚のようにランスに手足を出します。 ですが、麗子の得意な足技だけはランスの両腕が弾き飛ばしています。 さすがに大技は出せないので、麗子はここで始めて、焦り始めました。 殴っても蹴っても防御しても痛くないのですが、まったく有効打を与えられないジレンマを悔しく思っているようです。 ランスは淡々と作業のように麗子の攻撃に対応します。 ですがついに、麗子がエンストを起こし、一気に前に飛び出して、顔から地面に倒れこみました。 打ち合いを始めてからたった三分で、麗子は精根尽き果てたようです。 「普通…」とランスが言うと、麗子は苦笑いを浮かべたまま意識を失いました。 これほどつまらないことはないといった様相でランスはサンドルフたちの下に戻ってきました。 入れ替わりにサンサンが麗子を抱き上げて、風呂場に走っていきました。 「ほんと、サンサンは面倒見がいいねぇー…  将来、いい師匠になるんだろうけど、  弟子の気持ちとしてはどうだろ…」 ランスが言うとサンドルフは、「逆に怖いです」と言うと、ランスやマキシミリアンたちが大声で笑ってサンドルフに賛同しました。 「目覚めたら、さあ続きよっ! って笑顔で言うんだろうなぁー…」 ランスが言うと、マキシミリアンたちは苦笑いを浮かべてうなづいています。 もちろんサンドルフもランスの言ったことが目に見えたように思いうなづいています。 入浴している最中に、麗子は目覚めて、「キャッ」と小さな声を上げました。 ですが水着を着ていることに気づきました。 そして辺りを見回すと誰もいません。 怪訝に思った麗子は、湯船から上がろうとしましたが、「まだダメ」と小さな声が聞こえました。 麗子はさらに辺りを見回しましたが、人の気配もありません。 麗子は最後の手段で魂を探ると、なんと目の前にサンサンの魂を見つけました。 「…どういうこと…」と麗子は自問自答した時に、サンサンがその姿を現しました。 「お父さん、こうやってたのよっ!」とサンサンはもろ手を上げて言いました。 「…こうやってたって、消えて…」と麗子が言うと、サンサンは笑顔で首を横に振っています。 「小さくなってたの。  目に見えないほどにねっ!」 サンサンは簡単に種明かしをしました。 「今、サンサンちゃん…」と麗子がほうけた顔で言うと、サンサンは段階を経て小さくなって、ついには見えなくなりました。 ですが麗子はサンサンが今いた場所に顔を近づけて目を凝らすと、ホコリ以上に小さなサンサンがいました。 「見えるわけないわっ!!」と言って麗子は笑い始めました。 サンサンが元に戻ると、麗子はサンサンを笑みで見ています。 「ランス君が?」と聞くと、サンサンは首を横に振りました。 「もういつでもいいの!」と言ってサンサンは湯船から上がりました。 麗子は体調をチェックして、無謀なことさえしなければ大丈夫という結果を得て、ゆっくりと湯船から上がり、ゆっくりと脱衣所に向かいました。 もうサンサンはいませんでした。 麗子は礼を言うのを忘れたと思い、バツが悪そうな顔をしました。 麗子は脱衣所を出て、ゆっくりと食堂に向かいました。 今はメリスンではなく、サンクックが腕によりをかけて調理をしている最中です。 麗子はランスたちにひとつ頭を下げてから、カウンター席に座りました。 「何でもいいんだったらすぐにできるよっ!」とサンクックが言うと、「そうね、お任せで」と麗子が言った途端、とんでもない量の料理がカウンター一杯に並びました。 麗子は一瞬驚いたのですが、あまりにも美しく、そしてその香も素晴らしく、腹の虫が鳴くことを止めることができずに、無心で食事を始めました。 そして一口食べて、「うんめぇ―――っ!!!」と大声で叫びました。 「おいおいうめえなっ!!」と麗子は男言葉で、サンクックを絶賛しました。 麗子は人間として生まれてから19年間、ずっと男言葉を通していました。 ですが覇王と付き合うようになって、ごく自然な女性の言葉に変えたのです。 ですので、今の麗子が自然な麗子といっても過言ではないのです。 「あはは、どうもありがとっ!」とサンクックは麗子に礼を言いました。 「おっとそうだサンサン、ありがとなっ!」と麗子は振り返って、サンドルフとランスの間にいるサンサンを見て礼を言いました。 「ううん、いいのっ!」とサンサンは笑顔で、そして大声で言いました。 「ついでにランスもありがとよっ!」と麗子は言ってから、また料理と格闘を始めました。 「すっかりと変わっちまったな… 好みだ…」とランスが言うとマキシミリアンたちが、「おいおい…」と言って困った顔をランスに向けています。 「威勢がよくって気持ちいいじゃねえか。  そして顔も体もエッちゃん。  最強だろ?」 ランスは言って、まだ恋人がいない者たちを少し笑みを浮かべながら見ています。 ターゲットになった者たちはランスに様々なリアクションを見せましたが、基本的には照れているようです。 「だが、どうするんだろうなぁー…」とランスは表情を憂いに満ちた顔にして麗子を見ました。 誰もがランスの疑問に答えることはできません。 「今は悲しいけどね、きっと大丈夫っ!!」とサンサンは成人している新しい仲間たちを見て言いました。 まだ戦地には行っていませんが、能力的には学生たちよりも上回っている者がほとんどです。 麗子のとなりに立ったとしても、何も問題がない逸材ばかりです。 「ま、古い神の一族は、まだまだいるからな。  麗子さんならより取り見取りだと思うぜ」 ランスが言うと誰もがうなづいています。 … … … … … 麗子がサンダイス星を後にして入れ替わるように、覇王がやってきたのですが、少々というよりもかなり怒っているようです。 覇王はランスだけをまっすぐに見ています。 覇王のあまりの形相にサンサンとサンドルフはすぐに立ち上がって席を移動しました。 覇王はふたりをまったく気にせずに、サンサンの空けた椅子に、力強く腰掛けました。 「…おまえ、どういう了見だぁー…」と覇王は言って、ランスにとんでもない畏れを向けました。 ですがランスは涼しい顔をしています。 「防御に投げナイフは必要ありませんし、持てません」とランスが言うと、「ほかにも何かあるだろうがぁー…」と覇王は言って、まったく衰えない畏れを流し続けています。 「持てませんよ?  まずはあの盾の5倍を克服する必要があるんですから」 ランスが言うと、覇王は言葉に詰まったようですが、「何でもいいから考えろっ!!」とかなり横暴な口調で言いました。 「覇王じゃなくてまさに魔王…」とランスが軽口を叩きましたが、覇王には聞く耳はないようで無視しました。 ランスも意地を張ったようで、覇王の言葉には答えないことに決めたようです。 「…うう、怖いぃー…」とサンサンが言って体を震え上がらせました。 サンサンはまだいい方で、マキシミリアンを先頭にして、魔王軍の精鋭たちは健やかな眠りについていました。 それほどに、覇王の畏れはすさまじいものなのです。 もし悪い心を持っていようものなら、命を落としかねないものです。 サンドルフは少し考えて、すぐに閃き、どうしようかと悩み始めました。 サンドルフとしては、このふたりの中に入ってはいけないと判断しています。 そしてサンサンに知られると、すぐにランスに寄り添うことはわかっています。 ですので、ランスに気づかせて覇王のために創ったことにしてもらいたいのです。 『私が間に入るわ。  私の手柄になっちゃうけど、  ここで沈黙の千年戦争をしてもらいたくないから』 サンドルフの考えはメリスンに筒抜けでしたが、メリスンだったら何も問題はないと感じて、サンドルフは全てをメリスンに託しました。 メリスンはゆっくりと食堂の厨房を出て、ランスたちにゆっくりと歩いていきます。 サンドルフはメリスンに少しだけ頭を下げると、メリスンはサンドルフとサンサンの頭をなでました。 メリスンはランスと覇王が座っている正面の椅子に腰掛けました。 「まるで駄々っ子ね」とメリスンが少し笑いながら覇王に言いました。 「差をつけることがけしからんっ!!」と覇王はさらに言葉を重ねました。 「できてもねえことを棚上げするんじゃあねえ…」とランスが最大級の畏れを流すと、覇王の腰が一瞬上がりました。 「はい、ランス君の勝ちね」とメリスンは言いましたが、ランスと覇王はまだにらみ合っています。 「ランス君、これを造ってあげて欲しいの」とメリスンが言って、宙にその完成図と詳細な内容を映し出しました。 これは影でも妖精の能力でもなく、メリスン自らが出している映像です。 メリスンは悪魔メリルと同様に術師なのです。 「へー…」と言ってランスは笑みを浮かべて感心しています。 ランスはすぐにサンドルフの発案だと感じましたが、今は態度に出していません。 少し横から見ている覇王には、この映像がなんなのかよくわからないようで、怪訝そうな顔をしています。 「また父さんに喜んでもらえるっ!」とランスがよろこび勇んで言うと、「…俺のためにじゃないのかぁー…」と覇王はランスにさらに畏れを流しました。 「あんたにゃあもう何んにも創ってやんねえ…」とランスも畏れを流し返し、覇王はまた椅子から腰を浮かしました。 「ちいせえ盾だけで戦いなっ!!」とランスが言うと、メリスンは大声で笑い始めました。 「多少は謙虚な気持ちも必要。  今の覇王さんは気に入らないから怒っているだけだわ。  魔王って言われても仕方がないって私は思うわね」 メリスンのごく普通の言葉だけで、覇王にはダメージがあったようで、「出直してくるっ!!」と覇王は言ってランスから視線を外して立ち上がってすぐに振り返り、黒い扉を目指して歩き始めました。 「最終兵器の木偶の坊をいつ出そうかと考えていました」とランスが言うと、メリスンはかなり愉快そうに大声で笑いました。 「覇王さん、ランス君に甘えていたみたいに見えたの。  これじゃあいけないのに…」 メリスンが言うと、ランスは笑顔でうなづきました。 「サンサン」とランスが言うと、サンサンは宙に浮かんで一直線にランス目指して飛び、ランスを強く抱きしめました。 サンサンは泣いてはいませんが、かなり怖かったようで、体が少し震えています。 「いい精神修行になったよな。  あ、そうだサンドルフ、ありがとな」 ランスが言うと、サンドルフは照れくさそうな顔をして、少しだけランスに頭を下げました。 「気づいていたってわかっていたけどね…」とメリスンがため息混じりに言いました。 「だけどなぁー…」とランスは嘆くように言いました。 そして、聞いておこうと思い、「俊介君っ!」とランスが名前を呼ぶと、俊介は一瞬にしてランスの目の前にいました。 「ああ、申し訳ない…」とランスは俊介に謝ってから、覇王について疑問に思っていることを聞きました。 そして俊介の話から、納得の行く回答を得ました。 メリスンとサンドルフは納得の笑みを浮かべました。 「まずは肩章の中央にある宝石、ルリレリラルドを創れなかったこと」 俊介の言葉に、ランスは納得して何度もうなづいています。 肩章は魔王軍所属の全員に配ったもので、ランスの紋章を模っています。 さらには古い神の一族には、その父母の紋章を模ったものを別に支給しています。 ランスはご機嫌取りのために、覇王には特別製のセイントの紋様を模った肩章を創ったのです。 「さらにはサンロロス。  実はね、結城先生、  実物を見に行って触れたんだけど創れなかったんだよ」 「なるほどね…」と言ってランスはさらにうなづいています。 「今までにこのような屈辱を味わったことがなかった」 ランスが言うと、俊介は苦笑いを浮かべてうなづきました。 「ブライと同じじゃないか…」とランスが言うと、「あはは、そうだよねっ!」と俊介は陽気に言いました。 「父さんはきちんと丁寧にお願いしてくれた。  逆に俺が申し訳なく思ったほどだ。  結城さんはただただふんぞり返っているだけ。  反抗されても仕方がないって誰もが思うはずなんだが…」 ランスが言うと多くの賛同を得ました。 やっと話の内容が理解できたサンサンも、ランスに笑みを浮かべています。 「だけどね、それをするとね、  結城先生、かなり困っちゃうことになっちゃうんだよ」 俊介が言うとランスは思い至ることがありました。 「黒い扉をくぐれねえっ!!」とランスは大声で言って大声で笑い始めました。 まるで、本末転倒のような話です。 「そりゃ、ショックだよな。  だが、威厳じゃなくてほとんど怒ってるからなぁー…」 「足りないもの、わかっているんだけど…」と俊介が言うと、ランスは俊介に顔を近づけました。 「修行っ!!」と俊介とランスは同時に言いました。 そしてふたりは笑い転げ始めました。 「宇宙の父が修行不足ってっ!!」とランスが言うと、さすがにみんなは笑えないようで苦笑いを浮かべるに留めました。 「きっと今ごろは修行してるんだろうなぁー…」とランスが言うと、俊介は笑みを浮かべました。 具体的には精神的修行と、混沌や白魔法などの鍛錬の修行がまだ行き届いていないのです。 元々覇王は攻撃的ではありません。 そしてかなりの量の積み上げをしていたのですが、ランスにもそしてセイラにすら、修行量としてははるかに劣っているのです。 最近の覇王は、術の多さに辟易としていました。 ですので、修行がなかなか追いつかなかったようなのです。 ランスは、―― 修行、うまく行きますように… ―― と、願いを込めました。 その覇王の修行ですが、ある程度ならすぐにでもランスに追いつける場所があるのです。 それは異空間部屋。 異空間は魂を持っている者に対しては劣化が起きません。 しかも時間が止まります。 経過する時間は、異空間部屋に入った時と出た時に使う時間だけで、ほんの2秒ほどです。 そのたった2秒で、何十日、何年もの修行が可能なのです。 しかし、常に異空間部屋に入るわけにはいきません。 星に大陸プレートがあるように、異空間にも似たようなものがあります。 それは異空間の(はざま) 異空間にいてこの間を通り過ぎた時、今まで異空間で過ごした時間が一気に経過して劣化してしまうのです。 もっとも、勇者など、永遠の命を持っている者に関してはほぼ問題はありません。 しかしごく普通に人間だと、死に至ることは否めないのです。 その異空間部屋がセルラ星の学校内にあります。 これは悦子が造ったもので、製品製作用として、主に学生が使います。 当然安全装置もあり、異空間の間が通過する30分前に魂を持つすべての者を追い出します。 その異空間部屋に覇王は行ったのです。 かなり困った顔をした悦子が、「うーん…」とうなり始めました。 そしてランスに顔を向けて、「ここに異空間部屋、造っちゃってもいい?」と聞きました。 「ああ、それはいいけど…」とランスが言ったとたんに、細田が姿を現しました。 「さあエッちゃん、造りましょう!」と細田が言って悦子を急かしました。 ランスはふたりに丁寧にお願いをしました。 悦子が造り出すものは少々心配ですが、細田が関与していればランスは安心して使えるのです。 細田のことなので、入念な安全装置も造り出すはずなので、子供たちを入室できないようにすることや、追い出すことも可能なはずなのです。 二人が協力すればどんなものもできるだろうと思い、ランスたちが様子を見ていると、黒い扉が出来上がっていました。 そこから細田と悦子が笑みを浮かべて出てきました。 「完成したよ」と細田が言うと、誰もが驚きの顔を細田と悦子に向けました。 「異空間での作業だったからね」と細田が言うと、みんなは納得の笑みを浮かべました。 実際の作業時間は、25時間だったのですが、外から見ると、細田が黒い扉を設置して、黒い扉をくぐり、出てきた時間の合計は30秒でした。 ランスの子供たちは、「異空間ってすげえ…」と口々に言いました。 「この部屋は悦子さんが責任者ですので、  悦子さんの許可がない者は入室できません」 細田が笑みを浮かべて言うと、ランスの子供たちは少し落ち込みました。 「お仕事をするための部屋ですっ!!」と悦子が厳しい言葉を投げかけると、子供たちは一斉に肩を落としました。 「仕事…」とお子様代表のジュレが言ってランスを見ています。 「職業体験、お願いしてみな」とランスが笑顔で言うと、ジュレは早速悦子に寄り添いました。 元ドズ星の子供たちは、それほど器用ではありません。 悦子はこのことを知っていますが、体験させてみて決めてもいいと思ったようで、弟子のサヤカを連れて子供たちと異空間部屋に入って行きました。 そしてすぐに出てきました。 ほとんどの子供たちが合格できなかったようで、肩を落としています。 ですがひとりだけ試験にパスしたのですが、やはりひとりで行動することは好まないようで、それほどよろこんでいません。 「おめえらも、そろそろ、大人の心を持つ年齢だ。  団体行動もいいが、仕事として競い合うこともいいことだと、  俺は思うんだがな」 ランスの言葉を真摯に受け止めたようで、パスしたゲンダは胸を張って笑みを浮かべました。 「でもね、何とかものになる程度だから。  さらに造んなきゃ上達はないの」 悦子の厳しい言葉は、子供たち全員に大人の厳しさを感じさせる第一歩になりました。 … … … … … 『くつろいでいるところ申し訳ない』と源次郎がランスに念話を送ってきました。 「あ、いえ、それは構わないんですけど…」 ランスは怪訝に思いました。 源次郎はこのサンダイス星に足を踏み入れることは可能です。 源次郎の場合、それほど念話は使わず、直接会って話しをすることを望む方なのです。 ということは、このドズ星に来られない客がいると、ランスは考えたようです。 『実はね、サランさんの娘さんが来ているんだよ』 ランスは源次郎の言葉に納得しました。 「申し訳ないんですけど、この星のルールなどの説明をしてもらって、  扉をくぐれるようになってから会うと伝えてもらえませんか?」 ランスの厳しい言葉に、源次郎は快い返事をして念話は切れました。 「何事も修行…」とランスが言うと、悦子は苦笑いを浮かべて、「ほんとに厳しいわっ!!」といつもの口調で言いました。 ランスは悦子に苦笑いを浮かべてからサンサンを見ました。 「ガフィロさんがサンサンの作品を見に来たようだぞ」 「…あー…」とサンサンは言って、少し困ったような悲しそうな顔をしました。 『悲しむことはないのよ、サンサン』とサンサンの頭に、サランの声が響きました。 「お母さんっ!!」とサンサンが叫ぶと、ランス以外は驚きの顔をサンサンに向けました。 そしてサランは、サンサンの体から出てきました。 サンサンはすぐに、サランに抱きついて抱きしめました。 「お母さんっ! 私、人間になりましたっ!!」とサンサンは大声で、涙を浮かべてサランに言いました。 サランは笑みを浮かべてサンサンを見て、「きちんと確認しておきたかったんだけどね、少し時間を空けたかったの」とサランは意味ありげな言葉を述べました。 理解できたのは悦子とランス、マキシミリアンだけのようです。 そしてサンサンは気づきました。 「お母さん、天使…」とサンサンがつぶやくと、古い神の一族と天使、悪魔たちはすぐに納得しました。 頭にあったはずのエンジェルリングが消えていたのです。 「私はサンサンのおかげで神となりました。  天使も勇者も、今の私になるための修行だったの。  そしてサンサンのおかげで神になったも同然のことなの」 ランスとサンドルフもようやく理解できました。 もうサンサンは今までのサンサンではないということを。 サンサンが今の自分自身に慣れるまで、サランは会うべきではないと考えていたようです。 サンサンは感受性が強いので、ひどい混乱を招くと思ったようです。 「サンサンはね、人間になって生まれ変わったの。  本来のサンサンは、私に帰ってきたの」 「…えー…」とサンサンは言って、混乱しそうになりましたが、サンドルフが笑みを浮かべて手をつなぐと、サンサンは一気に安心して冷静になりました。 「マキシミリアンさんと同じっ!!」とサンサンが言うと、マキシミリアンは笑顔でサンサンにうなづいています。 「あら、すごいのねっ!!  たくさん、お説教の言葉を用意していたのに…」 サランが言うとサンサンは、「えへへ…」と言って、子供らしく照れ笑いをしました。 「そのついでにガフィロを連れてこようと思ったんだけどね…  ガフィロは飛べないって感知したの。  だから源次郎さんに預けたの。  もう修行、始めたようね。  いつになったら来られるのかしら…」 サランが言うと、―― 厳しい母… ―― という想いがこの場の全員の頭を過ぎりました。 「…あー、かわいそうだけど…」とサンサンが言うと、サランは笑顔で首を横に振っています。 「その程度のことができなくて、宇宙一の芸術家にはなれません」 ―― やっぱり厳しかったっ!! ―― と、この場にいる全員の頭によぎっただけではなく確信をしたようです。 ですが悦子は意義があるようですが発言はしないようです。 「ガフィロはエッちゃんの弟子ですけど、  かわいらしくもある芸術品を造り上げるサンサンを  師匠にした方がいいと、私は思っているの」 「…あー、俊介君も…」とサンサンが言うと、「そう、さすがだわ」とサランが言って、幼児姿の俊介に笑みを向けました。 「もっとも、素人同然の私の言葉よりも、  眼力ある佐藤さんの言葉の方が重いわよね」 サランが言うと、サンサンは首を横に振りました。 「ひとりよりもね、ふたりに認めてもらってうれしいのっ!!」 サンサンは言ってからサランから放れて、深くお辞儀をしました。 「…はあぁー…  こういうところも、ガフィロは真似した方がいいと思うわ…」 サランが言うと悦子も思い至ったようで、超高速でうなづいています。 「ガフィロのことは気にしないで。  あ、私もお食事をいただこうかしら」 サランの言葉に、サンサンがサランの手を引いて、カウンター席に誘いました。 メリスンは最上客に喜々としています。 「あー、サランさんも怖い…」とサンドルフが言うと、半数の者がサンドルフに同意しました。 そしてランスがすぐに、反サンドルフ派を宙に浮かべました。 「修行不足」と宙に浮かんでいる者たちを見て言いました。 ―― お師匠様の方が厳しかったっ!! ―― とサンドルフは改めて思い知りました。 ランスはことあるごとに具体的に指示や説教をします。 これで大成できなければ、それは本人の責任だと、サンドルフは思いました。 カレンも宙に浮かんでいたので、「なにやってんの…」とサンドルフは醒めた眼でカレンを見ています。 カレンは、「…行き届いてなくてごめんなさい…」と言って宙に浮かんだままうなだれました。 「見た目だけに惑わされるなということだ。  もちろん、サランさんはやさしい方だ。  だがな…」 ランスが言うとコロネルがある映像を出しました。 それは肉体的にはかなり雄雄しい女性のように見えますが、鬼の形相をしています。 「サランさんの正体だ」とランスが言うと、誰もがこの映像に釘付けになって全員がサンドルフを支持しました。 「だが、神になったということで、  この姿はもう見られないかもしれないな。  しかし内面は、さらにパワーアップしているように俺は思うんだ」 ランスが言うとさらに魔王軍の戦士たちは納得したようです。 「わかっていると思うが、サンサンはまったくサランさんを畏れない。  マキシミリアンと同じ理由だ」 ランスが言うと、マキシミリアンは瞳を閉じて深くうなづいています。 「サンサンにとって、  サランさんは母親というよりもふるさとだからな。  サランさん自身を自分自身とサンサンは思っているはずだが、  今は少々違うようだ」 ランスが言うと戦士たちは一斉にサランとサンサンを見ました。 誰がどう見ても、仲のいい親子のように見えます。 「年齢的に言っても、大人や肉親に甘えたい年頃だからな。  しかし、あと二年もしないうちに親離れすることだろう。  その時は、俺としてもさびしいと思うな」 ランスの言葉が心に響いたようで、誰もがランスに笑みを向けています。 「それに、サンサンは今すぐにでも、  免許皆伝を言い渡してもいいほどだ。  もちろん、サンドルフもだ」 ランスが言うと、サンドルフはランスの言葉に従うことなく、ランスに縋るような眼を向けました。 「師匠と弟子でなくても、普通に話はできるし、  上司と部下でもあるんだ。  それほど途惑うことはないと、俺は思っているんだがな」 「ですがボクはまだまだできないことがたくさん…」と言ったところで、サンドルフは気づきました。 免許皆伝をもらってそれを克服していくのが、サンドルフ自身の更なる成長になることだと感じたのです。 「さすがだ、サンドルフ。  しかし、まだ免許皆伝はやらん。  組み手で俺に笑みを浮かべさせてみろ。  その点は、サンサンはすでに免許皆伝。  だがな、きっと、サンサンが嫌がると思うんだよ。  サンサンとサンドルフはセットでなくてはならない」 ランスは少し笑いながら言いました。 「はあ、多分ですけど、ボクもそう思っているんですけど、  僕自身がもうすでにサンサンには勝てないような気がします。  あ、ですが、さらに地力を上げることも必要だと感じています」 サンドルフが言うと、ランスは笑顔でうなづきました。 「最高の弟子たちが巣立っていくのはさびしいものだな…」 ランスは感情を込めて言いました。 サンドルフは笑顔でランスに頭を下げました。 … … … … … サンドルフたちも食事を始めると、悦子と保奈美が大勢の学生を引率してきました。 早速、製品造りに勤しむようですが、様子が妙なのです。 学生の知り合いは多いのですが、まっすぐに前だけを向いて歩いてくるのです。 サンドルフがこの状況を不思議に思っていると、学生たちは宙に浮かび始めたのです。 しかし歩いているのです。 ―― ああっ! これはマズい! ―― と思ったサンドルフはすぐに下を向いて、食事を再開することにしました。 「この、ドスケベ野郎どもがっ!」とランスが言いましたが、サンドルフはまだ視線を変えません。 サンドルフは魂を探って、学生たちが異空間部屋に入ったことを確認してランスを見ると、大勢の男子の仲間たちが宙に浮いていて、申し訳なさそうな顔をしていました。 「ま、エッちゃん先生のせいでもあるんだけどな。  戦士は紳士でもあれっ!」 ランスが言うと、一線級の戦士たちは、「申し訳ありませんでしたっ!」とランスに向かって叫びました。 ことあるごとにランスのチェックが入るので、くつろいでいる時も油断はできないのです。 サンドルフはさらに心を引き締めることにしました。 「セイル兄さんは…」と言ってランスはかなり困った顔をして宙に浮いているセイルを見ました。 「あはは… どういうことだか考えていたら、  僕の好きな人がいて見入っちゃったんだよ…」 セイルが説明すると誰もが、「えっ?」と言って驚きの顔をセイルに見せました。 セイルはどちらかといえば、それほど女子には興味はないと、誰もが思っていたのです。 まさかそれを簡単に覆されるとは思ってもいなかったのです。 「なるほどね。  きっと、セイル兄さんのような者もいたんだろうね」 ランスが言うと、数人がまさにそうだったようだと、サンドルフは理解しました。 ここからはランスが中心となって、セイルの好きな女子が誰なのか、話しに花が咲きました。 ほんの数十秒してセイルが、「あ、デニスちゃんだよ」と簡単に暴露して、みんなをがっかりとさせました。 やはりこういったところは、セイルは淡白なようです。 デニス・サッカーはミドルエイジクラスの学生です。 特に目立たず、男子の人気としてはそれほど高いものではありません。 すると、デニスの内面に特徴があるのかとサンドルフは思っています。 数度、教室でともに授業を受けましたが、かなり印象が薄いと、サンドルフは感じています。 ―― おかしい… ―― とサンドルフはここで気づきました。 異空間部屋を覗き込んで魂を確認したのですが、ひとりだけいなかったのです。 サンドルフが精査すると、デニスの魂がありませんでした。 そしてすぐにヒューマノイドだと確信しました。 なぜヒューマノイドが学生をしているのか、サンドルフは理解に苦しみました。 ―― 何かの修行… 教師に… ―― とサンドルフが考えていると、「サンドルフだけ正解っ!!」とランスが大声で言いました。 セイルは満面の笑みでサンドルフに拍手を送っています。 「あ、あはは… どうも…」と言ってサンドルフはセイルに向かって頭を下げました。 しかし、セイルはデニスがヒューマノイドであることを告げません。 きっと、意識させないためだと思ったようです。 「さすが俺の弟子…  免許皆伝証を創ろうかと思っちまったぜ」 ランスが笑みを浮かべてサンドルフを見ています。 「ちなみにサンサンも話しを聞いていたうようだが、  まったくわからないようだぞ」 サンサンは気功術を使えないので、サンドルフのように比較的簡単には見抜けないのです。 しかし触れるとすぐに理解できるのです。 これ以上言葉を重ねると、察しのいいダンたちが気づくと思ったようで、ランスは口を閉ざしました。 まだ、誰もがどういうことなのかを思案しながら食事をしています。 サランとの楽しい食事会が終わると、サランは自分の宇宙に帰っていきました。 サンサンはとんでもない速度でサンドルフに寄り添いました。 「教えてっ!」とだけサンサンはサンドルフに言いました。 「ゴメンねっ! 教えられないんだ!」とサンドルフが言うと、サンサンはふくれっつらを見せました。 「サンサンが気づいても、誰にも言ってはいけない」とサンドルフが言うと、サンサンは機嫌を直したようで、笑顔でうなづきました。 異空間部屋から学生たちが姿を見せました。 サンドルフの姉弟子のリノとエンジェルが、悦子の創った透けている回廊を目隠しするように結界を張りました。 これで、女子たちのスカートの中身を覗き込むことはできなくなりました。 さすがに今回は不届き者はいなかったようで、ランスは何もしませんでした。 引率の悦子たちも、一旦はセルラ星に戻るようで、ここに来た学生 全員が黒い扉をくぐっていきました。 「あ、そうだ…」と言ってランスは立ち上がりました。 「魔王軍は会社組織となった」とランスが言うと、全員の目が点になりました。 「やはり勇者とはいえ働いてもらっているからな。  給料を支給することになった。  そして、その給料は地球の通貨で支払うことに決めた」 ランスが言うと、仲間たちはほとんどの者が喜んでいます。 そして、地球に行っても構わないものと思い込んだようです。 「正式な通貨だが、使う場所はセイラ星限定だ」 「えっ?」と誰もがランスの言葉に疑問を抱きました。 「セイラ星に地球の通貨が使えるショッピングモールを建設した。  当然だが、地球からの観光客用としても使うことになっている。  普段の心の疲れを、  このショッピングモールで癒やしてもらえたらと思ったんだ」 ランスが笑みを浮かべて言うと、誰もが手放しで喜んでいます。 もちろんサンサンも同じです。 ですがサンドルフひとりだけが、―― なにかある… ―― と怪訝そうな顔をしてランスを見ています。 『サンドルフ、正解っ!!』とランスが念話を送ってきたので、サンドルフは思わず笑ってしまいました。 サンサンはサンドルフを見て怪訝そうにその顔をのぞきこんでいます。 すると、黒い扉から男女一人ずつが、サンダイス星にやってきました。 サンドルフもサンサンも女性は面識がありました。 田中澄美という、源次郎の第一秘書をしている凄腕のキャリアウーマンで、さらに勇者でもあります。 男性の方は澄美の秘書のように、澄美の影に隠れてしまっているように見えます。 この男性は、御座成功太とデヴィラとの願いの子で、御座成翔樹といいます。 翔樹は御座成の宇宙で、貿易商を営んでいます。 もちろん悦子の取り扱っている商品は全て、翔樹が買い付けています。 一体何が始まるのかと、戦士たちは興味津々です。 ランスがふたりを簡単に紹介しました。 澄美は魔王軍の会計で、翔樹は魔王軍の社長として、仲間に加わることになったのです。 魔王軍の戦いの映像などを販売することで、軍資金を得るなど、ひと通りの説明をランスが語りました。 そして、いよいよクライマックスで、今日まで働いた報酬が渡されます。 翔樹が全員分の給料袋を持っていたのですが、澄美が簡単に奪って社員である戦士たちに配り始めました。 サンドルフもサンサンも驚きの顔を見合わせています。 そしてふたりも給料を手にしました。 サンドルフは早速、明細票を見て驚きました。 サンドルフが参戦したのはたったの三回ですが、地球の日本円で100万円を超える報酬だったのです。 実際、給料袋の中には札束が入っていました。 「僕でこんなにあるんだから…」とサンドルフが言ってマキシミリアンたちを見ると、サンドルフの給料袋の三倍ほどの厚みがありました。 さらに、姉弟子であるリノとエンジェルは、五倍ほどあります。 サンドルフは納得して笑みを浮かべました。 一方サンサンは、お小使い程度ですが、少女が手にする金額ではありませんでした。 「私、お金持ち…」と言ってサンサンは喜んでいます。 「これが修行の第一段階」とサンドルフが言うと、サンサンは給料袋を見てから、サンドルフの言ったことがわからないといった表情を浮かべました。 「ショッピングモールに行けばよくわかるよ」とだけサンドルフは言いました。 「お買い物っ!」とサンサンはもろ手を上げて喜んでいます。 セルラ星に販売店はありますが、地球のものとは量も質もまるきり違います。 サンドルフは気を緩めないようにと、ショッピングモールという名の修行場に出かけることにしました。 いつの間にか、黒い扉が増えていました。 新しい扉には、『セイラ星』の看板がかかっています。 サンドルフとサンサンは仲間たちに流されるように扉を潜り抜けました。 「うわぁーっ!!」とサンサンが叫びました。 当然仲間たちも、特に女性はすでに走り出していました。 「これは…」と言って、サンドルフは苦笑いを浮かべています。 サンドルフたちに、カナエとカレンが近づいてきました。 『私に教育係させて欲しいんだけど』とカナエがサンドルフに念話を送ってきました。 『はい、喜んで』とサンドルフは快く承諾しました。 『ミイラ取りがミイラになっちゃいそうだけどね』とカナエがうとサンドルフは、『僕も気持ちを引き締めておきますよ』と返しました。 サンドルフは女性三人の後をつけるような形で、様々な店に入りました。 何もかも始めて見るものばかりで、三人の高揚感はピークになっています。 ついにカレンが罠にはまりそうになっていますが、カレンもランスの意図をわかっているようで、簡単には財布の紐を緩めないようです。 そしてついに、サンサンがある商品の前で立ち止まってしまいました。 「このドレス欲しいっ!!」とサンサンは少し子供っぽいウェディングドレスが気に入ったようです。 「これは、サンドルフ君に買ってもらった方がいいわね。  もしくは自分で造る」 カナエに言われてそれもそうだと思ったようで、サンサンはまた次の店に走っていきました。 ―― うまいなぁー… ―― とサンドルフはカナエの機転に尊敬すら覚えました。 やはり子供なので、おもちゃには眼がありません。 ですが商品が多いので、目移りするようです。 最近はおもちゃといえども、適当な商品は一切ありません。 何もかもがリアルで、小さな子供だと、だだをこねてでも買ってもらおうと思うことでしょう。 その罠にサンサンがはまりかけましたが、「自分で造っちゃうっ!」と言いながら、順に商品を見ていきます。 ―― 自分で造れることが強み… ―― とサンドルフは心配は杞憂だったと思い始めました。 まだ半分ほどしか見ていませんが、サンサンは全て、『自分で造る』で解決しています。 ですが、造れないものもあります。 サンサンは、貴金属店で足を止めました。 さすがに宝石はランスくらいしか造れません。 ですがサンドルフは知っているのです。 サンサンはひとつの宝石が気に入ったようで、「やっと欲しいものがあったのっ!」と言って喜んでいます。 「金額…」とカナエが言うと、サンサンは値札を見て、「ええええっ!!」と言って驚きの声を上げました。 サンサンは給料の明細を見て、何度も値札と見比べています。 「二桁多いの…」と言ってサンサンは悲しそうな顔をサンドルフに向けました。 「これも造ればいいじゃないか」とサンドルフは簡単に言いました。 カナエもそしてカレンも驚きの表情をサンドルフに見せました。 「これと同じ宝石を安く手に入れる方法を知ってるんだよねぇー…」とサンドルフが言うと、三人がサンドルフに喰らいつく勢いでそばに寄ってきました。 「みんな、怖いんだけど…」とサンドルフが言うと、三人は慌ててサンドルフから少し離れました。 「コンペイトウ…」とサンドルフが言うと、サンサンは笑みを浮かべました。 カナエもカレンも何のことだかわからないようで、怪訝そうな顔をサンドルフに向けています。 「こういうものってね、宝石のカット費用がほとんどなんだよ。  特殊な職業だし、工作機械も高いし、  完成するまで時間かかるし手作業だからね。  原石を買って自分でカットすれば、かなりお安く手に入るよ。  台は僕が創ってもいいし」 三人は早速、自分の好みの宝石をウィンドウを見ながらサンドルフに報告し始めました。 サンドルフはこっそりと台だけ創り上げて三人に見せています。 「うわっ!」とカナエが言って、羨望の眼差しをサンドルフに向けています。 「あとは肝心の宝石の入手。  細田さんにお願いしようかな」 サンドルフが言うと、三人はサンドルフを拝み倒しています。 「何か用かな?」と言って、サンドルフの目の前に細田が姿を現しました。 「ほんとに神出鬼没ですね」とサンドルフは細田に笑みを浮かべました。 「あ、店出しちゃおう」と細田は言って、宝石店のとなりに店を造ってしまいました。 「うわぁー… 営業妨害だと思いますぅー…」とサンドルフが言うと、「造って売るわけじゃないからね」と細田が言うと、サンドルフは納得の笑みを浮かべました。 どのようにしてカットするのかだけ披露する店のようで、細田は宝石のカットマシンを異空間ポケットから出しました。 「使い方はサンクック君に聞いてね」と言って、細田は消えました。 サンドルフは、妙に大きな機械を見上げました。 ですが早速、サンクックにレクチャーを受けてから、金庫に入っている宝石を取り出しました。 サンサンのお気に入りはルビーで、台座は少し大きめのペンダントです。 サンドルフは機械にルビーをセットして、ほんの数秒でカットが終わりました。 そして慎重にルビーを台座にはめ込んで、外れないことを確認をしてから、サンサンに手渡しました。 「このカットマシン、すごい…」とサンドルフが言うと、「カットする側が、宇宙一硬い宝石でできているんです」とサンクックが補足説明をしたので、サンドルフは納得したようです。 貴金属店の周りには人垣ができていました。 ですが、特に騒ぎは起きません。 まるでサンドルフの作業を楽しむかのように見ているだけです。 カナエとカレンの宝石も造り終えて、実演は終了しました。 すると店員がサンドルフに丁寧にお礼を言っています。 サンドルフの造った三品が飛ぶように売れたそうです。 やはり現場で造ることで、同じものが欲しいと思ったようなのです。 「あ、お嬢様方の宝石費用は当店で持ちますので」と言われ、高い宝石を三人は無料で手に入れました。 カットしていないものでも、それなりの値段はするので、三人は恐縮しながらも店員に礼を言っています。 「あー、いいことをするとおなかがすいてきたな…」とサンドルフが言うと、三人はご機嫌で、フードコートに行きました。 ここには目移りするほどの小さな店がたくさんあります。 「お祭りの屋台?!」と、学校の授業で教わったことをサンサンが披露しました。 「なるほどね、それは言えるね」とサンドルフはサンサンに同意ました。 サンドルフは軽食を、三人はスイーツを買ってテーブル席に座りました。 すると、女性戦士がサンドルフを見つけて一目散に駆けてきました。 「あー、知られちゃった…」とサンドルフが言うと、「いえ、もう実演販売は終わりですから」といつの間にか現れた細田が、ソフトクリームを食べながら言いました。 「あはは、それはどうも…」とサンドルフは言って、細田に頭を下げました。 細田が女性たちに説明すると、肩を落としてこの場を立ち去りました。 サンドルフたちはそれほど給料を使うことなく、サンダイス星に戻りました。 「おいおい…」とランスがサンサンたちを見て驚きの声を上げました。 あまりにも高価そうな貴金属を身につけていたからです。 「無料でもらっちゃいましたっ!」とカレンが言うと、「えっ?!」とランスも、そして悦子たちも三人に近づいて、まじまじと宝石を見始めました。 「これって…  数百万はするはずよっ!!」 悦子は叫ぶように言いました。 サンドルフが説明すると、ランスたちは納得の笑みを浮かべました。 「サンドルフ君も、おそるべし…」と悦子が言うと、サンサンたちは大声で笑いました。 「いい宣伝にもなったし、商品も売れた。  もらったとしても十分にお釣りがくるよなっ!」 ランスは言ってから、大声で笑いました。 ですが、心から満喫できたのはこの4人だけで、ほかの仲間たちは衝動買いをしすぎて半数以上は頭を抱えています。 衝動買いなので、必要のないものも買っているのです。 「これがお師匠様からの試練」とサンドルフが言うと、サンサンたちは深くうなづきました。 「特にセルラ星は、産業がほとんどないからね。  ショッピングモールで売っているものは、  全てが珍しいものばかりだ。  衝動買いも仕方ないと思うけど、  節度をわきまえないとね」 「…あー…」と言ってサンサンは今更ながらに納得したようです。 サンサンの場合は、芸が身を助けたことになります。 サンサンはサンドルフに生地を作ってもらって、着せ替え人形に着せるウェディングドレスを造り上げました。 人形に着せると、全ての女性が、サンサンめがけて集まってきました。 「本物も造っちゃうっ!」とサンサンが言って、今度はあっという間に、サンサンが着るウェディングドレスを完成しました。 サイズが大きくなっただけなので、何も苦労することはなかったようです。 サンサンは風呂場に向かって走って行きました。 どうやら早速試着をするようです。 カレンもカナエも、サンサンを追い駆けました。 どうやらふたりも造ってもらう気満々のようです。 サンサンは着飾った姿を見せました。 カナエもカレンも、うらやましそうな顔をサンサンに向けています。 サンサンはゆっくりと歩いてサンドルフではなく、ランスの前に立ちました。 「幸せなやつは誰だ?  俺が大気圏から飛び出すほど殴り飛ばしてやろう…」 ランスの本気の畏れに、サンサンはかなり驚いたようで、近くにいたマキシミリアンの腕を取りました。 「…マックス、短い付き合いだったなあー…」とランスは言って、眼は血走り、指をぽきぽきと鳴らし始めました。 「おいおい…」とマキシミリアンはかなり困った顔をランスとサンサンに向けました。 「はははぁー、冗談だぁー…」と言いましたが、全然冗談には聞こえませんでした。 ですがサンサンは笑顔でランスに、頭を下げてからサンドルフに寄り添いました。 「僕、流れ星になりたくないんだけど…」とサンドルフが言うと、「合格だっ!!」と言ってランスは笑い転げ始めました。 ―― 笑える話をすれば合格? ―― と誰もが思ったようです。 ランスの笑い声に、サンサンよりもサンドルフが喜んでいます。 するとサンサンがサンドルフ用の服を出しました。 それは白い、男性用のタキシードです。 「はー、やっぱり白なんだね」とサンドルフが言うと、「はやくはやくっ!!」と言ってサンサンはサンドルフを急かしました。 サンドルフはサンサンの想いに答えようと、急いで着替えに行って素早く戻ってきました。 サンドルフはかなり照れているようです。 そして、サンサンはサンドルフの腕をつかんで笑顔をサンドルフに向けました。 「コロネル君、写真っ!!」とサンサンが言うと、ランスの影からコロネルが出てきて、「おう、ほら」と言ってかなり小さな写真を出しました。 「なんだ?」とランスは怪訝そうな顔を写真に向けました。 そしてコロネルは、写真とはさみをサンサンに渡しました。 「うふっ! ありがとっ!!」とサンサンはお礼を言ってから、器用に写真を切り始めました。 そして、サンドルフに造ってもらったペンダントロケットを開きました。 「えっ?!」とランスたちは驚きの顔をサンサンに向けています。 カナエとカレンはこれを知らなかったようでかなりうらやましく思ってるようです。 ロケットの底の方にはふたりの着飾った写真。 そしてフタの方には、天使デッダのふたりの写真を入れました。 「ああっ! 幸せぇ―――っ!!」とサンサンが大声で叫びました。 誰もが無条件で、サンサンとサンドルフに拍手を贈っています。 「もうこれだけで、私はすっごくがんばれるっ!!」とサンサンは心の内を言霊に乗せました。 ランスはうなづきながら、「いいぞ、サンサン」と言って、ランスはサンサンをほめました。 そしてランスは確認しました。 サンサンは、勇者となっていたのです。 ですがサンサンはそれがわかっていないようです。 今はこのままでいいだろうと思い、サンサンとサンドルフを祝福しました。 「サンサンは次は何をするんでえ」とランスが聞くと、「たくさん人を助けて、できれば幸せになってもらいますっ!!」とサンサンは大声で答えました。 「そうかい、その言葉忘れんなよ」とランスが意味深な言葉を発っしましたがサンサンは気にもせずに、「はいっ! お父さんっ!!」と言ってランスにぺこりと頭を下げました。 このランスの言葉は必要で最重要事項だったのです。 勇者は満足するとその使命を終え、死んでしまうのですから。 サンドルフはランスの意図を知って、ランスに頭を下げました。 「サンドルフは大気圏脱出な…」とランスが言って、サンドルフを殴りつけるポーズを見せました。 「あはは、イヤですっ!!」とサンドルフが大声で言うと、ランスは構えを解いてから大声で笑い始めました。 カレンはこれはどういうことなのか理解に苦しみました。 ただただサンサンのモチベーションを上げるためにイベントとしか思えません。 本来であればサンサンは感激して涙を流してもいいと思いましたが、それはまったくないのです。 サンサンは節度をわきまえた上で行動していたと考えるに至って、余計な質問はしないことに決めたようです。 『カレン、合格っ!!』とランスの念話がカレンの頭をよぎりました。 カレンはランスに向かって丁寧にお辞儀をしました。 カレンはサンサンを超えるように、さらに修練することを自分自身に誓いました。 … … … … … 一夜明け、今日はまた、サンサンとサンドルフのふたりだけの修行です。 まずはふたりとも軽く基礎訓練を行なった後、温い組み手をしました。 ですがサンドルフにとっては全然温くありません。 上段からの足や拳が、サンドルフに重くのしかかってくるのです。 ですが、サンドルフはこの攻撃に耐え、慣れることを修行にしました。 しかし時々はこの攻撃をかいくぐって、反撃することも忘れません。 そうすることでサンサンも成長するのです。 ふたりが休憩に入ると、「もう、追いつけないんですけど…」とセイランダがさびしそうな顔をふたりに向けました。 「ううん、まだまだ大丈夫だと思うね。  サンサンの成長が少し緩んだから」 サンドルフが言うと、セイランダはほっと胸をなでおろしました。 セイランダたちも温い組み手をしたいようなので、サンドルフとサンサンが交代で相手をしました。 やはり攻撃も防御も一番うまいのは利家でした。 まるでサンサンのように、時々重い攻撃を放ってくるのです。 そして素早く動き、さらにはタフです。 サンサンは利家にロックオンすることに決めたようです。 濃密な組み手を終えて、サンドルフたちは食事をすることにしました。 そして当然のようにサンクックが姿を現しましたが、新しい影が赴任していました。 サンクックは笑顔で、「影111号君っ!」と言って厨房に入って行きました。 「いいなっ! 111って!」と言ってサンドルフがほめるように言うと、影111号は、「はいっ! とってもうれしいですっ!」と言ってサンドルフに笑みを向けました。 「しかし細田さん、最近は量産してるんじゃないのかなぁー…」とサンドルフが言うとサンクックが、「これでも人手不足なんですぅー…」と言って困った顔をサンドルフに向けました。 「あ、そっかぁー…  世界の騎士団に魔王軍…  あ、だけど魔王軍は天使村のヒューマノイドを使ってるけど…」 天使村は学校とエラルレラ山の真ん中にあって、セイラが大昔に出会ったヒューマノイドの団体が住んでいます。 元々住んでいた星が崩壊しそうになったので、宇宙船で飛び立ち、宇宙を放浪していたのです。 このヒューマノイドたちが、セイラの前世を天使に変えたのです。 ですがその天使は今は天使村で神と崇められてヒューマノイドたちと暮らしています。 ちなみにセイラは、天使も持っていれば悪魔も持っていました。 その悪魔は、今は美人村の一員として、めきめきと実力を上げています。 「でもですね、スペックの差がかなりありますので…」とサンクックは申し訳なさそうに言いました。 「ふーん…  サンクック君も、サンロロス欲しい?」 サンドルフが言うと、サンクックは大いに喜びました。 ですが無理は言ってはいけないと思って、少しだけ肩を落としました。 「影じゃなくて、セイルさんの道もあるけど…」「いえ、それは望んでいないんですっ!」とサンクックは言って胸を張りました。 当然、サンドルフは機械の言葉であっても心として聞き入れます。 サンクックが心の底から影に執着していることを知って笑みを浮かべました。 「造れるかなぁー…」とサンドルフが言って、混沌から創り出そうとしましたが、違った別のものが出てきました。 「うっ! 驚いちゃった…」と言ってサンドルフは出てきた妙な球を凝視しました。 サンロロスとはまったく別物ですが、光を放っているのです。 まるでそれはやさしい太陽のように見えました。 「…あー…」と言って、サンサンは感慨深く球を見つめています。 そして、「欲しいっ!!」と欲を出して言いましたが、「やっぱりいい…」と言って簡単に欲を捨てました。 「欲しいと思った時の感情…」とサンドルフはランスのように言うと、サンサンは少し苦笑いを浮かべて、「キレイだったし、暖かそうで…」と照れくさそうに言いました。 「特に根拠はない」とサンドルフが言うと、サンサンはこくんとうなづきました。 「うーん…」とうなりながらサンドルフは創り出した球を見ています。 「必要な人にあげよう」とサンドルフが言うとサンサンは、「うんっ!」と言ってサンドルフに笑みを向けました。 セイランダは誰のことなのかすぐに気づいて、サンドルフに言って球を見せてもらいました。 「あー… 本当に太陽のよう…」と言ってセイランダはうっとりとしています。 ですが変わったことは何も起きません。 ですのでサンドルフは、―― 必要な人が持つと何かが起こるのでは… ―― と思い期待しました。 楽しく食事を終えた五人は、午後からはセルラ星に行きました。 昼食の時間はもうすでに過ぎているのですが、メリスンの店はまだまだ忙しいようで、五人はすぐに手伝いを始めました。 メリスンは何も言わずに五人に笑みを向けています。 「なんだぁーサンドルフ、手下が増えたじゃあないかぁー…」と店員のセシリーが悪魔の畏れを流しながら言うと、「あ、いえ、仲間で友達ですから」とサンドルフは答えました。 「あ、ボクは手下でいいよ」とタレントが簡単に言うと、サンドルフはすぐに否定しましたが、タレントはもう決めていたようです。 「…うっ! 水には近づかないでおこう…」とセシリーは言って仕事を再開しました。 タレントの実体は海洋生物型のダイゾなので、水に引き込まれると当然勝ち目はありません。 ひと段落着いたのでメリスンが、「みんな、助かっちゃったわ、ありがとう」と言って五人にお礼を言って、おいしそうなスイーツをサンドルフたちのために用意しました。 サンドルフたちはお礼を言ってから席に座って、遠慮なくスイーツを堪能しました。 「ここで修行?  サンダイス星でもいいと思うんだけど…」 メリスンが聞くとサンドルフは、「お届けものがあって…」と言って太陽の球をメリスンに見せました。 「うっ! 欲しいっ!!  ありがとうっ!!」 メリスンは言って自分のものにしようとしましたが、サンドルフが事情を話すとメリスンは感慨深く思って、太陽の球をサンドルフに返しました。 「私が触れたけど、何も起こらないし、何も感じない…  だけどセイラが触れたら…」 メリスンが言ってゆっくりと笑みを浮かべました。 「はい、それを期待しているんです」とサンドルフは答えました。 セシリーたちも球に触れましたが、欲しがるだけで何も起こりません。 特にセシリーはかなり悔しく思ったようで、球を握り締めたと同時に、「うおっ!!」と言って叫びました。 焦げ臭いにおいが店に漂いました。 セシリーの手から少し煙が上がっていました。 「…おおー、俺のものだぁー…」とセシリーは言いましたが誰もが、―― 絶対に違う… ―― と感じました。 セシリーはまだ球を握ったままですが、ついには耐えかねて球を放り出しました。 サンドルフは何もしないで、球を取り戻すことができました。 セシリーは、「俺のだぞっ!!」と言いましたが、メリスンがにらみを聞かせると、「違ったようだ、あははは…」と言って後片付けを再開しました。 「あー悪魔の再生力ってすごいなぁー…」とサンドルフはせっせと働いているセシリーを見て感動しています。 「あの程度ならね。  でもやせ我慢をしたら、手がなくなっちゃってたかもね」 メリスンが言うと、サンドルフたちは納得してうなづきました。 メリスンに丁寧にお礼を言われて送り出された五人は、イルニー城に向けて飛び立ちました。 眼下の風景はまさに平和で、緑が覆いつくしています。 そしてゆっくりとイルニー城がその姿を現しました。 とても巨大な城で、さすがこの星の神が造った逸品、と言わんばかりに鎮座しています。 五人は天主に向かって飛んで行ってもよかったのですが、城門に立って、怖い顔をしている衛兵に、王に謁見したいとサンドルフが言い、名前を告げました。 「うっ、勇者…」と衛兵は言って、一目散に走って城の中に入って行きました。 もうひとりいる衛兵がサンドルフのことを知っていたようで、気さくに話しをしてきました。 最近ランスが見出した者で、本来はサンドラ姫のナイトです。 今はひと通りこの城での仕事をしている最中のようです。 「いやぁー、サンドルフ様、どうかお入りくださいっ!」と行って、衛兵がかなり低姿勢でサンドルフに言いました。 衛兵は苦笑いを浮かべているので、少々叱られたのではないかと、サンドルフは感じました。 「気にしなくていいよ」と顔見知りの衛兵が笑顔で言いました。 「これも修行なんだよねっ!」とサンサンが言うと、衛兵は笑顔でうなづいています。 城に入ると、道案内の者が数名いました。 サンドルフたちは静々と城の中を見学しながら、王の間に通されました。 部屋に入ると、まずは玉座が目に入ります。 ですが今は誰も座っていません。 「珍しいお客様ね」と、装飾の素晴らしい応接セットの椅子に座っているセイラが笑みを浮かべて言いました。 そのとなりにはサンドラがいて、逆のとなりには年のころならカナエと同年代の女性がいました。 「住良木さんの娘の鮫島ちあきちゃん」とセイラは女性の紹介をしました。 サンドルフたちはちあきに自己紹介を始めました。 ちあきは少し厳しそうな性格に見えて、早百合と重なりました。 ですが、今はそれを出してはいません。 まるでセイラを母のように思っているようで、笑みを浮かべているばかりです。 サンドルフは早速、今日訪問した事情の説明を始めました。 そして、太陽の球をセイラに見せました。 「もし、セイラさんが持ち主じゃなくて欲を出した場合、  手がなくなるかもしれません」 サンドルフが言ってからサンクックがその証拠映像を見せました。 セイラは少し驚いてから、「相変わらずだわっ!!」と言って、かなりこっけいなセシリーの映像の様子を見て笑っています。 「そう、協力してくれるのね。  ありがとう」 セイラは言ってからサンドルフに両手のひらを上に向けて差し出しました。 サンドルフはゆっくりと、太陽の球をセイラの手のひらに置きました。 するとセイラは一瞬光り、そしてさらにゆっくりと光を放ち始めました。 「あー、暖かい…」とセイラは太陽の球に笑みを向けています。 そして時々球を見ながらうなづいています。 まるで球がセイラに教えを説いているように見えます。 しばらくすると光は消えて、球は消えてしまいました。 「あら? サンロロスになっちゃったわ」とセイラが言うとサンドルフたちはセイラの手のひらを食い入るように見ました。 「あはは、ほんとだ」とサンドルフは言いました。 サンサンもすぐにわかったようですが、セイランダたちにはわからないようです。 サンドルフはランスが使っている光り輝く生地で小さな巾着を創ってセイラに渡しました。 「ほら、ちゃんとあるの」と言ってセイラは巾着にサンロロスをゆっくりと収めてそれをぶら下げて、セイランダたちに触れさせました。 「あー、ほんとだぁーっ!」と言ってセイランダはセイラを笑みで見ています。 そしてセイラは巾着をサンドルフに渡しました。 サンドルフは、「えっ?」と言って少し驚いています。 「最後にね、この球が言ったの。  私はサンクック君のものだってね」 サンドルフはセイラに礼を言ってから、サンクックに巾着を渡しました。 「持ち主がはっきりわかってて助かったよ」とサンドルフが言うとこの場にいる全員が大声で笑いました。 球が語りかけた話の内容をセイラが話さないので、サンドルフは聞きませんでした。 ですがそれは、これからのセイラの行動で知ることになるでしょう。 サンドルフたちの話は終って帰ろうとしたのですが、ちあきが興味津々でサンドルフたちを見ていて話しをしたいようです。 サンドルフたちも席を勧められて、ちあきの質問に何でも答えました。 そしてついに、困った質問をちあきはサンドルフたちにしたのです。 「私、ずっと好きな人がいるんだけどね。  意地を張っているのか…  でもその逆に、本当に私のこと嫌いなのか、  よくわからなくって…」 ちあきの言葉に、サンドルフとサンサンは笑みを浮かべています。 「これって、他人が関与しちゃいけないように思うんだよねぇー」とサンドルフが言うと、サンサンの意見は違っていたようで怒った顔でサンドルフを見ています。 サンドルフの言葉は、ちあきの心に響いたようです。 ですがそれだけではちあきは納得できませんでした。 「セイラさんでも僕でも、  サンサンでも心一さんの心の内を知ることはできるよ。  でもねそれをやってもいいのかなぁーって。  ちあきさん、後悔しないかなぁーって。  自分自身の力で心一さんの心を知って始めて  成就するんじゃないかなって思うんだ」 サンドルフの言葉はちあきに勇気を与えたのですが、その方法がわかりません。 ここからは作戦会議が始まりました。 男女の気持ちをふまえて、効果的な作戦が完成したことをサンドルフは喜びました。 「ハイヒール、苦手なんだけど…」とちあきは言いましたがサンドルフは、「必須アイテム」と言って譲りませんでした。 「きっとね、厳しく叱られるから」とサンドルフはちあきに笑みを向けて言いました。 心一は野球をやっています。 そして来年からはプロ選手としてデビューすることが決まっています。 サンドルフがサンクックに言って、その状況のシミュレーションを流しました。 「うっ! すごく自然にキスしたっ!!」と言ってちあきは喜び、ホホを赤らめています。 「ただのシミュレーションだから…  これは心一さんがちあきさんを大好きだと仮定して作ったものだよ」 サンドルフの言葉が重くのしかかったようで、まだ作戦は始まっていないのですが、ちあきのハートはドキドキでした。 サンドルフたちはちあきにお礼を言われて城を後にしました。 メリスンの店に戻ってからサンダイス星に帰って、食堂でくつろぐことにしました。 するとサンサンがうずうずとしています。 「ボクたちが行っちゃダメ。  余計なことをしたら失敗しちゃうかも」 サンドルフが言うとサンサンは、「うん…」と不満げに言いました。 「もう勇者なんだからだだをこねないっ!!」とサンドルフが真実を明かすと、サンサンばかりかセイランダたちも驚いています。 「ちあきさんたちの全てを見ないと悔いが残る。  勇者と知ってもそれに満足することはない」 サンドルフが言うと、「勇者よりもそっちが気になるっ!!」とサンサンは言うと、サンドルフは大声で笑い始めました。 もう大丈夫だと思い、サンドルフはランスに全てを念話で報告しました。 ランスは大声でサンドルフをほめてから念話は切れましたました。 「はー、やれやれだ…」と言って、サンドルフは肩の荷を降ろしたようにうなだれて笑みを浮かべました。 「まあもっとも、ここしばらくは勇者のようなものだったからね」 サンドルフが言いましたが、サンサンはそんなことよりも、ちあきと心一の現在の様子を知りたがっているようで落ち着かないようです。 「僕の悪魔様にお願いしよう…」とサンドルフは言ってから笑って、細田に念話をしました。 するとサンクックがライブで映像を流し始めました。 ちあきの住む世界にも細田製の小さな宇宙船を配備しているのです。 作戦はもう始まっているようで、心一とちあきが追いかけっこをしています。 もちろんちあきが追いかけていて、心一は逃げています。 ちあきは足にピンヒールを履いています。 そして行き着いた先は、小さなグラウンド。 ちあきはそのベンチからグラウンドに向けて歩こうと、段差のあるコンクリートに足を上げました。 「グランドに入るなっ!!」と心一の厳しい声が飛んで、ちあきをにらみつけました。 ちあきは笑顔で、上げた足をベンチ内の地面に下ろしました。 「グランドを穴だらけにするつもりかっ!」と心一はかなり怒りながら、ちあきに向かってゆっくりと歩き始めました。 ふたりの視線はグラウンドの地面と平行にぶつかり合っています。 「どーしていつもいつも逃げるのよっ!」と、ちあきは心からの言霊を心一にぶつけました。 「…別に…」と心一は言って立ち止まりました。 「私は心一が好きっ!!  ずっとずっと好きっ!!」 ちあきが告白すると、心一はかなりバツが悪そうな顔をしました。 「…お、俺も…」と心一が言ってちあきを見つめました。 心一は心臓が飛び出しそうなほどドキドキしています。 もちろんちあきも心一と同じです。 ちあきは今はシミュレーターで見ていた予習のことなど忘れて、真剣な眼差しを心一にぶつけています。 「やっぱり心一はプロフェッショナルになれたわ」とちあきが柔らかな笑みを浮かべました。 「…お、おう…  なんか祝いくれ」 心一が言うと、ちあきは眼を閉じました。 心一はゆっくりとちあきに近づいて、この先ずっとふたりで歩んでいく誓いのキスを交わしました。 「イヤァ―――ッ!!!」とサンサンがいきなり大声で叫んで身もだえを始めました。 サンドルフはサンサンの声にかなり驚いたようで、苦笑いを浮かべています。 人間のすることは面倒だと、動物であるセイランダたちは思っているようです。 ですが、サンサンがあまりにも喜んでいるので、セイランダたちは拍手をすることを忘れてはいません。 サンサンは叫び過ぎて酸欠にでもなったようで、フラフラとテーブルに頭をもたげました。 「死んでないだろうな」「生きてまぁーす…」と、サンサンはサンドルフの問いかけにすぐに答えました。 「今の映像のように、ステキな場面をもっともっと見たいもんっ!」とサンサンが言うと、サンドルフはさらに安心したようです。 「さてと、ここからが本題だよ」 サンドルフが言うと、サンサンたちは驚きの顔をサンドルフに見せました。 これ以上なにがあるのだろうかと怪訝そうな顔をしています。 「ふたりの結末はシミュレーター通りになった。  だけど、妙だと思わなかった?  そして、心一さんが今までもう一歩、  ちあきさんに踏み込めなかった理由」 「…あー…」と言って、サンサンは今見た映像を思い出して、不思議だったと思われる場所を考え始めました。 セイランダとタレントはもうすでに諦めています。 ですが利家はわかったようで手を上げました。 そして念話で、サンドルフに答えを告げました。 「利家君、正解っ!!」とサンドルフが言うと、セイランダたちも本気で考え始めました。 サンサンはついに、頭をかきむしり始めました。 そして、「あ…」と言ってかきむしっていた両手の動きが止まりました。 「…まっすぐだった…  どーして…  だから、すごくキレーって…」 サンドルフはサンサンに笑みを浮かべて見ています。 「そうだよね、まっすぐになるように僕が作戦を立てたんだよ」 「心一さんの方がちあきさんよりも背が低いっ!!」とサンサンが大声で答えると、「ええええ―――っ!!」と言ってセイランダたちが驚きました。 「はい、サンサン、大正解っ!」とサンドルフは言ってサンサンと利家に拍手を贈っています。 「あー、あの場所って、地面よりも低かったから…」 セイランダはつぶやくように行って理解できたようで笑みを浮かべています。 「心一さんはね、ちあきさんよりも背が低いことを  少々気にしていたはずなんだよ。  ふたりの身体的プロフィールを見せてもらって  きっとこれも引け目に感じているんじゃないかって思ってね。  そして照れは、心一さんの心の裏返し。  思春期の男性って、そういったところが大いにあるからね」 サンサンには少し難しい話だったようですが、なんとなくわかったようです。 「あー、やっぱり、  男の人の方が大きい方がいいって私も思っちゃった…」 サンサンが言うと、サンドルフは天使デッダに変身しました。 「もう、意地悪のつもり?」とサンサンは言ってから天使デッダに変身して、ふたりは抱き合い始めました。 「…うう、今は動物としか思えないっ!!」とセイランダが言ってから、なぜかダイゾに変身しました。 そして天使デッダたちを抱き上げて、『ギ、ギギ』と言って少しうれしそうに鳴きました。 海洋生物のタレントと利家は、ここからではプールが遠いので、変身することは断念しました。 すると、黒い扉からベティーBTが、少し怒った顔をして現れました。 「どうして簡単にくぐれないようにしたんだっ!!」とベティーはほえるような勢いで言いましたが、サンドルフたちが妙に楽しそうなので、ベティーも雄雄しきトラに変身して仲間になりました。 「ううっ! 僕は変身、できないよ…」とサンクックが言って、かなり残念に思ったようです。 サンクックの想いに答えるように、サンドルフは変身を解きました。 サンサンは今が楽しいようで、ダイゾのセイランダと踊り始めました。 「さびしい想いをさせた代わりに…」とサンドルフは言って、サンクックのサイズに合わせたかわいらしい帽子を創りました。 「えっ?! あ、ありがとうございますぅー…」と言ってサンクックがサンドルフから帽子を受け取ってかぶると、なんどサンクックは金龍に変身しました。 体高はサンドルフと同じほどになっています。 金龍の胸と腹の辺りにサンクックの体があるのですがまったくわかりません。 まさに小さな金龍としか思えないほど迫力満点です。 「あ、空も飛べるから」とサンドルフが言うとサンクックは、「えーっ?!」と言って、きぐるみの内部を探ってその装置を発見しました。 「これって、フライングソーサッ!!」とサンクックが言ったと同時に、空に舞い上がってました。 サンクックは楽しそうに空の散歩を楽しみ始めました。 「あー、いいなぁー…」と言って、変身を解いたサンサンとセイランダが金龍を見上げています。 「サンサンは飛べるじゃないか…  あ、でも、戦闘服代わりに…」 サンドルフが言うと、サンサンはかなりの勢いで喜び始めました。 サンサンは緑の龍に、セイランダは火龍に変身して喜びながら、金龍を追い駆け始めました。 「子供のおもちゃのようなものだけど、いる?」とサンドルフがタレントと利家に聞くと、ふたりは笑顔で超高速でうなづき始めました。 タレントはスカイブルーの龍、そして利家はエメラルドグリーンの龍に変身して、三人を追いかけ始めました。 「こらっ! サンドルフッ!!  本気で食うぞっ!!」 ベティーが騒ぎ始めたので、サンドルフは仕方なく、トラ柄の帽子を創って、ベティーに渡しました。 フライングソーサーの操縦は慣れているようで、ベティーも変身してから大空に舞い上がりました。 「なぜ龍が…」と戦いから帰還したランスが空を見上げました。 「かなり小さいなっ!!」とさらに言って大声で笑っています。 「御師匠様、おかえりなさいっ!!」とサンドルフは言って、ランスに頭を下げました。 「なぜ龍… あ、あれ?」と言って、ランスが怪訝そうな顔を龍たちに向けています。 「ひとり多いようだが、誰だ?」「あはは、サンクック君です!」とサンドルフはランスの疑問にすぐに答えました。 サンドルフが経緯を話すと、ランスはにやりと笑いました。 「サンドルフはやさしいなぁー…」とランスは感慨深く言いました。 サンドルフはただただ照れているだけです。 「サンドルフを猛獣班ロアの隊長に任命するっ!!」とランスは堂々と言いました。 サンドルフはただただ驚いて、言葉にできないようです。 「作戦はおいおい考えるし、少々問題もある。  いきなり呼び出すかもしれないから、ここにいる時も気を抜けないぞ」 ランスが言うとサンドルフは姿勢を正して、「はい、懸命にがんばりますっ!!」と言ってからランスに頭を下げました。 ランスは笑みを浮かべてうなづきました。 そしてサンドルフは追加して、セイラの件をランスに報告しました。 ランスはその球が見たいと言ったので、サンドルフは混沌から創り出しました。 「うっ! これは…」と言って、ランスは太陽の球をつかもうとしましたが、意識を取り戻したかのように動きを止めました。 「欲が沸いた…  恐ろしい球を創ったもんだ…」 ランスは言って、冷や汗を流しています。 もちろん、強い欲でないと球は反応しませんが、いち早くそれに気づいて留まる事をしなければ、ランスは自分自身を許せないところだったのです。 「と、いうことは、この球は…」「あ、特に考えていなかったのですけど…」とサンドルフが言ってすぐに、サンダイス星にやってきた悦子と保奈美を見ました。 「保奈美さんのために…」とサンドルフが言うと、ランスは笑顔でうなづきました。 「それに、太陽の力を使ってもらう人ですけど…」 「ああ、来たぜ」と言ってランスはすぐにその方向に向かって頭を下げました。 悦子たちに続いて、ゼンドラドも黒い扉をくぐってきたのです。 ゼンドラドの目的は、サンドルフが創った太陽の球でした。 「一石二鳥…」とランスが言うと、サンドルフは笑みを浮かべました。 「それだそれだ」とゼンドラドは言って、サンドルフに向けて笑みを浮かべました。 「セイラはさらに正しい道を歩み始めた。  サンドルフ、礼を言う」 ゼンドラドは言ってから、サンドルフに丁寧に頭を下げました。 「あ、あ」とサンドルフは言ってランスを見ましたが、ゼンドラドを見て笑みを浮かべているだけです。 「誰もができなかったことなんだ。  サンドルフは胸を張っておけばいいんだ」 ランスが言うと、サンドルフはバツが悪そうな顔をして少しだけランスとゼンドラドに頭を下げました。 「この球っ!!」と言って悦子はサンドルフの持っている球を凝視して、素早く奪いとろうとしましたが、サンドルフはランスの背後にいました。 ランスが術を使って弟子を守っただけの行為です。 「エッちゃん先生はお行儀が悪い…」とランスが言うと、「…俺のものだぁー…」と悦子は畏れを流して言いました。 「エッちゃんっ!!」という超弩級の保奈美の雷が悦子に落ちて、「ごめんなさいごめんなさい、もうしませんっ!!」と言って悦子は大声で謝りました。 ランスもサンドルフも顔を見合わせました。 ゼンドラドはふたりを見て笑みを浮かべているだけです。 「この球は、保奈美先生に持っておいてもらおうと思いました。  でもその前に、ゼンドラド師匠に持っていただきたいのです」 サンドルフが言うと、ゼンドラドは申し訳なさそうな顔をサンドルフと保奈美に向けました。 保奈美は笑みをゼンドラドに向けています。 ゼンドラドは保奈美とサンドルフに軽く頭を下げてから、太陽の球に触れました。 すると、ゼンドラドが光始めて、セイラと同じように球と会話を始めました。 ゼンドラドは終始困った顔をしていました。 そして光は治まって、「最後に、この球を保奈美さんにと言った」とゼンドラドが言うと、サンドルフは球をゼンドラドに差し出しました。 光っている間、サンドルフも球に触れていましたが、サンドルフには会話の内容はわかりませんでした。 ゼンドラドはサンロロスになった球を保奈美に渡しました。 保奈美は喜んでゼンドラドから球を受け取って、ゼンドラドとサンドルフにお礼を言いました。 「あ、入れ物を…」とサンドルフが言って、小さな巾着を保奈美に渡しました。 「うふっ! ありがとう!」と保奈美は上機嫌で言いました。 そして肩にあるストッカーを開いて、球の入った巾着を入れました。 「かなり細かく、恋の道の教えを聞かされた…」とゼンドラドは言って苦笑いを浮かべました。 ランスとサンドルフもゼンドラドを見て苦笑いを浮かべています。 ゼンドラドは早速実践するようで、保奈美をカップル席に誘いました。 保奈美はホホを赤らめて、ゼンドラドについていきました。 「一件落着になりそうだ」とランスは言いながら、悦子の襟首を押さえつけています。 その悦子が、「あっ!」と言って、空に向かって指を差しました。 優雅にカラフルな龍たちが空を泳いでいたからです。 サンドルフが説明すると、「創って欲しいっ!」と悦子は言ってサンドルフに懇願のまなざしを向けました。 「ただの霞改ですよ」とサンドルフが言うと、「創ってくれないと暴れる…」と悦子が言うと、「エッちゃんっ!!」と言って、悦子の肩にいた妖精の保奈美が悦子の目の前に浮かんでいて怒っています。 「あーん、ごめんなさぁーいっ!!」と言って悦子は泣きながら妖精の保奈美に謝っています。 ランスはかなり愉快だったようで、声を出さずにお腹に手を当てて笑っています。 大人姿の保奈美よりも妖精の保奈美の方が少々気が強いので、悦子に懇々と説教を始めました。 悦子は地面に正座をさせられて、肩をすくめて、妖精の保奈美に謝っています。 人型の保奈美が常に悦子のそばにいることができない場合もあるので、ランスと細田が相談して、妖精の保奈美を常に悦子につけておくことにしたのです。 ですので今は、マキシミリアンが妖精の保奈美と会話を楽しむことはできません。 当然、マキシミリアンもわかっていることなので、この寸劇を笑みを浮かべて見ているだけです。 「どうして欲しいのか、きちんと話してっ!!」と妖精の保奈美は声を荒げて言いました。 「…はいぃー…」と悦子はかなり妖精の保奈美を怖がりながらも、「機械ものは不得意なので…」と申し訳なさそうに妖精の保奈美に言いました。 「あれをもらって空を飛んで何が楽しいのよ…  普通に飛べるじゃない…」 妖精の保奈美は声のトーンダウンだけしました。 「かっこいいなぁーって、思って…」「その姿、エッちゃんからは見えないわよね?」と妖精の保奈美が言うと、―― それはその通りっ!! ―― と悦子は思ったようで、肩をすくめました。 「…でも欲しい…」と妖精の保奈美は悦子の顔を覗き込んで言うと、ランスがついに溜まらず、大声で笑い始めました。 「お父さんは笑うの禁止っ!!」と妖精の保奈美はランスにまで怒り始めて、「はい、ごめんなさい」とランスはすぐに頭を下げて謝りました。 悦子はさらに妖精の保奈美が怖くなったようです。 「うーん…」と言ってサンドルフがなにやら考え始めました。 そして、サンサンたちに創ったものとは少し違う帽子を創り上げました。 帽子は白と黒のツートンカラーです。 サンドルフなりに考えた、悦子のイメージカラーです。 「あのー、いいですか?」とサンドルフは申し訳なさそうに妖精の保奈美に言いました。 「サンドルフ君…」と言って妖精の保奈美は困った顔をサンドルフに向けました。 「それほどに気に入っていただけたらうれしいのです。  ですので、悦子先生の意見を取り入れて創ってみました」 サンドルフが言うと、妖精の保奈美は丁寧にサンドルフに頭を下げました。 悦子は妖精の保奈美が怖いので、それほど喜んではいません。 「あ、うれしくないんですか?」とサンドルフは少し意地悪な発言をしました。 「うれしいに決まっているじゃないっ!!」と悦子はいつも通りに大声で言いました。 そして悦子のホホがみるみる緩んでいきました。 サンドルフが悦子に帽子を手渡すと、悦子は帽子を胸に抱いて喜んで、サンドルフに丁寧にお礼を言いました。 「あ、保奈美さんはいつもの場所で。  そうしておけば、危険があっても回避できます。  自分の姿を見ながら飛べるので、前方不注意になりますから」 サンドルフが言うと、悦子も妖精の保奈美も笑顔でうなづきました。 妖精の保奈美が悦子の肩に座ったあとすぐに、悦子は帽子をかぶりました。 サンサンたちよりもかなり大きい、白黒の龍が雄雄しく空に舞い上がりました。 悦子は上機嫌で空の散歩を楽しみ始めました。 サンサンたちがようやく空から降りてきて、白黒の龍の話しを始めました。 サンドルフが苦笑いで説明すると、サンサンたちも苦笑いを浮かべて応えました。 そして、ゼンドラドと保奈美を見てサンサンはまた胸キュンになったようですが、サンドルフがにらむと肩をすくめて大人しくいていることにしたようです。 かなり憔悴した顔で、覇王がメリスンのいる食堂のカウンター席に座りました。 少し遠くから見ていたランスは、―― 今は話しかけないでおこう ―― と思ったようです。 ランスが動かないので誰も動きません。 覇王はメリスンに大量の料理を注文して、「ふう…」と息を吐きました。 見ている限りでは、穏やかな覇王のようです。 サンドルフもサンサンも、修行はうまくいっていると考えましたが、何かに行き詰っているとも思ったようです。 ランスに言わせれば、『それも修行』ということになるのでしょうが、誰も近づかないのでヒントすらありません。 影の破天荒は覇王の影から出てきていません。 「魂持ってるのに…」とサンサンが少し嘆くように言いました。 「お師匠様と同じ心境なんじゃないの?  活路は自分自身で見出せ、って」 「でもね、それじゃさびしいよ…」 サンドルフもサンサンの言い分はよくわかります。 ぬいぐるみの心を持ってるからこそ、今すぐにでも覇王に飛びつきたいところなのです。 覇王の視界に、白黒の龍が見えたようで、少し姿勢が変わりました。 そして首を振りながら龍を見ています。 どうやら探ったようで、覇王は笑みを浮かべています。 「僕も欲しいんだけど…  理由は飛べるし、かっこいいから」 覇王の影から、破天荒が顔だけ出してランスのように理由まで言いました。 「ランスかい?  いや、サンドルフのようだな」 破天荒は小さくうなづいて、「エッちゃんと同じバージョンのだよっ!」と言いました。 「同じバージョン?」と覇王が聞き返すと、破天荒は説明をして、覇王は笑顔でうなづきました。 「至れり尽くせりだな。  だがな、もらってばかりでそれでいいのかい?」 覇王の言うことはもっともだと思い、破天荒は考えて少し作戦を練ることに決めました。 破天荒がサンドルフやサンサンのためにできることを考えたのです。 もちろんサンサンもそのターゲットなのです。 サンサンの喜びはダンドルフの喜びでもあるのですから。 ですが覇王は食事の手を止めて、素早くサンドルフの目の前に移動しました。 「破天荒があのきぐるみを欲しがっているんだけど、  サンロロスの件も含めて恩返しをさせたい。  もしそれを気に入ってくれたのなら、  きぐるみを創ってやってくれないかな?」 覇王の言葉にはやさしさがありました。 ですが以前の覇王とも違います。 重厚な修行を積んだんだと、サンドルフもサンサンも思って覇王に笑みを向けました。 「あ、あのですね…」とサンドルフが言い辛らそうに言うとサンサンが、「私たちは無償で愛を配りたいっ!」と、サンサンはもろ手を上げて言いました。 「あ、ああ、それは本当にうれしく思うんだ」と覇王は笑顔で言って、ふたりに頭を下げました。 破天荒はニコニコ顔で、頭だけ覇王から出しています。 破天荒は創ってもらえると確信しています。 「だが、それでいいのだろうかとも思うんだよ。  今回の場合は前回のサンロロスの件と合わせて、  恩返しが必要だとね。  ああ、もちろん俺ができることは協力したい。  もし、ふたりが不可能だが、  俺にならできることがあったら教えて欲しいんだよ」 「その気持ちだけで十分なのっ!!」とサンサンが言ってから、笑顔でサンドルフを見ました。 「ボクはサンサンに反対だよ。  サンサンはもう少し冷静になるべきだ」 サンドルフが言うと、サンサンは少し怒りましたが、覇王と破天荒を見て、「…あー…」と言ってから身をのけぞらせました。 「…冷静じゃなくってごめんなさい…」とすぐにサンサンはサンドルフに謝りました。 サンドルフも覇王も、サンサンに笑みを向けています。 「えー… そんなぁー…」と言って破天荒は悲しそうな顔をしてうつむいてしまいました。 「破天荒の欲が、サンドルフとサンサンの心を曇らせたんだよ。  強すぎる願いは欲でしかない。  心を改めることもまた修行だ」 覇王は言ってから、ふたりに頭を下げて素早くカウンター席に戻りました。 すると、少し憤慨した様子で源次郎がやってきました。 そして覇王を見つけて少しだけ頭を下げましたが、すぐにランスを見据えました。 「あー、かなり怒っちゃったね…」とサンドルフは言って席を立ちました。 そしてゆっくりと、席についているランスのそばに寄りました。 「あー…  いや、サンドルフがいた方がいいな」 ランスはサンドルフを見上げて笑顔で言いました。 「この事態を畏れていんだよ、ランス」と源次郎は苦笑いでランスに言いました。 そして源次郎はベティーと利家を本気の畏れをまとってにらみつけました。 ふたりは肩をすぼめてから、源次郎との視線を外しました。 「もちろんふたりは魔王軍所属にするには協議の必要があります。  ですが、二人の気持ちを考えると、  魔王軍にも所属させてやりたいと思っているんですよ」 源次郎には思い当たる節があるので、その後ろめたさから心にダメージを負ったようです。 源次郎たちは世界の騎士団として活動するのは、年に数回しかないのです。 ほとんどが緊急性を帯びたもので、年に一度、巡回する程度なのです。 ですがそれほど出動しないことが、世界の騎士団の誇りでもあります。 今までにそれほどのことをしてきたという結果を残しているのですから。 「動物ですので言い聞かせは必要です。  第一に世界の騎士団員として。  第二に魔王軍の一員として。  これはロア部隊の隊長であるサンドルフの仕事です」 ランスが言うと、サンドルフは源次郎に笑顔で頭を下げました。 源次郎もサンドルフに笑顔で頭を下げています。 「少し感情的になってしまった。  ここはランスもそうだが、サンドルフ君の手腕に期待しよう」 源次郎は笑顔で言って、ふたりに頭を下げてから、覇王に寄り添って食事に付き合うようです。 「心から分かり合えるって、本当にすごいことだと改めて感じました。  源次郎さんはもうその入り口に立っておられます」 サンドルフが言うと、ランスは笑みを深めて喜びました。 サンドルフはランスに頭を下げてから、「ロア部隊、集合っ!!」と気合の入った声を上げました。 これが始めてのサンドルフの命令です。 隊員は一斉にサンドルフの前に立ちました。 その素早さはまさに電光石火でした。 しかし、サンドルフはかなり困った顔をしています。 「カレンはロア部隊じゃないだろ…」と言ってカレンに困った顔を向けています。 しかしカレンは満面の笑みをサンドルフに向けるばかりです。 「それに、サンクック君も一緒になって並ぶんじゃない…」 サンドルフはかなり困った顔でふたりを見ています。 「いや、サンドルフ、とりあえずそれでいいぞ」とランスが笑顔で言いました。 サンドルフはランスに深く頭を下げています。 「サンクックはまさに影の中の影だと感じた。  本来影は決してこのようの行動は取らないんだ」 「えっ?」とサンドルフはランスの言葉に驚いて言いました。 「サンクックはサンサンたちとも、仲間でいたいようだな」 ランスが言うと、サンクックは笑顔でうなづいています。 サンサンたちは、サンクックに笑みを向けています。 「それからカレンはな、まだ配属を決めていなくてな。  今のところいろんな部隊に混ぜている。  だが、ロア部隊が適所だと感じた。  珍獣扱いで仲間に加えてやって欲しい」 ランスが言うと、誰もが納得しましたが、珍獣といわれたカレンだけが少し怒っています。 「はい、お言葉に従います。  本当に、ありがとうございます」 サンドルフは言って、ランスに笑みを向けました。 「ロア部隊の力は絶大だ。  よって戦場での通常時は龍を着ていることが前提。  サンドルフの指示により、きぐるみを脱いだ時に、  本当のロア部隊が出現することだろう」 ランスの言葉と同時に、ベティーとセイランダは本来の姿に変身しました。 もうこのふたりがいるだけで、ロア部隊は最強となっています。 何を思ったのかサンサンが天使デッダに変身すると、ランスは大声で笑い始めました。 「敵を癒やすことになるから、その姿は仲間の前でだけにして欲しいな」とランスが言うと、サンサンはすぐに人間の姿に戻りました。 「だが当然、隊長の命令は絶対だ」とランスが言うとサンドルフは天使デッダに変身しました。 サンサンはひとテンポ遅れて、天使デッダに変身しました。 そしてふたりして、柔らかな癒やしを発し始めました。 「利家とタレントは地の利に応じて変身してくれ」 ランスが言うとふたりは笑顔でうなづいています。 「水の多い星はかなりあるんだ。  海洋生物などの説得や誘導を頼むこともあるだろうからな」 ランスが言うと利家とタレントは喜びの笑顔を向け合いました。 しかし気に入らない者がふたりいます。 「ランスッ!!  俺はロア部隊じゃなくていいのかっ!!」 キャサリンの厳しい声が飛びました。 その隣にいるサラもうなづいています。 「おまえらは動物じゃないだろうがぁー…」とランスが困った顔をして言うと、「だがっ! 龍となって飛んでいたっ!!」と言ってキャサリンは食い下がります。 「動物ががんばって神としての龍となる。  という遊びだ」 ランスは少し笑いながら言うと、キャサリンは言葉に詰まったようで、「うー…」とうなり始めました。 ランスの言ったことはもっともな話しで、初めて龍となったキャサリンは当初は小さな素早く飛べる小鳥でした。 そしてブライに術を授けられてから努力して今のキャサリンとなったのです。 その気持ちが一番わかるキャサリンが何も言えなくなって当然なのです。 「しかし、モチベーションが下がるのも困るからな。  状況によってはロア部隊にキャサリンとサラも加える。  巨大な龍と小さな龍は、  戦地をオレたちの都合のいいように変えてくれることだろう」 ランスが言うとすぐに、キャサリンとサラはサンドルフの目の前に立ってお辞儀をしました。 「これは俺に命令権があるから、今はこっち」とランスが言うと、ふたりは渋々ランスに寄り添いました。 「さて、龍のきぐるみには  それぞれみんなにあわせた能力を取り入れてあるんだ。  特に派手なのはセイランダちゃんの火龍。  変身してくれないかな?」 サンドルフが言うとセイランダは笑顔で帽子をかぶって、火龍に変身しました。 「頭の上にひとつだけフタのついたボタンがあると思うんだけど…」とサンドルフが言うとしばらくしてから、「あったあったっ!!」とセイランダの声が聞こえた途端、サンドルフに向けてとんでもない勢いのある炎を吐き出しました。 誰もがサンドルフと火龍から遠のきましたが様子が妙です。 サンドルフは苦笑いで火龍を見ているだけです。 「押していいって言ってないよ」とサンドルフが言うと、「あははっ! ごめんなさぁーいっ!!」とセイランダの陽気な声が聞こえました。 「今のように危険なので、もちろん本物じゃなくてリアルな映像だけど、  みんなのようにかなり驚く」 サンドルフが言うと、誰もが大きくうなづいています。 「驚きは隙を呼ぶ。  その隙を狙って簡単に活路を見出すことも可能だよ」 サンサンたちも気ぐるみを着て、ボタンを確認してサンドルフに指示を仰いで順番に押していきました。 「…うう、楽しすぎる…」とベティーは言って、様様な勇猛な声の口真似を始めました。 「最後に、一番恐ろしいものは利家君。  だから一番人間に近い利家君のきぐるみにだけ取り付けた。  これは脅威だから、結界を張るからね」 サンドルフが龍を着ているロア部隊を移動させて、大きな結界を張りました。 カレンは結界内に入れてもらえず、結界をたたき始めましたが、光速で移動して、難なく結界を通り抜けてきました。 「わざわざ外に残したのに…」とサンドルフが困った顔をして言うと、「先に言ってっ!!」とカレンが言うと、「隊長の命令は絶対だよなぁー…」とトラ柄の龍がかなりの畏れを流しながら言いました。 「はいっ! ごめんなさいっ!!」とカレンは言って素早く結界の外に出ました。 「ああいった特殊な人もいるから。  結界を張ったからって、安心してはいけない」 サンドルフが言うと龍たちは、首を縦に振り始めました。 「エメラルドグリーンの龍は、  その場を自身の優位に変える」 サンドルフが言って利家に笑みを浮かべると、エメラルドグリーンの龍の体全体から、大量の水が湧き出てきました。 巨大な結界内は、サンドルフの胸まで水が溜まり、まさにこの場所はエメラルドグリーンの海になりました。 龍たちは一斉に飛び上がりましたが、スカイブルーの龍と、赤い龍は落ち着きがありません。 「さあ、少しだけ自由時間だっ!!」とサンドルフが言うと、ロア部隊は全員きぐるみを脱いで、好きな姿に変身して水遊びを楽しみ始めました。 水の調達はこの星自体のもので、主に大気中の水分を使用しています。 生態系にはほとんど影響はありませんが、天候が急変することが考えられます。 しかし、この場所を中心に術を放っているので、ここにすぐに大雨が降ったりすることはありません。 「はは、すげえなっ!!」と言って、遠くから見ているランスは喜んでいます。 「ロア部隊のデモンストレーションだ。  みんなもやる気になっただろ?」 ランスが言うと、反応は様々でしたが、苦笑いを浮かべる者が多くいました。 このロア部隊がいれば、何もかもスムーズに進むのではないかと考えたのです。 猛獣使いのサンドルフがいれば、何も怖いものはないと、仲間たちは思っているようです。 サンドルフが考え始めました。 やはり隊長もみんなと同じでないといけないと思ったようで、龍のデザインを考えています。 そしてそのついでに、カレンの龍のデザインも考えることにしました。 やはり重要なのは龍のカラー。 できれば、あまり攻撃を受けないような色の方がいいのです。 さらには、ベティーの龍のように少々身の毛がよだつものも考えものです。 ―― 透明にすると… ―― とサンドルフは考えて、試作として創り出しました。 遊んでいたサンクックを呼んで着せると、透明ですが存在はわかります。 しかし、一瞬見ただけではよくわからないといった、なかなかできのいい作品になりました。 サンドルフは納得して、これを自分のスーツに決めました。 カレンのものは、やはり太陽にちなんで黄色く光るものにしました。 サンドルフは簡単に創り上げて、帽子を結界の中からカレンに投げ飛ばしました。 帽子は結界をすんなりと通り抜けて、カレンの手の中にありました。 しかし命令がないので、カレンはどうしようかと迷っています。 するとサンドルフのサイコキネッシスに誘導されて、カレンは結界内に入っていきました。 「試着して、みんなに評価してもらってよ」とサンドルフが笑顔で言うと、カレンは早速薄黄色の帽子をかぶって、わずかに光っている龍に変身しました。 金龍と見分けがつきにくいのですが、光っている分黄色、金色というよりも白に近いので、仲間であれば簡単に見分けはつきます。 カレンは喜び勇んで結界内を飛び回っています。 そしてカレンは、自分の姿を水面に写して納得してから、みんなに聞きに回り始めました。 そろそろお遊びを終えようと、サンドルフは水が抜けやすい場所を選んで、簡単な水路を造りました。 地面の様子から確実に川に向かって流れそうなので、「そろそろ終わりだよっ!!」とみんなに告げました。 どうやら満足したようで、サンドルフの部下たちは一斉にサンドルフの目の前に集合しました。 「今は楽しんだと思うけど、  当然だけど戦場に出たらこんなことはないからね。  それぞれ自覚してね」 サンドルフが妙にやさしく言うと、「はい、隊長っ!!」と全員が一斉に、真剣な顔でサンドルフに言ってから最敬礼しました。 サンドルフは少し照れくさくなったようですが、顔を引き締めました。 「一部結界を外すと、水が勢いよく流れ出るから。  水が引いてから結界を完全に解くからね」 サンドルフが言うと、部下たちはその方向を見てわくわくしています。 動物も子供も同じだと、サンドルフは改めて思いました。 一部の結界を解くと、水は一気に外に流れ出ていきます。 サンサンたちは歓声を上げながらその様子を見入っています。 どうやらまっすぐ川に向かっているようで、簡素な用水路のようなものになっています。 雨が降れば、この用水路に流れ出て川に流れ込むことになるでしょう。 動物たちにとって楽しいイベントを終えると、またお腹がすいたようで食事にすることにして結界を解きました。 『あのぉー…』とサンドルフの頭に声が響きました。 サンドルフが辺りを見回すと、小さな魚のような動物のようなものがいました。 「うまそうだな…」とベティーが言ってひとつ舌なめずりをしました。 サンサンやセイランダは、ベティーに困った顔を向けています。 「話ができるようだから、食べない方がいいよ」とサンドルフが言うと、「くっそぉ-…」と言ってベティーは心の底から悔しがっています。 「冗談でも食べていいなんていっちゃダメだよ。  本気で食べるから」 サンドルフが妙な生物に言うと、『あはは、怖い人なんですね…』と、言って、魚のような小さな動物は二本足で立ちました。 足と言っても尾ひれがふたつに分かれたもののように見え、体全体の十分の一ほどしかありません。 「君って、ひょっとして人間じゃないの?」とサンドルフが言うとサンサンたちはかなり驚いたようで、珍獣を見て驚きの顔を向けています。 『あはは、僕だけがそう思い込んでるだけで…』と言って妙な生物は恥ずかしそうにして下を向きました。 サンドルフが両手のひらを出すと、簡単に乗ってきました。 サンドルフはまじまじと、珍獣の観察を始めました。 「なるほどね、肺呼吸。  それに、体の割には脳が異常に大きい。  きっと、ボクと同じで、  12才程度の知識は簡単に手に入れられそうだね。  それに、誰かに教わったわけでもないのに、  いろんなのことを知っているようだ」 『あ、そうなんです…  妄想癖でもあるのかと思って…』 珍獣が言うと、サンドルフたちはかなりの勢いで笑い出しました。 「君が先住民だ。  僕たちはここに住まわせてもらっているんだ。  僕のお師匠様に紹介するから、  知っていることは話してもらいたいんだよ」 『あ、ランスさん、ですよね?』と珍獣が言うと、「言葉の理解もできている…」とサンドルフは笑顔で言ってから、この珍獣をすぐにランスに紹介しました。 ですがなぜかランスに念話をしても、ランスが理解できないようで、頭を抱え込んでいます。 これには誰もが困ってしまいました。 しかし、機械の体を持つマキシミリアンやセイルにはきちんと通じているのです。 そしてランスのように、ごく普通に人間の者は、誰一人として言葉を理解できませんでした。 しかし、ロア部隊のメンバーは、純粋に人間のカレン以外は話しをすることができました。 よってサンクックが映像と声色を使って、映像と音声で通訳をすることになりました。 サンクックは純粋に機械なのですが、言葉がわかるようなのです。 ランスをはじめ、ごく普通の人間を持ってる者たちは少々落ち込んでいます。 まるでここは動物が一番偉いというような錯覚に陥ってしまったのです。 ひと通り話しを聞いて、早速発掘作業が始まりました。 なんとこの妙な生物は、この星の住人ではなく、別の星からやってきたようなのです。 長い年月をかけ、この星の重力に慣れ、なんと体が退化して行ったのです。 この珍獣はなんと、十万年ほどこの星で生きていたのです。 これはランスが思考と記憶を探って判明しました。 言葉は理解できませんが、脳内情報はどんな生物でも自分なりの言葉に変換可能なのです。 そして名前をケラムル・ボル・ゲラーだということもわかりました。 その名前を珍獣に告げると、『うーん…』と考え込んでいるだけで、記憶にないと言っています。 どうやら長年の間に、記憶を呼び覚ますことができなくなたようで、この珍獣に改めてケラムルという名前をつけました。 ケラムルは名前をもらったことを喜んでいます。 宇宙船発掘作業は簡単に終わり、細田がいそいそとサンダイス星にやってきて、早速調査を開始しました。 宇宙船はごく一般的な人間の乗るものです。 「あー、これって…」と言って細田は数カ所に映像を出しました。 「…死の星…」とランスはつぶやくように言いました。 「もう終焉の時を迎えているようだね」 細田があまり声を張らずに言うと、誰もがうつむきました。 「明日はこの星に行って調査だ。  ひょっとすると、ひょっとしそうだからな」 ランスは言ってからケラムルを見て微笑みました。 ケラムルはどういうことなのかよくわからないようですが、ランスにお礼を言っています。 翌日はロア部隊も魔王軍に加わりました。 ベティーと利家は、源次郎に許可をもらったのでみんなと一緒に出撃します。 ですがその代わりに、世界の騎士団もこの旅に同行する条件を源次郎がつけたのです。 とんでもないことが起こるとも知らずに・・・ 今回は戦いはないはずなので、ロア部隊はかなりお気楽ムードで、短い宇宙の旅を楽しんでいます。 宇宙船は目的の星である、ウーリアに到着しました。 「星の寿命は50億年。  まだまだ壊れるには早いはずだが、  星ができ上がった時の状態が悪すぎたようだ」 コロネルが言うと、ランスは星を素早く探って、都合のいいように星の改良をしました。 「あ、生体反応…」とランスは言ってモニターを見ましたが、当然のように皆無でした。 虫すら、そして植物すら生息していないことに、一同は深く頭を垂れました。 しかしサンドルフはランスが笑みを浮かべたことに気づきました。 ランスは何かを知っていると思い、サンドルフはケラムルを見て微笑みました。 「君と同じならきっと…」とサンドルフは希望を持って言いました。 ケラムルは理解できなかったようで、妙な顔をしてサンドルフを見ています。 ここからはいつもの星再生の作業となります。 キャサリンたちは大いに張り切って、あっという間に植物がよみがえり、まったく水がなかった大地に、あふれんばかりの地下水が湧き出て、乾いた星の表面を潤し始めました。 「さあ、そろそろだが…」とランスは言ってモニターを見入っています。 そしてランスは、「よっしゃぁ―――っ!!」と言って大声を上げました。 なんと次々に生体反応の検知を始めたのです。 ですがそれはほんのわずかで、星の三分の一で30ほどだったのです。 しかし、生物がいるのといないのとでは大違いです。 ランスはサンサンとともに歓喜の踊りを始めました。 「うわぁー…  まさかだったぜぇー…」 コロネルも喜んでいるのかと思いきや違うようで、別の映像を出して、「喜んでいる暇はねえぜ」とランスに言いました。 「ああ、それは予感があったから別に驚きもしねえ」 ランスは平然と言って、モニターを見てにやりと笑いました。 モニターには、大勢の悪魔が映ってたのです。 「戦ってもいいけど、まずは平和に…」とランスは言ってすぐに、「魂まんじゅうロケット、発射っ!!」と言うと、この場にいる全員が笑い転げました。 別の宇宙船にいる世界の騎士団員たちも笑い転げています。 悪魔たちはいきなり飛んできたロケットに驚き、右往左往とし始めましたが、目前でロケットが分解して、なにやらうまそうなものが宙に浮かんでいることにすぐに気づきました。 悪魔たちは慌てて、悪魔用魂まんじゅうをほおばり、笑みを浮かべて舌鼓を打ち始めました。 この悪魔たちはまったく統率が取れていません。 それもそのはずで、なんとボスがいないのです。 実はいたのですが、この星の崩壊が始まってすぐにボスだけがこの星に来てしまっていたのです。 今ここにいる者たちは、長い間、暗黒宇宙で待たされていたのです。 よって、お腹もすいているので、この顛末となってしまったようです。 しかし、空腹が満たされると当然のようにボス争いが始まりました。 「さあ、行こうか。  悪魔といえども、死人を出したくねえからな」 戦士たちは一番に飛び出したランスの後を追いかけました。 そして世界の騎士団員たちもランスに倣いました。 「敵襲っ!!」と悪魔のひとりが叫び、ボス争いは中断しました。 ですが、命令する者がいないので、気の強いものだけが、ランスたちに向かって飛んでいきました。 しかし悪魔たちは勇者たちのサイコキネッシズで簡単に押し戻されて、リノとエンジェルが張った結界の中にすっぽりと納まってしまいました。 さらに結界をすぼめられたので、結界内は悪魔でひしめき合っています。 当然のように結界を壊そうと殴り蹴りますがびくともしないので、ランスたちをにらみつけ始めました。 「俺がボスを決めてやる」とランスが言うと、悪魔たちは鼻で笑いました。 ランスが鼻で笑い返すと、かなり腹が立ったようで、力任せに結界を叩き始めました。 「おめえらは弱ええ…  ダフィーだけでも勝てるんじゃね?」 ランスが言うとダフィーは鼻で笑ったので、ランスは苦笑いを浮かべました。 「僕たちは悪魔を見ないで、地上に集中だ」 サンドルフが言うと、ロア部隊のメンバーは、ケラルムそっくりの動物のような人間とコンタクトをとり始めました。 サンドルフがケラルムを抱いていることが効果的だったようで、誰一人としてサンドルフたちを見て怯えることはありませんでした。 ケラルムも同じ存在だと認めたようで、コミュニケーションを開始しました。 そしてケラルムのように、ほとんどの記憶を失っていますが、人間であることは忘れていないようです。 ランスは、ひとりの悪魔を外に出しました。 この悪魔はふざけているように見えますが、かなり強いようです。 悪魔は魂まんじゅうを抱え込むようにして食べています。 「おまえ、おもしれえな」とランスが言うと、「うまいなぁー、これ…」と言って会話になりませんでした。 「などと言いながら、きちんと警戒は怠ってねえ。  だが、エサを与えたオレたちを襲うことは考えてねえ。  できれば穏便にことを済ませたい。  そして、人間を喰らうこともできれば控えたい。  悪魔用魂まんじゅうが十分にその代わりになるからだ」 ランスが言うと悪魔は、「ふっ」と笑って、食べる行為を中断しました。 「わかってくれているようだな。  だがな、戦わないと治まらないんだ」 悪魔が振り返って言うと、ランスは笑顔でうなづきました。 「オレたちが審判をする。  どう見ても死にそうになったやつはすぐに助ける。  こういうルールでどうだ?」 ランスが言うと、「あ、俺も助ける側に回って戦おう」と悪魔は笑みを浮かべて言いました。 「その前にだな…  これ、どうやって造ったの?」 悪魔が魂まんじゅうを見て聞くとランスは少し笑って、後で講義をすることに決まりました。 「まずは平和にしなければことは進まない」と、ランスは言いました。 悪魔も同意したので、ランスは結界内に悪魔を戻しました。 そして早速バトルが始まりました。 リノとエンジェルは結界を迷路のようにして、みんなを誘導します。 ランスたちはサイコキネッシスを使って、危うい悪魔の保護を始めました。 当然説得しなければわからないので、世界の騎士団員のサポーター陣が奔走しました。 やはりバトルを始めると優劣ははっきりとして、力のない者はすぐに己の未熟さに気づいたようで、説得しなくてもボスにはなれないと思ったようです。 やはりランスと話した悪魔は強く、200人ほどいた悪魔は、もうたったの10人となっていました。 食いしん坊な悪魔以外はもうすでに息が上がっています。 食いしん坊な悪魔はいきなり、半数ほどの悪魔を結界に叩きつけました。 どうやらサイコキネッシスを使えるようですが、それほど強いものではありません。 ですがその衝撃により、五人が動けなくなりました。 残り四人は食いしん坊な悪魔に一斉に襲い掛かりましたが、左手の攻撃だけで簡単に結界に叩きつけられました。 悪態をついて立ち上がろうとしますが、それは適わないようで、結界の底に腰を落として、拳で殴りつけています。 「俺がボスなっ!」と言って、うまそうに魂まんじゅうを食べ始めました。 誰もが、―― かなりの食いしん坊だな… ―― と思ったようです。 休むまもなく、ランスたちは大地を耕し始めました。 当然悪魔たちにも説明はしてあります。 追加の魂まんじゅうをセルラが届けに来ると、セルラの畏れにより、食いしん坊な悪魔は最敬礼をしてまんじゅうを受け取りました。 「あの女よりも強ええ…」と食いしん坊な悪魔はダフィーを見て言いました。 「あのなぁー…  セルアはただの術師だぜ。  それに最近はまったく鍛えてねえ。  と見せかけて鍛えるようなやつだから、  おまえの眼力は大したものだな」 ランスがほめると、悪魔はホホを赤らめて、「亭主にしてやるっ!!」といきなり言いましたが、「断るっ!!」とランスはすぐに言って大笑いを始めました。 「俺は強ええ女が大好きなんだよ。  今のセルアの数倍強ええやつもいるんだぜ」 ランスが言うと、もう答えを知っていたようで、それほどショックはないようでした。 悪魔ではありませんが、この悪魔よりも強い者が大勢いることに、悪魔はショックを隠し切れません。 「となると、本来のボスはさらに強ええ」とランスが言いましたが、食いしん坊な悪魔は鼻で笑いました。 「何もしないで、あの地にいたとでも思うのか?」 あの地とは、暗黒宇宙のことです。 そこで悪魔たちは自らを鍛えていたはずです。 ランスは納得して、笑みを浮かべました。 作物を育て、収穫してからまんじゅう造りまで、全てを伝授しましたが、当然のように悪魔たちは覚え切れません。 「覚えるまでひたすら造れ」とランスは言って悪魔たちの監視を始めました。 半数ほどはべそをかきながら造っていますが、完成した途端に食べ始め、あまりのうまさに手と口が止まらなくなっています。 そして腹が減ればまた造って食べる。 これを数回繰り返せば、何もかも全て覚えるはずです。 悪魔たちは放っておいて、ランスは原住民の様子を見に行きましたが、もうすでにロア部隊が全てを終えていました。 どうやら星を一周して全て集めてきたようで、その数は150名ほどとなっていました。 ですが体が小さいので、さらに増えたとしても食糧難にはならないはずです。 復活し成長した現地の樹木の果実などの味見をしましたが、どれもこれもなかなかうまいとランスは思ったようです。 原住民も当然のように口に合うようで、今のところは調理をしなくてもいいものをべています。 ランスが原住民の記憶を探った料理をサンクックが再現すると、原住民たちは驚きの声を上げて食べ始めました。 ケラムルもすっかりとなじんだようで、この星に留まることに決めたようです。 あとは原住民と悪魔の対面です。 動物のような存在を悪魔が鼻で笑うと思いましたが、それはなく、悪魔の方がかなり意識を始めました。 ランスがインタビューをすると、悪魔たちは口をそろえて、「怖いことなどあるものかっ!!」と虚勢を張っているのです。 ということは、怖いと言っていることと変わりありません。 食いしん坊な悪魔も同じ反応を見せ、「存在自体が妙…」と言ってそっぽを向いています。 疎遠になりながらも共存はできるとランスは思い、監視役として、武術に長けたヒューマノイドを三体、置いていくことに決まりました。 三人は不安に思いながらも、堂々と胸を張って任務を遂行することに決めたようです。 当然数日で回収することになるので、それほど心配はしていないようです。 ですがサンサンが、ここに残りたいと言ったので、ランスはその理由を聞きました。 「いいことがありそうっ!!」と言って、サンサンはランスに笑顔を向けました。 ランスはかなり考え込んでから、サンドルフに決めさせることにしました。 サンドルフは、「ベティーさんと利家君以外は駐留!」と堂々と言いました。 さすがにふたりは反抗できずに、渋々ながら今回は帰ることに納得しました。 源次郎も何もいうことはないので、笑みを浮かべてサンドルフを見ています。 「いえ、今回は駐留してもいいわ」と越前雛が言ったので、ベティーも利家もすぐにサンドルフに寄り添いました。 「嬉しそうで何よりだわ」と雛は言ってから、源次郎に意味ありげな笑みを浮かべました。 源次郎は苦笑いを浮かべるしかなかったようです。 そして、「俺も残っていい?」と源次郎が言いましたが、それは簡単に却下されて、世界の騎士団は宇宙船に乗り込んで、ランスたちより一足先に地球に帰還しました。 「ま、今回は経験がものをいったな。  もし知らなかったらと考えると、今頃は大反省会中だろう」 ランスが言うと誰もがランスに頭を下げました。 知っていたからこそ準備もしていたし、丸く治まったのです。 よって、数多の重要な経験と知識が必要だと思った途端、学生でもある戦士たちは焦った顔をしました。 「カレン以外は重要なことは全て知っているはずだ。  カレンにはサンドルフがおいおい補足説明してくれることを望む。  あ、ベティーさんたちにもな」 ランスは少し笑いながら、サンドルフやサンサンに向けて手を振って宇宙船に乗り込んで行きました。 残されたロア部隊とヒューマノイド三名は、宇宙船に向かってお辞儀をしました。 「まずは食事をしよう」とサンドルフが言うと、「おおー… 何もしてないが腹は減ったな…」とベティーが言うと、みんなは大声で笑い出しました。 まったくその通りで、誰もがほとんど何もしていません。 原住民たちにインタビューと指導、指摘などをしただけです。 大勢の原住民がいますが、みんな小人と言ってもいいほどなので、それほど食材は必要ありません。 まるで炊き出しのように、原住民たちは列を作って、おいしそうな料理にのどを鳴らしています。 すると、においにひきつけられたのか、悪魔たちが少し遠巻きから見ていました。 ランスにクーニャと名づけられた悪魔のボスは、まだ魂まんじゅうを食べています。 「いい匂いなのは認めるがな、食っても腹の足しにもならんと思うぞ。  この魂まんじゅうだけが俺の空腹を満たしてくれている」 「ボス、食べすぎですぜ」とひとりの悪魔が言って、クーニャの腹を指差しました。 クーニャの腹は見事に膨れ上がっています。 「うーん…  もっと食べたいが、我慢しよう…」 クーニャは言って、魂まんじゅうをランスが創ったストッカーに入れて、ゆっくりと仮設食堂に向かって歩いていきました。 「おい小僧」とクーニャはサンクックに向かって言いました。 「僕、サンクックといいます」と丁寧にお辞儀をすると、クーニャもお辞儀を返しました。 ―― 珍しい悪魔だな… ―― とサンドルフは思って、様子を見ることにしました。 「うまいんだろうなぁー…」とクーニャはあらん限りの恐れを流したようですが、手下たちを骨抜きにしただけで、サンドルフたちはまったく平気でした。 「味なんて人それぞれですから。  好きな人もいれば、嫌いな人もいます。  でも僕はおいしいと思いますよ」 サンクックは、大皿に料理を乗せて、クーニャに手渡しました。 「こ… これはっ!!」と言ってクーニャは目を見張りました。 全ての料理に小さな魂まんじゅうが乗っていたのです。 「マズいわけがないっ!!」とクーニャは言って、あっという間に料理を食べつくしました。 「いやぁー、魂まんじゅうもうまいが、今の料理もうまいなっ!!」 「この星の料理だから。  ここの原住民たちもこれから造ることになるから、  分けてもらえばいいと思うよ」 サンクックが言うと、クーニャは笑顔でうなづています。 「いやですがボス、この魂まんじゅう、味がありませんぜ。  だが、料理もうまいっ!!」 ひとりの手下が言いましたが、クーニャは何も気にせずに、どうにかして原住民と仲良くなる方法を考え始めました 小さな魂まんじゅうは映像なので、当然味はありません。 この方法なら簡単に食べてくれると、サンクックは思ったようです。 サンドルフは、バックグラウンドで動いているサンクックが出している映像を見ています。 これはこの星全ての情報です。 今のところ、特に変わったことはないようで、少し安心することにしました。 原住民たちは仲間と、そしてサンサンたちとコミュニケーションを取っています。 すると、『ピピッ』と警戒音が鳴りました。 サンドルフがモニターを見ると、魂がひとつだけ沸いて出てきたのです。 サンドルフがここから探ると、確かに原住民の体質と同等なのですが、少々異様だと感じました。 サンドルフは空高く飛び上がり、魂の場所を特定してその方角を見ました。 「うわぁー…  大丈夫じゃないかも…」 サンドルフはすぐにランスに念話を入れました。 するとランスはマキシミリアンたち各隊長を連れてサンドルフの体から出てきました。 「おいおい、まさに異様だな…  元ボスの悪魔が原住民と融合したのか…  いや、原住民の能力を拝借して生き残ろうとしたか…」 ランスはすぐさま、異様な姿の小さな悪魔に結界を張りました。 悪魔はまったく気づいていないようで、地面にぺたんと腰を落としました。 この星の住民は危機が訪れると魂ごと冬眠状態に入るので、危機が去り覚醒した場合、かなり疲れるようなのです。 というのも、当然のことですがお腹がすいているからです。 ですが動けないほどお腹がすいているので、助けないと死んでしまうことになります。 「さて、サンサンを連れて行こうか」とランスが苦笑いを浮かべると、サンドルフがすぐにサンサンを呼びました。 サンサンだけしか呼ばれていないので、ベティーたちは持ち場を離れるわけにはいきません。 ランスが戻って来ているので、何かがあったと感じています。 なにがあったのか知りたいのですが、―― これは試練っ! ―― とベティーたちは思いました。 サンサンがすぐにサンドルフに寄り添い、妙な悪魔を見て、「ああっ! 王様っ!!」と言って喜んでいます。 ランスも素早く察して、笑みをサンサンに向けました。 もちろん王なので、あまり粗相はしないようにと確認した上で、接触しようとランスたちは試みました。 結界に守られている安心感はありますが、決して油断はしていません。 ですがサンサンは余裕の笑みを浮かべて妙に楽しそうです。 「サンサンは今すごく楽しそうだが、理由を聞かせてくれないか?」 ランスが言うと、サンサンは笑みをランスに向けました。 「お友達になるのっ!」とサンサンはもろ手を上げて喜んでいます。 「あはは、そうかい、なるほどねぇー…」とランスは言って、少し冷や汗を流しています。 どう見てもとんでもない存在だとランスは感じていたのです。 ですが、問題はその性格にあります。 サンサンが喜んでいるので、何も問題はないはずだと、ランスは安心することにしました。 「あ、でもね、みんなにはちょっと冷たいかも…」とサンサンが言うと、―― やっぱりかっ!! ―― とランスは思って、ここはサンサンとサンドルフに任せることにしたようです。 サンサンもあまり刺激はしない方がいいとさらにランスに言いました。 「サンドルフ君は大丈夫なのっ!」とサンサンはうれしそうに言いました。 「それは光栄だね」とサンドルフは答えてから、冷や汗を流し始めました。 サンドルフが結界をノックすると、小さな悪魔はとんでもない形相になりましたが、サンドルフを見て表情を和らげて笑みを浮かべました。 サンクックが様々な種類の食べ物を持ってきて、白いシーツを引いた上に料理を並べました。 ここには当然、悪魔まんじゅうもあります。 ランスは結界を解きました。 すると小さな悪魔は一目散に魂まんじゅうに食いつきました。 『うわぁー、おいしいっ!!』と妙にかわいらしい声がサンサンたちの頭に響きました。 ですがランスには聞こえないようで、コロネルが通訳を始めました。 小さな悪魔は魂まんじゅうばかりを食べていましたが、ほかの食べ物も食べなくては悪いとでも思ったようで、手づかみで料理を食べ始めました。 「うう――んっ! こっちもおいしいわっ!!」と言って小さな悪魔は次々と料理を平らげていきました。 原住民たちが駆け足でサンサンたちに迫ってきました。 「おいっ! こらっ! 待てっ!!」と言ってベティーたちが追いかけるのですが、小さいのに素早く移動できるようで、サンドルフはかなり驚いたようです。 ですが原住民たちはサンサンの足に隠れるようにして、小さな悪魔を見ています。 「…一番の人だ…」と原住民のひとりが言うと、「王様だっ!!」と言って、原住民たちは悪魔を囲んで地面に座ってお辞儀をしました。 「あ、いいのいいの。  普通に付き合いたいから」 小さな悪魔は言いました。 これには誰もが驚きました。 小さな悪魔もそして原住民たちも、サンドルフたちが理解できる言葉を発していたのです。 ランスは苦笑いを浮かべながらもほっと胸をなでおろしました。 ランスのそばに悪魔たちがやってきました。 「元ボス?」とランスが聞くとクーニャは、「姿かたちは変わったがな…」と言って苦笑いを浮かべています。 せっかくボスになったのですが、どうあがいても勝てる見込みはないと思ったクーニャは、「おいちっこいのっ!!」と言って虚勢を張って言いました。 これが悪魔の生態なので、ランスたちは何も言いません。 「あ、元部下の人たち…  ほったらかしにしてゴメンねぇー…」 小さな悪魔は心の底から謝っています。 「いや、構わないっ!!  この星の王となったか…」 クーニャが苦笑いを浮かべて言うと、「あはは、そのようね」と言って、原住民たちを笑顔で見ています。 「できれば橋渡しを願いたいっ!」とクーニャが言うと小さな悪魔は、「普通に付き合えばいいじゃない…」と常識的なことを言いましたが、「気持ちがわからないわけでもないわよ」とクーニャに笑みを浮かべて言いました。 ―― 術師か… ―― とランスは小さな悪魔を見て悟りました。 クーニャは誰がどう見てもほぼ肉体派。 しかし、体力を温存する場合はサイコキネッシスのみで戦う、機転の利く悪魔なのです。 ですが小さな悪魔は全て術で戦うことでしょう。 その重厚な魂が全てを物語っていると、ランスは考えました。 「おうち…」と小さな悪魔が言うと、サンサンがすぐにサンドルフを見上げました。 サンドルフは笑顔を浮かべて、思いつく建物全てを創り上げました。 ここは小人用の住宅展示場のようになりました。 「まぁ、素晴らしいですわぁー…  全て採用しますので、皆さんここに住んでくださいねっ!!」 小さな悪魔が言うと、気に行った家を占領するかのように、原住民たちでごった返しました。 「てめえら、節度を守れっ!!」と小さな悪魔が大きな声で言うと、誰もが凍りつきました。 「あはは、やっぱ怖い人だったんだね…」とサンドルフが言うと、「あ、あら、私としたことが…」と言って、小さな悪魔は照れ笑いを始めました。 原住民たちは話し合いをして住む家を決めることにしたようです。 肝心の小さな悪魔の家は、「まあ、ステキ…」と言って石づくりの城を所望したようです。 サンドルフは早速、ジオラマを造るように城下町の建設を始めました。 今は小さな悪魔は、サンサンの肩の上にいてサンドルフの作業を見ています。 全てが新鮮なようで、小さな悪魔は楽しそうにしてサンサンと話しをしながら、城下町を見ています。 「ああ、さらにステキになったわぁー…」と小さな悪魔は、完成した城下町をじっくりと観察をすることにしたようで、まずはサンドルフに丁寧に礼を言ってから、住民を従えて城下町の散策を始めました。 サンドルフたちはこの間に、おいしい果実のなる木の植樹や、小さな農園などを造り始めました。 「あ、水だ」とサンドルフが言うと、ランスが中央公園にある噴水に水を沸き立たせました。 数カ所に井戸や、公園の池などにも水を沸き立たせました。 「温泉…」とランスは言って、サンドルフたちに指示をして、少し離れた場所数カ所に山を造らせました。 その谷底になる部分に川を造って、その中央に温泉を造り上げました。 「あー、いいなぁー…」とランスは少し宙に浮いて、全貌の観察を始めました。 「今はいらねえだろうけど、少し遠くに塀を造っておくか」 ランスが言うと、早速木材を切り出して、塀作りを始めました。 高さは人間ほどですが、今のところは天敵はいないのでこれで十分だと思ったようです。 太陽が移動しても、城下町が陰らない場所に塀を造っていきます。 「さらに城のある町になったなっ!!」とランスは言って喜んでいます。 見学を終えた王と原住民たちを、サンドルフがサイコキネッシスを使って宙に浮かせて、城下町の全貌を見てもらいました。 王は感動したようで、サンドルフやランスたちに丁寧にお礼を言いました。 これでこの星とは友好的関係を築けたと思ったランスたちは、セルラ星に帰っていきました。 「さて、ボクたちも駐留期間中はここの住民体験をしようっ!!」と、サンドルフは言ってから、サンドルフ自身と部下たちを小人に変えました。 「あらっ?!  サンドルフ様、やっぱりすごいわぁー…」 王は感動したようで、羨望の眼差しをサンドルフに向けています。 「…お婿さんに欲しいけどね…」と王は言いましたがすぐにサンサンを見て、苦笑いを浮かべました。 サンサンは、「サンドルフ君だけは譲れないのっ!!」と堂々と言うと、王は納得の笑みを浮かべました。 「でも、ライバルもいる…  私、きっと勝てないって思っちゃったけど…」 王はカレンを見ています。 普通に戦ってカレンに勝てる者はほぼいないはずです。 カレンがそれほど好戦的ではないことで、強く見えないだけなのです。 「すっごく早いから捕まえられないのっ!!」とサンサンが言うと、王は納得の笑みを浮かべました。 「無駄で無謀な戦いはしませんわ。  今は友好が第一」 王は宣言してから、サンドルフたちとフレンドリーに会話を始めました。
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