水菜がいない

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『コーヒー』 「失礼します。どうぞ。」 午前の会議をぼーっとこなしたので、水菜がいなくてもキレる事もなかった。 部屋に戻ってコーヒーを頼んだ。 梨香が持って来て半年前に戻った気分だ。 昼食をパンで済ませて、午後一でキーを押した。 「コーヒー。」 「失礼します。午後から秘書として配属しました。自己紹介を…。」 「はい、高橋知樹と言います。七瀬さんに憧れていて、全力で頑張ります。」 「頑張れば?」 興味もなければ、耳に入る言葉もどうでもいい。 素っ気なく、ぼーっとしたまま返事をした。 「真!クビにしたら、私、本当に!怒るから。行こう、高橋くん。」 梨香が階段に向かうと真が声を掛けた。 「なぁ!体調不良って、どういう感じなんだ?入院とかしてるのか?危ないのか?実家って何処?」 「実家まで聞いてません。入院するほどではないと聞いてます。実家がのんびりできていいと、聞いております。それだけです。では失礼しました。」 梨香が階段を下りて行くのを見る。 (昨日まであの後ろ姿は水菜だった。笑ってくれた。七瀬さんと呼んでくれた。彼女は俺の何? ただもっと笑って…名前を呼んで…欲しかっただけ。それももう無理なのか?) 「水菜がいない………。」 キーを押す。 「コーヒー」 『はい、すぐに…。』 「水菜の声じゃない……。」 「失礼します。コーヒーです。」 一口飲むと、壁にカップを投げた。 「水菜のコーヒーじゃない!!」 新人、高橋はオロオロしていた。
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