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最後の賭け
和也は店内をぐるりと見まわすと、早々に店員を呼んで、彼女に似合いそうな赤い靴をここに並べてくださいと頼んだ。
プツンと最後の希望の糸が切れたように感じた。
私のために自ら選ぼうという気持ちもないんだ。
どんどん並べられていく赤い靴は、涙でぼやけて形があやふやになる。
本当は最初から赤い靴なんて欲しくなかった。
誰かに靴を贈るのは、私を束縛から解いて自由にしてくださいという意味があり、昔の人は贈るのを敬遠したという。その記事をどこかで読んで、別れにはちょうどいいと思ったからだ。
24歳にもなって赤い靴はないものね。と自分で自分を慰めてみる。
本当は和也をこの場に置いて、すぐにここから立ち去りたい。でも、沢山の靴をせっせと並べてくれた店員に悪いから、履くだけ履いて断ろう。
フロアの一角にずらりと並べられた靴を、和也の視線が何度も往復する。腕を組んで真剣に悩んでいる様子は、決しておざなりに選んでいるようには見えない。
私は、早とちりをしたのだろうか?
和也は一番良い靴を選ぶために、店員に並べさせたのだろうか?
もしそうなら、寂しさで歪んでしまった自分の心が情けない。
「これなんか、似合うんじゃないかな?」
弾むような和也の声につられ私が俯いていた顔をあげると、和也は店員が並べたものとは違う靴を掲げて見せる。店員が慌てて、同じ形の靴を取りに行った。
どうしてそこまで私をこけにできるの?
私の気持ちを粉々にするのがそんなに嬉しいの?
自信ありげに靴を見せる和也への怒りと絶望で胸が苦しくなり、手がわなわなと震える。
戻ってきた店員が和也に赤い靴を渡して、こちらが同じ型の赤い靴ですと言った途端に、和也の顔色が変わった。
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