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「岩永社長…七瀬社長のスキャンダル…って何ですか?
来たら教えて頂けると思ってました。
面白そうです。」
笑顔を向けて言うと、岩永は大きく笑い、背中側に置いてあったのだろう…大きめの茶封筒を出した。
手を伸ばして、テーブルの上にあるそれを取り、中を見た。
二枚の写真、ラブホテルに入る七瀬と梨香。
そこから出て来る二人。
トラウマが…顔を出し始めた。
指が震えた。
そんな水菜の様子には気付きもせずに、楽しそうに微笑んで岩永は話した。
「二人は同じ会社の幼馴染だそうですね。しかも、女性の方は驚いた事に副社長の立花さんの奥さんだとか。不倫…ですかねぇ。
これを見たら、立花さんはエタエモを辞めますね?
私なら辞める!そんな男が社長の会社にはいたくない。
エタエモの営業、経理は立花さんで持っていると聞いています。
これは大きな痛手ですよね?」
水菜は大きく深呼吸をする。
何度も…何度も…。
(大丈夫。梨香は…そんな人じゃない。七瀬さんが好きならその時点で立花さんにはっきり話す人だ。七瀬さんも、面倒が嫌だからセフレがいた。
不倫…何て面倒な事、自分からするはずはない。)
ーー「幼馴染だけど、男友達、姉貴みたいな感じなんだ。男女の気持ちはないよ。」
真の言葉を思い出す。
(七瀬さんの言った事を信じる。私に接してくれている梨香を信じる。)
息を大きく吸い、岩永を水菜は見てから呆れた様な声で答えた。
「こんな写真は無駄ですね。今時は写真も簡単に操作出来ます。会社から出たとこでも、食事から出たとこでも撮って、背景を変える事は簡単です。
ベターさんもITのプロですもの。
今回の件はお断りします。私は一人がいいんです。
岩永さんとエタエモ潰しをする気はありません。
二度と、この様なお話でお呼びになるのはやめて下さい。」
席を立ち、岩永の座る横を通過して、ドアの数歩手前に来た時、岩永が声を出した。
「今の話を全て聞いて、ここから無事に帰れるとでも?引き受けなければ、帰らせないよ?」
「社長のスキャンダルを流す、とまで言われて呼ばれたのに、私が自衛もなく素直に来るとお思いですか?」
水菜が言った瞬間、顔色が変わり、水菜のスーツの上着を強引に引っ張っり、それに抵抗した水菜が後ろへひっくり返る形になった。
投げ出された様に、体はザザッと滑り、壁に叩きつけられる事で止まった。
スーツの上着は内ポケットが破れて、中身が転がり出た。
「はっ!ICレコーダーね……。これを潰せば終わりだ。
生意気な!俺が何度も誘ってやっているのに…。俺の女にしてやろうと思ってたのに!お前だってそれくらい察していただろう!」
怒号と共に、レコーダーを投げつけられた。
テーブルの上の小さめなガラスの灰皿を手にして、岩永はそれを水菜目掛けて投げつけた。
膝を曲げて横向きに頭を庇い縮こまると、膝の横あたりの床に叩きつけられ割れた。
身体が震えて、息が苦しくなった。
なぜか、目の前のこの男に負けたくないと、水菜は思った。
上半身を起こして、震える体を両手で抑えて、息苦しさに耐えながら睨み返して言った。
「レコーダー、くらい…壊しても…無駄。」
「は?」
肩で息をしながら、見下ろす岩永を睨んで言った。
「危険を……感じて、いたら……それくらい、普通です。
今の会話は……最初から……エタエモにいる人に、通話で繋がっています。
向こうでは…録音もしているはずです!
何をしても!岩永さんの言い分は通りません!!」
岩永が手を上げて、水菜の頬を叩いた瞬間、ドアが開き、高橋と七瀬が慌てて入って来た。
七瀬の手にスマホが握られていて、梨香から連絡を受けたのだと理解した。
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