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「いただきます」
美味しそうにお弁当を食べる真を水菜は見ていた。
元カレにもお弁当のみならず、夕食を作りに部屋に行ったりしていた。
別れる時、言われたなと思い出す。
ーー「貧乏臭い!おばあちゃんの弁当かよ!」
ーー「若いんだよ?魚ばっかり食えるか?そういうとこ地味なんだよ。」
「そういう事…言ってくれてたら良かったのになぁ……。」
ボーっとしたまま、ポツリと呟いた。
「ん?何を言えばいいの?お弁当の感想?超絶、美味いけど?」
真に言われて、我に返る。
「あ、すみません。ちょっと、考えごとを…。」
下を向き、恥ずかしくなり顔を隠した。
「水菜!下向いたら、お弁当の美味しさが2割減る。」
真の妙な発言に思わず顔を上げる。
「2割…て、何ですか?」
もぐもぐしている間も水菜の顔を見ている。
口の動きが止まると、真は話し始める。
「水菜の弁当を食べながら、水菜の顔を見る。これで完璧な美味しさだ!
水菜の顔が見えないと2割減るんだ。ちゃんと顔見せて!」
「へ…らないと思いますけど?」
呆然と水菜は返す。
「いや、減るね!お弁当はさ、見かけも大事とか言うけど、水菜、色取りもちゃんと考えてるし、その前に栄養を考えてる。
誰に何を言われたかは知らないし聞かないけど、俺は言いたい事はちゃんと言う!今までもそうだった。水菜の弁当は旨い!野菜苦手な俺のためにさりげなく野菜が入ってる。水菜の弁当なら美味しく野菜を食べられる。
俺の世界が広がるんだ。」
「喧嘩したのに?」
ごちそうさまの声を聞いて、お弁当を受け取り片付ける。
「喧嘩かな?あれはさ俺が悪い。子供だった。素直に話し掛ければいいのに、それも出来ないからこっち見て欲しくて絡んだ。」
「だった? ……今でも十分、子供みたいですよ?」
笑いながら水菜が言うと真は反論する。
「だって…お弁当作ってこいとか手を繋いでデートだとか、社長がされる事とは思えません。」
笑いながら鞄にお弁当をしまう。
「そういうのは…嫌いか?」
真に聞かれて、また水菜は笑う。
「なぁ、返事は?」
笑い続ける水菜に真がさらに聞く。
「…嫌いではないですよ?でも、七瀬さんのみですね。手を焼くのは一人で十分ですから…。あ、そろそろお時間ですね。
私は階段側に待機しております。」
「あ、水菜!」
階段の方に歩いて行く後ろ姿に声を掛ける。
「明日、夕飯どうかな?お弁当のお礼。一人じゃ外食しないし…。」
振り返り、水菜は優しい笑顔。
「いいですよ?七瀬さんの奢りですよね?」
と笑う。
「勿論、行きたいとこ…考えといて。絶対!約束だからな!」
「はい、分かりました。」
くすくすと水菜の笑い声が聞こえる。
スーツの効果か、笑顔の効果か、それともベター事件でトラウマが落ち着いたのか……水菜はどんどん綺麗になっている気がした。
真も笑顔のまま、山岡主任を社長室に招き入れた。
主任だけがいつもと違う社長に戸惑っていた。
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