新しい一年

7/7
前へ
/201ページ
次へ
一月後半になり、ベタークリエイティブとの共同開発は終盤を迎えていた。 社長は最後を乗り越え、後は細かい動きの確認となり、それは高橋に割り当てられた。 「んーーー!嫌な仕事終わり!じゃあ、水菜、明日からの俺の予定教えて。」 コーヒーを運んで来た水菜に聞く。 「明日はお休みです。副社長が労働基準法上、休みは取る様にと。 こちらは期日もまだありますし、山岡主任がチームで対応していますので合流する前にお休みを取って下さい。」 「いや、でも…。」 真は本来、休みはいらない。 自宅にも長い休みしか帰らない。 何処に自宅があるかも誰も知らないくらい社長室に住んでいる。 「主」だ。 言葉を発する瞬間に水菜に言われる。 「社長自らお休みを率先して取るのはいい事ですよ?」 「でも、俺のする事って、ほぼゲームだけど?」 ため息を吐き、真の顔を水菜は見た。 「たまには画面から離れてみるのはどうですか?目だって悪くなりそうだし、身の回りの買い物とかご自宅の掃除とか良いんですか?」 「掃除は週一でくるし、家はほとんど帰らないし、服は…だいたい、1週間パターンで決まってる。色違いでまとめ買い。ここ用と外用。一年に一度くらいしか買い物いかないかな?頼めば持ってくるし…。」 「社長……私が言うのも何ですけど、ご自分の物は選ばれた方が楽しいかと思いますが…。」 水菜の反応に真は興味が湧く。 「水菜、買い物いかないの?普段。」 「ここに就職が決まって、何点か服は買いに参りました。 ただ勿体ないので、上下別で買い、出来るだけ違うもの同士で合わせて、毎朝コーディネートには苦労しています。」 「うちの給料、入ってるよね?」 勿体ない、という言葉に真は思わず聞いた。 「はい。有り難い事に良いお給料を頂いております。 でもお金持ちというわけではないですし、例えそうでも必要最小限でいいと思っておりますので…。」 「相変わらず真面目だね…。そういう水菜の休みは?エタエモは週休二日制だ。みんなどこかで代休をとる。日曜しか取ってないだろ?」 「日曜も取ってない方に言われたくないですけど…。 今の仕事、いつもそうですけど、大きな依頼の前半は連絡が中心です。 こちらは担当者として窓口になっているのは私一人ですので、前半にお休みは頂けません。もう少ししたらぼちぼち取ります。」 「ふむ…。それは労働基準法にどうなんだろうね?」 「は?」 「よし、水菜、明日休み。俺と買い物。お互い少し仕事を離れよう。」 「は?先方からの連絡は?」 「幸人にファイル渡せばいい。あいつはそういうの上手い。一日位は何とでもなる。相手が連絡してこないかもしれない。 水菜は休み、今から幸人に話してくる!」 「ええっ?社長!ちょ……。」 呆然と、開きっぱなしのドアを見た。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6870人が本棚に入れています
本棚に追加