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第四抱 勇者たちのマニュフェスト
サンサンはキラキラした瞳を悪魔なこの星の王に向けています。
『そなたは本当に変わっているな』
王はサンサンに念話を送ってきました。
サンサンは笑顔で、『私って普通じゃなかったのっ!!』とかなりうれしそうな声で念話を返してから、サンサン自身のの生い立ちを語り始めました。
話しを聞き終えた王は目を見開いて驚いています。
『…確かに普通ではない…
あ、俺はヴォルドという。
やっと名前を思い出したんだよ』
ヴォルドは少し恥ずかしそうな声でサンサンに念話を送りましたが、見た目は涼しい顔をしています。
『私はサンサンッ!!
だけどね、本来の成長をしたらね、新しい名前をくださるって…
お父さんが…』
サンサンは微妙なニュアンスでヴォルドに言いました。
『まだまだ父の子供でいたいようだな』『うんっ! そうなのっ!!』とサンサンは即答しました。
『いや、よくわかった。
おまえを俺の友としてやろうっ!!』
ヴォルドの声は威厳がありましたが、実際の表情はかなり照れています。
―― 断られたらどうしよう… ―― などとも思っているようです。
『すっごくうれしいっ!!』「そうかっ! …あ…」とヴォルドは言って、かなり照れくさそうな顔をしました。
ヴォルドはうれしくて、ついつい声に出してしまったのです。
「申し訳ないな。
少々わが友サンサンと込み入った話しをしておった」
ヴォルドはまだ照れているようで、言葉には威厳がありますが、表情はかなり緩んでいます。
「だったらね…」とサンサンが言った途端に、「あー、素晴らしい…」とふたりの大人の男性の声が聞こえました。
ひとりは当然のように細田ですが、もうひとりは佐藤でした。
サンサンはすぐにヴォルドにふたりを紹介して、信頼のおける人物と念押ししてヴォルドに伝えました。
ヴォルドはサンサンを疑うことはしません。
ヴォルドは細田と佐藤を大歓迎しました。
「あ、扉だけど…」と細田が言って、サンサンと異空間の扉の設置場所の選定を始めました。
ヴォルドは何が始まるのか興味津々で、サンサンの肩に飛び乗って様子を見ることにしました。
佐藤は城下町の全体を眺めながら涙を流しています。
通常の人間サイズの十分の一の城下町に感動を思えたようです。
原住民の代表が決まり、ヴォルドに報告しようと思ったようですが、今は邪魔するべきではないと、代表もサンドルフも思ったようです。
クーニャは人が増えて少し興奮したようで、まずは佐藤に寄り添いました。
寄り添うというよりも後をつけるように観察しています。
―― 正体不明… ―― とクーニャは思い、できるだけ怒らせないようにしようと思ったようです。
そして、サンサンと妙に仲のいい細田の観察も始めました。
クーニャは細田に、何か懐かしいものを感じたようです。
そして無意識でふらふらと、細田に向かって歩いていきました。
視界に入って来たクーニャを細田は笑顔で見ました。
「やあ、クーニャさん。
ボクは細田仁右衛門と言います」
細田が言うと、「…はい、お父様…」とクーニャは少し朦朧として言いました。
今のクーニャは夢を見ているように、細田にかわいらしい笑みを向けているのです。
「ふーん…」と細田が笑みを浮かべて言って、「へー…」とサンドルフが少し感嘆を帯びた声で言って、「うわぁーっ!」とサンサンが喜びの声を上げてクーニャを見ています。
「なんだ、知り合いなんだな。
クーニャも仲良くしてやろう」
ヴォルドが言うとクーニャはその声に目が醒めたようで、「お、おう… よろしくな」と穏やかに言いました。
言葉使いはどうでもいいようで、ヴォルドはクーニャに笑みを向けました。
「あー、申し訳ないんだがな…」とヴォルドはサンドルフを見て言いました。
サンドルフは察したのですが、ヴォルドの次の言葉を待ちました。
「悪魔たちにも家を建ててやって欲しいんだが…」とヴォルドが言うと、黒い扉の設置が終った細田は、サンドルフのとなりに立ちました。
「あ、細田も手伝ってくれるようだな。
当人たちに建てさせてもいいんだが、まずは見本をと思ってな。
古くなったら自分たちで建てさせるから。
申し訳ないのだが、今回だけよろしく頼む」
ヴォルドは言葉と態度が一致しています。
これは珍しいことだと、サンサンは思ったようです。
サンドルフは、まずは悪魔たちに建物の見本を十分の一の模型として造りました。
悪魔は住処には特にこだわりはないようですが、たくさん見せられるとやはり目移りするようです。
ですがクーニャは簡単に決めて、城下町を守るような場所に、少々おどろおどろしい家を所望しました。
サンドルフは悪魔の好みを知っていたので、これもありと思い、どこかの遊園地にあった貴族が住んでいるような古めかしいスリラーハウスを参考にして造ったのです。
人間の住人たちも、悪魔の家を興味深く見ています。
できたら町外れにでも、この怖い家の模型を並べて欲しいと、代表は言いました。
「お仕置き部屋?」とサンサンが少し笑いながら言うと、「おおっ! いいなっ!!」とヴォルドが賛成して大声で笑いました。
「あはは… この建物のひとつに、
ちょっとだけ仕掛けをしようって思うんだよ」
細田に家を建てる仕事を取られてしまったサンドルフが、ヴォルドにフランクに言うと、ヴォルドは笑みを浮かべてサンドルフが何をするのか興味が沸いたようです。
サンドルフは屋根を外して、その仕掛けを素早く創り上げ、中を見せないように素早く屋根を固定しました。
「さあ、代表、一番乗りだよ」とサンドルフが笑みで言いましたが、代表はかなり尻込みしています。
「おまえ、情けないな…」とヴォルドが言って、代表の手を取って、サンドルフ特製のスリラーハウスに入って行きました。
すると、「いやぁーっ!!」とまずはヴォルドの妙に女性っぽい叫び声が聞こえて、『ドンッ!!』という音がしたあと建物が揺れました。
「やっぱり壊しちゃったね」とサンドルフは愉快そうに言いました。
細田は家を建てながら、細田の影の影ゼロが出している、スリラーハウスの中の映像を見ながら腹を抱えて笑っています。
そして数十回、ヴォルドの叫び声が聞こえたあと、ヴォルドは何食わぬ顔で外に出てきました。
代表も怖かったようですが、ヴォルドの叫び声の方がさらに怖かったようで、苦笑いを浮かべています。
「壊しちゃったよね?」「お、おう、すまんな…」とサンドルフの問いかけにヴォルドは素早く答えてそっぽを向きました。
サンサンたちもまたサンドルフに体を小さくしてもらって、スリラーハウスを楽しむことにしたようです。
ヴォルドはサンサンに寄り添って、また入ることにしたようです。
修理はしていませんが、今はまだいいだろうと思ってサンドルフは笑顔で、サンクックが出している室内の映像を見ています。
『あははっ! ここを壊しちゃったのねっ!』とサンサンが言うと、『面目次第もない…』とヴォルドが言って申し訳なさそうな顔をしました。
「サンドルフとやらに、修理を…」「うんっ! また後でねっ!」とサンサンは言って、ヴォルドと腕を組んでゆっくりと歩き出しました。
「こ、怖いとかではないぞ、驚いただけだっ!!」とヴォルドが言うと、「ここってね、それが目的で造ったから、驚いてもいいのっ!!」とサンサンが言うと、「そ、そうだったのか…」とヴォルドは感慨深く思ったようで、心の底から驚くことにしたようです。
ひと通り騒いだあと、サンドルフたちは温泉に入ることにしました。
当然のように男女別に造ってあるので、サンサンは気に入らないようです。
「うちのお風呂はね、みんな一緒に入るのよっ!」とサンサンが上機嫌で言うと、「恥ずかしいではないか…」とヴォルドが答えました。
「女も、男も、一緒に…」とヴォルドは言って赤面しました。
「あ、水着っていう服を着て入るんだけどねっ!」「ここもそうするっ!!」と言うヴォルドの鶴の一声に、サンサンはサンドルフに念話を送って、水着を造ってもらうことになりました。
ほんの数秒でふわふわとカラフルなたくさんの水着がついたての向こうから飛んできました。
サンサンは手本として素早く着替えて、住民たちにアピールしました。
簡素な服なので、住民たちもすぐに着替えました。
サンサンがサンドルフに念話を送ると、ついたては宙に浮いて、川向こうの空き地にある倉庫まで飛んでいきました。
いきなりだったので女性たちは黄色い声を上げましたが、男性はその勢いに飲まれたようで、少し驚いただけでした。
「サンドルフはサンサンの言うことは何でも聞いてくれるんだな」とヴォルドは何気ない言葉をサンサンに投げかけたのですが、サンサンは胸を押さえて悲しそうな顔をしました。
「…私、甘えてるだけ…」とサンサンは言って大反省しました。
「あ、いや、そういうつもりで言ったわけでは…」とサンサンのあまりの豹変ぶりに、ヴォルドはおろおろとし始めました。
「最近は甘えている方が多いかもね」とサンドルフが笑みを浮かべて言うと、ヴォルドはサンドルフをにらみつけました。
ですがサンドルフは涼しい顔をしています。
「私も混沌を鍛えなきゃっ!!」とサンサンは笑顔で決意して、使いこなせるようになるまではサンドルフに甘えることにしたようです。
ヴォルドは、―― 怒って損した… ―― と思いましたが、サンサンが元気になったので、もうどうでもいいようです。
「だけど、造れば…
あ、そうか、道具…」
サンドルフは少し考えて、縫製道具一式を創り上げて、サンサンに見せてから異空間ポケットに仕舞い込みました。
「厳しいのか厳しくないのか…」とヴォルドはサンドルフとサンサンの心境は意味不明、としたようです。
「もっとも、僕とサンサンは、今は兄妹のようなものだからね。
兄は妹がおねだりしてくれることがうれしいんだよ」
サンドルフの例えが面白くなかったようで、サンサンはほほを膨らませました。
そしてサンサンはヴォルドに、大きなルビーが人目を引くペンダントロケットを見せてから開きました。
「…うっ! これって…」とヴォルドが言って、サンサンを見ました。
「何か意味があるのか?」とヴォルドが言うとサンサンは苦笑いを浮かべてから、写真に写っているサンサンのウェディングドレス姿の意味をヴォルドに説明しました。
「結婚…
男と女が永遠の愛を誓って一緒に住まうこと…」
ヴォルドは何かを参考にして読み上げるように言いました。
「あ、でもね、これはね、違うのぉー…」とサンサンはやさしい笑みを浮かべて、ロケットの写真を見ています。
「こうなったらいいなぁーって…」とサンサンが言うとヴォルドは、「うおおおおっ!!」と一声ほえました。
どうやらヴォルドは愛や恋について覚醒したようで、ホホを赤らめています。
「お、俺も、サンドルフと写真を…」とヴォルドが言うと、サンサンが悲しそうな顔をしたので、「あ、冗談冗談っ!!」と言ってサンサンを笑みにしました。
―― 冗談でも、サンドルフと仲良くするわけにはいかない… ―― とヴォルドは思い、意識して気をつけることに決めました。
悪魔たちの家も完成して、あとは寝るだけとなったのですが、サンドルフがあることに気づきました。
「今日の夢見はなしだなぁー…」と言うと、「はいはーい!」と言ってサンサンが手を上げました。
「あ、そっか、天使の夢見なら行けそうだね」とサンドルフが言うとサンサンは笑みを浮かべています。
サンドルフたちは城下町にほど近い、ふかふかの芝生をベッドにして眠りにつきました。
サンドルフたちはサンサンに誘われて、天使の夢見にいました。
ロア部隊が全員いることをサンドルフが確認すると、「ランス君?」と言って、ひとりの天使がサンドルフを見て言いました。
「あ、ランスはボクのお師匠様なんだ」
ランスは天使の夢見でも大活躍中で、知らない天使は誰もいないほどなのです。
サンドルフが答えると、天使は少しつまらなさそうな顔をしました。
「きっとまた会えるからね」とサンドルフが言うと、「もうずっと会ってない…」と天使が言ったのでその期間を聞くと、10日ほどだったようです。
「そんなの、ずっとって言わないよ…
何年も会ってないんだったらずっとだろうけど…」
サンドルフの言った事はもっともだったようで、天使はかなり恥ずかしそうな顔をしました。
「お師匠様のようなわけにはいかないけど、動物たちの演技、見る?」
サンドルフが聞くと、「うんっ! 見る見るっ!!」と言って天使は喜びました。
「あ、そういえば、ここには君しかいないんだね」
サンドルフが辺りを見回しながら言うと、天使は悲しそうな顔をしました。
「みんなね、コネで、
ランス君が現れるって
予想した夢見場に行くようになっちゃったの…」
あまりにも現実的な解答に、サンドルフは苦笑いを浮かべました。
「でもね、結局は私と同じで、毎回会えるわけじゃないの」
「そんなの当然だよ。
宇宙はすごく広いからね。
それにね、お師匠様がある程度は調整しているんだよ。
みんなが平等になるようにね」
サンドルフが言うと、天使は理解できたようで、サンドルフに笑みを向けました。
サンドルフはランスの出し物を何度も見ているので、できる限り忠実に再現しました。
天使はそれほど期待していなかったようでしたが、今は夢中になってサンドルフが操っている人形たちを応援しています。
天使は出し物の順番も把握していて、最後の出し物が終わった時、勢い勇んで拍手をして、「ランス君、ありがとー!」と言って笑みを浮かべました。
「あ、サンドルフ君だった…」と天使は言って申しわけなさそうな顔をしましたが、「サンドルフ君、ありがとーっ!!」と満面の笑みで言い直しました。
「喜んでもらえて光栄だよ」とサンドルフは天使に笑みを向けました。
うまくできたようで内心ほっとしているようです。
サンサンたちもサンドルフに笑顔で拍手を贈っています。
「あ、ひょっとして知ってるかな?
白い天使の恐竜のぬいぐるみ」
サンドルフが言うと天使は、「うんっ! 知ってる知ってるっ!!」と言って喜んでいます。
「あれってね、僕とサンサンなんだよ」とサンドルフが言うと、天使は固まってしましました。
サンドルフは自分自身とサンサンの生い立ちを語ると、天使は涙を浮かべて祈りを捧げ始めました。
天使は悲しそうな顔をして、「…ああ、もう、あの子たちに会えないのね…」と言ってうつむきました。
「そうだね、夢見では無理だね。
でもね、現実に戻ったら変身できるんだよ」
サンドルフが言うと、天使は顔を上げて大いに喜びました。
そして手を組み祈りを捧げながら、「まだ生きている…」と希望を持って言いました。
「それにね、造れるよっ!!」とサンサンが言って、サンドルフに縫製道具一式を出してもらって、天使デッダのぬいぐるみを二体造りました。
金と銀のチョーカーをつけています。
「当たり前だけど、そっくりだよねっ!!」とサンドルフが苦笑いを浮かべて言いました。
サンサンは少しだけお祈りをしてから、二体の天使デッダのぬいぐるみを天使に渡しました。
ぬいぐるみを受け取った天使の満面の笑みを見てすぐに、サンドルフたちは現実に戻りました。
「ぬいぐるみ、眼が覚めてからもいてくれたらいいなぁー…」とサンドルフが言うと、サンサンが笑みを浮かべて、「わかんないけどね、お祈りはしたの」と答えました。
ランスは天使の夢見ではお土産として、天使たちにいろんなものを配っています。
ですがこれはランスだけができることで、唯一と言っても過言ではないのです。
もちろん、サンサンもサンドルフも知っていますが、できれば現実のものとなって欲しいと願ったのです。
サンドルフたちは午前中は住人たちとコミュニケーションを取っただけで、もうお昼になってしまいました。
楽しい昼食のひと時、サンドルフにランスから念話が来て、サンドルフは話しを聞いて愕然としました。
そして涙が零れ落ちました。
サンサンは話しを聞いていませんが、サンドルフの様子と心の動揺からもうすべてわかってしまったようで、サンドルフと一緒に泣きました。
覇王経由で御座成功太が話した内容によると、ある星にただひとりだけいた堕天使が殺されてしまいました。
犯人は宇宙船に乗ってこの星を訪れた天使でした。
堕天使の話しを聞いて、ぬいぐるみが欲しくなったのでしょう。
訪問してきた天使はほとんど何も考えることなく、堕天使の命を奪ったのです。
そしてこの話しを聞いたランスは当然のように怒り狂い、その天使は消滅してしまいました。
天使には悪い心が大いにあったようなので、ランスが悪いわけではありません。
ですがランスは行き過ぎた行為をサンドルフにざんげしましたが、サンドルフは何も言えませんでした。
サンドルフとサンサンがぬいぐるみを渡さなければ、堕天使も天使も死なずに済んだはずなのです。
これは軽はずみな行動だったと、サンドルフは猛反省しました。
サンサンは立ち上がれないほどに落ち込んでしまいました。
願いが叶ったばっかりに、天使を死なせてしまったことを悔やんだのです。
傷心のサンサンに、ヴォルドが寄り添いました。
「その天使、朝起きた時はうれしかったんだと思ったぞ」
ヴォルドが言うと、サンサンは笑みを浮かべました。
サンサンは悲惨な結果だけを見ていました。
もちろんこれは重大なことです。
しかし、時間を巻き戻せば、天使は幸せだったはずなのです。
「…欲さえなければ…」「それはダメだ」とサンサンの言葉にすぐにヴォルドは反応しました。
「無理やり欲をなくすことも欲だ」とヴォルドが言うと、サンサンははっと息を呑んで大きくうなだれました。
「この話しを戒めにすればいい。
欲しがって手に入れても、最終的には不幸になるかもしれないとな。
そうすれば、その天使も多少は浮かばれるだろう」
サンドルフもサンサンも、ヴォルドの言った通りだと思い、まずは自分自身を戒めました。
そしてヴォルドの言ったことを実践しようと一旦は心に決めました。
さすがにこの日は、サンサンもサンドルフも力が沸きませんでした。
怪訝そうに思っているベティーたちに話しをしましたが、「不幸な出来事」とだけ言って、ほとんど悲しみはないようです。
しかし利家だけは、サンサンの味方のようで、真剣に慰めました。
さらに言えば、動物の世界でもこのようなことは普通にあるのです。
うまそうなエサを手に入れましたが、強者に奪われ深い手傷を負ったり命をも奪われてしまいます。
このようなことはどこにでもあることだと、セイランダは厳しい言葉をふたりに投げかけました。
「やっぱり戒めに…」とサンサンは考えたのですが、できればそれもしたくはないのです。
欲しいものがあれば、願いの度合いによっては与えたいと、サンサンは常に思っているのです。
もちろん、サンドルフも同じ気持ちなのです。
サンドルフは意地悪く、「帽子を取り上げたら?」と言うと、セイランダたち真の動物組は全員が帽子をかぶって一目散に空に逃げていきました。
「力があれば、問題なく解決することにもなったけど…」
やはり、深く考えて行動するべきと、サンドルフは強く思いました。
ですが、サンサンを説得する言葉が見つかりません。
さらに言えば、生物全てを幸せにすることは不可能なのです。
サンサンもサンドルフも、この先の自分自身が見えなくなってしまいました。
ランスは仕事を早めに切り上げたようで、宇宙船に乗って来星しました。
「お父さんっ!!」と言ってサンサンはランスに飛びつきました。
ランスはふたりがあまりショックを受けていないと感じています。
サンドルフから事情を聞くと、ヴォルドとセイランダに厳しく説教を受けたと聞き、ランスは笑みを浮かべました。
「だけど、どうして龍?」とランスはかなり遠くにいる龍を見上げています。
「僕が帽子を取り上げるって言ったんです」とサンドルフが言うと、ランスは一瞬で理解して大声で笑い出しました。
「力さえあれば助かったはずだ。
まさにその典型だな」
ランスは言ってまた空を見上げて笑っています。
「いい教訓なったな。
実はな、すぐに帰ろうと思っていたんだが…」
ランスは言ってから、一夜にして現れたとんでもない城下町を見て、大声で笑いました。
悪魔たちはランスの笑い声に怯えて、家の中に入ってしまいました。
ランスは魔王軍は先に帰星するように告げました。
「少々城下町を散策してくる」とランスは言って、体を小人サイズにしました。
ヴォルドがすぐにランスに寄り添って、町を案内するようです。
「お父さん、もう立ち直ってる…」とサンドルフが言いました。
ランスも当然やりすぎたと思っているはずです。
しかしランスはもうすでにいつものランスです。
やはり、サンダイスの忌まわしい過去の記憶が、ランスの立ち直りを早めていると、サンドルフはさらに感慨深く思いました。
ですので、今がその時と思い、サンドルフも立ち直ることに決めました。
ですが、天使への哀悼の意は持ち続けることにしています。
サランがいきなりサンサンから飛び出してきました。
サランは泣き笑いの顔をサンサンに向けています。
「おかぁさぁーんっ!! あああああああんっ!!」とサンサンは大声で叫んで泣き出し始めました。
サンサンは見えていませんでした。
サランが胸に銀のチョーカーをつけた天使デッダのぬいぐるみを持っていたことを。
この天使デッダのぬいぐるみは、天使の血で汚れていました。
しかし、サランの仲間の堕天使たちが丁寧にきれいにしたのです。
すると、奇跡が起こったのです。
『サンサンちゃんにね、会いに行くのっ!!
あ、サンドルフ君にも…』
天使デッダのぬいぐるみが、サランに念話で語りかけてきたのです。
サランはあまりのことに大声で泣いて、そして堕天使たちをほめてから頭を下げました。
堕天使たちもこの奇跡に感動して、大声で泣いてから、「ありがとうございましたっ!!」と自然界に向けて心を込めてお礼を言ったのです。
サンサンの頭を、ぽんぽんと触れているものがいます。
サランが、頭をなでてくれているのかと思いましたが、それは違いました。
『私もね、ぬいぐるみになったのっ!!』と天使の声が天使デッダのぬいぐるみから聞こえてきて、サンサンはさらに大声で泣いて、天使デッダのぬいぐるみを抱きしめました。
何事かと思ったランスは観光を取りやめてすぐにサンサンに寄り添いました。
「う、また…」と言って、ランスは苦笑いを、サンサンが抱きしめている天使デッダのぬいぐるみに向けました。
「…あー、よかったですぅー…」と言ってサンドルフも泣いていますが笑ってもいます。
「なにがいいものか」とランスが冷たく言うと、サンドルフはすぐに気づきました。
「…はい…
苦労は絶えないと思い直しました…」
サンドルフは言って猛反省をしました。
「しっかりと自覚させてやらねえとな」
サンドルフはランスの言葉を十分にかみ締めています。
「その通りでもあるわね」とサランが言うと、ランスは少しだけサランに頭を下げました。
「この子はサンサンやサンドルフ君とは違って普通に堕天使。
サンサンのようになるには、とんでもない時間がかかるって思うの。
だけどね、この子は知っていたの。
そして望んで決意したの。
このまま死にたくない。
サンサンたちの天使デッダの姿を見るまではってね」
サランが語ると、ランスは笑みを浮かべ始めました。
「本人が希望したんだから仕方ねえよなっ!!」と言ってランスは笑い始めて、サンドルフの肩を叩きました。
サンドルフはさらに考え始めました。
すぐにでも天使デッダに変身して想いを遂げさせるか、成長させるために見せないのかということを。
サンドルフはサンサンとぬいぐるみになった堕天使とすぐに話しをすることに決めました。
ランスもサランも笑みを浮かべてサンドルフを見ています。
「お婿さんに欲しいほどだわ…」とサランは冗談ぽく言いました。
「俺の息子ですからね。
婿に出す時は、
その嫁を大気圏を脱出するまで、
強か殴り飛ばすことに決めています」
ランスが笑みを浮かべて言うと、「私くらいしか耐えられないわっ!!」とサランは大声で言ってから笑い、ランスに笑みを向けて消えました。
「おいおい、本気かよ…」とランスはつぶやくように言って、サランが立っていた場所を見て苦笑いを浮かべました。
もっとも、サンドルフの前世が陽鋳郎なので、サランも十分に面識があり理解もしているのです。
さらにはサンドルフの人柄は、まさにサランと同じように神になる資質もあるのです。
しかし今のところはその片鱗はうかがえません。
今のサンドルフは、正義感が強くてやさしい勇者なのですから。
「サンサン、もう泣くのは終わりだ」と少し冷たい口ぶりでサンドルフは言いました。
サンサンはすぐに顔を上げて、少しサンドルフをにらんでいます。
「今すぐに決めておく必要があることを話し合う」
サンドルフが言うと、―― さすがだっ!! ―― とランスは心の中でサンドルフを絶賛しました。
―― こういうところは神だな… ―― とランスはさらに思ったようです。
「決めておくこと…」とサンサンは天使デッダを抱きしめたままサンドルフを見てつぶやきました。
「天使ちゃんの名前は?」とサンドルフが言うと、『はいっ! ハルと言いますっ!!』と念話をサンドルフとサンサンに送りました。
「ハルはこれからどうするんだい?
堕天使の体じゃないと
まともに生きて行くことすら困難になるはずなんだ。
そして、僕たちのぬいぐるみの変身を見たら、
ハルはすぐにでも消えてしまうんじゃないのかい?」
サンドルフが言うと、サンサンもハルもかなり驚いたようで、ハルはサンサンをじっと見ています。
サンサンは考えに考え抜いて、「…あると思う…」と小さな声で言いました。
「ハルは、ずっとその姿で生きて行きたいのかい?」
サンドルフが言うと、『はいっ! ふたりと一緒に、生きて抜いてみたいですっ!!』とハルは言ってから願いのポーズをとりました。
すると、サンライズが光ったと同時にハルも光を帯びて、ゆっくりと光は治まっていきました。
「あー…」と言ってサンサンはランスとサンドルフを見て笑みを浮かべました。
ですがサンドルフは違います。
「弱音をはくなよ。
かわいいだけの動くぬいぐるみなんていらない」
『うっ! サンドルフ君別人っ?!』と言ってハルは驚いています。
サンサンは一旦ホホを膨らませてサンドルフを見ましたが、すぐに思い直して申し訳なさそうな顔をサンドルフに向けました。
「僕の言ったことがすぐにわかるはずだ。
まずは堕天使の体が懐かしくなる」
『あー…』とハルは言って、下を向いてしまいました。
「ほら、もう後悔してるじゃないか」とサンドルフが言うと、サンサンは困った顔をハルに向けました。
『修行って、すっごく厳しいですよね?』「堕天使の修行の十倍は厳しいな」とサンドルフはハルの問いかけにすぐに答えました。
『楽な方法って…』とハルが言うと、「あるわけないよおー…」とサンサンがかなり困った顔をして言いました。
ハルは今の状況に困惑を思えて、サンドルフの言う通りだったと思い、申し訳ない気持ちを持ってサンドルフを見ました。
「すでに後悔しちゃったけど、これはハルの選んだ道だよ。
それ、わかってるんだろうね?」
『折檻とか…』「それはないな」とハルの問いかけにサンドルフは即答しました。
ハルは安心して喜んで、もろ手を上げています。
「だけど、精神的折檻はあるよ。
それは言葉などではなく態度ですぐにわかる。
自分が思った不甲斐なさが折檻のようなものだね」
ハルはこの先不安が一杯になって、頭を抱え込みました。
「ぬいぐるみの心得その一」とサンドルフが言うと、ハルもサンサンも、抱き合うのはやめて、芝生の上に正座をしました。
「簡単に抱かせるな」とサンドルフが言うとサンサンは深くうなづきました。
『えっ?』と言ってハルは驚きの声を上げました。
「誰しもがいい心を持っているわけではない。
悪い心を持っている者に抱かれた場合、
ぬいぐるみも天使と同じで穢れたように思うんだよ」
『あー…』「あー…」とハルもサンサンも、感嘆の声を上げました。
「サンサンは今頃納得してどうするか!」とサンドルフの厳しい言葉が飛びました。
論理的によく理解できているのはサンサンよりもサンドルフの方なのです。
これはサンサン行動をつぶさに観察して積み上げたものです。
「はいっ! ごめんなさいっ!!」とサンサンはすぐにサンドルフに頭を下げました。
『私を殺した、天使様よりも厳しい…』とハルは胸を押さえつけて言いました。
「やさしさと冷酷さは紙一重だ。
やさしく見える者は、これからは疑ってかかれ。
悪意、知ってるだろ?」
サンドルフが言うと、ハルは体を震わせました。
「不用意にこういった者に近づくな。
それを知っていくこともこれからの修行だ」
サンドルフが言うとハルは、『はい! お師匠様っ!!』と言って頭を下げました。
「ぬいぐるみの心得そのニ。
全てに安心して抱かれた場合、相手に集中しろ」
『はいっ! お師匠様っ!!』「はいっ! お師匠様っ!!」とハルとサンサンがほぼ同時に返事をしました。
「サンサンはいつから僕の弟子になったの…」とサンドルフはかなり困った顔をサンサンに向けています。
「あはは… 勉強し直そうと思って…」とサンサンはサンドルフに照れ笑いを見せました。
「たくさんの子供たちがいる場合、確実に困ったことになるはずだ。
だけどその時は抱きしめて抱きしめられている人に集中する。
そして平等も必要だ」
『あ、はいぃー…
ランス君も…』
ハルは言って、少し離れて様子を見ているランスに視線を向けました。
『あー… 本当に、ランス君だぁー…』と言ってハルは感動したようです。
「こら、集中っ!!」とサンドルフが言うと、『ごめんなさいっ!!』「ごめんなさいっ!!」とふたり同時に謝りました。
「サンサンが謝った理由…」とサンドルフが言うと、「…サンドルフ君、今までで一番怖いから…」とサンサンは上目使いでサンドルフを見ています。
「怖いから何?」とサンドルフがさら言うと、サンサンは困ってしまったようです。
「怖いから、弟子はもうやめようって思っている」
サンドルフが言うと、「あはははは…」とサンサンは空笑いをしました。
「最近はサンサンに甘かったから、しばらくこのままで」とサンドルフが言うと、サンサンは肩をすぼめて、ハルを見ました。
『…私のせいで…』とハルが言うと、「それもあるが、それだけじゃない」とサンドルフが言いました。
「わかっていたことでも、忘れてしまっていることもあったりするんだ。
思い出すには、こうやってお説教を受けることもまた修行…」
サンドルフが言うと、ふたりは丁寧にサンドルフに頭を下げました。
サンドルフのお説教兼ぬいぐるみの心得は長い時間続きました。
ベティーたちも空から降りてきて、サンドルフの話しを聞きますが、かなり耳が痛いようです。
そしてサンドルフは常にそれを実行しているので、苦情を言ったりや反抗することすらできないのです。
特にベティーとセイランダは一気に人間に近づいたような錯覚を覚えました。
利家はすでに人間に近く、タレントに至っては人間の気持ちがわかります。
よって、このふたりは笑みを浮かべてサンサンたちを見ています。
「…うー…」とカレンがうなっています。
そしてカレンもサンサンのとなりに正座をしました。
サンクックも仲間入りして、ハルの隣に座りました。
サンドルフはみんなの行動を気にせずに、ぬいぐるみの心得を説いていきました。
ランスに源次郎から念話が入って来ました。
『御座成が来ている。
天使デッダを返せと言っているんだ』
『友梨さんは?』
『一緒に来ていて御座成を止めているが言うことを聞かない。
だから地力で行けと言ったんだがな。
すぐに連れて来いとかなりの剣幕だ。
任せてくれるのなら、俺が成敗するけど?』
源次郎が少し笑いながら言うと、ランスはかなりの勢いで笑いました。
『俺が行きます。
少々ひどい目にあわせてやりましょう』
ランスが畏れを流すと、もうすでに御座成はランスの畏れを受けたようで自分の宇宙に帰ったようです。
友梨は必死になって源次郎に謝ってから消えました。
『帰った』と源次郎が言って少し笑いました。
『後ろ暗いことがあった…』とランスが少し考えると、『サランさんを罵倒でもしたか…』と源次郎が言いました。
『それは大いにあるでしょう。
そして、動くぬいぐるみをただただ欲しかった。
サンドルフやサンサンのようになるかもしれないと、
欲を持っていた』
ランスが言うと、源次郎は納得して、念話を切りました。
―― 今、懲らしめておくか… ―― とランスは思い、御座成の魂に向けて畏れを投げました。
御座成の魂は右往左往とし始めてから動かなくなりました。
―― 死ななかったようだからいいだろう… ―― とランスは思って苦笑いを浮かべました。
こういったことも、ランスにのみできる離れ業なのです。
ランスからは誰も逃げられないのです。
よって、心からランスと友好関係を持つことで、ランスは安心できるのです。
「堕天使しかなりえないんだけどなぁー…」とランスはハルを見てつぶやいてから、苦笑いを浮かべました。
サンドルフのお説教が終わると、受講者たちはふらふらになっていました。
ヴォルドも感慨深く聞き入っていたようで、さらにサンドルフを好きになっていました。
「…うー…」とカレンはまた獣のようにうなっています。
ですが人間の心だけではなく、ものにも心があることは大いに勉強になったようです。
「ものを大切にしようっ!!」とカレンなりの決意を叫びました。
サンドルフは笑みをカレンに向けています。
「あ、サンドルフ君、帽子の手入れだけど…」とカレンは言って早速実践することにしたようです。
ほんの少しですが、帽子に汚れがついてしまったようなのです。
「ハル、修行だ」とサンドルフが言うとハルは、『はいっ!!』と言って立ち上がって、拭去の術を放ちました。
帽子は簡単に新品に生まれ変わりました。
「すごいなっ!!」と言ってサンドルフはハルをほめました。
カレンもハルに丁寧にお礼を言っています。
「術にキレがある。
魔力量も多い…
なのに…」
サンドルフはハルを見ながら考え始めました。
ほんの少しでもハルを殺した天使に抵抗できたのではと考えるに至ったのです。
ですがやはり、堕天使は天使に刃向かえない。
ぬいぐるみたちを守ることが、ハルの精一杯で唯一の抵抗だったはずです。
サンドルフは感情を捨てて、さらにハルを笑顔で見ました。
「…あ…」とサンドルフは言ってあることに気づきました。
そしてサランに念話をして、金のチョーカーをした天使デッダのぬいぐるみのありかの質問をしました。
そのぬいぐるみはなかったと、サランは答えたのです。
―― ハルのあと押しをしたか… ―― とサンドルフは心が熱くなりました。
もう、金のチョーカーをした天使デッダのぬいぐるみはいなくなっているはずです。
ですがひと通り、銀のチョーカーをしたハルをつぶさに調べました。
「はー、やっぱりだ…」と言って、サンドルフはサンサンに知った事実を念話で告げました。
サンサンは驚きを隠しきれずに、ハルを抱いて泣き出しました。
そして、確認することも怠りません。
ハルのしている銀のチョーカーを少しめくると、金色の布が見えました。
サンサンは自分でぬいぐるみを造っているので、当然このようなことはしていません。
ハルは、金のチョーカーをした天使デッダとも融合したのです。
「素晴らしいぬいぐるみを造ったね」とサンドルフはサンサンにやさしい笑みを浮かべました。
「うんっ!!」と言って、サンサンはただただサンドルフにほめられてうれしかったようです。
サンドルフはわかったことをハルに告げると、ハルは感慨深く思ったようで、サンドルフを無言で見上げています。
「僕たちとは条件が変わった。
だけど、傲慢、高慢、過剰な自信は毒だ。
これから出会う人たちに愛を持って接して欲しい。
さらには自分自身の身を守ることも重要だ。
しばらくの間は勝手にひとりで出歩かないことがお勧めだ」
サンドルフの至れりつくせりの指導に、ハルはぺこんと頭を下げました。
サンサンは恐る恐るですが、天使デッダに変身しました。
「双子双子っ!!」と言って、サンドルフは笑い始めました。
ハルは消えることなく感動しているようで、二人は手をつないで、城下町に出かけました。
しかし、住民たちの身長よりも天使デッダの方が大きいので、かわいいと思われるよりも、少々怖いようです。
『…あー…』とサンサンが言うと、『小さくしてもらっちゃう?』とハルが言いました。
『うん、今は…』とサンサンは言って、ふたりしてサンドルフにお願いに行きました。
サンドルフはふたりにすぐに術をかけて、「10分間だから」とかなり短い時間をふたりに告げました。
「いきなり巨大化しても、軽いし柔らかいからいいんだけど、
驚かせてしまうことは避けた方がいい」
サンドルフの厳しい言葉に、『はい、お師匠様』とふたりは神妙なしぐさで言って、城下町に飛んでいきました。
ハルはぬいぐるみに生まれ変わって、空を飛ぶという初体験をしました。
堕天使だった時も飛べたのですが、サンサンほどのスピードでは飛べなかったのです。
ハルは少し興奮しましたが、今はその気持ちを押さえ込みました。
サンサンは出会う人を判断してから抱きつき行為に奔走します。
ハルはその条件を知ろうと必死です。
『あー…』とサンサンが言うと、『えっ、ダメなの?』とハルは言いました。
『微妙…』とサンサンは言って、ひとりの住人を遠巻きから見ることにしました。
どうやら、この男性は住民の代表になれなかったことを悔しく思っているようです。
こういう人もひとりくらいはいるとサンサンは予想していてわかっていました。
「…や、やあ…」と言って男性はサンサンとハルに笑みを向けました。
『今は大丈夫っ!!』と言って、サンサンは男性に抱きつきました。
ハルにもほんの少しですがわかってきました。
堕天使だった頃の記憶や体験なども少しずつですがよみがえってきています。
ハルは少しショック状態だったようで、自分が堕天使だったという記憶しかありませんでした。
ですが今はもう違います。
サンサンの選択は正しいと思い、ハルも男性に抱きついていきました。
男性は悔しい思いはしていますが、サンサンたちを抱きしめたことでもうすっかりと立ち直っています。
「あーそうだ、仕事なんだけどね…」と男性は言ってから、「あ、俺、カミ・ガルドっていうんだ」と自己紹介をしました。
ここに住む住民で仕事の話しをしたのはカミが初めてです。
サンサンはカミを抱きしめたまま、サンドルフの下に飛びました。
サンドルフとカミが話しを始めたので、サンサンたちは抱きつきの修行を再開することにしました。
『お話、聞いておかなくていいの?』とハルが言うとサンサンは宙に浮かんだまま考え込みました。
サンサンはハルの言うことももっともだと思って、ゆっくりとサンドルフに近づいて地面に降り立ちました。
「この星には生物は350名ほどしかいない。
ここでの産業は今のところは少々厳しいでしょうね」
サンドルフがいうと、カミは真剣な顔をしてうなづいています。
「それに、まずは通貨も必要になるでしょうが、
王はまったく考えていないようです」
サンドルフの言葉に、カミはかなりの驚きの顔を見せています。
「なにもかも王が平等に分配すると思うんです。
食べ物は特にそうですね。
そして就職者第一号はもうすでに働いています」
サンドルフが言うとカミは、「ああ、農業…」と言ってサンドルフを笑顔で見上げました。
「興味のない者は何も考えてません。
王が何か言ってくるまで、遊んでいるだけです。
僕はあなたを王に紹介しようと思っています。
そうすれば、何か仕事をもらえると、僕は思っているんです」
サンドルフの言葉は、カミにとってかなりうれしかったようで、サンドルフに丁寧にお礼を言っています。
サンサンたちもサンドルフたちについていこうとしたところで、変身の効果が切れました。
ですがふたりはまったく気にせずにサンドルフに寄り添って、王城に向かいました。
といっても、十歩ほどでついて、サンドルフがヴォルドの名前を呼びました。
ヴォルドは色々と考えごとをしていたようで、「いいところに来た」と言ってサンドルフたちを歓迎しました。
「ふむ、カミか…」とヴォルドは言ってにやりと笑いました。
「サンサンの話しによれば、この星は超底辺に値する星だ。
まったくもってその通りで、以前から生物はいたが、
今生まれたと言っても過言ではないからな」
ヴォルドが言うと誰もがうなづいています。
「しばらくは農業だけでもいいのだが、そのしばらくはいつまでなのか」
ヴォルドが言うと、カミは笑顔でうなづいています。
「すでにサンドルフたちとも和平を結んでいるので、
星間貿易をしようと考えている。
しかしだな、行き過ぎた科学技術は持ち込まない。
その理由は、そこには不幸しかないからだ」
ヴォルドが言うと、カミは少し落ち込みました。
この何もない世界には、科学技術こそ必要と、カミは疑いもしませんでした。
「まず、科学技術は怠惰を生む。
そうだよな、サンドルフ」
ヴォルドが言うと、サンドルフは大きくうなづきました。
「それなりに忙しい人は必要になるだろうね。
しかし万人が持った時、
ほとんどの者はそれに任せっきりになるはずだよ。
よって怠惰は必ず訪れるんだ」
サンドルフの言葉に、カミは何か言おうとしていますが、言葉が見つからないようです。
「第二に、科学技術は戦争を生む。
ただの言い争いから発展して殴り合い、
そして武器を持っての戦い。
そこに科学技術があれば、それをも武器とする。
ひとりほどしか傷つけられない武器が、科学技術の発展に伴い、
何千、何万といった者たちを傷つけることになるのだ。
この星の王としては、科学技術はいらぬと判断した」
カミはここでやっと考えをまとめて、ヴォルドに燃えるような瞳を向けました。
「しかし、異性人たちが攻め入ってきた場合、太刀打ちできませんっ!!」
カミの言葉に、ヴォルドは笑顔で深くうなづきました。
「悪魔たちが全てを担うっ!!」とヴォルドは堂々と胸を張って言いました。
「あ、ああ…」と言って、カミは二の句を告げませんでした。
「しかし、おまえたちもここの住人だ。
悪魔たちだけでなく、
おまえたちにも戦いの補助をしてもらうことになる。
伝令や斥候役だ」
「斥候… 偵察部隊…」とカミが言うと、ヴォルドは大きくうなづきました。
「おまえたちの体なら、なかなか見つからないと思うが、
それには訓練も必要だ。
それはサンドルフにお願いしようと思っている」
ヴォルドが言うと、サンドルフは少し困った顔をしましたが、途惑いながらもうなづいています。
「さらにだ、ここで科学技術を投入するっ!!」とヴォルドが前言撤回するようなことを言い出し始めました。
「えー…」と言ってカミはかなり途惑っています。
当然のようにサンサンたちもあ然としてて、サンドルフは苦笑いを浮かべています。
「俺の許可なくして、その装備は使わせない」とヴォルドが言うと、あっけにとられていたサンサンたちも納得したようです。
「身を守るための科学技術の使用は、俺はありだと思っただけだ。
ただし、それを研究することは許さん!
全ては細田の造ったもののみ使用することになる。
そうすれば、仲間同士が争うこともないはずだからな」
ヴォルドの勢いに飲まれたカミは、今は言葉を失っています。
ですが、ヴォルドが少々困る質問をカミは思いつきました。
「ですが王よ、それを持ち、王に刃向かう者がいた場合…」
「武器は装備に含まない。
さらに機械ものだからな、弱点は多い」
ヴォルドは胸を張って言いました。
「防御だけの装備…
危うくなったらさっさと逃げろ、と…」
カミが言うとヴォルドは、「かなり優秀な装備だからな」と言って、空を指差しました。
そこにはセイランダたちが今日も龍を着て空を泳いでいます。
「えええ―――っ!!」と言って、カミはかなりの勢いで驚いています。
「あの中で攻撃できるものは一体のみ。
そのほかは映像を出して驚かせるそうだぞ。
ああ、そうだ!
ここで少し見せてはくれないかな?」
ヴォルドがサンドルフに顔を向けて言うと、サンドルフは念話でセイランダたちを呼びました。
ヴォルドやカミにとってはかなりの巨体に、カミは震えが止まらなくなったようです。
「じゃ、セイランダ、炎吐いて」とサンドルフが笑顔で言うと、「えええ―――っ?!」とカミが驚きの表情をして声を上げたのですが、セイランダはもうすでに炎の映像を出していました。
「あちあちあちっ!!」とカミが言ったのですが、「えっ?」と言って自分自身の手足と腹の辺りを見ています。
「…熱くない…」とカミが目を見開いて言うと、ヴォルドは多いに笑い転げ始めました。
「今のおまえのように敵が驚いている隙に逃げるんだよ」とヴォルドが言うと、カミはかなり納得して笑みを浮かべました。
「はい、大納得ですっ!!」とカミは言って、ヴォルドに深々と頭を下げました。
「龍がいいの?」とサンドルフが少し困った顔をしてヴォルドに言うと、「あー… カミはどう思うんだ?」とヴォルドはカミに聞きました。
「あ、はい…
普通の服のようなものでも構わないと。
ですがひとりくらいは龍を着ていた方が頼もしいようにも思います」
ヴォルドもサンドルフもカミの解答に納得の笑みを浮かべました。
「その時々に臨機応変に、カミと話しあって決めようか」
ヴォルドはカミに、やさしい笑みを向けて言いました。
「あ、はい! ありがたき幸せっ!!」とカミは言って、ヴォルドに頭を下げました。
「あ、ちなみに私のしたい仕事なのですけど…」とカミが言うと、「それは却下だぁー…」と言ってヴォルドは言いようのない畏れを流しました。
サンサンとハルは少し朦朧としましたが、サンドルフとカミはなんでもないような顔をしています。
「うーん… 手ごわい…」とヴォルドが言ってにやりと笑い、カミを見ています。
サンドルフは苦笑いを浮かべてふたりを見ていました。
「おまえは俺の召使っ!!
すべてにおいてなぁー…」
ヴォルドがまた畏れを流しましたがカミは、「お断りしますっ!!」とはっきりと言いました。
―― なかなかの頑固者だな… ―― とサンドルフは思って、「ちなみにカミさんのしたい仕事ってなんなの?」とフレンドリーに聞きました。
ヴォルドはサンドルフを少し睨み付けましたが、聞く耳くらいは持っているようです。
「あ、はい。
俺って、この星中を飛びまわって、
商品の買い付けなどをしていたのです。
貿易商っていう職業です。
今朝起きてその記憶がよみがえったので、
またその職業をしたいと思って…」
カミが言うとサンドルフは納得の笑みを浮かべました。
「嫌な仕事をしてこその人生修行だぁー…」とヴォルドが言うと、サンサンはかなり喜んでいて拍手をしています。
ハルは、―― ちょっと厳しいかも… ―― と思っているようです。
「普通に人生を楽しむのなら、貿易商がいいと思うね。
だけどね、その上を目指すのなら、
ヴォルド王の召使がいいと、僕は思っているんだよ」
サンドルフがいうとカミは、「その上…」と言って戸惑いの目をサンドルフに見せています。
「この星におまえの仲間はたった150人しかいない。
その理由、わかるか?」
ヴォルドが言うと、カミはかなり驚いたようです。
この考えは思いもよらなかったのです。
そしてカミは、生き残ろうとする自分自身を思い出しています。
「あ、みんなも、石になったけど…」とカミは言いました。
ヴォルドもサンドルフも笑みを浮かべてうなづいています。
「ひとつは幸運。
これは誰にでもあるわけではない。
ひとつはこの星にとって、150人は必要だった人間なんだ。
さらにもうひとつ。
マグマだまりに落ちても、生きていた者が数名いたんだ。
代表もおまえも、その仲間だ」
カミはかなり驚いた顔をヴォルドに向けています。
「おまえがそれほどに強いということなんだよ。
だがな、わずかに代表の方が強かった。
それを150人は正しく判断できたんだよ」
ヴォルドが言うと、カミは落ち込みました。
ですが実は、カミも代表のことを認めていたのです。
ですができれば、みんなのために幸せな世界を作ろうと、奮起して立候補していたのです。
「はい、理解できました」とカミは笑顔をヴォルドに向けました。
「両方やれ」とヴォルドが意地悪く言うとカミは、「はっ! ありがとうございますっ!!」と言って、ヴォルドに頭を下げました。
サンドルフは苦笑いを浮かべていますが、これでいいと思っているようです。
サンサンとハルはカミに拍手を贈ってから、カミに抱きつきました。
カミは早速、ヴォルドの召使であり、貿易商としても仕事をすることになりました。
ヴォルドのカミへの第一の命令は、細田から防御用のスーツである、霞改を買い付けることです。
ですがこちらには買い付けをする代金がありません。
よってカミはおふれを出してこの星の発掘作業員を募りました。
何もないのなら、星から掘り出してでも価値のあるものを見つけることしかできないことをカミは悟ったのです。
「うーん…」と言ってサンドルフは考え始めました。
ヴォルドは、「どっちでもいい」と言って、サンドルフに苦笑いを向けています。
「じゃ、手伝おうっ!」とサンドルフは言って、カミと打ち合わせを始めました。
手当たり次第に掘ることは、小さな体の住人たちにとっては過酷なことです。
よって、サンドルフはサンクックに地中を探らせて、貴重になりえるものを掘り出そうと計画したのです。
掘り出すの作業はサンドルフは手伝いません。
出てきた経済基盤を手にするのは、この星の住民でなくてはならないのです。
「…ここはそうでもないんだけどね…」とサンクックは言って、帽子をかぶって龍に変身してすぐに30キロほど飛びました。
サンドルフはサイコキネッシスを使って、住民たちを連れて飛んでいます。
「今はまったくわかんないけど、
この下、火山のあったところだよ。
きっとね、貴重なものがたくさんあるって思うんだ」
サンクックは笑顔でサンドルフに説明しました。
「深さは?」「300メートル」
サンドルフの問いかけに、サンクックはすぐに答えました。
「かなりの重労働になるよ」とサンドルフがカミを見て言うと、「それでこそ、胸を張って貿易ができるというものです」と笑みを浮かべて言いました。
埋蔵物を掘り出す道具だけは、サンドルフが創り出しました。
カミの指示により、大勢の住民たちは手に発掘道具という経済的な武器を持って、地面を掘り始めました。
サンクックは300メートルと言いましたが、その中心が300メートなのです。
100メートルも掘れば、金属質のものが多く採掘できるはずです。
ですが小人たちだけでそこまで掘るのは至難の技です。
サンドルフは時々様子を見ることに決めたようです。
そしてできれば、調査発掘などと理由をつけて手伝おうと考えているようです。
ほんの数分後に、ヴォルドやサンドルフたちがいる仮設作業員詰め所にカミが泥まみれで現れました。
「あのぉー、これなんですけど…」と神は申し訳なさそうな顔をして、磨けば光るといった宝石のようなものをサンドルフに手渡しました。
「うーん、ルビー?」とサンドルフが言うと、サンサンはペンダントと、大きな塊を並べて見ています。
当然、こんなことをしてもルビーと断定することはできません。
「うーん、ルビーの原石に似てるねえー…」と、いつの間にかいた細田が言いました。
「相変わらずすごい嗅覚ですね…」とサンドルフは苦笑いを浮かべながら細田を見ました。
細田としては、一番肝心な部分を早く掘ってもらいたいようですが、さすがに手も口も出せないので作業を見守っていたのです。
「あ、調査は無料だから」と細田が笑みを浮かべて言うと、カミは笑顔を細田に向けました。
細田は妙な機械や、研磨機を出して調査と研磨を開始しました。
研磨にかけたのは、ほんのわずかに割れていた部分です。
わずかと言っても、サンサンの持っているペンダントの大きなルビーと同じほどの大きさです。
「結果から言うと、ルビーよりも硬いね。
だけど構成成分はルビーとほぼ同じ。
この星には地球にない物質があるからそのせいだろうね」
細田が言うとカミは早速商談を始めることにしました。
「もしこの磨き上げた宝石を買っていただけるのなら、
霞改という防具と比べていかほどの割合でしょうか?」
カミは取引については本当に猛者でした。
この質問から始まって、貿易がスタートするのです。
「片足の部分だね」と細田は笑みを浮かべて言いました。
「あ、でしたら、この大物だと…」とカミは期待を持って、大きな赤い原石を指差しました。
「二台」とカミの言葉にすぐさま細田は答えました。
「いや…」と細田は何かを考え始めました。
「やっぱり一台だね」と細田は訂正しました。
カミはまったく表情を変えません。
細田にも即座に判断がつかないことがあるのだろうと思っただけです。
「理由は簡単なんだ。
普通サイズの霞改の方が安いから。
小さくなればなるほど手間も費用もかかるんだよ」
細田の言い分は、カミにも理解できたようですが、この状況を見ているヴォルドは気に入らないようです。
「あ、でしたら磨いたものは僕が買いますよ。
龍に変身できる帽子と交換しましょう」
サンドルフが言うと、カミは大いに喜びました。
「さすがサンドルフだっ!!」と言ってヴォルドはサンドルフの肩に腰掛けました。
サンドルフは早速帽子を創って、カミに手渡しました。
「セイランダちゃんが着ていたものと同じだけど、すごく小さいから。
あ、でも、
僕の場合は大きくても小さくても値段は同じだよ」
「あー…」と細田が言って、かなり困った顔をサンドルフに向けました。
「だけどね、この宝石はこれだけでいいから」とサンドルフが言うと、全てを見通したカミは肩を落としました。
細田はほっと胸をなでおろしています。
「ボクはこの宝石を王に献上しようって思ってるんだ」
サンドルフが胸を張って言うと、ヴォルドはかなり驚きましたが、「なぜ欲しいと知っていたぁー…」とサンドルフに畏れを流して言いました。
「サンサンが持ってるからだよ」とサンドルフはなんでもないことのように言いました。
ヴォルドは、―― にらむんじゃなかった… ―― と思ってから反省を始めました。
「あ、宝石の台もサンサンと同じものがいいっ!」とヴォルドが言うと、「それはこれからの採掘作業の出来次第だよ」とサンドルフが言うと、「俺も行くっ!!」と言って、カミの手を取って採掘現場に飛んでいきました。
どれほど掘ったのかサンドルフたちが見に行くと、まだ10メートルほどでした。
ですが、宝石のような石がごろごろと並んでいて、細田を喜々とさせました。
細田は宝石を貴金属として欲しているわけではなく、新しいものを造るための部品や素材として探しているのです。
様々な星の様々な鉱石や金属、宝石を使って、細田は新しいものを次々と生み出しています。
「あー、これも使えるなぁー…」と細田は言って、サファイヤと同じ色をしている宝石の検査を始めました。
「あ、これも一台分で」と細田が言うと、カミは笑みを浮かべて発掘作業の手伝いを再開しました。
「最低でも10台ほどは欲しいからなぁー…」とヴォルドが言うと、「はい、ボクもそう思っています」とカミは答えました。
ですが細田が所望するものは今のところはないようです。
ここでしばし休息をとることにして、昼休みになりました。
作業員たちはいいようのない笑顔を仲間たちに向けています。
「みんなってそこそこ力持ちだよね。
驚いちゃったよ…」
サンドルフが言うとカミは、「ボクが一番ひ弱だと感じましたよ…」とカミが申し訳なさそうな顔をして言いました。
ヴォルドはその通りと言わんばかりにうなづています。
サンクックの料理に舌鼓を打ちながら、サンドルフはヴォルドを見ました。
「最大の危機になると石になる。
そして魂も同様に石化する。
よって、覚醒前の魂を探ることは不可能だった。
そしてさらに、安全だと確認できると、石化が解ける」
サンドルフの言葉に、ヴォルドは苦笑いを浮かべました。
「石化魔法を使える悪魔はがっかりだよなっ!!」と言って、ヴォルドは大声で笑うと、サンドルフは苦笑いを浮かべました。
しかしサンドルフはこのヴォルドの考察を知りたかったのです。
「しかも、割れることも溶けることもない。
それほどでないと、その身を守れないほどに、
この星は過酷だったんだなぁー…」
サンドルフが感慨深く言うと、ヴォルドはうなづいています。
「あのぉー、最後の方の記憶ですが…」とカミが申し訳なさそうに言いました。
サンドルフたちが一斉に注目すると、カミは少し気が引けたようです。
カミの話はまさに過酷でした。
好きな仕事もできずに、ほぼ毎日石化していました。
そして仲間も家族も消えて行ったのです。
ですが死にたくない一心で、カミは石化を続けたのです。
この話しを聞いてサンサンもハルも大声で泣き出し始めました。
そしてカミを抱きしめました。
作業員たちも肩を落としてはいますが、カミと同じような毎日だったようです。
サンサンたちは作業員たち全員を、自分たちが慰めてもらうように抱きついていきました。
「あ、元気になった…」と作業員のひとりが言うと、全員がうなづいて、「わが王のためにがんばるぞっ!!」と雄たけびを上げて採掘現場に戻りました。
体が小さい住民たちは、ほんの少しでも癒やしに触れるとすぐに復活できるようです。
しかも、サンサンの癒やしは天使の癒やしとは別物なので、慣れという後遺症はありません。
「俺も行くっ!!」と言ってヴォルドもすくっと立ち上がって、一目散に採掘現場に飛んでいきました。
「いいものが出るといいんだけどね」とサンドルフが言うと、サンサンもハルもサンドルフを見上げました。
『きっと、出てくれるのよっ!!』とサンサンが祈りを込めて言いました。
サンクックの探査能力では、どこに何があるかまでは探れません。
ですが貴重なものはそこにあるという指標にはなるのです。
案の定、細田だけではなく地球から宝石を買い付けにやって来ました。
ヴォルドは、「持ち場は離れんっ!!」と豪快に言ったので、カミが代わりに応対を始めました。
買い付けに来たのは、霧坂陽菜という女性です。
SKマテリアルという、貴金属関連を扱っている企業の社長で、源次郎の第七秘書も兼任しています。
「細田さんにお話を聞いて、いてもたっても…
突然のことで申し訳ありません」
陽菜はカミに丁寧に頭を下げました。
「あ、ちなみに、霞改をそちらの通貨で購入する場合、
いかほどなのでしょうか?」
陽菜はいきなりの質問に困ってしまって、すぐに細田と連絡を取りました。
霞改は市場に出ていないので、金額に換算することができないのです。
すると暇だったようで、細田も同席することになったようです。
「通常の人間用で一台、ニ億八千万です。
あの大きなルビーがその1.5倍の値段。
四億二千万です。
ですので、小人用の霞改も、四億二千万です」
細田が言うとカミは、「貿易が成立した場合、そちらの通貨を頂きたいのです」とカミが言うと、陽菜は納得の笑みをカミに向けてからうなづきました。
科学技術も何もない星と聞いて、安く買い付けようと思っていた陽菜は、カミが素人ではないと悟り、ここはこれからのことも考えて良心的に値段をつけることにしました。
そしていざ、採掘現場にあるごろごろと転がっている宝石を見て、陽菜は奇声を上げながら興奮し始めました。
ですが、鑑定は手を抜きません。
やはり自然のものなので、濁りやかげりがあるものも多いのです。
さらに透明度の高いものとなると、たくさんある中でもほんの数点しかありませんでした。
細田から検査表を見て、陽菜は小さいのですが透明度が高いもの30点を選びました。
一連の作業で、カミは陽菜が何を基準にしたかを理解しました。
よって、そのボーダーラインにあるものは、カミは高く売ろうと必死になり始めました。
当然陽菜も黙っていません。
サンドルフたちはこの戦いにあきれてしまって、採掘現場を見学することにしました。
早速ヴォルドを見つけて、「カミはかなりがんばってますよ」とだけ言いました。
「そんなことは当たり前だっ!!」と堂々と言いましたが、うれしそうな顔をしています。
「おい、これっ!!」と言って、ひとりの作業員が大きな岩盤のようなものを引き上げようとしています。
さすがにひとりでは無理なので、ヴォルドも協力してなんとか地上に引き上げました。
「重いなっ!!」とさすがのヴォルドも、大声を上げて言いました。
ですがその顔には笑みがあります。
サンドルフが抱えると、「よく上げられたね…」と半分あきれながら言いました。
この岩盤のようなものの体積はサンサンと同じほどしかありません。
もちろんサンドルフひとりで持ち上げられますが、その重量は10トンを超えていました。
「この大きさでこの重量はありえないよ…
サンサン以上だっ!!」
サンドルフが言って笑うと、サンサンはかなりの剣幕で怒り始めました。
「サンサンはそんなに重いのか?」とヴォルフが言うと、「あはは、うんっ!」とサンサンは元気よく答えました。
ヴォルドがサンサンの右足を持って持ち上げると、「…人間じゃあねえ…」と一言言ってサンサンを地面に下ろしました。
サンサンはホホを膨らませてヴォルドを見ています。
「サンドルフは、重い女が好き…」とヴォルドが言うと、「修行にはなるけど違うよ」とサンドルフはごく自然に答えました。
「俺は軽い女だぞ」とヴォルドが言うと、「意味が違うように聞こえたっ!!」と言ってサンドルフは大声で笑い始めました。
掘り出した鉱石の調査が終わると、細田は満面の笑みを浮かべています。
「これひとつで4台分」と細田が笑みを浮かべて言うと、「やったぁーっ!!」と言って作業員たちは大いに喜びあいました。
どうやらこの鉱石は宇宙船のバランサーに使うようで、できるかぎりコンパクトなものに仕上げたかったようなのです。
小さくて重いものは、細田にとって宝物だったのです。
宝石の方も結果が出たようで、霞改二台分の金額相当の値がつきました。
カミも陽菜も向き合ったままうつむいています。
うなだれていると言った方がいいかもしれません。
どうやら相当な舌戦が繰り広げられたようです。
カミはビジネスとしての再起動ができたことを、心の底から喜んでいるようで、薄笑みを浮かべていました。
結局細田は10台の霞改をどこからか出して、住民たちを驚かせました。
「さらに掘ると、きっといいものが出ると思うので前払いです」と言ってから姿を消しました。
ヴォルドは礼を言う間もなく立ち去った細田がいた地面を見て、「…かっこいい…」と言ってホホを赤らめました。
「あ、奥さんいるから」とサンドルフが言うと、ヴォルドはかなり驚いてから、―― 余計なことを言うなぁー… ―― と言った目でサンドルフを見ています。
「すごく強いのよっ!!」とサンサンが言うと、サンドルフは承服しかねたような顔をしました。
細田の妻はテレビタレントで普通の人間です。
「…そうなの?」とサンドルフがサンサンに聞くと、「抱きしめてわかったもんっ!!」と笑みを浮かべて言いました。
「古い神の一族とか…」とサンドルフが言うと、「あ、そんなんじゃないのっ!!」と言って簡単に否定しました。
「細田さんってね、すっごく変わってるから」とサンサンは意味不明な言葉をサンドルフに告げました。
サンドルフは、今度細田の妻の岩戸理恵に会ったら、よく観察しようと思ったようです。
「王よ、遅くなったな」とクーニャは胸を張ってヴォルドに言いました。
「あ、じゃ、早速穴を広げて欲しい」とヴォルドは笑顔でクーニャに言いました。
クーニャは穴掘り職人の選定をしていて遅くなったのです。
クーニャの周りには、誰がどう見ても屈強な悪魔たちがいます。
そのほかの者は基礎体力訓練という名目で、農地で作業をしているようです。
「わかった」とクーニャは言ってすぐに、手下たちに指示をしました。
ほんの数分で、直径5メートルほどの穴が30メートルほどになっていました。
宝石類の選定作業が忙しくなったので、小さな住民たちは必死の形相で作業をしています。
勝手に持ち帰る者がいないので、宝石類の管理状況はかなりずさんです。
しかし、青空の下で選別した方が明らかに早く終るのです。
細田がまたこの場に現れて、初めて出てきた鉱石などの鑑定を始めました。
「あ、もうお腹一杯です」と細田が意味不明な言葉を発しました。
ヴォルドは、また新しい貿易ができると喜んだようです。
「細田としては、ここに売り込みたいものはないのか?」
ヴォルドが言うと細田は、「残念なことに、ここには子供がいないんですね…」と少しさびしそうな顔をして言いました。
生き残った者は一番若い者で15才です。
しかしその住民は体つきのいい青年のように見えます。
やはり過酷な環境を生きぬくためには、それなりの力も必要だったのです。
「まあ、残念だがな…」とヴォルドが苦虫をかんだ顔をして言うと、「こんなものがあります」と細田が言って、宙に映像を出しました。
この映像は、サンドルフたちは十分に知っています。
サンサンの顔が一気に笑みになって、少し飛び跳ね始めました。
ヴォルドはホホを赤らめ、「サンドルフのとなりに座って乗るっ!!」と大声で叫びました。
ヴォルドは遊園地の映像に大感激と大興奮をしています。
「子供でなくても、俺は楽しいと思うぞっ!!」とヴォルドは勢い込んで言いました。
「ランス君に発注してもいいけど、サンドルフ君、どうする?」
細田が聞くと、「あ、はい、ぜひ創らせてください」とサンドルフは快く引き受けました。
「サークリット遊園地よりも素晴らしいものができそうだ。
あ、そういえば…」
細田は言ってからある映像を出しました。
「…オレたちよりも小さい…」とヴォルドが言ってぼう然としています。
「ミリアム星人。
基本は植物でできているけど人間だよ。
小さい者同士、仲良くできたらいいな」
細田が言うと、ヴォルドは大きくうなづきました。
「一緒に、楽しもうじゃあないかぁー…」とヴォルドが言うと、細田は早速、黒い扉の設置をしました。
すると、金色に光る小さな物体が、黒い扉から出てきてとんでもない速さでサンサンに抱きつきました。
そしてすぐに、サンドルフにも抱きついています。
「やあ、ディック君、いらっしゃい」とサンドルフが言うと、ディックは宙に浮いてから笑みをサンドルフに向けました。
「ミリアム星の神のディック君だよ」
神と言われるとその通りといったディックの存在感に、ヴォルドはホホを朱に染めました。
ですがヴォルドから出てきた言葉は、「強そうだなっ!!」だったので、サンドルフは笑い、サンサンはかなり困った顔をヴォルドに向けました。
「あはは、ありがと!
ところで、
招待を受けたのはいいんだけど、
ボクたちの星からの見返りって何もないんだけど…」
ディックが言うと、ヴォルドが笑顔で首を横に振りました。
「何を言っているんだい?
きちんとあるじゃないか」
細田が笑みを浮かべて言うと、「ああ、ツタ」とディックは笑みを浮かべて言いました。
細田が映像を出すとヴォルドは目を見開いて驚いています。
「町外れの、ここから見える場所にでも種を植えたらいいな
って思ったんだよ。
空気がすっごくよくなるからね」
細田が言うと、ヴォルドは笑顔でうなづきました。
早速ディックが巨木になるツタの種を持ってきて、ヴォルドの指示した場所に種を撒きました。
ツタは気味が悪いほどの急成長を始めて、誰もが木になって行くツタを見上げています。
ディックがツタに水をやっている時、その体がみるみる大きくなっていることにヴォルドは気づきました。
「ああ、植物だから水分を吸って…」とヴォルドが言った時、ディックはヴォルドと同じほどの背丈になっていました。
「あ、小さくすることもできるけど、今はこれでいいよね?」とディックが言うとヴォルドは、「そのままでっ!!」とほぼ命令口調で言って、「あなた、子供は何人にしますか?」などとディックに言って迫り始めました。
ディックはミリアム星唯一の勇者です。
しかもデラルドという、身長15メートルの巨大な僕も持っています。
ディックに星を離れる自由はないのですが、少しの時間であれば、デラルドが変わりを勤めることも可能です。
ヴォルドが治めるこの星は、そのような制限はありません。
ディックに会いたければ、ヴォルドが行き来すればいいだけなのです。
「あ、聞いたよ。
遊園地、造ってもらえるんだって?」
ディックは気さくにヴォルドに話しかけます。
ヴォルドはホホを赤らめて、「あ、はい、あなた…」と身をねじりながら言いました。
サンサンは手を組んで乙女の祈りのポーズをとっているのですが、サンドルフはかなり面白いようで、声を出さずに笑っています。
「あ、今はまだ遊園地できてないみたいだから、ボクの星に来る?
ランス君が遊園地、造ってくれたんだよ」
ディックが笑みで言うと、「…ああ、初デート…」と言ってヴォルドはディックの腕を取りました。
「あ、この体じゃ大きいから、小さくするよ」とディックが言うと、「もうどうにでもしてっ!!」とヴォルドは心の底から叫びました。
サンドルフはついに我慢しきれなくなって大声で笑い始めました。
サンサンは意味がわかっているようでホホを赤らめています。
ここはふたりっきりで、などとサンドルフは思ったので、ついていこうとしたサンサンの首根っこを捕まえました。
小人よりも小さくなったディックとヴォルドは仲睦まじく黒い扉をくぐっていきました。
「…お友達なのにぃー…」「そうだね、ひどいよね」とサンサンの言葉にサンドルフがすぐに答えると、サンサンはサンドルフをにらみつけました。
「行ったっていいじゃない」「ヴォルドはサンサンを誘わなかったよね?」
サンサンの言葉にサンドルフはすぐに答えました。
サンサンにもその意味がわかったので、余計にホホを膨らませました。
サンドルフはサンクックに各所の遊園地の映像を出してもらって、全てのいいとこ取りをした遊具を作り始めました。
細田はかなりの勢いで喜んでいます。
その細田がうずうずとし始めたので、サンドルフはご機嫌取りのために今造っているコースターを細田に任せました。
かなり小さいものですが、住民たちにとっては巨大なものなので、さすがの細田でもすぐには完成しないとサンドルフは踏んだのです。
サンドルフが細田を見ると、なんと細田は五人に増えていました。
「…あはは、僕の考えが甘かった…」とサンドルフは苦笑いを浮かべて細田たちを見ました。
ですが細田たちは詰まらなさそうな顔をしていたサンサンに仕事の依頼をしました。
コースターで使うトロッコの装飾を彫ってもらいたいようです。
今までふさぎこんでいたサンサンは一気に笑顔になりました。
ですがサンサンは始めて造るものは仕事が遅いので、細田も腰をすえてサンサンの仕事っぷりの見学を始めました。
サンドルフはほっと胸をなでおろして、自分のペースで遊具を創り上げていきます。
サンクックが出している映像に、住民たちは歓喜の声を上げています。
全てが大人ではありませんし、お年頃前の女性も多くいるので、当然の反応です。
乗り物が不得意な住民ものもいるはずなので、子供だましの遊具も欠かせません。
すると、大勢の中年層の住民たちが涙を流し始めました。
きっと、自分たちの子供のことを思い出したのでしょう。
この遊具の方が大人気になるんじゃないかと、サンドルフは暖かい気持ちを持って感じています。
サンドルフはかなり張り切って遊具を創り出します。
そのたびに、泣き声が大きくなっていくので、見かねた代表がサンドルフに向けて申し訳なさそう顔をして、一同を城下町に連れ戻しました。
これで落ちついて仕事ができると思った時に、サンサンの彫り上げたゴンドラが完成しました。
結局はサンドルフは遊具の半分ほどを創っただけです。
ですが細田が造り出すものも素晴らしいのです。
サンサンもハルもサンドルフが創り出した遊具に興味津々で、今すぐに乗りたいようですが、さすがにそれはできません。
「ヴォルドが一番だよ」とサンドルフが言うと、サンサンたちは悲しそうな顔をしました。
きっとヴォルドはディックと一緒に楽しむはずだと思ったようです。
「もし何かあっても、ヴォルドなら死ぬことはないから」とサンドルフが言って大声で笑い始めました。
サンサンはサンドルフが放った言葉の意味がわからず、ぼう然としています。
「そうだね。
何事にも完璧はないから。
確認のためにヴォルドさんには10回ずつほど乗ってもらおうか」
細田が言うと、サンサンはあ然としました。
「…えー… でもぉー…」とサンサンが言うと、「こういった外の遊具ははっきりいって危険なんだよ」と細田は真剣な表情で言いました。
「いきなりの突風などで、
遊具がまともに動かなくなることも考えられるからね」
「あー…」と言って、サンサンは納得したようです。
「それに地震。
これだけは今のところちょっと予知できないからね。
できるようにしてもいいけど…」
―― できるんだっ!! ―― とサンドルフは思って、少し笑ってしまいました。
「だから、ドームをかけますっ!!」と細田は言って、空調設備込みのかなり大きい透明のドームを異空間ポケットから出しました。
さらに、ベース部分が地中にもぐって、遊園地全体を宙に浮かせるように仕組まれているようです。
サンサンはこの様子を見てもろ手を上げて喜んでいます。
「これが成功したら、城下町にもドームをかけます。
ちょっとした雨でも、
小人たちにとってはかなりの脅威だろうからね」
サンドルフもサンサンも納得したようで、細田に笑みを向けました。
黒い扉から妙にうなだれたヴォルドが帰ってきました。
そのうしろには、グリーンベティーと、その肩に乗ったディックがいます。
「ふーん…」とサンドルフは言いました。
ヴォルドの初恋は無残にも散ってしまったようです。
「さあ、王様、試運転です。
あ、サンサンちゃんたちと一緒に…」
細田が言うと、サンサンもハルも満面の笑みでヴォルドに抱きつきました。
「…あー… 癒やされた…」とヴォルドは言って、恋慕のひと雫の涙とともに、初恋を簡単に切り捨てました。
そして元気が出たようで、小さくしてもらったサンサンたちと、少しやけくそ気味で遊具を楽しみ始めました。
「丸く治まった…」と細田は言って、少し笑っています。
サンドルフも、―― 爆発しなかったことが不幸中の幸い… ―― と思って微笑んでいます。
「男よりも女友達よっ!!」とヴォルドは年頃の女性の人間のように、少々虚勢を張りながらも、サンサンたちと遊具を楽しんでいます。
細田の言った通り、全ての遊具を10回ほど楽しんだヴォルドは、「さらに強くなったっ!!」と豪語していますが、足元が少々怪しくなっています。
ヴォルドはどうやら絶叫系が苦手のようで、叫ぶことで体力も精神力もエンプティーに近づいていました。
ですがサンサンとハルの癒やしのおかげで何とか立っていられるようです。
星の住人たちも悪魔たちも、少々微妙な顔色で、ヴォルドと細田を見ています。
ヴォルドの許可が下りたので、住民たちとディックたちも遊具を楽しみ始めました。
悪魔たちも遊園地の入園希望者は、サンドルフが気功術で体を小さくしています。
さらにヴォルドが術を放っています。
サンドルフは30分と決めて体を小さくしているので、その時間になる前に外に放り出すという、少々複雑な術です。
ヴォルドも気功術を多少は使えるようなので、悪魔の術と複合してかけているようです。
そして予想していたことなのですが、住民の中年層は、コーヒーカップなど、小さな子供たちが好む遊具に乗ってたそがれ始めました。
「ふーん…」とサンドルフは言って、住民たちを笑顔で見ています。
「ほう…」と言って、細田もサンドルフに倣いました。
徐々に変化した場合、比較的わかりにくいこともあったりします。
住人たちの姿が、人間の姿に近くなっている者が大勢現れたのです。
もちろん体の大きさはサンドルフのひざまでもでありません。
「石化変身モードだった…」とサンドルフが言うと、細田はうなづいています。
こういったことだけでも能力の差を知ることができるようです。
代表とカミは、もうすっかり人間の姿でした。
サンドルフが素早く遊園地内を見渡して確認すると、女性が二名、男性が一名、同じように変わっていました。
ヴォルドは元々悪魔の姿だったので、一番能力が高いんだろうとサンドルフは思っています。
「この星はランス君が直してくれたから、
しばらくは地震は起きないと思うけどね。
半漁人のような姿もしばらくは見られないかもしれない」
細田は言って、まだ中途半端に変化している姿の住民を笑顔で見ています。
ディックもグリーンベティーも遊具を楽しんでいるようです。
ちょっとしたデートのようなものでしょうか。
ですがタイムリミットがきたようで、ディックとグリーンベティーはヴォルドに丁寧にお礼を言って、黒い扉をくぐって帰っていきました。
細田がヴォルドたちにグリーンベティーの生い立ちを語ると、大きく育ったツタを一斉に見上げました。
「新しい住人が増えたらいいな…」とヴォルドはこの星の王として胸を張って言いました。
「あー、サンダイス星ってどうなんだろ…」とサンサンが言って、うれしいのか悲しいのかわかりづらい顔をしてサンドルフを見上げました。
「なんだよ、知ってるんじゃない…」とサンドルフはサンサンを笑顔で見て言いました。
「まだ、早いんだよね?」とサンサンが言うと、「数年ほど待った方がいいと思うね」とサンドルフは笑顔で答えました。
ツタの巨木は子供を宿すことができるのですが、生まれたばかりだとその巨体に大きな負担がかかるのです。
もし気づかず放置してしまうと、巨木が倒れてしまうかもしれないのです。
もちろんランスも知っているので、二本の巨木には説明してあります。
ですが本人たちは、今はその気はないようです。
もしその気になったら、ランスに知らせると言って、木の実をひとつ枝に生らせました。
「あはは、きれいな桃色だ」とランスは言って簡単に理解できたようです。
『この実を出した時に、ふんだんに肥料と水をくれ。
あ、いや、ください…』
男の巨木は念話を送って話ができるのです。
女の巨木が、「乱暴な人は嫌い」と言ったので、男の巨木はそれを守るようです。
これはただの男の巨木の話し方なので、ランスしてはなんとも思わないのですが、女の巨木は気にするようなのです。
しかもサンダイスを拒絶しているので、ランスは戦地でしかサンダイスに変身しなくなりました。
サンドルフは成長中の巨木に触れましたが、ランスのように念話を送っても返答はありません。
サンサンもサンドルフのマネをしますが同じです。
ハルもヴォルドも仲間に入りましたが、みんなの顔色は冴えません。
「うーん…
まだまだ未熟だと、悟られちゃったかなぁー…」
サンドルフが言うと、『忙しいんだから話しかけないでっ!!』と念話を返してきたので、サンドルフはみんなに説明して巨木から離れました。
「意地悪してやる…」と珍しい言葉をサンドルフが放つと、『あーん、ごめんなさぁーいっ!』とサンドルフの頭の中に念話が聞こえてきました。
サンドルフに触れているものは何もないはずです。
ですが、足元を見ると、細いツタがサンドルフの靴の上に乗っていました。
「猛ダッシュで逃げるっ!!」とサンドルフが言うと、巨木はツタをサンドルフの足に絡めました。
サンサンたちはかなり困った顔をサンドルフに向けています。
ですがまるでランスのようで、サンサンだけは微笑ましく思ったようです。
「気が向いたら話しかけてくれていいよ」と今度はサンドルフがやさしく言うと、巨木は丁寧に謝ってから、足に絡めたツタを巨木に戻しました。
「ひとり仲間が増えたね」とサンドルフが言うと、ヴォルドはかなりうれしく思ったようです。
巨木のツタはまだまだ忙しいようで、どんどん成長していきます。
「あー、肥料だけど…」とサンドルフは言って、どうしようかと悩んでいるようです。
ここに本当の火龍がいればかなり簡単なことです。
緑のオーラでもいいのですが、火龍の炎の方が数倍いい土になるのです。
サンドルフが巨木の根っこを見ると、ほかの部分と土の色が違っています。
養分を吸い上げすぎて、土が砂へと変わっているのです。
サンドルフは空き地にピンポイントで緑のオーラを流して、草木を生えさせました。
それを何度も繰り返して、酸化して煙が出るほどの堆肥を作り出しました。
サンドルフたちは丁寧に巨木の根に堆肥を詰め込んでいきました。
そして十分に水を与えると、巨木の歓喜の声が聞こえるほどの成長を始めました。
「うわぁー、全然足りない…」とサンドルフは嘆きましたが、また場所を変えて何度も何度も堆肥を作り出しました。
「あ…」とサンドルフは言って、ヴォルドを見ました。
「悪魔のオーラってまとえるんだよね?」とサンドルフが言うと、「あ、ああ、問題ないが…」とヴォルドは少し怪訝そうな顔をして答えました。
「火龍の炎と悪魔のオーラって同じなんだって。
だから悪魔のオーラで大地を焼くと、すごくいい土ができるって」
サンドルフが言うと、「…いいんだけど…」とヴォルドが言って、サンドルフにおねだりの視線を向けました。
「僕にとっては何の得にもならないことなんだけど…
巨木のツタは、この星の住人だよ」
サンドルフが言うと、―― それはその通りっ!! ―― とヴォルドは思ったようで、サンドルフに謝ってから、クーニャとともに交代で悪魔のオーラで空き地を焼きました。
もし同時に悪魔のオーラをまとってしまうととんでもないことになると細田が言ってその映像を見せていたのです。
「わくわくずるが、オレたちがこの星を壊すことは許されん…」
ヴォルドは堂々と言ってから胸を張りました。
こんがりと焼きあがった土を巨木の根の周りに敷き詰めると、一旦はとんでもない成長をしたのですが急に緩やかになりました。
そしてサンドルフたちに巨木のツタがまとわりつきました。
『ありがとうっ!
とっても楽になったのっ!!』
巨木のツタは言って、この場にいる全員にお礼を言っています。
「おおー… 役に立ったようだなぁー…」とヴォルドが言うと、『はいっ! すっごくおいしい土ですわっ!!』と巨木が言うと、ヴォルドは少し照れていました。
「農地の肥料も大地を焼け。
使えるのはクーニャだけじゃないはずだ」
ヴォルドが言うと、「わかった、行ってくる」と言ってクーニャは農地に走っていきました。
「あー…」と言ってサンドルフは大量の黒い土を混沌の球から作り出したのです。
「これ…」とサンドルフが言うと、「もうお腹一杯ですっ!!」と巨木のうれしそうな声が聞こえました。
「あはは、簡単なことだったよ…」とサンドルフが言うと、サンサンはまるで自分のことのように喜び始めました。
―― やっぱりすごいっ!! ―― とハルは思って、サンドルフに飛びつきました。
サンドルフは急成長していくこの星全てが大好きになりました。
そして、「うーん…」とまたサンドルフは何かを考え始めました。
それはヴォルドに与えるごほうびの、宝石の台にするペンダントのことです。
なんとかして、サンドルフがありがたく思うことをヴォルドにしてもらえば、考えることなくすぐにでも創ろうと思っているのです。
ですがそのいいアイディアが浮かんできません。
サンドルフはサンサンとハルに念話をして、意見を聞くことにしました。
ですがサンサンもハルも、良案が浮かんできません。
ヴォルドにもさらに幸せになってもらおうと思って、ロア部隊全員で話し合うことにしました。
やはり動物が多いので、食と己の強さについての意見が多く出ました。
食については、サンクックの考察で、メリスンが創り出す料理以上のものは造れないと判断しました。
そして己の強さの候補として、サンドルフがヴォルドと戦うという意見が多く出たのです。
まさか戦ってその代償に宝石の台を創ることになるとはサンドルフも思い当たりませんでした。
ですが未知の存在のヴォルドの力を知るためには効果的だと、サンドルフは思って、この意見を強くプッシュしたベティーBTとセイランダにお礼を言いました。
早速サンドルフはヴォルドに全てを話しました。
ヴォルドは納得はしたのですが、サンドルフと戦うことをあまり好ましく思っていないようです。
ですが話しを聞いていたクーニャが、「サンドルフだけの利益だとは思えんのだがな…」と言うと、ヴォルドはその意見に乗って、サンドルフと戦うことに決めました。
基本的には手足で殴る蹴るの戦い、組み手だという決め事を確認しあいました。
さすがにヴォルドも、殺し合いをしようとは思ってもいません。
問題は体格差で、まずはサンドルフがヴォルドにあわせることに決まりました。
戦いの流れで体高を変えることは反則ではないと確認しあいました。
「あ、まずは俺が戦ってみたい」とクーニャが気軽に言いましたが、ヴォルドににらみつけられて、「俺のあと」と簡単に拒否されました。
早速サンドルフは体高をヴォルドにあわせて、お互い向き合いました。
「うっ!」とサンドルフがうなり声を上げました。
同じ体高にしたことで、ヴォルドの体を覆う紋様がはっきりと見えたのです。
おどろおどろしいその漆黒の紋様は、サンドルフを恐怖に引きずり込みました。
ですがサンドルフは自身を奮い立たせます。
―― 戦う前に戦意を失ってどうするっ!! ―― とサンドルフは気持ちを強く持ちました。
そして、―― 宝石の台、もう創ってもいいほどだ ―― と考えると、気持ちが楽になりました。
「ふーん…」とヴォルドが言いました。
少々計算違いだったようで、ヴォルドは苦笑いを浮かべています。
向き合った時点で戦う必要はないと、ヴォルドは思っていたようです。
「さあ、やろうかぁー…」と言ってヴォルドはとんでもない畏れをサンドルフに向けましたが、今のサンドルフは簡単に受け流しています。
「くっそぉー…」と言ってヴォルドは笑みを浮かべてから一気にサンドルフとの間合いを詰めました。
まるで途轍もない弾丸が飛んできた錯覚にサンドルフは陥りました。
このヴォルドの畏れこそが最高の武器なのです。
サンドルフは平常心で、型通りの攻撃を繰り出しました。
ヴォルドにとって、サンドルフの型通りの攻撃は未知でした。
数発、肩やわき腹を突かれましたが、冷静さを保っています。
そのほかは素早く避けるか、手刀で叩き落しました。
ふたりは間合いを広げて、次の作戦を練り始めました。
―― 僕はもうすでに成長したっ!! ―― とサンドルフは思い、ヴォルドに笑みを向けました。
ヴォルドは真剣な眼差しでサンドルフを見据えています。
サンドルフは笑みを浮かべたまま、ヴォルドに最接近して、今度はサンサンの攻撃のマネをしたのです。
「ぐっ!!」と言って、ヴォルドは嫌がりました。
いきなり別人になって戻ってきたことに驚いたのです。
ヴォルドは素早く回り込みましたが、サンドルフは常にヴォルドを見据えています。
―― あの女ぁー… ―― とヴォルドは思い、視界に入っているカレンを見ています。
カレンほど素早い者はこの世にはいません。
誰がどれほどのスピードで移動しても、サンドルフは驚きもしないのです。
さらには最短で相手を見据える技術もサンドルフは持っています。
ヴォルドは今まで以上に、サンドルフを好きになりました。
サンサンはすぐに、「だっ!!」と言いました。
本当は、『ダメだもんっ!!』と言おうとしたのですが、その言葉はハルの体で口を封じ込まれていて発することができなかったのです。
『ハルちゃん、放してっ!!』『今は戦いを見る時なのっ!!』
サンサンの言葉にハルは猛然と抗議しました。
サンサンはもがくのですが、ハルは絶対に離れまいと、強く体を押し付けます。
『サンドルフ君の成長のためだもんっ!!』とハルは心からの言霊を放つと、サンサンは大人しくなりました。
そしてサンサンは地面にひざをついて、シクシクと泣き出し始めました。
『サンドルフ君は成長だけを望んでいるの』とハルがまた言うと、サンサンは泣きながらも、何度も何度もうなづいています。
サンドルフは笑みを真剣な表情に変えました。
もちろん、サンサンとハルのことはまったく見えていません。
今はヴォルドしか、サンドルフの目は捉えていません。
サンドルフは思いつく攻撃をランダムに組み立てて、ヴォルドに迫ります。
ヴォルドが、「ぐぬぬ…」とうなり声を上げるたび、その体が大きくなって行ったのです。
サンドルフは間合いを広げてすぐにヴォルドの体高にあわせます。
ヴォルドも冷静なので、このサンドルフの行為を不思議とも思っていません。
サンドルフとヴォルドは、今、最高の時を過ごしているのです。
もう数十分が経過しました。
サンドルフもヴォルドも体中アザだらけです。
ヴォルドの体高は、サンドルフの元の体高よりも大きくなっていました。
サンドルフは元の体高になってからは体を大きくしていません。
今の自分自身の実力を試そうと思っているだけです。
しかしわずかなリーチ差が、サンドルフを苦しめます。
サンドルフは思わずバランスを崩して、両手両足を大地につけてしましました。
そして顔面から突っ込んで、大地の土を噛みました。
サンドルフはすでに意識を失っていました。
ですがその顔には笑みが浮かんでいます。
ヴォルドは声を上げすに泣いていました。
ヴォルドはサンサンを裏切ってでも、サンドルフが欲しいと思ったのです。
ですがサンサンの泣き顔を見た途端、ヴォルドは冷静になって、その想いを簡単に捨てました。
「おっ!! おおおっ!!!」とヴォルドが叫ぶと同時に、ヴォルドの体表が変化していました。
おどろおどろしい漆黒の紋様は消えて、燃えるような赤い紋様となったのです。
クーニャを始め悪魔たちはヴォルドを拝むようにして頭を垂れました。
ヴォルド自身も、大いなる成長を果たしたのです。
それはサンドルフへの想いを諦めるという、最高級の精神修行を達成した証でした。
「はあ… 小さい方がかわいいって思ってたんだけど…」とヴォルドは言って、苦笑いを浮かべました。
「サンドルフが好きになってくれないかなぁー…」とヴォルドが言うと、サンサンは泣き笑いの顔をヴォルドに向けてから、ヴォルドを抱きしめました。
サンドルフはまだ眠ったままです。
タレントと利家が笑顔でサンドルフを抱え上げて温泉に連れて行きました。
今はサンドルフの邪魔はしないでおこうと思ったサンサンたちは、サンドルフの目覚めを待ちました。
ほんの10分ほどで、頭をかきながらサンドルフが戻ってきました。
「いやぁー、寝ちゃってごめんなさいっ!!」とサンドルフはすぐに大きく成長したヴォルフに謝りました。
「いいや、構わない。
有意義な戦いだったからな」
ヴォルドが言うと、サンドルフの次の言葉に期待しました。
「ヴォルドさんも僕も成長できたので、ごほうびはなし」
サンドルフがあまりにもつれない言葉を発すると、ヴォルドは目が点になっていました。
ですがサンサンが、「台、創ってあげてっ!!」と猛然と抗議したのです。
さすがのサンドルフもサンサンの本気の怒りにたじたじになったようで、「ヴォルドさんはそれでいいの?」とサンドルフが聞きました。
ヴォルドはすぐに、「創って欲しいっ!!」と真剣な顔をして言いました。
「あ、今はちょっと無理なので…」とサンドルフが言うと、サンサンはまた怒り始めましたが、『お腹ペコペコなのっ!!』とハルが言って眼が覚めたようで、サンサンはサンドルフに申し訳なさそうな目を向けました。
サンドルフの影からサンクックが飛び出してきて調理を始めました。
ヴォルドもやっと理解できたようで、「俺も頂こうか」と言って笑みを浮かべました。
「私、ダメダメだぁー…」と言ってサンサンは嘆いています。
ハルはそんなサンサンを温かい目で見ています。
ハルはこれほどにすぐに立ち直れる人たちを知りませんでした。
それほどに重厚な時を過ごしているんだと、ハル自身も成長したと感じているのです。
サンクックの造り出す料理は次々とサンドルフの胃袋に吸収されていきました。
サンドルフは食べるたびに、強くなっていくように感じています。
ひと心地ついてから、サンドルフは精神統一をして、宝石の台になるペンダントロケットとチェーンを創り出しました。
「あっ…」と言ってサンドルフはかなり気まずい顔をサンサンに向けました。
「こっちの方が出来栄えがいい…」とサンドルフは正直に言いましたが、サンサンは気にもしていません。
「あの時の、サンドルフ君の最高の作品…」と言ってサンサンはペンダントロケットを両手で抱きしめました。
「あはは…
そう言ってもらえるとうれしいよ」
サンドルフは言ってから、ヴォルドに言って磨き上げたルビーを出してもらいました。
そしてルビーを丁寧に固定してから確認をして、ヴォルドに手渡しました。
「おおおー… ありがとうぉ―――…」とヴォルドは妙な畏れを流しながら言いました。
クーニャたち悪魔は朦朧とし始めました。
「…あ、ああ…」とヴォルドは戸惑いを込めた言葉を発しました。
サンサンもサンドルフもヴォルドの気持ちはわかっています。
「サービスで」とサンドルフはサンクックに言うと、様々なサンドルフやサンサンたちと写っている写真を印刷して、ヴォルドに手渡しました。
「…ウェディングドレスはぁー…」とヴォルドが言うと、「着てないよ?」とサンクックはごく自然に言いました。
それはその通りと思ったヴォルドは、サンサンに申し訳なさそうな顔を向けています。
サンサンは今のヴォルドに欲が見えなかったので、すぐに、サンサンが造ったウェディングドレスと同じものを造りました。
ヴォルドはサンサンに丁寧にお礼を言ってから、サンドルフの食事が終わってから写真をもらうことに決めました。
「ふーん…」とサンドルフは言って、サンサンとヴォルドを見ています。
今ここには、恋愛という戦いはまるでありません。
サンドルフはそれを確認してしてから最高の笑みを浮かべました。
ヴォルドは念願の写真を、ペンダントロケットに封じ込めました。
できれば相手はサンドルフがいいのですが、自分からは主張しないことに決めています。
さらには今のサンドルフは、一番で特別は誰もいないと感じているのです。
ヴォルドはできる限りサンドルフを意識しないように心がけることにしました。
サンドルフは過去の記憶がありますが、精神年齢的には12才ほどです。
数年後にはサンドルフ自身が、最高のパートナーを選ぶことになるだろうと、ヴォルドは少しだけ期待することに決めました。
「おいおい…
来るたびに驚かされるな…」
ランスが黒い扉から出てきてゆっくりと歩きながら言いました。
「あ、免許皆伝証、いる?」とランスはサンドルフに気軽に言いました。
サンドルフはすぐに立ち上がって、「お師匠様、ありがとうございましたっ!!」とランスに素早く頭を下げました。
ランスは何度も何度もうなづいて、サンドルフに免許皆伝証を手渡しました。
「教えることなんで何にもなかったけどな」とランスが言うと、サンドルフは笑顔でランスを見て、首を横に振っています。
「免許皆伝は頂きましたが、ずっと僕のお師匠様でいて欲しいのです」
サンドルフの言葉がかなりうれしかったランスは、「ああ、好きにしていいぜ」と笑みを浮かべて言いました。
「俺に、大気圏外に吹っ飛ばされるのは誰だろうなっ!!」とランスは大声で行って、黒い扉に向かって歩き出しました。
「…ううっ! 誰よりも怖ええ…」とヴォルドが少し震えながら言いました。
「あはは、僕がサンサンを選ぶと、二人とも流れ星になるんだよ」
サンドルフがお気軽に言うと、サンサンはかなり困った顔をサンドルフに向けました。
「それって、修行?」とカレンが言うと、サンドルフは少し笑って、「死なないように、その時は古い神の力を覚醒させておこう」と言いました。
「ああ、古い神の家系図は見せてもらった。
あの佐藤の息子だそうだな」
ヴォルドが言うと、クーニャは少し体を震わせました。
あの意味不明な佐藤の息子というだけでも、サンドルフも十分に恐ろしい存在です。
そして実力的にはヴォルドとそれほど変わらない。
クーニャはこのままでいいのかと思い、自分自身を戒めました。
「…ん?」と言ってヴォルドが怪訝そうな顔をクーニャに向けました。
「おまえ、無意識か…」とヴォルドは言って、クーニャの足元を見ています。
そこからは懇々と水があふれ出ていたのです。
「えっ?!」と言ってクーニャは素早く移動しましたが、水はクーニャの足の裏から出ているようなのです。
「あー…」とサンサンは悟ったように言葉を発しました。
「水の妖精の始祖…」とサンドルフが言うと、クーニャから流れ出ていた水は止まりました。
「…あ、ああ…」とクーニャは嘆きましたが、心当たりは十分にあるのです。
「細田が父だと、俺が言った…」とクーニャは自分のことなのですが、まるで他人事のように言いました。
サンドルフはサンクックに家系図や様々な映像を交えてクーニャたちに説明しました。
そしてもうすでに兄が星を救うために働いていることも知りました。
兄とは、大山勇気のパートナーのマグマのことです。
このペアは、ランスと同じように星の修復ができることを知り、クーニャは大いに兄自慢を始めました。
少々調子に乗っているクーニャをヴォルドは白い目で見ています。
「だが細田は何も言ってこないな…」とヴォルドが不思議そうな顔をして言うとサンドルフは笑みを浮かべました。
「もしもどうしても必要なら、
細田さんはマクマ君もクーニャさんも
古い神の一員として覚醒させるだろうね。
だけど、マグマ君にすらそれをしていない。
そうすることでできるだけ意識させないように、
今の生活を楽しんでもらっているんだって思うんだ」
サンドルフが言うと、ヴォルドは一旦は納得したようです。
「だが細田はすごいなっ!!」とヴォルドは今更ながらに声を大にして言いました。
「細田さんって、実は術を使えば何でもできるようなんだ。
だからそれがイヤで、科学技術に傾倒して、
自分の持つ力と同じものを造り出しているはずなんだよ」
サンドルフが苦笑いを浮かべながら言うと、「回りくどいが…」とヴォルドは言ってにやりと笑いました。
「自らの手で造り出すことが今の細田の生き甲斐」
ヴォルドが言うと、サンドルフは笑みを浮かべてうなづきました。
「術を使えばなんでもできるからね。
それをしてしまうと満足して消えるしか道がなくなるんだよ。
術に長けた人の苦労がここにあるんだろうね」
サンドルフが言うと、「父ちゃん、死ぬなぁ―――っ!!」とクーニャが悲壮な顔をして叫ぶと、サンドルフたちは視線を外してお腹を抱えて笑い始めました。
… … … … …
翌朝、サンドルフは恐る恐るヴォルドを見ています。
もうサンドルフたちはここの住人だという意識があるのではと、今の表情からうかがえるのです。
サンサンも同じで、今はヴォルドと話しをしながら微笑んでいます。
―― これは言いづらい… ―― とサンドルフは思っていると、『何かあるの?』とハルがサンドルフに聞いてきました。
『まあね。
ボクたちの本当の家に、
そろそろ帰ろうかと思ったんだけどね…
サンドルフが念話で返すと、『あー、そうだったんだぁー…』と言ってハルもヴォルドとサンサンを見て、サンドルフの気持ちが痛いほどわかったようです。
ちなみに、動物たちと珍獣は、ここも気に入ったようで、サンドルフが何も言わなければ、ここにいても問題ないと思っているようです。
『サンドルフ、悪いんだけどな…』と言って、本当に申し訳なさそうな声でランスから念話がありました。
サンドルフはこれ幸いと思い、声に出してランスの念話に答えました。
話しをしていくうちに、サンサンの顔色が変わり、ヴォルドはサンサンの様子から少しうなだれてしまいました。
動物たちは、素早く食事を済ませて、サンドルフの命令を待つかのように起立しました。
ヴォルドはその様子を見て、―― これではいけない! ―― と思い、笑顔でサンサンを見ました。
サンドルフが念話を終えると、一斉にサンドルフに視線が集まりました。
「どちらかと言えば仕事じゃないんだけど、
僕とサンサンにとっては仕事だ。
さらに言うと、そろそろサンダイス星で修行をしないと、
あっちの重力が辛くなるからね。
宇宙の旅の命令も、そろそろ下りそうなので、
それぞれ自主訓練に励んで欲しい。
あ、珍獣は学校に行ってくれ」
サンドルフが言うと、カレンはホホを膨らませて、「わかったわよぉー…」と答えました。
サンドルフたちはヴォルドたちとお別れのあいさつをしました。
「…あ、ああ…
…い、いつでも会えるんだよな?」
ヴォルドは言ってから、黒い扉に視線を移しました。
「サンサンは毎日でも来るだろうけどね。
だけど、できれば引き止めて欲しくないんだよ。
サンサンも僕たちも、ここでの生活が楽しいから。
でもね、今言ったように、
住んでいる星はこの星の重力の1.3倍あるんだ。
大したことはないって思うだろうけどね。
これって数値だけじゃ理解できないって思うんだ。
だから一度、もう少し落ち着いてから
ヴォルドにサンダイス星に来てもらおうって思ってるんだ。
いろんなのことを知ることで、
ヴォルドの修行にもなるって思うからね」
サンドルフが語ると、ヴォルドは笑みをサンドルフに向けました。
「丁寧にありがとう。
だが、子供たちが氾濫って…」
ヴォルドが言うと、サンクックがその映像を出しました。
「こうやってね、ボクたちを抱きしめることが、みんなの日課なんだ。
だけど、もう二日も抱いていないからね、
僕たち、死んだことになっちゃってるんだよ」
サンドルフが少し笑って言うと、「ああ、それは大変なことだな」とヴォルドは納得の笑みを浮かべました。
そして、決して無理を言わないことも決めました。
サンドルフたちはヴォルドに快く送られて、サンダイス星に戻りました。
サンドルフたちは早速、セルラ星に渡ることにしましたが、ベティーたちはサンダイス星に残って修行に勤しむようです。
「あー、やっぱり重く感じるね…」とサンドルフが言うと誰もが賛同して、サンサンに至っては歩き方が妙でした。
「可憐な少女が蟹股ってっ!!」と言ってサンドルフが大声で笑うと、サンサンはこれ異常ないほどの勢いでサンドルフをにらみつけました。
「でもサンサンが一番よくわかるね。
もみくちゃにされたあとは、ボクたちもここで修行だよ」
サンドルフが言うとサンサンは、「あはははは…」と笑ってからバツが悪そうな顔をしました。
サンドルフたちにハルもついてきました。
もちろんカレンもいます。
ですがカレンは一瞬にしていなくなりました。
カレンはメリスンへのあいさつもそこそこに、急いで店を出て行って、学校に向かいました。
ハルの件は子供たちへのサプライズにしようとサンドルフは思っているようです。
サンドルフたちがメリスンの店に出ると、「あら、おかえりなさい」とメリスンが笑みを浮かべてサンドルフたちを出迎えて、ぎょっとした目を銀のチョーカーをしている天使デッダのぬいぐるみに向けました。
そして、人型のサンサンを見てから、「…どういうこと…」と言ってぼう然としています。
「仲間が増えました」とサンドルフが言うと、「聞かせて」とメリスンは興味津々の顔で言いました。
ですがサンドルフが幼稚園に行くと言うと、邪魔をしてはいけないと思ったようで、メリスンは快く三人を送り出しました。
サンドルフもサンサンも天使デッダに変身しました。
サンドルフはふたりを見ているだけで癒されていることがよくわかりました。
幼稚園に行くと、園児たちは一旦はサンドルフたちに近づいてきましたが、銀のチョーカーをつけた天使デッダが二体いることで固まってしまいました。
『どういうことだっ?!』とサンドルフに魔王から念話が飛んできました。
「仲間が増えたんだ!
ハルちゃんだよっ!」
サンドルフは右隣にいるハルの背中を押すと、ぺこりと頭を下げました。
どうやらこれだけでサンサンではないことがわかったようで、三人は早速、園児たちにもみくちゃにされ始めました。
そして泣き出す子が大勢現れたのです。
ほとんどの子が、再会を喜んでいるだけでした。
それ以外の子は、実は怒っているのです。
さすがに子供に、『軍に所属しているから今まで通りにはいかない』などと説明するわけにはいかないので、サンドルフは念話を使って、魔王にうまく言いくるめるようにお願いをしました。
『動けるぬいぐるみの免許の更新にでも行っていたとでも言っておくよ』と魔王が言うと、サンドルフは大声で笑いました。
ここはファンタジー設定の方がいいと思ったので、サンドルフは同意して、さらに魔王にお礼を言いました。
『昼休みにでも色々と聞かせてくれ』と魔王が言うと、『うん、助かるよっ!』とサンドルフは明るい声で返事をしました。
―― 持つものは友達だなぁー… ―― とサンドルフはしみじみと思いながら、子供たちに集中を始めました。
そしてサンドルフはイザーニャを見て愕然としました。
まるで別人になっていたのです。
当然サンサンも気づいています。
一体何があったのか、ふたりは興味が沸きました。
ふたりが固まっているので、イザーニャは三体をやさしく抱きしめました。
「サンリリスよっ!」と言ってイザーニャが自己紹介をしました。
イザーニャは生まれ変わってサンリリスとして転生したようなのです。
イザーニャの話によると、ランスの奇跡によって、姉弟子のエンジェルがサンロロスに、蓮迦がサンレリカとして新たな人生を歩み始めたと聞かされました。
「とんでもない奇跡です…」とサンドルフはぼう然として言いました。
「今までのイザーニャを一旦終らせないと、
ランス君のそばにいられないから…
あ、サンロロスちゃんは純粋に
ランス君の子供になりたいって思ったようなの。
その資格はエンジェルちゃんにはあったからね」
イザーニャ改めサンリリスが言うと、サンドルフは感慨深く思ったようで、ゆっくりとうなづきました。
「…問題はね、サンレリカちゃん…」
サンドルフは蓮迦がサンレリカとして生まれ変わって、弱くなってしまった事を聞きました。
能力的には以前と変わりませんが、仏を失ったことで、自分の身を自分で守れなくなってしまったのです。
特に仏に出会ったが最後、簡単に仏として誘われてしまします。
これでは転生した意味がないと、サンレリカは悩んでいるようです。
よってサンレリカは、セルラ星かサンダイス星から出ないようにしているようです。
もっとも、もしそのようなことがあったとしても、覇王が黙っていないので、簡単に仏を解くはずです。
サンレリカはこの先の修行方針も考えなくてはならなくなったようです。
ちなみに、サンドルフとサンサンは仏になることができません。
理由は簡単で、ふたりが生まれた星が、巨龍が支配する星だからです。
この星で生まれた者は、仏の資質を持ち合わせていません。
ですがひとりだけ、セイラは仏の資質を持って生まれています。
それは父がルオウだからです。
ルオウによって、仏の資質を植え付けられているのです。
サンレリカは前世の記憶そのままに生まれ変わっているので、仏の資質を持っているのです。
これにはランスもかなり参ったようで、恋人としてのサンレリカには興味を失くしたらしいのです。
「あー… 蓮迦さん…
サンレリカさんを何とかしたいね…」
サンドルフが言うと、サンサンもハルも大きくうなづきました。
ですが今の時間は、サンレリカはエラルレラ山のトンネルにいます。
サンドルフもサンサンも未経験なので、どうしようかと悩んでいると、『念話したから』と俊介からサンドルフに念話が来ました。
すると、とんでもない気が幼稚園に充満しました。
園児たちは少し怯えましたが、ゼンドラドを見て安心したようで笑みを浮かべました。
「…お師匠様…」とサンドルフは言いましたが、次の言葉が出てきませんでした。
「ああ、いや、すまんな。
じゃ、行こうか」
ゼンドラドはいつもと何も変わらないのですが、その身にまとっているオーラが半端なく強いのです。
ですがハルは何も感じていないようで、サンサンと念話で話しを始めました。
そしてハルはかなり驚いてから、うなだれてしまいました。
どうやらゼンドラドの存在感を正確に見定められていないと理解できたようなのです。
「あ、そういえば、ひとり増えたんだな」とゼンドラドは今更ながらに、サンサンとハルを見ています。
「はい。
ハルは、肉体を失ってしまったんです…」
サンドルフが言うと、「ふーん…」とゼンドラドは言って、「ランクアップだな」と笑みを浮かべて言いました。
サンドルフもサンサンも、ゼンドラドの言葉が信じられませんでした。
ランスですら、悲壮感を漂わせていたのですが、ゼンドラドは余裕の笑みを浮かべているのです。
「エラルレラやマックスさんと同じじゃないか。
ハルちゃんは神になる」
ゼンドラドが堂々と言うと、ハルも何かを感じたようで、ゼンドラドにまとわりつくようにして歩き始めました。
「はぁー…
でもこの先って、
とんでもない修行をたくさんすることになることは
変わんないけどね…」
サンドルフが言うと、サンサンも同意しました。
トンネルにつくと、サンドルフもサンサンも震えが止まりませんでした。
このトンネル内は異様だと感じたのです。
「ふたりとも、なかなかいいな」とゼンドラドは言って笑みを浮かべました。
「ハルはまだまだだ」とゼンドラドはそのままの笑みで言いました。
ハルはほめられなかったのでしょぼんとして首をうなだれました。
四人はまずはこのトンネルの主のルオウにあいさつをしました。
御座成悦子とは双子の姉弟ですが、悦子とは違い、ルオウは存在も話し方も全てがやさしいのです。
ハルは恋をしたように、ルオウを見てもじもじとしています。
「ワシと態度が違うな」とゼンドラドは言って少し笑いました。
ですが修行が足りないことはみんながわかっていることなので、今はハルを笑顔で見守ることにしています。
サンレリカがせっせと仕事をしています。
能力的には何も変わっていないので、このトンネル内での仕事は今まで通りできるのです。
「…あー、薄くなったように見える…」とサンドルフが言うと、「そうだな」とゼンドラドは言って、サンドルフの言葉を肯定しました。
「仏がサンレリカの存在感をどっしりと見せていた。
それを失ったことにより、ぺらぺらになってしまったんだよ。
仏修行もすればいいのだが、ルオウが反対した。
堕天使として生きてみろと、修行を課したんだよ」
ゼンドラドが語ると、サンドルフもサンサンも少しうなだれました。
今のサンレリカは堕天使そのものです。
ですがどう見てもハルの方がレベルが高いのです。
そのハルが、サンレリカに近づいて行きました。
そしてサンレリカの作業を見ています。
ゼンドラドが動かないので、サンドルフたちも動かずにハルを見守っています。
数分後、ハルはサンレリカに念話を送ったようで、あいさつを始めました。
そしてハルが、とんでもないスピードで仕事をこなし始めたのです。
これは無理をしているわけではなく、ハルの実力です。
ゼンドラドはハルに深い笑みを向けています。
「いやー、驚いちゃったよ…
サンレリカちゃんに負けているのは魔力量と神通力量だけだ」
ルオウが言うと、ゼンドラドも賛同するように笑みを浮かべてうなづきました。
「ハルはここで仕事をしておいてもらおう。
ワシたちは中に行くぞ」
ゼンドラドが言うと、サンドルフもサンサンも変身を解きました。
「ほうっ!!」とゼンドラドがふたりを見て驚きの声を上げました。
「いい経験を積んだようだな」とゼンドラドが満面の笑みで言うと、「あはは、はいいー…」とサンドルフは照れ笑いを浮かべながら言いました。
「私は、遊んでただけのような気がする…」とサンサンが言うと、「見ることも修行だからね」とゼンドラドがやさしく言いました。
サンサンはうれしかったようで、ゼンドラドの手を取って、鼻歌交じりで歩き始めました。
ゼンドラドは顔を引き締めました。
その途端、『ズズズ…』と何かが離れていった気配を、サンドルフは感じました。
「ここでもワシは嫌がられているんだよ」とゼンドラドが笑顔で言うと、サンドルフもサンサンもゼンドラドに笑みを向けてから頭を下げました。
「あ、サンドルフはランスに免許皆伝証をもらったよな?」
ゼンドラドが言うと、「あ、はい」とサンドルフは答えて、小さなカバンの中から免許皆伝証を出しました。
「使い方は?」とゼンドラドが言うと、「はい、サンクック君に聞いています」と答えてすぐに、「ぴったんこっ!!」と言って、免許皆伝証を胸に押し当てました。
すると免許皆伝証は、重厚な胸当てと変わったのです。
「おお、さすがランスだな」とゼンドラドが言って、サンドルフに笑みを向けています。
「どうだ、強くなったと思わないか?」とゼンドラドが聞くと、「はい、ランス師匠が隣にいるように感じました」と言うと、「だったらワシも…」と言ってゼンドラドは免許皆伝証をサンドルフに手渡しました。
「ランスの創ったものとおそろいだぞ」とゼンドラドが言うと、サンドルフは丁寧にお礼を言ってから、免許皆伝証を頭に装備しました。
ゼンドラドは笑みを浮かべてサンドルフを見ています。
そのサンドルフを見て、サンサンはうらやましく思ったのですが、サンサン自身が、―― 必要ない ―― と感じているのです。
これは強がりでもなんでもなく、この辺りにいる悪が、サンサンにとって脅威でもなんでもなかったからなのです。
そのサンサンをゼンドラドは笑みを浮かべて見て、「サンサンにはこれだ」と言って、重厚な箱に入ったアクセサリーセットを手渡しました。
「サンサンははっきり言って、この辺りの悪ならば簡単に拒絶できる。
だが、戦いというものは安心してはいけない。
それがサンサンのさらに安心を得るという守りとなる。
…装着、と言えば身にまとえるぞ」
ゼンドラドが笑みを浮かべて言うと、「えーっ!」と言ってサンサンはアクセサリーセットを見てから、ゼンドラドに笑みを浮かべて、丁寧にお礼を言いました。
サンサンは映像を見て知っていたのです。
これはセイラたちと同じ戦闘服だと感じました。
そして、「装着っ!!」と叫ぶと、サンサンは銀色に輝く美少女戦士に変わっていました。
「…うう… 言っちゃいけないけど、怖いものなんてなにもないっ!!」とサンサンは言いながら、手や足を見て感動しています。
「それがわかっているだけで十分だ。
ワシは少し後退するぞ」
早速ゼンドラドのサンドルフたちへの修行が始まりました。
ゼンドラドが遠のくたびに、悪がゆっくりと音も立てずに、サンドルフとサンサンを襲おうと虎視眈々と狙っているのです。
そして、ゼンドラドが一気に離れると、悪たちはふたりに猛然と襲い掛かってきました。
サンドルフは冷静です。
悪は人間に姿を変えてきましたが、サンドルフは視覚効果は使っていません。
まるで魂を見るように、その内面を探っているのです。
一方サンサンは少し驚いてしまいましたが、今はサンドルフと同じ気持ちです。
サンドルフの攻撃は、どちらかと言えば力任せです。
ですがその拳は一撃必殺が宿っています。
サンサンはいつもの組み手のように簡単に悪を倒していきます。
サンサン自身が重いので、力を加える必要がないのです。
ゼンドラドはかなり後方でふたりを笑顔で見ています。
「…おっ、これは…」とゼンドラドが少し驚いたような顔をしてから笑みを浮かべました。
『ドオオオオオンッ!!』という音とともに、サンドルフたちがいる場所とゼンドラドの間に、巨大な悪が飛んできました。
そして、『ドズドズドズッ!!』とかなり重そうな音が何度も聞こえました。
ゼンドラドはゆっくりと近づいて、辺りに散らばったメダルをひとつ摘み上げ、側面を見て笑みを浮かべました。
サンダイスと同様の巨体を持った悪の巨人は、簡単にサンドルフとサンサンの攻撃を受けて、200メートルほど飛ばされたのです。
そしてその存在を維持できずに、メダルへと変わったのです。
まさに悪が改心したと言っていいでしょう。
「最高の土産ができたな」と言って、ゼンドラドは笑みを浮かべました。
ほんの10分ほどで、この辺りにいる悪は全滅したようで、宙に浮いているモニターには悪の反応がありませんでした。
サンドルフは笑みを浮かべていますが、肩で息をしています。
サンサンは少し疲れたようで、目尻が下がっています。
「ふたりともよくやったっ!!!」とゼンドラドは渾身の畏れを込めて、二人をほめました。
「おまえたちふたりは、悪にとってうまそうなエサだったようだ」
ゼンドラドが言うと、「…そういえば、巨人が…」とサンドルフが言うとゼンドラドは笑みを浮かべました。
サンサンは、―― いたっけ? ―― と思い、不思議そうな顔をしています。
「今まで一枚も出ていないメダルが手に入った。
今日はこれで終ろう」
ゼンドラドは言ってから、この辺り一帯に散らばっているたくさんのメダルをサイコキネッシスを使って宙に浮かせました。
「…あはは、とんでもない量です…」とサンドルフが言うと、「これ、ワシの一日分だったな…」と言うゼンドラドの最高のほめ言葉に、サンドルフもサンサンも手放しで喜びました。
ゼンドラドが例のメダルをルオウに見せると、まるでルオウの功績のように喜びました。
「この短時間で、しかもこれは…」と少し落ち着いたルオウがメダルの側面を見ています。
サンドルフが別のメダルを手に取って見てから、「セイント…」と言って、目をむいています。
「オレたちの長兄のセイントの悪は用心深くてな。
少しでも強い者がいると、すぐに逃げていたようなんだ。
だが今回は違った。
ふたりはかなり軽く見られたんだろう。
しかしたったの一撃で倒されて、悪はさぞかし後悔したことだろうな」
ゼンドラドが言うとサンサンは考え込みました。
「あっ…
何か言いながら飛んでいった人が…
そんなはずはって言って…
驚きだけがあったって思う…」
サンサンが思い出しながら言うと、ゼンドラドたちは笑みを浮かべました。
「本来ならば何とか生き残って、
その驚きを仲間に伝えたかったところだろうが、
それは叶わず崩壊した。
だが、あの巨体が帰ってこないことを知った本隊は、
さらに用心深くなると思うな」
ゼンドラドが言うと、サンドルフたちは大きくうなづきました。
「もう巨体は創り出さないとさらに感じた」とゼンドラドが言ってから、「何枚?」と言ってサンレリカに聞きました。
サンレリカは、「15万枚っ!!」と言ってもろ手を上げて喜んでいます。
ゼンドラドは満面の笑みで、サンレリカにお礼を言いました。
「一体からはせいぜい100枚ほどしか出たことがない。
どんでもない集合体をたった一撃で倒した気迫は、
まさに免許皆伝者にふさわしい」
ゼンドラドが言うと、サンドルフもサンサンも笑顔で頭を下げました。
「ランスはわかっていたのかもなぁー…」とゼンドラドは感慨深く言いました。
「あ、はい…
いきなり、免許皆伝証いる?
って聞かれて驚いたのですけど、
ヴォルド王と戦って、
これからはまずは一人で考えようって思ったんです。
でもそれはダメでした。
仲間と話し合うことこそが、僕の最高の修行になっているんです」
サンドルフの言葉を聞いて、ゼンドラドは笑みを向けました。
「サンドルフはランスともワシとも肩を並べることになった。
免許皆伝を受けてからの方が、厳しい修行になるからな。
さらには仲間を大切にしなくてはならない」
ゼンドラドが言うと、サンドルフは真剣な眼差しをゼンドラドに向けて頭を下げました。
サンドルフたちはゼンドラドたちに別れを告げて、サンサン、ハルとともにメリスンの店に行きました。
「仲間たちとお昼にしてきます」とサンドルフが言うと、さすがに怒れないメリスンは、「はーい、いってらっしゃぁーい」と明るい笑顔でサンドルフたちを見送りました。
ハルの件は夜には確実に会えるので、魔王も交えて説明しようと、サンドルフは思ったようです。
サンダイス星に足を踏み入れた三人は少しあ然としました。
ベティーたちは本来の姿で仰向けになって眠っていました。
「あはは、トラだっ!」とサンドルフはごく普通の12才に戻って、ベティーを抱きしめて体毛を優しくなでました。
サンサンもハルもサンドルフのマネをします。
「訓練、かなりがんばったようだね。
さらにはここの重力のせいだろうね」
サンドルフは言ってからべディーをまた抱きしめました。
「たった二日なのに…」とサンサンが嘆くように言いました。
「僕たちも食事のあと、思い知ることになるかもね」とサンドルフが言うと、サンサンは少し困った顔をしました。
ロア部隊の中ではサンサンが一番辛いはずなのです。
重量500キロもある自分自身を支えるだけでも体力を消耗します。
その証拠はダイゾに変身したまま眠っているセイランダです。
サンサンほどではありませんがセイランダが変身しているダイゾは身長は高くスレンダーな肉体を持っています。
ですがその体重は、幼児だった頃のサンサンと同じほどあるのです。
セイランダは自身の体が重いので、頻繁に寝返りを打ちます。
下になった腕や脚が、地面に埋まるほどなのでよくわかるのです。
サンドルフたちは影111号とサンクックに食事を作ってもらいました。
いつものように見た目にも色鮮やかで、さらに食欲が沸きます。
『あー…』と言ってハルがうらやましそうにサンドルフたちを見ています。
「これが精神的修行だよ」とサンドルフに言われたハルは、『精神的虐待…』と言って肩を落としました。
「うーん…」と言ってからサンドルフは天使デッダに変身しました。
この姿の時だけは、例の術を使えるのです。
「甘やかしたくないけどね。
サンサンにもしたことだから」
サンドルフが言うとサンサンは懐かしそうな顔をしました。
『えっ? どーして…』と言ってハルは食べてもいないのに食べている感覚に陥って、さらにはお腹が膨れているように感じています。
『ああっ!! すっごくおいしいのっ!!』と言ってハルは喜んでいます。
『でも、どーして…』と言ってハルはサンドルフを見ました。
「できるとは思わなかったから説明しなかったんだ」とサンドルフが言うと、「あっ!」と言ってまずはサンサンが気づきました。
「あの時の私って、魂持ってなかったからできたはずなのに…」
サンサンが言うと、サンドルフは笑顔でうなづきました。
「さすがに魂の融合はできないから、
ハルの食欲の部分だけを僕にくっつけたんだ。
だから今は、食欲の部分だけは僕とまったく同じなんだよ。
だけど…」
サンドルフは言ってからさらにもりもりと食べ始めました。
『もっ!!
もうお腹一杯ですぅ―――っ!!』
ハルは悲鳴を上げるように言うとすぐに、満腹感が和らぎました。
「限界は僕とハルとでは違うからね。
今はハルと僕は別々だよ」
サンドルフが言うと、ハルは大いにうなづいています。
そしてサンドルフに丁寧にお礼を言いました。
『私、多分ね…
もう食べなくても大丈夫って思っちゃった。
でもね、デザートとかは、一緒に食べたいなぁー…』
ハルが言うとサンドルフは笑顔で承諾しました。
堕天使が食欲を絶つことは大いなる修行となることでもあります。
さらには無理をしない絶食なので、食べたいのに食べないということよりもさらに修行になるのです。
食べたいと思うことこそが欲なのですから。
生きている以上、この欲だけは簡単に切れるはずがないのです。
ハルはついに、神への道を歩み始めたことになりました。
楽しかった昼食を終えると、ベティーたちが申し訳なさそうな顔をして起き出してきて、まずは食事をすることにしたようです。
サンドルフたちは、まずは無理をしないで、基礎体力訓練を始めました。
サンドルフはそれほどでもないのですが、サンサンは見た目にも辛そうです。
「思い知っちゃったっ!!」とサンサンは言ったのですが、その言葉には明るさが大いに含まれています。
辛いのは確かですが、さらに修行になっていると、サンサンは感じているようです。
「短い時間だけでも、
基礎体力トレーニングはここでした方がよさそうだね」
サンドルフが言うと、サンサンもそれをすぐに認めました。
ふたりは徐々にハードな訓練をしましたが、いつもとそれほど変わらないと感じています。
サンサンは持ち前の明るさが、体の辛さを相殺しているようです。
ふたりは少し休憩してから、笑顔で向き合いました。
「決まり手の組み手で」とサンドルフが言うと、サンサンは笑みを浮かべて構えを取りました。
サンサンはまずは素人に近いスピードから始めました。
そして徐々に手足を早めて、サンドルフに攻撃を仕掛けます。
サンドルフはサンサンにあわせるように手足を出します。
これも、自分勝手に攻撃はできないので、精神修行も含めたいい訓練になるのです。
ふたりは今持っているトップスピードまで上げて、笑みを浮かべあいました。
今までよりも体が軽いと感じているようです。
重力などなんでもないと思うほどに、ヴォルドとの濃密な時間が、ふたりをさらにレベルアップさせていたようです。
頃合だと思ったサンドルフは大きく後方に引きました。
「今日はこれくらいでいいと思う」とサンドルフが言うと、「うんっ!!」と言ってサンサンは笑顔でサンドルフにお辞儀をしました。
サンドルフもサンサンに頭を下げてから、「休憩しよう」と言って、食堂に足を向けました。
『あのー…』と基礎体力訓練を終えたハルが、サンドルフに話しかけてきました。
もっともハルの場合は体を鍛えても仕方がないのですが、基礎体力づくりモドキをするという精神修行を課していたのです。
『私も、組み手とかした方が…』と言ってきたので、「そうだね、後でやろうか」とサンドルフが言うと、言い出したハルは少し不安に思ったようです。
「あ、ぬいぐるみの戦いだから。
まったく痛くないよ」
サンドルフが言うとサンサンも仲間に入るようです。
「そしてこの戦いは子供たちに見せてはいけない」とサンドルフが言うと、ハルは大いにうなづきました。
癒やされる存在は、どのような理由があっても、できる限り戦わない方がいいのです。
ですが、相手を猛烈に拒む場合は、人間相手に拳を振るうこともあります。
その拳を向けられた者は、その軽い拳に反省を促されるのです。
それがわからない者は、今のサンドルフたちの仲間にはいません。
ハルはティーブレイクを初体験して楽しみ、いよいよぬいぐるみの戦いが始まろうとしています。
ベティーは、「何だこのゆるさは…」と言って少し笑いました。
「全然ゆるくないって思ったわよ。
特にハルちゃん」
セイランダの言う通りで、ハルは少し緊張していますが、サンドルフとサンサンの戦いをしっかりと見ていたので自信はありました。
ですが、堕天使の頃に組み手などしたことがないので、かなり不安に思っているのです。
二人の戦いを復唱するように、ハルは手足を動かします。
「へー…」「うわぁー…」とサンドルフとサンサンが笑みを浮かべて言いました。
「うっ! 違ったっ!!」とべディーが言うと、セイランダは得意満面な顔をしました。
セイランダが得意げな顔をしても誰も文句はつけられないほどに、ハルの動きは俊敏で切れがあるのです。
当たっても痛くないのですが、肌が裂けるのではと思わされるほどにハルの動きは素晴らしいものでした。
まずはサンサンがハルと戦うようです。
戦うと言っても、決まり手の組み手なので逃げることは簡単です。
ですがサンサンはそれは考えていません。
足を止めて、真っ向勝負すると、心に誓いました。
ふたりはお辞儀をしました。
この時点で、どっちがどっちなのか見当もつきません。
ハルはサンサンのマネをしているわけではありませんが、サンサンの真摯な想いを思い浮かべているので似てしまっているのです。
何の合図もなく、ふたりは素早く打ち込み始めます。
当然のように、どちらの攻撃もかすりもしません。
どのような攻撃が来るのかわかっているので、避けることは簡単です。
ですが、ここにスピードを乗せた場合、そうは行かなくなるのです。
まずはサンサンがスピードを上げました、
もうふたりは、キスができるほど近づいています。
そうしないと、短い手足の攻撃が届かないからです。
サンドルフは笑みを浮かべて見ているのですが、「怖いんだけど…」とタレントに言われてしまいました。
サンドルフはハルとそしてサンサンとすぐに戦いたいと思っています。
「こんなに楽しいことはないよ…」とサンドルフが言うと、サンドルフの顔がさらに怖くなっていたので、タレントはひとつ身震いをしました。
もちろんベティーたちもサンドルフを見て、畏れているようです。
サンドルフはウォーミングアップを始めました。
まるで今は三人が同時に戦っているように、セイランダは感じています。
ぬいぐるみの体は精神力のみで支えられています。
放っておけばいつまでも組み手をしていることでしょう。
サンドルフはサンサンたちに優劣がつくのをひたすら待ちました。
するとその時がやってきました。
一日の長で、サンサンがスピードを上げた途端にハルはタイミングを逸したのか、打たれっぱなしになってしまいました。
サンサンはすぐに手足を止めました。
そしてハルに抱きついて、『ごめんねえー…』と言いました。
『ううん… もっともっと早く動かないとっ!!』とハルが言うと、『私の目一杯だったからね、それほどがんばんなくてもいいと思うの』とサンサンが言うと、ハルは手放しで喜びました。
この間にふたりとも精神力はほぼ戻っています。
お互いが癒やしを放っていた証拠のようなものです。
「さあ、ハルッ!!
やろうかぁー…」
サンドルフが普段はほとんど見せない畏れを流すと、『イヤッ!!』とハルに大声で拒絶されました。
「…あっ! あはははは…」とサンドルフは空笑いをして、怯えきっているべディーたちに謝りました。
セイランダに至っては大声で泣き出し始めて、組み手どころではなくなってしまいました。
そこにランスが帰って来て、「なにがあった…」と言ってぼう然としています。
サンサンとハルがすぐにランスに駆け寄って、ふたりしてどうしてこうなったのかをランスに説明しました。
ふたりの話しを聞いているランスは、終始苦笑いを浮かべていました。
「さすが隊長だが、ぬいぐるみが畏れを流してはいけないな」とランスは表情を笑顔に変えて、優しい声で言いました。
もっともサンドルフは見た目はぬいぐるみですが生物なので、心の持ちようによってはこういったことも起こってしまうのです。
「はい、ごめんなさい…」と言ってサンドルフは大いに反省しました。
「セイランダが恐怖で泣くとは思いもよらなかったな…」とランスは言って、セイランダを優しく抱きしめました。
「…私がね、甘いから…」とセイランダが言うと、ランスの仲間たちは超高速で首を横に振りました。
サンドルフがそれほどまでに成長したことを、仲間たちもかなり怯えた眼で見ています。
「隊長としては申し分ないな。
だが、残念なことに出撃は少し先だ。
それまでは大いに鍛え上げてくれ」
ランスが言ってから、まずは反省会をするようなので、サンドルフとサンサンは変身を解いて椅子に座りました。
… … … … …
決まった出撃はありませんが、以前ランスが言った通り、いきなり呼び出しがかかる場合もあります。
「あー…」とサンサンが言ってサンドルフを見ました。
一体どうやってランスの呼び出しに応じるのか、サンサンは不思議に思ったのです。
迎えに来てもらうことも考えられるのですが、呼び出しがあった場合はランスがかなり困っている状況にあるとサンサンは感じたのです。
細田に頼めばなんとでもなるはずなのですが、サンドルフの性格上、その場合だとロア部隊の誰かに言っているとサンサンはさらに感じているのです。
サンドルフにはそのようなことは何も感じさせません。
サンドルフがロア部隊を引き連れて現地に急行するとしか思えないのです。
「…なんだよ…」とサンドルフが言ってサンサンを見ています。
「あのね、ここにいて呼び出されて、
どうやってお父さんのそばに行くの?」
サンサンが聞くと、「あれ? まだ言ってなかったっけ?」とサンドルフは言いました。
ベティーたちは知っているようで、誰も何も言いません。
サンドルフがサンサンにだけ言っていないとは思えなかったのです。
「ロア部隊集合っ!! ガハッ!!」
サンドルフが号令をかけたと同時に、カレンの体ごとの光のビームが、サンドルフを吹っ飛ばしてしまいました。
「…いてててて…」と言ってサンドルフは一番痛む右のホホをなでてからゆっくりと立ち上がりました。
カレンはかなり申し訳なさそうな顔をしています。
そしてサンドルフが何も言わないので余計に困ってしまったようで、―― 嫌われたっ?! ―― などと思い始めたようです。
サンドルフとしては避けられなかったことに、反省をしているだけでした。
もちろん、これもサンドルフの修行なのです。
「全員、俺に触れろ。
服でもいいぞ」
サンドルフが言うと、「はははははあー…」と妙な笑い声とともに、べディーがサンドルフに抱きつきました。
誰もが困った目でベティーを見ています。
さすがに気が引けたようで、「申し訳なかった」とベティーは言って、ランスの肩をつかみました。
全員がランスを触ったとたんに、ロア部隊は背中を向けてランスの目の前にいました。
「えっ?」と言ってサンサンだけが辺りを見回して驚いています。
そして、「細田さんが乗り移ってる…」と言うと、サンドルフは大声で笑い転げました。
「それが一番ありがたいんだけどね」とサンドルフが言うと、目の前にいたランスは、サンサンに笑みを浮かべていました。
「食事が終わったら気功術の講習会をするから」とサンドルフが言うと、ロア部隊は一斉に迷惑そうな顔をしました。
「造反、として出撃停止…」とサンドルフが言うと、「了解しました、隊長っ!!」とロア部隊は一斉に真剣な顔をして声を上げました。
「それほど難しい話はしないから。
十分程度だよ」
サンドルフが言うと、誰もがほっと胸をなでおろしています。
「特にハルはしっかりと聞いておいて欲しいんだ。
でもハルは、ロア部隊に所属してないよね?」
サンドルフが意地悪そうな顔をして言うと、ハルはサンサンを見て念話を送り始めたようです。
ですがサンサンは、「サンドルフ君、意地悪だわっ!!」と声を荒げて言いました。
「怒った方がいい?」とサンドルフが言うと、そっちの方がイヤだったようで、「…はい、ごめんなさい…」とサンサンは謝りました。
この件については、怒ることでもあるのです。
もしハルが戦場に出た場合、簡単にその姿を消してしまうことにもなりかねないのです。
「ハルは僕の試験を受けてパスしてから、
ランス師匠に判断してもらうから」
サンドルフが言うと、ハルはかなり困ってしまったようで、下を向いてしましました。
ランスは何も言わずに、笑みを浮かべていただけでした。
『私、ついて行っちゃダメなのね…』とハルはさびしそうにサンサンに念話を送りました。
「うん… ダメだと思う。
緊急事態だがら、ほとんどの場合、いきなり戦場に出るの。
もしも敵がいきなり襲ってきた時、
ハルちゃんは自分の体を自分で守れないよね?」
『守って、もらえないの?』とハルがすぐに言うと、「自分自身の身を守ることで精一杯なの、だから訓練してから戦場に行くの」とサンサンは真剣な表情で言いました。
『それで、試験…』とハルが言って、さらに肩を落としました。
『組み手、ちゃんとできたよっ?!』とハルが言いましたが、サンサンは首を横に振りました。
「敵がね、素手で襲って来ても、
ハルちゃんはすぐに捕まっちゃうわよ…
それにね、その体は燃えやすいから。
戦場って、どこに行っても怖いところなの」
「あ、映像出すよ」と仕事が一段落したサンクックが言って、宙に映像を浮かべました。
ハルは初めて戦場の様子を目の当たりにして、体が震えました。
見た目の凄惨さもありますが、何よりも、人の心が悲惨でした。
サンサンは、あまりのショックに、身動きが取れなくなったのです。
「はい、不合格」とサンドルフが言うと、ハルの呪縛は解けて、サンドルフをじっと見つめ始めました。
「ハルは映像にかなり飲まれたね。
実際の戦場に行くと、もっともっとショックを受けるよ」
サンドルフが言うと、ハルは視線をテーブルの上に落としました。
「教官の天使さんはこういったことは教えてくれなかったんだね」
サンドルフが言うと、天使の心得以外は何も話してくれなかったようです。
最近はどちらかと言えば、『サンダイス君情報』の収集しかしていなかったようです。
サンドルフはサンサンに向けて苦笑いを浮かべました。
「堕天使は、天使に口答えできないよね?」
『…うん… できなかった…』とハルは言ってから肩を落としました。
「殺されそうになっても抵抗もしなかった。
ただただ、二体の天使デッダのぬいぐるみを守りたかった。
天使に唯一刃向かったことだよね?」
サンドルフが言うとハルは意識を取り戻したようにサンドルフに顔を向けました。
サンサンはかなり困った顔をサンドルフに向けましたが、今は何も言わないようです。
『…私、私…
罰、受けちゃったのっ?!』
ハルは叫ぶように言って、自分の体を見ました。
「ハルはどう思うの?
罰だと思う?」
サンドルフが笑みを浮かべて言うと、ハルはすぐに首を横に振りました。
「もし罰だったとしても、ハルは罰だと感じていない。
得した気分だよね」
サンドルフが言うとハルは、『うんっ!!』と大きな声でうなづいてから、『ガウッ!!』と威勢よく鳴きました。
「上位者に刃向かってはいけない。
刃向かってもいいのは悪魔だけだ。
それ以外の種族は、
小さいものから大きいものまで確実に争いごとを起こす。
だけどね、命を守るためだったら抵抗してもいいんだ。
いくら下位者の堕天使でもね。
ハルはそこを間違えたって、僕は思っているんだ」
ハルはぼう然としてサンドルフを見ています。
「そうなのよねぇー…」と言って超人間となったサンリリスがサンドルフたちのいる席に座りました。
前世のイザーニャは天使の頂点である大天神を勤めていましたので、イザーニャの言葉は誰の言葉よりも重いのです。
その話し方や振る舞いがたとえ軽いとしても。
サンドルフたちは少しだけサンリリスに頭を下げました。
サンリリスは、「抱きしめていい?」とハルに言って、ハルがこくんとうなづくと、やさしく抱きしめてから自分のひざの上に置きました。
「…うふっ! もらっちゃったっ!!」とサンリリスが言うと、サンドルフたちは苦笑いを浮かべました。
サンリリスにそのような想いがないことは、サンサンの表情でよくわかります。
「めぐりあわせが悪かった。
不運だった。
本当に残念なことね」
サンリリスは薄笑みを浮かべて言いました。
「ハルの教官だった天使はね、
上位の者を近寄らせないようにして逃げ回っていたの。
逃げた先が、ハルちゃんの住んでいた星近辺だった。
そろそろ天使として消えちゃうんじゃないかって思っていたの」
「…消える?」とサンドルフはサンリリスの言葉を復唱しました。
サンリリスは薄笑みを浮かべたままうなづきました。
「ごく一般的な天使は、死後の世界の住人でしかないの。
そして、その肉体は宇宙の創造神によって管理されているの。
ある程度の悪行では消え去ることはないんだけど、
度を越すと、今回のように消えちゃうのよ」
「えっ?」とサンドルフとサンサンは同時に言いました。
サンドルフはランスが消し去ったことを聞いています。
「これってね、誰がやったってことじゃないの。
どちらかというと、ランス君がやらされたと言っていいわね」
「あー…」とサンサンがため息を漏らしました。
「…お父さん、知ってたのかなぁー…」とサンサンがひとりごとのように言いました。
「だって、おかしいじゃない。
ランス君って、その天使にあったことないのよ?」
サンリリスの言葉はサンドルフたちに衝撃を与えました。
「あっ!!」と言ったサンドルフは理解できたようで、笑みを浮かべました。
サンサンもなんとなくですが、ランスが天使を消したのではないと感じているようです。
「実行犯はランス君。
命令した主犯は自然界っ!!」
サンリリスは言って、大声で笑いました。
ランスはどうやら聞き耳を立てているようで苦笑いを浮かべています。
「あ、自然界の担当はエッちゃんだから」と、サンリリスは内情を簡単に暴露しました。
「あはは…
自然には逆らわないことにします…」
サンドルフは苦笑いを浮かべて言いました。
「でもこれってね、自然なことだからね、ランス君は命令されてないの。
ランス君の持ったその怒りを、自然界が橋渡しした。
天罰ってやつね」
サンリリスの話は面白く、サンドルフもサンサンも聞き入ってしまいます。
殺伐とした話の内容のはずなのですが、まるで笑い話を聞いているように感じます。
『…私、抵抗した方が…』とハルが言いました。
「あ、それはできなかったはずよ。
天使に抵抗するって言葉、あの時のハルちゃんにあった?」
サンリリスが言うとハルは、『あ…』と言ってから、『全然ありませんでした…』と答えました。
「能力の高い子ほどその気持ちが大きいの。
だからこそ能力が高いって言えるの。
あの天使に出会ってしまったハルちゃんの不運がそこにあったの」
サンリリスは真剣な表情に変えて言いました。
『はい、天使様…』とハルはサンリリスに笑みを浮かべてから祈りのポーズをとりました。
「あ、天使姿見る?」とサンリリスはかなり軽い言葉で言いました。
サンリリスにとって天使とはその程度のもののようです。
『はいっ! ぜひっ!!』とハルは勢い込んで言いました。
サンリリスはゆっくりとその姿を天使に変えました。
ハルは呼吸はしませんが、もししていたらきっと止まっていたことでしょう。
サンリリスの天使姿は、あまりにも高尚だったのです。
「大天神の時の方がもっとすごかったわよっ!!」とサンリリスは言って大声で笑いました。
「でもね、この服って脱げないのよねぇー…」とサンリリスが言うとすかさずハルがサンリリスの体全体に向けて拭去の術を放ちました。
「あら? 察しがいいわね。
でも欲張っちゃダメよね?」
サンリリスが言うと、少し離れて座っているサンレリカたち天使組が、かなり残念そうな顔をしていました。
『あ―――っ!! ごめんなさいっ!!』とハルは天使たち全員に念話を送ってから、頭を下げて謝りました。
天使たちはそれほど気にしていないようで、ハルに向けて笑顔で手を振っています。
徳の高い天使に善行を行えば、その見返りがもらえるのです。
今の場合、ハルにはかなりの見返りがあったはずです。
ですがハル自身が後悔とざんげをしたことによって打ち消されたはずです。
ここまでのことはサンリリスと唯一の天使であるアリスだけが確認しました。
「星にたったひとりしかいない堕天使。
今は仲間がいるってきちんとわかったわよね?」
『はいっ! サンリリス様っ!!』とハルは大声で言ってから深々と頭を下げました。
ハルはこれを知っていたはずですが、ついつい欲張ってしまったことを悔やみ、反省しました。
ランスの気功術の講習が始まりました。
真の受講対象書はハルとサンサンだけのはずですが、ロア部隊はマジメな顔をしてうなづいています。
「さて、ボクは気功術マスターだ。
この特典はリスクなしで空を飛べること。
勇者だったら得した気分になるよね」
ロア部隊の面々は真剣な面持ちでうなづきました。
「さらにもうひとつあって、ついさっきやった、精神間転送がそれだ」
この宇宙にはみっつの空間があります。
宇宙空間、異空間、そして精神空間です。
宇宙空間は生物や星がある場所です。
その裏になる部分が異空間なので、宇宙区間と比べて全てがほぼ逆になっているのです。
そして精神空間は、魂、及びその同類だけが行き来できる空間なのです。
しかもこの精神空間は四次元で構成されています。
魂の情報量が途轍もなく大きいので、この空間を創った御座成悦子が決めたのです。
魂は始めて生まれると、死んだとしても全ての経験が記録として蓄積されます。
よって、古い神の一族なども、比較的簡単に見つけることができるのです。
悦子の想いはここにあったのです。
古い家族と再会することだけのために、精神空間は四次元と定めたのです。
「あ、四次元がどうなっているのか見せてもいいんだけど、死ぬから」
サンドルフが気軽に言うと、ロア部隊は震え上がりました。
「理由は簡単で、三次元に住む僕たちは、
情報量の多さに脳が処理できなくなるんだよ。
よって、脳が機能停止しちゃうんだ。
結局僕たちも、ヒューマノイドたちと全然変わんないんだよ」
サンドルフが言うと、ロア部隊は笑顔でうなづきました。
「さて、精神間転送の仕組みだけど…」とサンドルフが言うと、サンクックがわかりやすい映像で説明しました。
「魂の中に体が入り込んで…」とベティーが言ってぼう然としました。
「四次元空間のすごいところがこれだよね。
ちなみに、気功術師の能力により、運べる人数は制限されているから。
僕は150人らしいんだ。
細田さんに聞くとすぐに答えてくれたんだよ」
「だけど、マスターなんだよね?
その上ってあるの?」
タレントが少し怪訝そうな顔をして聞くとサンドルフは笑みを浮かべました。
「マスターにランクがあってね。
僕はまだBだ。
ランス師匠はダブルS」
サンドルフはわが父を自慢するように胸を張りました。
「ちなみにトリプルSが最高峰で、今のところ三名いるんだよ。
だから僕もまだまだ修行中の身なんだ」
この話はセイランダは知っていたようで、誇らしく胸を張っています。
「僕、この三名の方がどなたなのか知らないんだけどね…」とサンドルフが言ってセイランダを見ました。
セイランダはかなり困ったようで、サンドルフの視線を外しました。
「ま、一人は簡単に想像がつくよね。
結城覇王さん」
「あー…」と言ってロア部隊だけでなく、魔王軍の面々も近くにいてうなづいています。
「そして、きっと想像できないんだろうけど、
セイラ・センタルア・ランダさん」
サンドルフが言うと、セイランダは頭を抱え込みました。
「セイラさんはそれほどにすごいんだよ。
今はさらに厳しい修行中だからね。
きっと、人が変わったって思うはずだけど、
それが真実のセイラさんなんだよ」
サンドルフが言うとセイランダはかなりうれしく思ったようで、サンドルフに満面の笑みを向けました。
「あとお一方だけど、想像すれば候補は数名いるよね?」
サンドルフが言うと、誰もが感慨深くうなづきました。
細田を筆頭に、ゼンドラド、佐藤、メリスンの名前が簡単に浮かんできます。
「ちなみにエッちゃんは多分僕と同じランクだと思うね。
修行、それほど好きじゃないから」
サンドルフが言うと、この場にいる者がくすくすと笑い始めました。
その本人は怒るどころか恥ずかしそうにしています。
宇宙の母がその他大勢のひとりだと自覚しているからです。
ですが悦子の場合、気功術を使わなくても様々な術を持っているので、細田のようにどんなことでもできてしまうのです。
ですが、大好きなものづくりや人間関係などが、悦子をここに存在させているのです。
講習会は約20分で終了しました。
魔王軍の戦士たちは誰もが笑みを浮かべながら、簡単な気功術を使って鍛錬を始めました。
ロア部隊の中で気功術を使えるのは利家だけです。
仲間は利家をかなりうらやましそうにして見ています。
ミンククジラは賢い動物でもあり温厚です。
その長所を生かして、利家はいとも簡単に気功術を手に入れました。
人間の平均で50年ほどかかる習得を、利家はたった四年で成し遂げていました。
もっともその資質が大いにあったようで、世界の騎士団の術師としてはかなり信頼されています。
今はランスに寄り添っていますが、それはセイランダとタレントがいるからです。
やはり友達を大切に思う気持ちも、利家らしいと言えるのです。
動物は直感で生きる生き物です。
これは能力と言っても過言ではありません。
よって、未知なるものは疑ってかかるのです。
動物で気功術をマスターできるものはほんの一握りなのです。
しかし気功術を使える動物がもう一匹います。
今は田中澄美の肩に座って楽しそうにして足をぶらぶらさせている、世界の騎士団員でリスのポロンです。
さすがに小さい動物は人間と同じような大きさには変身できません。
妖精の保奈美と同じように、身長は15センチほどです。
澄美は何とか自分も魔王軍に参入したいと思っているのですが、受け持っている仕事の量が半端ではないので、魔王軍の会計担当に甘んじているだけです。
澄美もできれば勇者としての修行をさらに積んで、あわよくばランスと仲良くなりたいようです。
しかし、夫がいるのにこの行動を取るとは、少々信じがたいものがあります。
それほどにランスの魅力は異性にとって強制に近いものがあるのです。
澄美は笑顔で給料袋を戦士たちに配っています。
受け取ったサンレリカは、憂鬱そうな顔をしています。
地球にもセイラ星にもいけないので、自由時間は全て修行に費やしています。
ですがこれではいけないとサンレリカは感じているのです。
ほんの少しくらいは息抜きは必要なのです。
「気持ちがね…」とサンサンがサンレリカを見ながら言いました。
「折れそう?」とサンドルフが言うと、サンサンは首を横に振りましたが、憂鬱そうな顔は変わりません。
「ガス抜きが必要だなぁー…」とサンドルフは腕組みをして考え始めました。
サンサンは天使デッダに変身してハルと一緒にサンレリカに抱きつきに行きました。
サンレリカは大声で笑って喜んでいます。
―― あれも息抜きのひとつ… ―― とサンドルフはサンレリカを探って理解を深めました。
「覇王さんがね、サンレリカさんをお嫁さんにするって…」とサンリリスがこっそりとサンドルフに言いました。
その事情はサンドルフにもよくわかっています。
しかしランスへの想いが強いので、サンレリカは覇王に見向きもしないのです。
その覇王がゼンドラドとともにサンダイス星にやってきました。
「あ、いけねっ!」とサンドルフは言ってから、ランスに念話を送り、トンネル内であったことを説明しました。
ランスは覇王を見て怪訝そうな顔をしていたのですが、サンドルフの話しを聞いてからは笑みを浮かべています。
覇王とゼンドラドはランスではなくサンドルフに向かって歩いてきます。
どうやらメダルのお礼を言いに来たようです。
さらには当然のように覇王はたくさんのメダルを吸収しています。
よって、人が変わったように、さらに朗らかになっています。
サンドルフはすぐに立ち上がりました。
「サンドルフ君、本当にありがとうございました」と言って覇王は丁寧にサンドルフに頭を下げました。
サンドルフは覇王の言葉と態度に戸惑い、ゼンドラドを見ましたが苦笑いを浮かべているだけです。
「あ、言葉使いは気にしないでください。
しかしこれは私の本心からの言葉です」
「あ、はい。
それは十分に感じています。
何事にも誰に対しても謙虚になること…」
サンドルフが言うと、覇王もゼンドラドも笑みを浮かべました。
「僕もその域に達するように、修行を積むことにします」
サンドルフは言ってから覇王たちに向けて深々と頭を下げました。
ふたりはサンドルフに笑みを向けて、ランスに笑顔を向けてから歩き始めました。
「はぁー… 本来の宇宙の父…」とサンドルフが感慨深く言うと、覇王を見ていたサンリリスは笑顔でうなづきました。
ランスの覇王に対する態度が急変しました。
ランスはまるで、父か兄と話すようにリラックスしています。
サンレリカはサンサンたちを抱いたまま、その様子を見ています。
「…覇王君、すっごく変わっちゃったね…」とサンレリカは言って、サンサンとハルを少し強く抱きしめました。
サンレリカの心の動揺を、ふたりは十分に感じています。
サンサンたちは少し落ち着いたサンレリカの腕を離れて、サンドルフに寄り添って、サンレリカの気持ちを伝えました。
「結城さんはね、もう急がないって思うんだ。
今の結城さんは澄み切った青空のようだ」
サンドルフが言うとサンサンとハルは顔を見合わせてから、覇王を抱きしめるために飛んでいきました。
「みんなが幸せになれたらいいんだけど…」とサンレリカは言って、一瞬だけデヴィラを見ました。
デヴィラは堕天使たちの下にいて、朗らかな笑みで話しをしています。
元々美人なのですが、その美人度が数倍に膨れ上がっています。
誰もがランスへのアピールなどと思うでしょうが、デヴィラにはまったくそんなつもりはありません。
今のデヴィラも父である覇王と同じような気持ちを持っているようです。
そして、あまり空気を読まない人が、ランスに寄り添いました。
悦子はかなり申し訳なさそうな顔をしてランスを見ています。
どうやら別件の仕事のようで、ランスは快く悦子の申し出を受け入れて、異空間部屋に入ってすぐに出てきました。
入って行った時とは大違いでランスはフラフラでしたが、メリスンは満面の笑みでランスを抱え込むようにして食堂に迎え入れて、大量の食事を用意しました。
そして大量の商品を抱えた悦子が、「ランス君、ありがとーっ!!」と満面の笑みで叫びました。
天使たちはランスが一体何を造ったのか、興味津々で悦子が抱えている商品を凝視しています。
「…あー…」と天使たちは落胆の声と落胆のしぐさをして、深くうなだれました。
ですが、ランスの子供たちの女の子は興味津々で目を輝かせています。
「面白いなぁー…
ランス師匠、何を造ったんだろ…」
サンドルフが考えようとした瞬間にカレンが消えてすぐに現れました。
子供たちは何かが来たと思って辺りを見回しています。
「天使変身セット」とカレンが少し笑みを浮かべながら言うと、サンドルフはつまらなさそうな顔をしました。
「カレンは僕の召使じゃないよ」とサンドルフが言うと、さすがのカレンもサンドルフの顔色をうかがって、「当てたかったんだぁー」と妙にかわいらしく言いました。
「まあね。
考える暇もなかったよ…」
サンドルフはほんの少しだけカレンをにらみつけました。
「でもね、人に迷惑をかけなかったからいいんじゃない?」
サンドルフが言うと、「気をつけてたもの…」とカレンはかなり恥ずかしそうな顔をして言いました。
ついさっきのことがあるので、気をつけていて当然です。
「遊園地のコラボ企画だろうね。
見るだけじゃなくて、衣装として天使の装いをして、
遊園地をさらに楽しむ…」
サンドルフがここまで言ったところで、ヴォルドの星の遊園地のことを思い出しました。
サンサンはジェットコースターのトロッコに天使デッダの彫刻を施して、一部は細田が色を塗っています。
妙にかわいらしいジェットコースターですが、それは見た目だけで乗るととんでもなく怖いものに仕上がっているのです。
「…あっちの遊園地も、何かキャラクターものでも…」
などとサンドルフはつぶやいてから考えましたが、今のところ星の住民しか乗らないので、慌てて造ることはないと感じたのです。
ですが相談だけでもと思って、サンドルフは黒い扉に頭だけを差し込みました。
するとなんと、ウーリア星に宇宙船がやってきていました。
サンドルフはすぐにランスに念話をして、状況報告をしました。
「あ、僕が呼んだんだよ。
ごめんねぇーっ!!」
いつの間にか現れていた細田がいつものように陽気に言いました。
「まさか誰かがあっちに行くとは思わなかったんだよ。
あはははは…」
細田はかなりバツが悪そうな顔をして言いました。
「ですけど、観光地としては何もないんですけど…
訪れた人たちって、普通に人間でしょ?」
サンドルフが言うと、細田はにんまりと笑みを浮かべました。
「獣人…」と細田が言うと、サンドルフは一気に理解したようです。
「猫系獣人、とか…」とサンドルフが言うと、細田はしてやったりといった顔をして、「ねずみ系だね」と答えました。
サンドルフは、「あはははは…」と笑ってから、「翻訳機って…」と言うと、細田に手抜かりはないようで、「ねずみたち驚いていたね」と言って少し笑いました。
ねずみの獣人が住む星アルニラムは、ウーリア星のすぐ近くにあり、崩壊しそうだったこの星を見学に来ていたようです。
ですが崩壊するどころかもうすでに人が住んでいたことにかなり驚いたのです。
そして悪魔と共存していることにさらに驚いたのですが、獣人は悪魔が波状して生まれた種族なので、好戦的にならなければ諍いが起きることはありません。
アルニラム星には、ねずみだけではなく様々な獣人が住んでいます。
その中でもひときわ多いねずみの獣人の長に、細田が連絡したのです。
細田はこれらの事実をヴォルドには話していませんでした。
よって悪魔たちは宇宙船をにらみつけています。
まだ訓練途中のカミたちが、霞改を着こんで偵察に出ました。
今回は龍を着ている者はいません。
霞改は当然のように姿を消せるので、生体反応を探られない限り見つかることはありません。
『武器は反撃用のビーム砲二門だけですっ!!』
カミは念話でヴォルドに連絡をしました。
すると、旗艦のボディーに映像が映し出されました。
「あのー…」と妙に大人しそうなほぼねずみの獣人が言って、モニターに映っています。
「何をしに来たっ!!」とヴォルドが威勢よく言葉を放つと、「ひいっ!!」と言って獣人は驚いてモニターから消えました。
ですが、「細田さんの紹介で…」と姿は見えませんでしたが声だけは聞こえました。
「その証拠を見せろぉー…」とヴォルドが言うと、細田の顔の映像が出ました。
「ふんっ! そんなもの、どこででも手に入れられるっ!!」
ヴォルドが言ったところで、その細田から念話がありました。
ヴォルドは訓練だったと聞いて、笑みを浮かべてほっと胸をなでおろしました。
「警戒解けっ!!」とヴォルドが言うと、「チッ!!」とクーニャは舌打ちを打ちました。
クーニャとしては、戦うつもり満々だったようです。
「あのぉー、遊園地…」とまだ姿を見せない獣人が言いました。
「隠れているやつには遊ばせてやらんっ!!」とヴォルドが言うと、獣人はすぐに姿を見せました。
「さっさと降りて来いっ!!
首が疲れた…」
ヴォルドが言うと、悪魔たちは大声で笑いました。
「…あ、あのぉー…
悪魔に食べられないのでしょうかぁー…」
獣人はかなり控えめな声で言いました。
「細田に聞いているんだろ?」とヴォルドが言うと、「あ、はい、聞いていますけど…」と獣人は答えました。
「細田の言うことは信じろ!
信じないやつは帰ってしまえっ!!」
ヴォルドが言うと、宇宙船はすぐに地表に降りてきて、大勢のねずみの獣人が、ヴォルドの目の前に姿を見せました。
ですがさすがに怖いようで、さらに小さな子供たちは怯えているようです。
「怖がっているやつは食うっ!!」とヴォルドはさらに怖がられることを言いましたが、食べられたくないので、各班の班長の言葉に従いました。
ですが、怖いものはどうしても怖いようで、小さな子供は泣き出してしまいました。
「しょうのないやつらだ…
カミ、あやしてこいっ!!」
ヴォルドの命令に、カミは少し笑って姿を現しました。
その姿を見て、「おおぉー…」と言う獣人の声と驚きの感情が辺りに充満しました。
「僕たち小人族もこの星の住人だ!
僕たちは悪魔たちと共存しているんだよ!」
カミは言ってから素早く飛んで、泣いている子達を少し宙に浮かせては笑顔に替えさせました。
ヴォルドは満足そうにしてうなづいています。
「土産はなんだぁー…」とヴォルドが言うと、獣人の代表が、「お口に合うかどうか…」と言いつつ、宇宙船から大量の植物の種と苗を運び出してきました。
「おお、これは助かるかもな。
今回は確認なしで、大いに楽しんでいってくれっ!!」
ヴォルドが言うと早速、カミたちがねずみ一行を遊園地に引率していきました。
そして大人のねずみはみごとな城下町と悪魔の家々に感動すらしています。
「たった20日ほどで…」とひとりの獣人が言うと、「星の再生と住めるようになるまで、一日で完成させてくれたぞ」とヴォルドが言うと、「ああー… 魔王軍…」と言って獣人は納得しています。
「魔王軍には違いないが、
ランスは半分ほどしか手伝ってくれんかったぞ」
ヴォルドが言うと、「えっ?!」と言って獣人は驚きの声を上げました。
「主に動いてくれたのは魔王軍ロア部隊。
おまえたち以上に動物の軍隊だぁー…」
ヴォルドが自分の部隊のように胸を張って言うと、獣人はぜひ会いたいと言って、ヴォルドから離れなくなりました。
「あいつらも忙しいんだよっ!!
困っているのはここやおまえの星だけではないっ!!」
ヴォルドは魔王軍の代理人のように言うと、「…はあ、それはその通りですなぁー…」と言って獣人は、「…会いたかった…」と言って肩を落としました。
ヴォルドは何か願い事でもあるのかと思ったのですが、余計な事は聞かないことにしました。
魔王軍は全ての星を回っているので、そのうち順番が来るとヴォルドは思っているのです。
それにすでに細田が接触しているので、何か不都合があるのなら、ランスの耳に入っているはずなのです。
「ねずみの住処の近くに、獰猛な獣が現れたんだよ。
これがね…」
細田が言って宙に映像を浮かべました。
ランスは、「うーん…」とうなっているだけです。
特に脅威ではないようなのですが、ダイゾに少し似ているのです。
「性格はダイゾ同様で好戦的ではないどね…
ねずみの獣人を食べるんだよねぇー…」
細田が言うと、ランスは何度もうなづいています。
そしてランスはサンドルフを呼びました。
ロア部隊は魔王軍と別行動をして、ダイゾモドキと接触して、ネズミ系獣人を食べないように教育するように伝えました。
「おいランス…」と言って、マキシミリアンが意見しようと思ったようです。
「本物のダイゾがいるからな。
特に問題はないはずだ。
一番の問題は食料だな。
頭をフルに回転させろ」
ランスが言うとサンドルフは笑みを浮かべて、「はい! ありがとうございますっ!!」と満面の笑みで答えました。
もうすでにサンドルフの周りにロア部隊は集合しています。
「おまえら、新造部隊にすでに負けてるぞっ!!」とランスは仲間たちに気合が入る言葉を放ちました。
戦士たちは、―― さすが動物… ―― などと思っているようです。
「こっちはもうすぐ夜だけど、
ダイゾモドキのいる場所はまもなく朝だね。
夜行性じゃないから、人間と同じように寝起きしているようなんだ」
細田が言うと、サンドルフはこれからすぐに出発することにしました。
ロア部隊は大いに士気が上がっています。
宇宙船に乗り込んですぐに、アルニラム星に到着しました。
ニセ細田のナビでねずみ獣人の住処に着くと、ダイゾモドキが頭を抱えています。
食料であるねずみ獣人がひとりもいないからです。
観察していると、どうやら動くものに反応するようで、林にいる動物を見据えていますが食べる気はないようです。
「ねずみ獣人がおいしいんだろうね…」とサンドルフが言うと、「食ってみてえ…」とベティーが言ってひとつ舌なめずりをしました。
「細田さん、ねずみ獣人って何か特徴でもあるんですか?」とサンドルフが聞くと、もうすでに調べてあったようでその情報を映像に出しました。
「スイーツ…」とサンドルフが言って苦笑いを浮かべました。
「まさに甘いお菓子の味がするようだね。
魂まんじゅうのように造ってみればいいと思うんだ。
食欲だけは抑えきれるものじゃないからね」
ニセ細田が言うと、サンドルフは食べたことがありませんので、サンクックに言ってその味を再現させることにしました。
データはそろっているので、問題は食材です。
サンクックは影共通の異空間ポケットを持っているので、材料調達は簡単です。
サンクックもサンサンと同じように始めての作業は少々時間がかかるので、サンドルフたちはその腕前を見ていることにしました。
ゆっくりと造るので、何をどうすればいいのか、素人のサンドルフたちもよくわかるのです。
そしてセイランダが、「…おお、おお…」と言って目の色を変えてしまったのです。
これはまずいと思ったサンドルフは、なんとセイランダを抱きしめたのです。
「あっ!!」と言ってセイランダは目を覚ましたようで、サンドルフにバツが悪そうな目を向けました。
「本能が望むことだけどそれを我慢することも修行だよね。
出来上がったら一番に食べてもらうから」
サンドルフが言うとセイランダは笑みを浮かべて、まるでベティーのようにひとつ舌なめずりをしました。
「あはは、セイランダちゃん、ちょっと怖い…」とサンクックが言うと、これも修行の言葉のようだったので、セイランダは恥ずかしそうな顔をしました。
ダイゾモドキはなんと空を見上げ始めたのです。
そしてジャンプしますが、宇宙船まで飛べるわけはありません。
飛び上がって地面に着地すると、『ドオオオンッ!!』と言う途轍もない音が響き渡っています。
「このまま放っておいたら、空、飛べちゃうかもね…」とサンドルフが言うと、「ああ、大いにあるぜぇー…」とベティーが畏れを流しながら言いました。
ベティーの場合は、スイーツよりも地面にいるダイゾモドキと戦いたいようです。
「うう、リアル…」とサンドルフが言って出来上がったねずみ獣人を模したお菓子を見ています。
「おおっ!! おおっ!!」とまたセイランダは常軌を逸した目をしますが、覚醒もします。
セイランダは今は、まさに今はお預け状態です。
サンドルフが、「食べろっ!」と言うと、セイランダはダイゾに変身してから最上級の笑顔でひと飲みにしました。
その笑顔はまさに至福ですが、ひとつだけで満足したようで、セイランダは元の人間の姿に戻りました。
「…ああ、私ったら…」と言ってセイランダはホホに両手のひらを当てて恥ずかしがっています。
「ひとつだけで満足なの?」「あまり食べちゃいけないって本能が…」
サンドルフの問いかけにセイランダは即座に答えました。
「なぜだと思う、サンサン」とサンドルフが言うと、「あははは…」と言ってサンサンは笑っているだけです。
「ハルは?」『食べ過ぎるとね、ネズミさんすぐにいなくなっちゃう…』
ハルは微妙な面持ちで言いました。
「そうだね。
食べ過ぎれば自分で自分の首をしめるようなものだ。
食料なんてあっという間に尽きてしまう」
サンドルフが言うと、ロア部隊は羨望の眼差しをハルに向けました。
「俺が守ってやろう…」とベティーが言ってハルを抱き上げると、サンドルフはかなり困った顔をしました。
ハルはうれしかったのですが、サンドルフとサンサンを交互に見ています。
「それは少し考えてからだ。
ベティーさんが部隊に加わっている時は頼むかもしれない」
サンドルフが言うと、ベティーもハルも答えは保留にして笑みを浮かべあっています。
あまり食べたくはありませんが、出来上がったねずみ獣人スイーツをサンドルフたちは食べようとしたのですが、セイランダが怒り始めたのです。
しかしサンクックが、「ほら、まだたくさんあるからっ!」と言って、ケースにびっしりと入っている、ねずみ獣人スイーツを見せると安心したようで笑みを浮かべました。
「今この時点で、セイランダちゃんが一番怖いね」
サンドルフが言うと、誰もが大きくうなづきました。
食べると、それはごく普通にスイーツですが、少し味気ないような気もします。
「薄味?」とサンドルフが言うと、「うん、そうっ!」と言ってサンクックは笑みを浮かべて言いました。
「おいしいことには違いないけど、
後を引かないと言うことでいいのかなぁー…
食べるぎることを防止する…」
サンドルフが言うとセイランダは賛同しました。
「造る時はそれを厳守した方がいいね。
味付けを濃くすると、次々と食べたくなるかもしれない。
だけど、それをすると自業自得なので、
動物として抑止力が働くだろうね」
サンドルフが言うと、セイランダは超高速でうなづいています。
早速星に降りることにして、サンドルフたちは宇宙船を飛び出しました。
サイゾモドキはまだジャンプしていました。
その高さは10メートルほどで、徐々にその高さを伸ばしているようです。
「超お預け状態…」とサンドルフが言うと、セイランダはかなり困った顔をしてサンドルフとダイゾモドキを見ました。
「さてどうしよう…」とサンドルフはここで考え始めました。
「セイランダちゃんにダイゾに変身してもらうのが先か、
食べてもらうのが先か…」
「あ、食べてもらった方が落ち着くから」とセイランダはすぐに答えました。
「じゃ次。
手渡した方がいいのか、投げた方がいいのか」
このサンドルフの質問には少々困ったようです。
ですが、「どっちでもいいと思います」とセイランダが答えたので、サンドルフはここからダイゾモドキにねずみ獣人スイーツを投げました。
するとダイゾモドキは、『エサが来たっ!!』とでも思ったようで、大口をあけて待っています。
そして見事にその口でねずみ獣人スイーツをキャッチして、どちらかと言えば安心したようで、住処に帰っていきました。
「落ち着いちゃったね…
本能的にはダイゾと同じ…」
サンドルフが言うと、セイランダは笑顔でうなづきました。
「きっとね、一日一回でいいと思うの。
そうすれば長くおいしいものを食べられるから。
私のいた星にはいなかったなぁー…」
セイランダは少しさびしそうな笑みを浮かべました。
「どんなものを食べてたの」とサンドルフが聞くと、さすがにサンサンとハルに猛抗議されたので、質問は却下されました。
「さて、セイランダちゃんの出番だよ」
サンドルフが言うとセイランダは素早く地面に降りました。
そしてダイゾに変身して、ダイゾモドキを追いかけました。
「うっ! かなり早いっ!!」とサンドルフが言って、一定の距離を保ってセイランダを追いかけました。
ダイゾモドキの住処は、山の中腹の洞窟でした。
どうやら生まれて自分で掘ったようです。
ダイゾはゆっくりと洞窟に入ると、『ギギッ!!』という鳴き声が聞こえました。
どうやらかなり驚いたようです。
サンドルフたちは刺激しないように、薄暗い洞窟を外から見ています。
「あ、映像出すから」と言ってサンクックは洞窟の様子を洞窟に重ねて出しました。
まさに洞窟内を見えいるのと同じ効果があるので、とっさの時に動きやすくなります。
セイランダのダイゾとダイゾモドキの差は、角、爪、牙にかなりの差があります。
ダイゾの方がなにをとっても長く大きいのです。
体表は、ダイゾは濃い灰色ですが、ダイゾモドキはまさにねずみ色です。
その他の特徴で大きく違うのは、ダイゾモドキの方が男性的な体をしているのです。
ダイゾは男性なのか女性なのは判断し難いシルエットを持っています。
しばらくしてダイゾが洞窟の外に出てきてセイランダに変身しました。
「感じていたって、悲しみ…」とセイランダが言って肩を落としました。
「だが食べないと生きていけないし、
ほかのものだと満足できなかったって思うからね。
一度おいしいものを食べてしまうと、もうやめられないと思う」
サンドルフが言うと、セイランダもその言葉に同意しました。
「問題は、ねずみ獣人たちにスイーツの作り方、
材料の育て方を伝えることにある。
あまりない食材ってある?」
サンドルフはサンクックに顔を向けました。
「肉…」と言って、サンクックは苦笑いを浮かべました。
「よく似ていたのは、飼育していた豚肉なんだ。
調べたけどこの星にはいないみたい」
最悪、その食材だけは調達しても構わないのですが、できればこの星のもので代用したいとサンドルフは考えています。
「この星の食べ物って…」「ああ、あったあったっ!!」とサンドルフの問いかけにニセ細田が大声を上げて喜んでいます。
「この妙なツルの植物」と言って、ニセ細田は映像を出しました。
その実はかなりグロテスクで、生肉に見えるのです。
その実がなるツルを入手して、サンドルフは緑のオーラを流して成長させて実を生らせました。
「うわー、においがひどい…」とサンドルフが言うと、ベティーたちに一斉ににらまれました。
動物にとってはいい匂いのようです。
「あはは、ここが動物との違いのようだね」とサンドルフが言うとセイランダが、「にらんでごめんなさい…」と言って謝りました。
ついでなので、素材となる植物を全てかき集めて、ねずみ獣人スイーツを造ると、「食べたいけど我慢するわっ!!」とセイランダは笑顔で言いました。
「あ、僕も食べていい?」とタレントが言ったのでサンドルフが許可すると、タレントは海洋生物型ダイゾに変身して食べてからすぐに元の姿に戻りました。
「僕、これだけでいいって思っちゃった。
獣なのに少食だよね」
タレントは他人事のように言いました。
「そこが普通の獣との違いだね。
獣は食べたいだけ食べないと、
次にいつ食べられるのかわからない。
まさにダイゾは動物の王様だからね。
その余裕だと思ったよ」
サンドルフが言うと、ロア部隊員全員がうなづきました。
サンドルフたちは広い空き地に農地を作り出しました。
食材が手に入っても造り方を伝授しなくてはなりません。
一旦収穫前まで植物を育て上げてから、サンダイス星に戻りました。
サンダイス星はもう夜ですが、それほど遅くならなかったので子供たちも起きていました。
サンドルフが映像を交えてランスに結果を報告しました。
ランスは納得の笑みを浮かべて、ロア部隊全員を強く抱きしめました。
これがロア部隊への報酬となるのです。
まさに主にほめられて、誰もが満面の笑みを浮かべました。
「さらに活躍したい…」とベティーが人間の心をもって言うと、「却下」とランスに簡単に言われてしまって、ベティーは肩を落としました。
細田がねずみ獣人に全てを伝えているので、翌日の昼にロア部隊はアルニラム星に飛びました。
現地は夜の帳が下りようとしていました。
大勢のねずみ獣人たちが、サンドルフたちを大歓迎しています。
あいさつもそこそこに、サンクックがねずみ獣人スイーツの造り方の伝授を始めました。
ねずみ獣人たちは口々に、「これで安心できる…」と言っています。
当然、全ての映像を細田から見せられているので、事情はすべて知っています。
そして完成した時、誰もが嫌な顔をしました。
まさに自分たちそっくりに出来上がっていたからです。
「形も関係あると思うからね。
今まで通り、誰かが食べられてしまったという気持ちを持って
送り出して欲しいんだよ」
サンドルフが言うと、ねずみ獣人たちは肩を落としてうなづきました。
サンドルフたちは朝になるまでこの地に留まりました。
ねずみ獣人たちはサンドルフたちにまとわりつくようにコミュニケーションを交わしました。
一人を除いて動物のにおいがするので安心できるようです。
「どーしてひとりだけ人間がいるの?」と小さな子供のねずみ獣人が、カレン本人に質問をしました。
言われたカレンはホホが引きつっています。
「珍獣…」「違うわよっ!!」
サンドルフの軽口に、カレンはすぐに反論しました。
「こう見えてもね、カレンは妖精なんだよ。
光の妖精」
「妖精…」と言ってねずみ獣人たちは顔を見合わせました。
どうやらこの地にも妖精がいるようです。
「心当たり、あるの?」とサンドルフが言うと、ねずみ獣人の代表が一歩前に出ました。
「怒れる荒野の大地という場所に妖精か魔物がいると聞いています。
この場所の真裏に当たるそうです。
その土地はいつもその表情を変えて、誰も住めないそうです」
「はー、もったいないね」とサンドルフが言うと、ねずみ獣人たちもうなづいています。
「あ、調べたから」とニセ細田が簡単に言ってその映像をライブで出しました。
確かに大地がうごめいています。
地中で何かがいてうごめいているわけではないようで、大地自体が生きていると誰もが思いました。
「土の妖精かなぁー…」とサンドルフはつぶやきました。
「説得とか、ちょっと時間がかかりそうだから、
ここを見届けてからまずは偵察だね」
サンドルフが言うと、ねずみ獣人たちはほっと胸をなでおろしました。
やはりダイゾモドキが本当に大人しくスイーツを食べて引き上げるのか不安で一杯なのです。
やはり体が小さい者は、小心者が多いようです。
ですがそれだけ慎重だとも言えるので、決して悪いことではありません。
サンドルフたちはふかふかの芝生のベッドで眠りにつきました。
… … … … …
「はは、みんな連れて行っちゃったねっ!」とサンドルフが目覚めて開口一番に言いました。
ねずみ獣人たち全員を天使の夢見に誘ったのです。
ねずみ獣人たちは口々に今見た夢を語り合って驚きあいました。
大人でも子供の心を十分に持っているねずみ獣人たちは、サンドルフをさらに大好きになって、大勢の獣人がサンドルフにまとわりつきます。
そしてついに、この時がやってきたのですが、ねずみ獣人たちは誰も逃げません。
ダイゾモドキは雄雄しき体を揺さぶって、ねずみ獣人の村にやってきました。
そしてセイランダを見つけて、ダイゾモドキは立ち止まってしましました。
「さあ、守り神様にお供えだよ」とサンドルフが言うと、「はーいっ!!」と子供たちが言って、ねずみ獣人スイーツを恭しくダイゾモドキに差し出しました。
ダイゾモドキはゆっくりと近づいてきて、スイーツを素早く摘まんでうまそうにして食べてから、きびすを返して住処に帰っていきました。
「こんな感じだね。
だけど僕が安心できないから、明日もまた来るよ」
サンドルフが言うと、ロア部隊全員がうなづいています。
ねずみ獣人たちはさらにサンドルフたちにお礼を言いました。
サンドルフはランスに結果を念話で伝えて、これから別の任務に行くことを告げました。
話しを聞いたランスは興味津々で、『そっちの方が楽しそうだ』と言ってから念話が切れました。
「土の妖精だとすると、
クーニャさんとマグマ君の兄弟だろうなぁー…
きっと、獣人なんだろうけど…」
サンドルフが言うと、カレンは反論があるような眼を向けました。
「普通に土の妖精なんじゃないの?」とカレンが言うと、「ランス師匠土の妖精のダッドン君よりも何もかもかなり大きいね」と平然な顔をしてサンドルフは答えました。
ダッドンもランスにつくほどなので普通の妖精ではありません。
そのダッドンよりもさらに大きいとサンドルフは感じているのです。
宇宙船は現地に到着しました。
生命に満ち溢れているこの星のここの空は妙です。
まるで空にも地上にも生物はいないのではないかと思わせました。
するといきなり宇宙船に向かって岩や石が飛んできたのです。
『ガンガンッ!!』という音が船内に響き渡りました。
「鳥が飛んでいないのはこのせいだね。
食料にでもしているのかなぁー…」
宇宙船を消して移動したのですが、かなり正確に石が飛んできます。
視覚ではなく存在場所を探索して攻撃を仕掛けてくるようです。
宇宙船はその高度を上げて確認をすると、なんと5000メートルまで石つぶては飛んできていたのです。
「普通じゃない力だね。
火山の次にすごいんじゃない?」
自然の驚異の力と誰もが思ったようで、ロア部隊員全員が深くうなづいています。
「さて、どうやってコミュニケーションを取ろうかなぁー…」とサンドルフが言うと、「あ、僕が行きたいんだけど」とニセ細田が言いました。
サンドルフは少し考えてから深く考えました。
「本物の細田さんなら許可します」とサンドルフが言うと、「さすがだねぇー」と言って本物の細田がニセ細田のとなりに立っていました。
「細田二号を壊されてしまう」と細田が言うとサンドルフは笑みを浮かべてうなづきました。
「魂を持っている僕だったら問題ないと思った」と細田が言うと、「きっと父ですから」とサンドルフが言うと細田は少しだけ怪訝そうな顔をしました。
そしてクーニャの事を思い出したようで、少し笑いました。
「都合、よすぎない?」と細田が言うと、「関係はあると感じました」とサンドルフが言うと、今まで頻繁に飛んできていた石つぶての攻撃がやんだようです。
サンドルフは宇宙船の高度を少し下げさせましたが、攻撃してきません。
そして大地がうねるようにぐるぐると回っていたのです。
何かを考えている、迷っているといった感情をサンドルフは感じています。
「いやぁー、僕にもわからなかったよ」と細田は満面の笑みを浮かべて宇宙船の外に飛び出しました。
すると、大地から何かが飛び出してきて、細田と接触しました。
「お父さんっ!! お父さんだよね?!」と土の塊が言いました。
「さあ、どうだろうね。
あ、仲間がいるんだ。
呼んでもいいかい?」
細田は柔らかな笑みを浮かべて言いました。
「へー… お父さん、人間とか嫌いだったんじゃ…」
土の塊が言うと、「人は変わるものなんだよ」と細田が答えると、土の塊は笑顔を見せました。
体長は細田の半分ほどで、人型を取っていますが、どう見ても土の塊でした。
土のうねりは大地と同化して起こしていたようです。
まるで森羅万象の術の持ち主、マックス・セイントと同じような術にも思えます。
サンドルフは、森羅万象の始祖が、あの土の塊だと直感で感じました。
「サンドルフ君っ!!」と細田が呼んですぐに、サンドルフたちも宇宙船を飛び出しました。
細田が抱いている土の塊は、「ほとんどが人間じゃないっ!!」と言って驚いていますが、その顔をゆっくりと笑みに変えました。
「僕たちはロア部隊。
人間もいるけど、
元を見てもらえば人間ではなかったって感じるはずだよ」
サンドルフがやさしく言うと土の塊は、「へー、君って、ぬいぐるみとして生まれたんだっ!!」と答えました。
かなりの知識は持っているとサンドルフはすぐに気づきました。
「君は一度も転生していないんだね?」とサンドルフが聞くと、土の塊は肩を落としました。
そして細田を強く抱きしめたように見えました。
「この子の名前はサドン。
決して死ぬことはないんだよ」
細田が言うと、悪い事を言ってしまったとサンドルフは感じて、サドンに謝りました。
サドンは雰囲気を察して全てを理解してから、サンドルフに笑みを向けました。
上空1000メートルに浮いて見渡す限りがサドンの領地でした。
「どうして一人で住んでるのかな?」とサンドルフが聞くと、「…怖いから…」というサドンの言葉に、「おまえの方が怖いっ!!」とベティーがほえるように言いました。
「あー、やっぱりぃー…」と言ってサドンは今やっと確信を得たようです。
「ありがとう、猫の人」とサドンが言うと、ロア部隊の面々は大声で笑いました。
「猫じゃあねえ… トラだぁー…」と言ってベティーは雄雄しきトラに変身しました。
サドンは満面の笑みで拍手をしています。
ベティーはすぐに変身をといて、「少しは驚けっ!!」と言って腕組みをして怒っています。
「なんだか、いいなぁー…」と言ってから、サドンは感極まったのか、細田を抱いたまま泣き出し始めました。
「あ、一緒に来る?」と細田が言うと、「うんっ! 行く行くっ!!」と言って、細田を抱きしめています。
「もう終ってしまった…」と言って、サンドルフは苦笑いを浮かべました。
「いいや、それは僕を呼んでくれたからだよ。
もし呼んでくれなかったら、サドンはかなり暴れただろうね」
細田が言うと、誰もが深くうなづいて、サンドルフに羨望の眼差しを向けました。
サンドルフはことの顛末をランスに念輪で報告しました。
今はサンダイス星でくつろいでいるところだったようです。
そのあとすぐにサンドルフたちはねずみ獣人の村を訪れてサドンを紹介しました。
「はー、もう解決…」と言って、村長はさらにサンドルフたちに敬意を表しました。
「あー、出来損ない君、大人しくしちゃったんだぁー…」とサドンがいてサンドルフに笑みを向けました。
「やっぱり、正常体じゃないんだね?」とサンドルフが聞くと、「このねずみさんたちのせいになっちゃうのかなぁー…」と言ってねずみ獣人を見ました。
サンドルフは少し考えてにっこりと笑ってから、「サンサン、どういうことか説明…」と聞くと、サンサンはかなり困っていました。
そして、「わかりませぇーん…」と言って肩を落としました。
「セイランダはわかるよね?」とサンドルフが聞くとセイランダは、「うーん…」とうなってからはたと気づいたようで顔を上げました。
「もし私だったら気が緩んじゃう。
だから正常に発育しなかった」
セイランダが答えると、サンドルフもサドンも笑みを浮かべました。
「それが正解だと思うよ。
おいしい食べ物が目の前にたくさんあるんだからね。
闘争心とかもそれほどないんじゃないの?」
サンドルフがセイランダに顔を向けると、「うん、ほとんどないの…」とかなり困った顔をして言いました。
「ダイゾが生まれると、
強いものよりさらに強くなろうと発育するんだろうね。
その必要がまったくなかったので、あのダイゾは温厚なままだろう。
だからこのねずみの村の守り神としてふさわしいって思うね。
もし、ここが襲われたら?」
サンドルフがセイランダに聞くと、「全部を叩き壊すわっ!!」とセイランダは大声で叫ぶように言いました。
サドンは感動したようで手を叩いています。
「じゃ、ここもロックオンッ!!」とサドンが上機嫌で言いました。
「ここも?」とサンドルフが不思議そうな顔をしてサドンに聞きました。
「あ、ボク、いろんな星に行けるからっ!!」とサドンは上機嫌でいいました。
サンドルフたちはその言葉を聞いて、―― さすが細田さんの息子 ―― などと普通に思ったようです。
「…いろんな星…」とサンドルフが言って細田を見ると、「きっと、10ほどは星を移動できると思うよ」と笑みを浮かべて言いました。
「今のところね、5つだけかなぁー…」とサドンは言って少しさびしそうな顔をしました。
「今の感情がよくわからないね」とサンドルフが聞くとサドンは、「…友達って、ひとりもできなかったから…」と言いましたが、あれほど好戦的では友達はできないだろうと誰もが思ったようです。
「自分以外が怖い」とサンドルフが言うと、サドンは少し身震いをしてうなづきました。
「サドン君の力はね、ボクたちの方が怖いって思うんだよ。
これからサドン君と同じような人を紹介するから、
一部始終をよく見ておいて欲しいんだ。
きっと、考え方が変わると思うよ」
サンドルフが言うとサドンは少しほうけたような顔をしてサンドルフを見ています。
細田は少し考えてから、苦笑いを浮かべました。
「あの方々への修行でもあります」とサンドルフが少し意地悪く言うと、細田は少し笑いました。
早速サンドルフは、マックス・セイントたち仲よし3人組を呼び出しました。
ほかのメンバーは、ゼンドラドの戦友のエラルレラ、そしてランスが真っ暗な宇宙で助け出した、ミレーナ・レストンです。
この三人は森羅万象の術の使い手で、人間でありながらもうすでに神として君臨しています。
当然のように三人は人間の肉体を持っていません。
機械や生体には関係ないものをその体としています。
この三人は、頼めば何でもしてくれるのですが、自分から率先してすることはありません。
かと言って、偉そうなことを言ったりしたりなどもありませんが、少々度が過ぎるほどの遊び好きです。
マックス・セイントが気に入ってしまった、細田やグレラスが造った冒険用ダンジョンで毎日遊んでいるのです。
三人はいつも通り堂々としていましたが、急に居所をなくしたようでそわそわとし始めました。
そしてついには、かなりの低姿勢でサドンに笑みを向け始めたのです。
この三人の能力は半端ではないので、言葉はまったく必要ありませんでした。
「…遊んでばかり…
あはは、ボクも同じなんだけどねっ!!」
サドンが言葉を放つと、「いえいえっ!! あなた様の存在だけで、この宇宙は平和になると、私は感じているのですっ!!」とマックス・セントが答えました。
言葉使いはいつも通りなのですが、いつもの数百倍感情がこもっています。
エラルレラもミレーナもマックスに同意するように、少し苦笑い気味の笑みでうなづきました。
「…あのー、三人とも仲がよさそうなんだけどね。
ほかの人とももっと仲良くした方がいいと思うんだよね。
ボク、すっごくうらやましいって思っちゃったんだよ…
特にランスさんってすごいことをしてるのに、
進んで助けてあげないってかわいそうって思うんだよ…」
サドンが言うと、三人はかなり申し訳なさそうな顔をして深くうなづいています。
「サドン様、お言葉ですが…
あ、いえ、決して反抗しようなどとは思っていませんからっ!!」
マックスは先に謝りました。
その雰囲気だけで、サドンは全てを悟ったようです。
「ランスさんが助けを求めないのなら仕方ないよね。
じゃあさ、ボクたち四人で、勝手にやっちゃう?
できれば星の修復だけでも…
ひどいところはもうないそうだからね、
僕たちだけでも十分にお手伝いできると思うんだよ」
三人は顔を見合わせて、サドンの言葉を真摯に受け止めたようです。
今日は親睦会ということで、メリスンの食事を堪能することになりました。
この四人は食事の必要はないのですが味はわかるので、最近食事に凝っているミレーナはいつもよりもハイテンションになりました。
さすが神の集いといった雰囲気で、ここにはほとんど遠慮はありませんでした。
これが人間との違いだと、サンドルフたちは感じたようです。
「ランス君に叱られないかなぁー…」と言って、細田は少し心配になったようです。
細田がランスン念話をすると、『助けられる者が大勢いると思うので、ありがたいです』と快く自由にしてもらうことに同意しました。
細田はほっと胸をなでおろしました。
「もっとも、内宇宙だけでも1万2000もあるからね。
ランス君は10年で全てを平和にするって言ったけど、
さらに早まったと思うよ」
細田は笑みを浮かべて言いました。
サンドルフたちの出番が早まるのではないかと思い、細田たちにあいさつをしてから、サンドルフ星に移動して修行を始めました。
「…あのさ、内宇宙って…」と言ってサンサンがサンドルフに聞いてきました。
「ああ、そうだね、気になるよね。
…カレンはもう、授業受けたのかなぁー…」
サンドルフは今学校に行っているカレンの知識の心配をしています。
また別の機会に説明すればいいと思って、今はサンサンとハルにだけ講義をしようと思い、サンクックに情報を出してもらいました。
「これって、学校の教材だから」とサンクックが言うと、サンサンとハルは顔を見合わせて笑顔になりました。
ここで授業を受けることをうれしく思ったようです。
「説明することってまったくないほどよくわかると思う」
サンドルフが言うと、サンサンもハルも映像を見て笑顔でうなづきました。
「だから1万2000も内宇宙があるのね」とサンサンが言うと、サンドルフは笑顔でうなづきました。
「ここは内宇宙にあります。
そしてここが外宇宙で、小宇宙とも言います…」
サンドルフは口頭で詳しく宇宙の仕組みを説明しました。
そしてサンサンたちは内宇宙の中心にある、キャコタに大注目してしまいました。
キャコタは5つの星が超高速で直線的に規則正しく飛び交っています。
その軌道はまるで星型を模ったように見えます。
そしてこの中心部に、外宇宙に出る小さな空間があるのです。
いつもは宇宙船に乗って違う内宇宙に異空間を使って一気に飛んでいるので、説明しているサンドルフもキャコタを実際に見たことはありません。
ですがこのキャコタは、『宇宙の運命』とも言われているのです。
もしキャコタがバランスを崩した時、その内宇宙は一気に崩壊して無に帰すのです。
サンサンたちはこの話しを聞いて、背筋が寒くなりました。
見学したいと思っていたようですが、近づかない方がいいのかもしれないと思ったようです。
「細田先生にお願いすれば大丈夫だよ」とサンドルフはかなりお気楽に言いましたが、サンサンたちは超高速で首を横に振りました。
「僕も見たかったんだけど…」と言ってサンドルフは仕方ないといった顔をして諦めました。
「さあ、行こうか!!」と言って、いつの間にかいた細田が言いました。
嫌がるサンサンとハルを両腕に抱いて、細田は大声で笑いながら宇宙船に乗り込みました。
サンドルフはすぐに、ロア部隊全員を呼んで、宇宙船に向かって飛び上がりました。
ベティーたちは走っていたのですが、飛んだ方が早かったと思い、フライングソーサーのスイッチを入れて素早く飛びました。
「珍しいパターンだが…」とベティーは言って首をひねっています。
サンドルフはベティーたちが何かを考えていることは気づいていたのですが、今は聞かないことにしました。
宇宙船は一瞬にしてキャコタが見える宇宙空間に移動しました。
「さあ、これがキャコタだよ」と細田は言って、妙に専門的なことを話し始めました。
サンドルフは疑問に思ったことをすぐに質問したのですが、さらにどんどん難しくなっていったので、質問は控えることにしたようです。
「エッちゃんはね、これを始めてみた時、素早く動くたこ焼きっ! と叫んで笑ったそうだよ」
細田が言うとサンドルフたちは、―― エッちゃんらしい… ―― などと思ったようです。
細田はモニターに、外宇宙に出る場所がわかるように、3D映像を出しました。
「わかるかな?」と細田が意地悪く言いました。
「あ、これ、ライブだから」と細田が言った途端に、サンドルフは上下左右に移動して、笑みを浮かべて手を上げました。
「さすが隊長だね、正解だよ」と細田は満面の笑みで言いました。
一体どういうことなのか、サンサンたちはまるでわかりません。
サンドルフが大きなヒントを示していましたが、きちんと見ていなかったようです。
ですが、洞察力のある利家が、ランスがしたように上下左右に移動したのですが、首をひねっています。
映像は鮮明なので、この動きをして注意してモニターの一点だけを見ていればよくわかるはずなのです。
どうやらギブアップのようで、ベティーにいたってはトラに変身して眠っていました。
こういうところが動物なので、あまり難しいことをやらせるわけにもいかないのです。
やはり動物は、大地に足をつけていないと、調子が出ないようです。
「サンドルフ君は上下左右に動きました。
画面の中央をじっと見て、やってみてください。
もっとわかりやすいのは、弧を描くようにして首を振ること」
細田は言ってから、少しだけ首を回しました。
「あっ!」と利家が言って満面の笑みで手を上げました。
「はい、利家君も正解っ!!」と細田は笑みを浮かべて言いました。
次々と正解が出て、最後にべティーが、「後ろにある星が消える…」とつぶやきました。
「そうだね。
星が消えた場所が外宇宙に出られる唯一の場所なんだよ」
細田が言って、その内部がどうなっているのか、簡略図をモニターに出しました。
「あー…」とロア部隊全員は感嘆の声を上げました。
そのポイントに宇宙船を移動させると、宇宙壁で囲まれたトンネルをくぐって、外宇宙に出ます。
外宇宙はそれほど広くない場所で、ここも宇宙壁で覆われています。
そして360度見渡すと、最低でもひとつはトンネルを確認できます。
ちなみのこの外には8つのトンネルがあります。
その内の4つは統括地の宇宙につながっているのです。
統括地の宇宙は、この大宇宙では機能していなくて、宇宙壁に囲まれた小さな宇宙空間となっています。
この統括地の宇宙が崩壊する条件は、この大宇宙では起こりえません。
ですが、御座成功太が統治している多くの大宇宙は崩壊する条件があります。
統括地の創造神が命を落とすと、統括地と四つの外宇宙とつながっているトンネルが、宇宙壁で埋まって塞がれてしまうのです。
これは由々しき問題で、宇宙の気の流れを止めることにもつながるのです。
よって、この宇宙壁を破壊して、統括地の宇宙を取り戻す必要があるのです。
「この大宇宙は10カ所の統括地の宇宙が埋もれています。
それを掘り出すのがこれ」
細田が言うと、モニターにビームらしき映像が出ました。
白と黒のハイビームが、らせん状になっているようです。
「白と黒の競演と、あっちの御座成さんの宇宙では呼んでいるんだ。
一個人が悪魔と天使を持っていて、
死神か人間であれば放つことは可能だよ」
非常に厳しい条件なので、今のサンドルフでは到底不可能です。
「ランス師匠は…」とサンドルフが聞くと、「エキスパート」と言って笑みを浮かべました。
サンサンとハルが抱き合って喜んでいます。
ベティーにいたっては、―― さすがわが弟子… ―― などと思いながら、両手を腰に当てて瞳を閉じてうなづいています。
ちなみにべティーは覇王とランスの正式な飼いトラです。
「動物にハイビームは厳しいけど、利家君は大丈夫なんだよね?」
サンドルフが聞くと、「あ、セイランダちゃんも」と利家は笑みを浮かべて答えました。
サンドルフはふたりに笑みを向けています。
「使うことはないと思うけどね。
だけど、今回のようにロア部隊だけで遠征に行く時は、
宇宙空間などで戦闘に巻き込まれるかもしれない。
逃げるのも手だけど、できれば使えるようになって欲しいんだ。
だけどね、これは強制じゃない。
できる人だけがんばってもらいたんだよ」
物事には向き不向きが必ずあります。
動物である彼らは、人間のように器用ではないのです。
逆にできる方が不思議なのです。
特に動物として誇り高いベティーにとっては、大の苦手な分野なのです。
「もし、ハルが撃てるようになっても、実戦では使わないから」
サンドルフが言うと、ハルは笑顔でほっとして胸を押さえました。
サンサンと同じで、堕天使であるハルはたとえ敵であっても殺人的な攻撃は仕掛けたくないようです。
特に宇宙空間での戦いは、ちょっとしたことで大惨事になってしまいます。
それを考えると、堕天使としてはどうしても撃てなくなるのです。
「白と、黒の、競演…」とベティーがつぶやきました。
なにやらとんでもないことを考えているようで、サンドルフは苦笑いを浮かべています。
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