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ベターの共同開発の仕事と、新規の会社への新システム導入の依頼。
年明け1月はこの2本がエタエモの大きな仕事となった。
大きな、という意味で仕事はこれだけではない。
通常業務の様にそれぞれのチームで、個人で依頼されて振り分けられた仕事はある。
システム管理だったり、HP管理だったり、大手の会社のHPともなれば毎日手は抜けない。
チームや個人の仕事量、能力を考えて社長は仕事を振り分けている。
それは主に副社長である立花がしているが、人がいないとなると全て真が一人で背負っていた。
だから多少怒られようが機嫌が悪かろうが、みんな社長には何も言わない。
半年前ここにいた時も…真の、
ーー「あぁ……いいわ。俺やるわ。その方が早そうだ。」
と、言った言葉が水菜の脳裏には残っていた。
まるで誰も信用していない、「一人でいい」……そう言っている様に聴こえて、少し悲しく感じたからだ。
1月も半ばになり、高橋は秘書とSEの両立を器用にこなしていた。
「水菜!また、ボーっとして…また、こんな隅だし…。」
声をかけられて顔を上げた。
「だって……。七瀬さん目立つんですよ?お弁当なんて渡してて、うちの会社の人が見たらどう思います?」
水菜が言うと、真は隣に座る。
木製のベンチが観葉植物の周りに四角く配置されているフリーフロア。
タワービル使用者なら誰でも自由に出入り出来る。
いつも水菜はここで食べるらしいが、一人の時はテレビの近くで真が来る時はエレベーターから一番遠い、隅っこだ。
「ここは、うちの会社より、上の階の人が多いよ。
ほら、なんて言ったかな?フリーデスク?このビルの中なら何処でも自由に仕事していいってスタイル。」
「へぇ……。なんか、自由ですね。あ、お弁当どうぞ。」
お弁当を出して両手で手渡す。
「ありがとう。」
真もそれを両手で受け取り頭を下げる。
「わざとらしいですよ?大した物は入ってませんからね?」
と言い、水菜も自分のお弁当箱を膝に乗せて開ける。
蓋を真との間に起き、そこにお茶のカップを二つ置いた。
「おお、うまっ。」
「大袈裟ですって…。」
年が明けてからは週に4回位のペースで、水菜はお弁当を作っていた。
この場所で二人でひっそりと食べる。
梨香にも話していなくて、どう話したらいいか複雑だったからだ。
「水菜どう?今の仕事。きつかったりしない?」
お弁当を食べながら真は聞いた。
「半年前はいつもしゃ……いえ、七瀬さんと一緒で動いてましたけど、高橋さんのお陰でスケジュール管理もダブルチェックですし、ひとつの会社に集中出来るのは有難いです。クライアントは大手の広告代理店ですし、担当者は女性と男性の二人なので連絡も付きやすいです。」
「水菜ってさ、仕事の時、無表情になるのな?」
くっくっ…と笑いながら真が言う。
「そうですか?でも、真剣に考える時に真剣な顔になるのは普通では?」
「真剣な顔が無表情なんだ。へぇ〜面白い。」
「人の顔を観察して遊ばないで下さい。」
「悔しいなら、水菜も俺の顔を観察すればいい。」
と、真面目な顔を向けられ少しドキッ!とした。
「しません!」
ぷいっと横を向いて食事を続けた。
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