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悪浪人が失笑し、にやりと唇を歪めてやくざ者が、どすをひらめかせた。
けれど、ふわっと風が動いたと思ったら、そいつはくるりと一回転。鳩尾に柄がめりこみ白目を剥いていた。
あたしが目を丸くしていると、とうとう悪浪人が長い刀を抜いた。もちろん、竹光なんかじゃなかった。
「少しは、出来るようだな」
舌なめずりするように言って、恐ろしい気合い声とともに、わっと大上段から斬りかかる。小柄なお侍など、たちまちぺしゃんこにされてしまいそうだった。
……何がどうなったのか、よく分からない。思わず目をつむっちまったんだ。
だけど、
「ぎゃっ」
悲鳴を上げたのは悪浪人の方で、恐る恐る目を開けてみたら、何故だか腕を押さえて呻いている。
「ほうら、切れた」
お侍は、のんきな声で、ちょっと自慢げに言った。
その時――
「てめえら、いってえ何してやがる。御用だっ!」
あたしも知ってる御用聞きの親分の声だった。お侍はさっと刀を引くと、
「気をつけてお帰り」
また、あたしの頭をぽんぽんとなでた。
親分さんが駆け付けて来て、あっという間にやくざ者と悪浪人を引っ括った時にはもう、竹光のお侍なんて、どこにもいなかった。
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