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あたしがびっくりしたのは、必ずしもそこじゃないけど。
それにしても、一体、お侍さまも、子守なんてするものかね? とても、女房子のあるようなお人には見えないし。
けれど、確かに赤ん坊の扱いは、堂に入っていた。
お侍は、すぐに坊ちゃんを返してくれて、ぽんぽん、と半べそになってるあたしの頭をなでた。
子ども扱いにされるのは、面白くない。
「泣かしちゃならねえと、かりかりしてちゃあ、いけねえよ。周りの者の気持ちが尖れば――」
声が、不意に途絶えて……
「おふうちゃん」
お乳母さんが、傘を持って立っていた。
「良かった。雨に降り込められて、往生したろうね」
迎えに来てくれたのは、もちろんあたしじゃ無く、坊っちゃんの心配をしたからだけど、それでも助かった。有り難かった。
それにね、お乳母さんは昼間の係を押っつけたことを、ちょっとばかり負い目に感じているらしく、あたしには優しかったんだ。
振り返ってみると、お侍はいなかった。
変なのと一緒にいたと思われちゃいけないから、その方が良かったけれど、なんだかちょっと寂しい気がした。
こんな雨の中、どこへ消えたんだろう。
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