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 わずか二間四方くらいの小さなお社だけど、雨宿りするには丁度良かった。  だけど、思わずはっと足を止めたのは、先客がいたからだ。  社の端っこに、ちょこんと座っている。  お侍だ。  それも、どう見たって、まっとうなのじゃ無い。  髪はぼさぼさで、ほとんど蓬髪と言って良かった。  よれよれの単衣を着流しにして、膝に鞘のはげちょろけた刀を抱いている。  怖い、とは思ったけれど、とにかく坊っちゃんを雨に濡らして風邪でも引かせちゃ、ことだ。お店にいられなくなってしまうかも知れない、その方が何倍も怖かったから、お侍とはなるたけ離れた反対側の端っこへ這い上がって坊っちゃんを下ろし、手ぬぐいを出して濡れた頭や着物を拭いてやる。  折良く坊っちゃんが眠っているのは、幸いだった。  目を合わさないようにして、ちらりちらりと盗み見ると、お侍は、あたしになんか気付いてもいない風情で、ぼんやりと宙に目を彷徨わせながら、竹筒に入った酒らしき物を時々、ちびりちびりと飲んでは、うっすらと笑っていた。  酒飲みは、嫌いさ。  おとうが、酒飲みだったからね。  酒飲みに、ろくな人間なんか、いやしない。  お侍は、こっちを見もしないで、不意に、 「雨、止まねえなぁ――」  ぽつりと、言った。  あたしに言ったのか独り言だったのか分からないけど、あたしはつい、釣られるように、 「うん」  返事をしちまった。
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