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二
翌日――
昨日は、雨宿りをしていたんだ。
いるわけないと思ったのに、そのお侍は、昨日とおんなじ場所におんなじ様子で、ちんまりと座っていた。
どうしてわざわざ確かめに来たのかも、分かんないけど。
こんな風体だから、年の頃も、よく分からない。
でも、三十にはなっていないだろう。体はピンシャンしているのだから、こんな所で酒食らって惚けていないで、ちゃきちゃき働けばいいんだ。
……ようく見ると、ちっといい男なんじゃないかと思う。
頭の中で、よれよれの着物とぼさぼさの髪、そして、薄い無精髭を除いていく。
日に焼けてはいるけれど、地は色白だろう。
目は切れ長で、鼻筋の通った――ほうらね、しゃんとしさえすれば、ずんと男ぶりが上がるのにさ。
だけど、がりがりに痩せていて背も低いのが瑕だね。ちっとも強そうじゃ無い。
故郷の百姓衆も、お店に出入りする川波達も、みんな大きくて、もっとがっしりしている。働く男ってのは、そういうものだ。
そんな値踏みをしているうちに、もう、あんまり怖いという気は無くなっていた。
また、坊ちゃんが泣いたら、飛んできてあやしてくれるのだろうかと思ったけれど、こういうときに限って坊ちゃんは、ちっとも泣かない。
あたしは自分から、そうっとにじり寄った。
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