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苦い過去、その2
20歳になり、休みの日に映画を見に行って、横にいた人が映画が終わると、凄く号泣していて、街で配っていたティッシュを渡した。
「いや、悪いし…。」
「これ、配っているのだから。気にしないで。じゃあ。」
映画館を出た所で、彼は走って追いかけて来た。
「お礼、させて?今の映画の話、しない?」
優しそうな笑顔だったから、思わず喫茶店まで同行した。
楽しかった。
映画の話も、泣いていた彼も好感が持てた。
付き合い出すのに時間もかからなかった。
彼は地元の大学生で、家は隣の駅だと聞いた。
実家暮らしは息苦しいからと、大学に近い方でアパートを借りていると聞いた。
初めて行った時は驚いた。
マンションだった。2LDK、一人暮らしに、凄いなと思った。
ここでも彼に鍵をもらった。
受け取ると過去の彼を思い出す。
「いい……。こういうのは、いらない。」
拒否をすると、笑いながら言う。
「隠す事はありませんって証明でしょ?遠慮なく遊びに来てよ。
レポートで忙しい時は相手できないけど、会えたら嬉しいし。」
照れた笑顔に負けて、鍵を受け取った。
これが失敗の始まり。
大学四年生の彼は本当に忙しくて、レポートを手伝う事もあった。
「ここから引用して、ここまで。パソコン使えるよね?」
「うん、分かった。」
引用するレポートでいいなら私でも大学行けたな…とか思いつつ、パソコンに入力して印刷した。
この頃、パソコン面白いかも、と思い、会社で使うだけだったけど、情報処理というよく分からないけど夜間の専門学校に通い出して、自分でノーパソを奮発して買った。
専門学校の休みだったから、夕飯を作りに彼の部屋に行った。
鍵を開けた瞬間、嫌な思い出が一気に現れた。
玄関横の部屋から声が聞こえた。
(ああ……あの声だ。彼とは……寝たけど……。)
そっとドアを開けた。
裸の二人、誤解だという彼と、悲鳴をあげる女。
(サイテーだ。)
手にした鍵を握りしめた。
「誤解だよ。」
言いながら布団を下半身に巻いて歩いてくる男の何が誤解なのか、と思ってしまい、近付いて来るのも嫌になる。
思わず、顔に鍵を投げ付けた。
「誤解じゃない!お邪魔しました。もう二度と来ないから!さようなら!」
「みい、誤解だよ!」
玄関をバンと閉めて走って逃げた。
追い掛けても来なかった。
一年も付き合って、寝て、結果、同じ。
泣きながら家に帰る、自分が悪いのかと思う。
嫌になった。
もう、男はいらない……辛い思いをして、痛いのを我慢してしたのに、いい事なんて何もなかった。
二番目の彼から学んだのは、パソコンの面白さ。
石原水菜は、もう二度と彼氏は作らない。
一人が気楽。
そこに行き着くと、服も変わった。
地味な色を選んだ。
二度と声なんてかけられない様に。
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