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共同開発の契約は順調に進み、当初の予定通り、社長は印鑑を押した。
その場で立ち上がり握手をしていると、ベターの女子社員がシャンパンを持って現れた。
「せっかくですから、軽く飲んで食べて行ってください。前祝いです。」
ベター社長の岩永が言い、和やかに歓談が始まった。
会議室のテーブルの上にオードブルの様な摘める物がお皿に載せて運ばれて、水菜も一口お呼ばれした。
社長は高橋と、依頼人とその依頼人と顔見知りだったというベターの社員と話をしていた。
壁に寄り、邪魔しないようにそれを見ていた。
鞄のマナーモードにしていたスマホが振動した。
廊下に出て電話を取り出した。
知らない番号…エタエモの誰かかもしれないし、取引先の人が携帯が壊れたとかで番号を変えたかもしれないと思った。
「もしもし?石原です。」
『岩永です。』
電話の向こうの声に驚いて、ドアの真ん中のガラス部分から顔を出して部屋の中を見た。
さっきまでそこに姿のあった岩永社長の姿がなかった。
「どうかされましたか?まだ、皆さま……。」
言葉の途中で止められた。
『いいんだ。暫く歓談していて頂きたい。石原さん、これで最後。面白いものもあるんだ。エタエモの社長のスキャンダル。そこからまっすぐ、目の前にうちの可愛い秘書いるでしょ?案内させるから社長室に来てくれる?」
「興味はありません。お仕事のお話でしたら…お断りします。」
『そう?それなら顔を見て断ってよ。それに、来てくれないなら、すぐに週刊誌に売っちゃうよ?いいならいいけど、結構なダメージだと思うな。じゃあ、待ってるね。』
一方的に電話を切られて悩んだ。
(断るなら顔を見て?きちんと対応して断って来たつもりなんだけど…。それに七瀬社長のスキャンダル? そんなの出して、共同開発しているベターにだって、いい事はないでしょ?何を考えているのだろう?)
まずは確認すること、そう考えてベターの秘書に社長室に案内してもらった。
歩きながら祝杯をあげる部屋の中をチラッと見た。
(社長には高橋さんが付いているし、立花さんもいる。無茶な飲み方はしないでしょう。
早く帰りたいと言っていたし……。私も手早く、失礼しよう。)
そう考えて社長室に向かった。
鞄の中をゴソゴソしながら前を歩く秘書と少し距離を取った。
廊下を曲がった一番奥に社長室はあった。
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