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一階ホールで社員証兼パスを受け取り、梨香に説明されながらエレベーターに乗った。
無難に水色のワイシャツと、紺のツータックのズボンを選んだ。
上に白のカーディガンを着ていた。
(爽やか系なら間違いはない……。)
梨香も全然いいよーと言ってくれたので安心した。
30階に着くと仕事部屋の説明を受ける。
「私のいる隣の部屋とはドアで繋がってるからいつでも来てね。
私も社長に用がある時はここの階段を使うから。
毎朝、9時に社長室に行って一日のスケジュールを確認して報告。
追加があればその時に。後は部屋で待機。
メールが届いたら目を通して、至急ぽいなら社長に報告。
これ、押すと直通で社長に話せるから。向こうからも急に音がして驚くけどね。押すと通話ね。メールは社長のパソにも届いてるの。
全部見てる時間はないから、代わりに見て報告、必要な分を社長が確認するわ。」
「内線電話じゃないんですね。」
「受話器取るのが面倒なの。社長はパソコンから繋いでいて、キー押すだけ。
とにかく忙しい時は異様な合理的主義だから。
まぁ、暴力はないし?暴言はあるけど、慣れたら無視すればいいから。」
(えっ?社長を無視するの?あり?)
「今日は最初だから、月曜日だけ朝礼があるの。簡単なものだけど。社員に紹介するわね。挨拶だけしてね。」
「はい。」
副社長の立花さんは朝礼に参加していたけど、社長は不参加だった。
いつもそうらしい。
立花に紹介されて前に出て挨拶をした。
スーツ姿が営業、スエットや色シャツがエンジニアだとすぐに分かった。
「いつまで続くかな?」
ボソボソとそんな会話が聴こえた。
朝礼を終えて、スケジュールを持ち、深呼吸して階段を上がった。
椅子には社長の姿はなかった。
少し空いている後ろの壁……。
社長の休憩室だと聞いていた。
申し訳ないし悩んだが声を掛けた。
「お邪魔します。おはよう……ご、ざいます。」
「ん?もう朝?あれ?水菜?」
ドアの影に隠れて、声だけを張る。
「すみません。朝礼も終わりましたので、スケジュール確認に参りましたが、また後で出直します。」
「え?いいよ。すぐ支度するから。」
社長は寝ぼけているのだろうかと、水菜は思った。
「そちらの女性がお見えですので、お帰りになるまで失礼します。」
そのまま静かに、僅かに開いている扉を閉めた。
社長も女性も裸で何をしていたかは一目瞭然だった。
「え?水菜、今日からだった?月曜から………。月曜か!」
七瀬 真は頭を抱えた。
(しまった!日曜かと思ってた。
いや。そこまで気を使う必要あるか?従業員だ。秘書だ。)
女性を起こして帰るように伝え、シャワーを浴びて椅子に座った。
間も無く女性は階段を下りて来て、まるで水菜は見えないかの様にドアを出て行った。
(これが、梨香さんの話していた病気…か。ジムに行かず来てもらう。
それ位に考えて…かぁ。)
頭を抱えた。
トラウマが心の奥から立ち上がる気がする。
(大丈夫、大丈夫。現場を直で見たわけじゃないし、あれは社長で、好きな人でもない…。傷付かない…。)
自分に言い聞かせて女性が帰って10分してから、階段を上がった。
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