56人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
今日で終わりにしよう。
寒さは厳しくなる一方だけれど、傍にいても心が温まらないなら離れた方がいい。
こんな風に思うのはもう何度目なのか……
木村瑞希は、切なささでツキンと痛んだ心を護るように両手で自分を抱きしめた。
11月から1月にかけて、クリスマスと正月を彩った華やかなイルミネーションもすっかり影をひそめ、大通りは現実に立ち戻ったように暗く感じる。
少し前を歩いている瑞希の彼、矢野和也の横顔が、デパートのショーウインドーの明かりでくっきりと浮かび上がった。
派手な作りではないけれど、理知的に整った顔は瑞希の好みだし、優しい性格にも癒された。
そして、何よりもキュンとするのは、和也に何かをお願いするときに、瑞希が甘えてみせたときの和也の反応。眩し気に眇めた目を瞬いた後、照れたときの癖なのか困ったように微笑む和也の表情が大好きだった。
もしかしたら、私を愛しいと思ってくれた?
一瞬で消えてしまう瞳にこもった情熱が本物かどうか確かめたくて、わがままを言ったりもしたけれど、和也は咎めることもなくいつもと変わらない優しさで私を包んで、希望と焦燥の波を潜らせる。いつか私は泳ぎ疲れて沈んでしまうだろう。
だから、和也を思うのは今日でおしまい。
最初のコメントを投稿しよう!