1/4
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

 翌日――  昨日は、雨宿りをしていたんだ。  いるわけないと思ったのに、そのお侍は、昨日とおんなじ場所におんなじ様子で、ちんまりと座っていた。  どうしてわざわざ確かめに来たのかも、分かんないけど。  こんな風体だから、年の頃も、よく分からない。  でも、三十にはなっていないだろう。体はピンシャンしているのだから、こんな所で酒食らって惚けていないで、ちゃきちゃき働けばいいんだ。  ……ようく見ると、ちっといい男なんじゃないかと思う。  頭の中で、よれよれの着物とぼさぼさの髪、そして、薄い無精髭を除いていく。  日に焼けてはいるけれど、地は色白だろう。  目は切れ長で、鼻筋の通った――ほうらね、しゃんとしさえすれば、ずんと男ぶりが上がるのにさ。  だけど、がりがりに痩せていて(せい)も低いのが瑕だね。ちっとも強そうじゃ無い。  故郷(さと)の百姓衆も、お店に出入りする川波達も、みんな大きくて、もっとがっしりしている。働く男ってのは、そういうものだ。  そんな値踏みをしているうちに、もう、あんまり怖いという気は無くなっていた。  また、坊ちゃんが泣いたら、飛んできてあやしてくれるのだろうかと思ったけれど、こういうときに限って坊ちゃんは、ちっとも泣かない。  あたしは自分から、そうっとにじり寄った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!