共同開発の終わり

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水菜を見た瞬間、真は岩永の胸ぐらを掴み一発殴ろうとする。 「岩永!てめ…ぇ…。水菜、殴りやがったな!」 入って来た立花に止められる。 「何でだ!放せ、幸人!」 「高橋、岩永さんをさっきの部屋に連れて行って。まだ依頼会社の人がいる。 この騒ぎを自分で説明させて。違う様なら訂正して。俺もすぐ行くから。」 「分かりました。」 岩永を後ろから捕まえていた高橋が彼を連れ出して行く。 「岩永さん、ここの社長は貴方だ。ここで起こった騒ぎの説明は…するべきでしょうね。」 部屋から出る岩永に立花が言った。 「放せ!」 背後から腕の下に腕を通されて、がっちりと幸人に捕まっている真は抵抗した。 「怒るなよ?岩永追いかけないって誓えるか?」 冷静な幸人の声に真も返した。 「追いかけねぇ。水菜の手当てが先。」 「うん、冷静。じゃあ、俺は向こうに行くから、石原さんは任せたから。」 と、言い残して幸人は部屋を閉めて出て行った。 「水菜?すぐ帰ろう。顔、冷やさないと…。足も、擦りむいてる。 梨香、待ってるよ?」 優しい声で真は水菜に話しかけた。 座ったまま震える身体を両手で抱きしめて、水菜は顔だけを上げた。 「す、みません。ご迷惑を…。ちょっと、立てなくて……。 大丈夫です。もう少ししたら…立てると思うので……。社長も副社長の所に先に、行ってて下さい。後で…合流します。」 「アホ水菜!」 「え?」 ばさっと、頭からスーツの上着を被された。 上着の上から直接触らない様にギュッと抱きしめられた。 何が起きているか分からず、水菜は震える身体を抑える事に必死だった。 「発作じゃない…。こんな物投げられたら普通は怖い。俺でも怖い。 身体の震えは、驚きと怖さからだ。怖いと、言っていいんだ。 普通の事だ。俺にはいくらでも迷惑かけていいんだ。 怖い、助けて、そう言えばいい。当たり前の事だ。 因みにさっき梨香は電話で、さっさと行きなさいよ、ぼけ!女性が意味不明の言い掛かりを付けられているのよ!助けるのは男の役目でしょ! 遅いのよ、ぼけ!…と連呼された。どう思う?」 「ぼけ………。」 思わずくすりと笑う。 身体の震えが少しずつ止まって行く。 暖かい何かが、身体を巡る気がした。 「機転の利いたいい判断だった。良くやった。」 頭を撫でられて一気に涙が出た。 七瀬社長はしばらく泣かせてくれた。 一人で、いい…と思っていた。 でも、今ここに一人じゃない事が幸せだと思えた。 「岩永……どうしたい?」 泣き止んで最初に社長に聞かれた。 「被害の写真を撮っていいですか?この部屋も。 被害届に期限はないはずです。向こうがどうなったか、社に帰って梨香とも相談したいです。私個人の問題ではなく、エタエモにも関係している事ですから。」 「分かった。写真は撮る。」 暫くその現場の写真を社長は撮り、最後に水菜の顔を撮った。 「痛かったな。ごめんな?」 無言で首を振り、迎えに来た副社長と高橋さんと会社に戻った。 梨香が凄く心配した顔で抱き締めて迎えてくれた。 一人では…なかった。
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