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 あたしが親分さんに連れられてお店へ帰ると、お内儀さんとお乳母さんは青ざめた。  坊ちゃんが泣きわめいているのはいつものこととしても、改めて恐ろしさがこみ上げてきたあたしまでもが、べそをかいていたからね。  親分が、坊ちゃんにも、あたしにも怪我は無いと言い、もう拐かしの悪党は捕まえたから心配ないと説明し、陰で糸引く親玉もすぐに割れるだろうと自信満々に請け合ったけれど、それでも手を取り合ってがたがた震えていた。  お稲荷さまに助けてもらったんだって、あたしは一生懸命みんなに言った。  だってね。自身番に引き立てられたあの悪浪人も、言っていたんだよ。  竹光と思っていた刀が、目の前で突然白銀に輝いたんだって。切られた傷そのものは全然たいしたことなかったけれど、その時には雷に打たれたように体が動かなくなったんだって。  あたしは目をつむっちまったから、見られなかったけども。  お稲荷さまは五穀豊穣の神様で、村にもお社があったけれど、江戸では商売繁盛の神様で、丸木屋でも庭に小さな祠を作って朝な夕なにお参りしている。  朝一番に祠の周りを掃除して、塵一つ無くきれいにしておくのも、あたしの仕事のうちだった。  だからきっと、それで助けてくだすったんだ。
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