一番、得したのは?

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「真、いいかな?」 ドアをノックすると同時に幸人は社長室に入る。 真は自分の机で作業中だ。 「んー?何?」 「この間言ってた、料理サイト、うちのアプリ入れてくれるって。」 「本当か?」 「ああ、打ち合わせ、先方と連絡取るように高橋に言っておく。」 「なぁ、幸人。」 ドアを閉めようとして幸人は真に引き止められる。 「んー?」 さっきと逆の受け答えになる。 「水菜さぁ、いい拾いもんだったかもな?」 「石原さん?拾いもんて…お前なぁ。」 「悪い意味じゃなくて!俺さ、面倒は嫌だったんだよ。 仕事の邪魔になるのも、アイデア浮かんだとこで話を強制的に聞かされるのも、泣かれるのも、そういうの?全部面倒でセフレに逃げてた。」 少し呆れた様に幸人は聞いた。 「石原さんは面倒じゃないの?」 「面倒だ……。今までで一番面倒。一番、表情が気になる。 仕事しててもチラッと見てしまうし、声に元気がないと気になるし、それこそ、俺の頭にアンテナが立ってて、受信してる気がする。 受信できないと不安になるし、すっごい面倒だ。 けど…それが嫌じゃない。モニターの中で十分なのに、水菜は枠からはみ出して行くから、俺はそれを追いかけるのに必死だ。 大変なのにやめられない。」 「それはそれは……ご苦労様だね?」 相変わらず呆れ気味に聞いている。 「ご苦労どころじゃない。俺は最近、ジョギングを始めた。」 「は?見た事ないけど?」 「部屋の中にある。」 言われて真の前を通過して、木の扉を静かに開きに行き、覗く。 ベッドの横、奥の方にジョギングマシーン。 「あれ…足踏みするやつ?」 そっと閉めながら聞いた。 「足踏み?とんでもない。普通に速歩き。今の精一杯。」 カタカタ、キーボードを鳴らしながら、真は答えた。 「運動?それともストレス解消?セフレいないから?」 ソファに座り幸人は聞いた。 (ストレス解消と言われたら、セフレも石原さんには悪いが考え直さないと…仕事に支障が出ても困る。) 有能で冷静な副社長はそう考えていた。 「運動だな…。水菜はああ見えて運動能力が凄いんだ。本気で走ると置いていかれる。追いつくのが今の目標だ。」 少し幸人は考える。 「…つまりあれか?今のお前の生活は石原さん中心で動いていて、彼女にアンテナを張り、面倒を嬉しく思い、彼女に合わせて運動能力を上げようとしている…と言うことか。」 「そういうことだ。」 カタカタ鳴る中で幸人は笑う。 「はっ!お前がな?仕事頼むぞ?筋肉痛とか言うなよ?」 立ち上がってドアを開けた。 「仕事は優先、水菜は仕事のできない男は嫌いらしい。 俺の開発したアプリは便利で好きだって。手は抜けない。」 「はぁ〜〜。驚きだね。ま、仕事してくれるなら問題ない。 どんな悪女と付き合っても文句はない。今までそうだったろ? 石原さんは歓迎する。少し厄介だけどな?」 「そこがいい!」 「はいはい。」 バタンとドアが閉まった。 「まさか真があそこまで入れ込むとはね……。 いい人材に間違いはなかったな。ベターの一件ではかなりの儲けがでたし、 社長は完全仕事モード。梨香も遠慮なく産休に入れる。うん…得したね。」 幸人は言いながら副社長室のドアを開けた。
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