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夕方、というか夜、梨香の声で目が覚めた。
扉の向こう…姿は見えず声だけが小さく聴こえた。
「水菜、平気?帰れる?」
梨香が心配そうに声を掛けている。
「うん、起こしてくれてありがとう。少し仮眠のつもりが……すごく寝てたみたいね?明日から休みだし、帰って寝るわ。何時かな?」
「7時過ぎ…高橋もさっき帰った。ショール、秘書室に掛けてあるって。お礼を言ってたよ。」
「梨香は?大丈夫?」
「幸人と私の仕事はこれから。明日、引き渡しで、絶対文句は言わせない。
幸人もそう言ってた。みんなが頑張っていたからね。」
「差し入れもありがとう。梨香も早く帰って明日に備えて。」
「気をつけてね?」
「平気。近いから。梨香もね?お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
二人が静かな声で話し、階段を降りる音と、ドアが開く音が静かに聞こえた。
ガバッと起きて、上着を羽織り、水菜の後を追った。
12月26日、夜道を一人で歩く事が急に心配になったからだ。
水菜はちょうどビルから出た所だった。
「水菜!」
「社長?どうされました?」
驚いた顔で水菜は振り返って、近寄るのを待っていてくれた。
「なんか、お腹空いて…ついでに送るよ。暗いし。」
「少し、つまみに行きます?あの飲み屋、大根煮、美味しいですよ。」
と、微笑んで言った。
「いいね。酒は無しな?帰りがヨロヨロになりそうだ。」
と答えると水菜はくすくすと笑った。
あれ程、水菜を待っていた飲み屋で、出会った場所で、二人でカウンターに立ち、大根煮を注文した。
「久し振り、水菜ちゃん。」
と言う大将の言葉に本当に久し振りに来たんだ……と思った。
「喧嘩した相手に乾杯!」
水菜が言い、グラスを鳴らした。
「悪かったと思ってるよ…。」
苦笑して言ってから、真はウーロン茶を飲んだ。
ニコニコした笑顔で…。
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