10人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
三
そのまた、翌日――
お侍は、うーんと唸りながら、お供え物の油揚げを眺めていた。
「なにしてんのさ」
「……どうして、生の油揚げなんか、供えるのだろう。稲荷寿司かなんかの方が、ずいぶん狐も喜ぶと思うんだが……」
どうやら、腹が減っているらしい。
「お供え物を、くすねようってのかい?! 罰があたるよっ」
「当たるかなぁ」
「決まってるじゃないか! だいたいっ――」
あたしは、お侍の腰の竹筒を指差した。
「その酒をやめて、飯を食えばいいじゃないかよ、ばかばかしい。飯食って、働いて、そんでまた、飯が食えるんでないの。そうでなけりゃ、お天道様に顔向けなんか出来ないんだから」
お侍は、ちょっとばかり困ったような顔をして、残りを確かめるように竹筒を振りながら、「まあしかし」と、言った。
「酒というのはな、米で出来ているんだ。言ってみりゃあ、米の水さ」
「ばっかみたい!」
飯は、食べれば、働く力になるものだ。
酒は、反対だもの。
力も気力も無くなって、ついでに見境も無くなる。
酒飲みは、嫌いさ。
「ばっかみたいっ」
地団駄踏むようにもう一度言って、あたしは駆けだした。
「あ、おい――」
お侍が何か言いかけたけど、無視する。
最初のコメントを投稿しよう!