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朝一の会議を終わらせた真が、ヨロヨロと社長室に戻った。
「お帰りなさい。午後から予定通り、山岡主任チームの仕事に合流して頂きます。午後に山岡主任が現状の進行状況の説明に参りますので、それまで仮眠時間を取りました。3時間程ですがお休み下さい。」
「有難い…。じゃあ、寝かせてもらう。これ、幸人に渡しておいて。」
机から離れる前にデータを水菜に渡した。
「何のデータですか?」
「んー新作アプリ。それを元に、打ち合わせしたらスムーズかなぁと思って。」
「では副社長に見せてから、打ち合わせの日時を先方と相談致します。」
「うん、よろしくー。お休み〜。」
後ろ向きで手を挙げて、真はプライベートスペースの扉を開けた。
「13時頃、起こしに参りますね。」
水菜が声を掛けると驚いた顔で振り向いた。
「今…なんて言った?」
「え?なんて…って、起こしに参りますね?」
「起こすには…この部屋に近付かないと…無理だけど?」
「そう、ですね?でも、起こしませんと…。」
キョトンとした顔で水菜は言った。
「平気……なのか?この、部屋……。」
その質問に優しい表情で水菜は微笑む。
「過去ばかり気にしては前に進めませんから。それに例え発作がでても、しゃ…七瀬さんはきっと、私を見捨てずにいてくれるともう、知っていますから…。だから大丈夫です。」
微笑みに見惚れた。
「水菜……。」
「はい。」
「水菜。」
「はい?」
「呼んだら返事をしてくれる。これは凄いことだね。モニターの中にはない世界だ。」
真は何故か少し涙目だ。
それを不思議に思いながら水菜は言葉を返した。
「画面の中でも、音声やチャットはあるでしょう?呼べば返事は返って来ますけど?」
冷静な回答。
「水菜……そういうとこも好きだけどさ…。冷たいよね?」
「は?冷たくないですよ!早くおやすみ下さい!」
少し怒られて真はベッドに入った。
顔はにやけたままだった。
(面接では俺をがん無視してた。水菜⤴︎と呼ぶと不機嫌な顔で睨んでた。
それでも淡々といつも冷静で、俺など相手にしてられない…そういう顔だった。笑ってくれる。呼べば返事をしてくれる。笑顔まで向けてくれる。
これはさ……チャットにはないんだよ?)
真は感動しながら眠りに就いた。
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