99分の1への挑戦

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99分の1への挑戦

前回までのあらすじ  金井が誘ってくれたリニューアルオープンで、ルパン三世に味をしめたサトシ。部屋に戻ると夏海の手料理が待っている。それがどんなに癒されることか。 リニューアルオープンも終わり、いつもの店に向かう。今日は朝飯をしっかり食べてきた。夏海が味噌汁を作ってくれたからだ。  カズが店の前にいる。5日間会っていない。 「カズさん。お久しぶりです」  サトシが挨拶をすると、 「よう久しぶり」と軽く返す。表情は晴れていて、燃え尽き症候群などには見えない。ひとまずほっとする。 「絵の方は進んでますのん?」 「下絵は出来たよ。これから色塗りだ」 「どんな絵なんです?聞いちゃ悪いですかね。そんな事」 「そんな事はないさ。普通の女性像だよ。ただ背景が特殊なんだ。それをこの前思い付いたというわけさ」  雑談をしていると開店時間が迫ってくる。店が開く。皆が一斉に入っていく。  サトシは今日はプランを持っている。まずはリニューアルオープンで打ち続けたルパン三世が打てるかどうか調べるのだ。99分の1なので深いハマリもなく、結果が収束しやすい。そこに惚れ込んだというわけだ。  バラエティーコーナーへ行くと、わんさか人が詰めかけている。あわてて台を押さえる。寄りはノーマル、へそ釘は24~5回転だろうか。渋いが一応合格である。  カズはいつものようにミドルの台を打ち始めている。回りを聞くと25回転だそうだ。 「僕、今日はルパン三世打ちますから」 「いい台が見つかったのか?」 「こっちも25回転ぐらいですよ。でも深いハマリもないし、結構釘通りに出てくれるんです。リニューアルオープンでもこればっかり打ってたんですよ」 「まあ、悪く無いんじゃないかな。でも単発だと、玉がちょびっとしかでないだろう」 「それはそうですけど…まあいろいろ試してみますよ」  改めて台に座る。打ち始めると、3000円で76回転だ。思った通りの回りである。打っていると、長くて外れるリーチも多いのだが、もう慣れてしまっている。回りは少し落ちたりするが、また思い切り回ったりと、25回転をキープしている。  100回…ハマリに突入だ。サトシは投資を続ける。150回、そろそろ初当たりが欲しい。200回、2倍ハマリだ。当たらない割合は20%ほど。いつものようにマックスを打っていると、当たらないのが当然の回数なのに、なぜか力が入る。  220回でようやくルパンリーチだ。コングラッチュレーション!のかけ声とともに、単発大当たりを消化する。玉はホントにちょびっとしかでない。  STを消化すると、また通常画面に戻る。持ち玉はすぐに溶けてしまった。追加投資だ。  今回は100回以内で当たってくれたが、またもや単発でST内でもこない。  短いスパンで出入りを繰り返し、投資金額は3万円めに突入した。  少しずつ焦り始める。やはり、リニューアルオープンの時は運勝ちも手伝っていたのだろうか。 またもや200オーバーのハマリだ。投資は4万円目前だ。もうここまで来ると、プラスに持ち込むのは難しい。たまらずカズのところへ行くと、いつものように出している。 「どうした?投げ出してきたか」  カズがおちょくる。「いや、まだ4万です。5万円まで諦めません!」  もう午後3時である。これから4万円を取り戻す、厳しい戦いが始まる。  そういえば、今日はマックスで当たっていないのだ。負け続けて当然である。初当たり確率がよくても勝ちやすい訳ではないのを実感している。  席に戻って追加投資だ。すぐに当たる。 すると、待ちわびた不二子マックスである! 玉抜きをすると箱の半分ほどになった。STは当たらなかったが、少しは回せる持ち玉は手に入れた。回し始めると、またすぐに単発が当たる。調子が上がってきた。箱すりきり一杯ほどになる。 STの開始と共にまたもやマックスで大当たりである。足元に一箱となった。まだ負債は3万円ほどある。  そろそろハマリが来そうな予感がする…しかし打たなくてはならない。ハマリは来たものの130回で次の当たりが来る。  一進一退が続く。煙草も底をついてしまった。 トイレにいき、勝負続行である。短い回転数で当たるのだが、マックスがこなくなった。しばらく打っていると、お待ちかねのマックスである。しかも連チャンだ。やはり短いスパンで収束しやすいのだ。足元に2箱になった。 時刻は夜7時、いつもよりかなり疲れている。上がろうかなと少し弱気になったが、そこは奮起して続けなければならない。負債は25000円ほど。まだ取り戻せる。  またもや150回のハマリから単発だ。しかしSTでマックス引き戻しである。続いて通常回しからまたマックス。単発のオマケつき、足元に4箱の玉が積まれた。  そこからが長かった。出ては飲まれを繰り返すが、少しずつ玉は増えている。  9時になった。もう根負けした。夏海からメールだ。今日の料理はサトシの大好物のポテトサラダだそうだ。それに野菜をたいたんが一品。サトシは10時過ぎに帰ると返事をし、カズの所にいく。 「カズさん、今日はもう上がりません?」 「どうした。珍しいな」 「もうね、ボロボロですよ」 「分かったよ。いつものところでちょっとひっかけよう」 カズは4万の勝ち、サトシは前半の投資が響いて1万の負けとなった。 いつもの飲み屋のカウンター席に座る。カズが聞いてくる。 「どうなんだい、99分の1の台は、勝てそうかい?」 「今日は展開がよくなかったんで負けましたけど、通常の展開なら勝率は8割は行くんじゃないですかね。手応えは掴んでいます。今日は根負けしましたけどね」 「根負けか…俺にもあるよ。そういうときが」  カズがビールをひっかける。 「へー、どんな時です?」「まあ、普通に2000回ハマリを食らった時とか、そうだなあ、釘が開いてる台をオーラスで見つけて次の日急いでいくと、他の奴に取られてたりとか…そんな時かな。勝負に身が入らなくなって8時頃に帰ったりするぞ」  サトシは好物の手羽先を食べながら言う。「明日もう1日挑戦してみますよ。リニューアルオープンの時には安定して出てたんですから」  カズが注いでくれたビールを飲み干し、力強く宣言するのであった。  翌日、カズとサトシは入口付近に陣取っている。音楽が鳴り始め、ドアが開く。サトシは先陣を切って、一直線にルパン三世の台に煙草を投げ入れる。釘は昨日と変わっていない。今日も新たな1日が始まる。  打ち始めて直ぐにロングリーチが来た。今日は早く当たってくれよと願う。サトシの願いが通じた。コングラッチュレーション!マックスである! STを消化し、後はいい展開を待つだけだ。30回で次の当たりだ。しかもSTで5連チャン。今日はいい滑り出しである。投資額も2000円。昨日はこの最初の投資に4万円近く使って負けた。今日は展開が非常にいい。展開がいいのを待つのは素人の考えだが、やはり気分がいいもんだ。サトシは快調に、 上皿に玉を入れていく。  次は80回で単発。STでまたもやマックス。店員を呼び、玉を足元に置いてもらう。 ここから少し長く出入りが目まぐるしくなる。足元には満杯に積んだ玉が2箱。とりあえずこんなものであろう。 休憩の札を貰うとカズのところへ行く。まだ現金投資のようだ。昼飯に誘うと 最初に 飯を食いにいったあの喫茶店に足を運ぶ。  あの時のように、スパゲティーとコーヒーだ。もうあれは2年近くも前のことだ。なかなか弟子入りを認めてくれないカズがコインの賭けをした、懐かしの場所である。「懐かしいですね、ここ」「そうだなあ、お前さんが必死な顔をして弟子入りを申しこんだのが、昨日の事のようだよ」  二人はスパゲティーを食べながらよもやま話をしている。 「今日は出ているみたいだな。さっき見たぞ。ハマリは食らったのか?」 「食らってないですね。展開がいいんですよ。それに投資が2000円でしたし」 「ちょっとあぶなっかしいな、それ。展開に期待するのは素人だぞ」 「今日はもう素人でも何でもいいですよ。出てくれさえすれば、根負けせずにすみます」  夕方5時になった。サトシの足元には6箱置かれている。あれから少しの爆発があったのだ。今換金すると、3万オーバーだろう。しかし粘る。昨日の1万円も取り戻したい。  しばらく出入りを繰り返すと、またマックスである。展開に助けられる。足元にはもう置けないので、店員が3箱だけシマの外に持っていった。少しハマリ、単発、また80回で単発である。一箱飲まれてしまった。まあ、ハマリは来ない方がおかしい。気にせずに突っ込んでいく。  8時、単発の嵐だ。回転数は短いのだが、マックスがこない。しかし、こういう時を乗り越えると、少しの爆発がくるのだ。ここは我慢するしかない。  10時だ。タイムオーバー。結局展開にも助けられ、8箱出して4万円弱の勝ちだ。昨日の負けも取り戻した。カズに挨拶をし、 足取りも軽く帰って行く。しばらくは海物語に戻ろう。疲労が半端ではない。 今日は焼き魚と、サラダだそうだ。空腹に耐えながら地下鉄に乗り込んだ。夕食を楽しみに。
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