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「ん?…………水菜!!なんで?」
真は驚いて扉に寄りかかり、扉が開くと同時に倒れ込んで行く。
「あ、ごめんなさい。でも、社長もご自宅にお戻りと聞いていたので、誰もいないと思いまして…仕事の前に掃除を軽く…。あ!おめでとうございます。」
後ろを向いて答え、慌てて挨拶を付け足すと真は笑う。
「おめでとう。掃除なんていいのに…秘書の仕事じゃない。まぁ、会えて嬉しいけどね。」
水菜らしい、と付け加えて笑っていた。
「社長はいつから?」
「ああ、一昨日の夜か?急に思いついて。新作ゲームで遊んでた。徹夜。二日間やりっ放し。」
「すいません。起こしてしまったんですね。終わりましたので帰ります。」
「ああ、いいよ。お腹空いたし、何か食べに行こうと思ってたとこ。
どこ行こうかなぁ…。」
伸びをして部屋の扉を閉め始めた真に、後ろを向いたまま水菜は聞いた。
「どこって…。この辺りは4日までお店はお休みですし、開いてるのはコンビニくらいです。」
「え?嘘だろ?今時、三が日休むの?」
「少し前は開ける傾向でしたが、ここ数年は昔のように休む傾向のお店は多いですよ?」
「まじかぁ…ゲーム終わるまで何にも食べてないのに…。気が付いたら凄いお腹空いて来た。」
ボスンと、ベッドに倒れ込む音が聞こえた。
この部屋を覗くのは水菜には勇気がいる。
それでも振り返り、遠目で半分開いている扉から部屋を見た。
あの頃とは全く違う部屋に何処かで安心する。
女性の影もない。
力なく、社長が倒れているだけだ。
その姿にくすりと笑う。
「今、笑っただろ?」
真が言うと同時にお腹が鳴る音が聞こえる。
「あ〜面倒だな。仕方ない、何処かにラーメンが…。」
起き上がりごそごそし始めた。
「社長、良かったらお弁当、食べますか?余り物ですけど、おにぎりとおかずを持って来たので。」
「いいの?」
振り返り子供のような顔をするので、思わず水菜は笑う。
「はい、良ければ。」
「やった!水菜の弁当、2回目だ!食べたかったんだよ!」
そのまま部屋から出て来て、ソファに座った。
お弁当を開けて渡し、おにぎりをひとつ渡した。
ひとつずつ、ラップで包んだおにぎりを三つ持って来ていた。
「中身、全部梅干しなんですけど、平気ですか?」
「もちろん、頂きます。 ……うまっ!」
「大袈裟ですよ?おかず、唐揚げとウインナーと玉子焼きのみです。
おにぎり二つどうぞ。私はひとつで十分ですから。」
自分も食べながら言う。
「一つでいいのに何で三つ?」
「時間がかかったら、昼と夜の分にしようと思いまして。」
「掃除、終わった?」
「はい。簡単にですけど。また明日からよろしくお願いします。」
水菜は頭をぺこりと下げた。
「こちらこそ。」
真は内心、ウキウキで、水菜から目が離せなかった。
それを気付かれないように、水菜が顔を向けると目を逸らしていた。
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