苦い過去、その1

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苦い過去、その1

石原 水菜(いしはら みずな) 高校を卒業して、就職を選び上京。 家賃の安いところを見つけて、自分なりの過ごしやすい部屋に模様変え。 仕事も覚えて、それなりに何とかなり始めた頃、会社の人に歓迎会と言われて駅前の居酒屋に連れて行かれた。 飲めないから、食事だけ頂いてお開きになる。 社長が会計を済ませてお礼を言い、店をぞろぞろ出始めて、最後に出ようとすると声を掛けられた。 「石原? もしかして石原水菜?」 「え?北本君?高校の?」 「そう、凄いな?こんなとこで会うなんて。」 高校の同級生。 田舎から出て来て、こんなとこで会うのは確かに凄いと思えた。 だから思わず連絡先を交換してしまった。 何度かご飯のお誘いの連絡があり、何度か断るも、粘り強く誘ってくれるので、一度だけと思い約束をした。 派手なイメージだったけど話してみたら真面目で楽しかった。 彼は大学に通っていた。 1ヶ月後にはカレカノになってた。 初めての彼氏で浮かれていたかもしれない。 アパートの鍵ももらって、嬉しかった。 掃除に行ったり、食事を作ったり、押しかけ女房だったと思う。 仕事が早く終わり彼のアパートに行った。 (寝てるかも…今、レポート忙しいって話してたし…。) 鍵を静かに開けて入ると、女性の喘ぎ声。 頭が真っ白になる。 「いいの?彼女、いたんでしょ?」 喘ぎ声の主が話す声が聞こえる。 「知ってて来たんでしょ?色々、やってくれるんだけどさ、貧乏臭いって言うの?彼女っていうよりは母親? こういうのもまだだしね?」 「ん、なんで?どの、くらい、付き合ってんの?」 「半年?出来ないのは、彼女って言うか?」 「あん!」 ショック過ぎて、震える指で鍵をテーブルに乗せた。 口を手で塞ぎながら、女性の喘ぎ声を聞きながら、後ろ向きにそろそろと下がり、静かに玄関を閉めた。 次の日に、彼からメールが来た。 ショックでそれも忘れていた。 『昨日、来た?朝、テーブルに鍵があったから、何時頃来たの?』 (寝ないと浮気されてもしょうがないのかな?) アドレスを消去した。 今までのメールも消去した。 着信拒否もした。 初めての彼に教えられたのは、彼女になったら寝ないとダメ。
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