何処が好き?

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部屋に戻り、ぼーっとしながら考えた。 (俺は彼女の何処が好き?) 今まで誰と付き合っても、寝ても好きだなんて思った事はない。 ちゃんとした恋愛をした事のない男だ。 恋愛は面倒で仕事の邪魔。 だからこそのセフレだった。 (水菜は、初めて見た時…目を奪われた。 地味だけど、綺麗な人だと思った。見てるうちに笑顔もいいなぁと思えた。 もっと見たくなった。) 「どうして……ストレスになる程、男性不信になったんだろう?」 笑ってくれた…最後には…俺に向けられた、俺にだけの笑顔だ。 それが嬉しくて堪らなかった。 「水菜……。」 (注意されたな。間違うなら上の名前で呼べと言われた。だから二度と間違えない様に気をつけた。) 「水菜、返事をしてほしい。顔が見たい。笑ってくれ。」 ただ…会いたい。 「実家に帰る?梨香、言ってたよな…もう帰ったのか?」 上着を手に水菜のアパートに出かけた。 夕方16時過ぎ、陽が落ち始めた。 水菜の部屋の前に到着してノックする。 しん…と静まりかえった部屋。 水菜は不在だと分かる。 30分過ぎても帰ってこない。 (いない…実家?) 考えを打ち消す様に頭を振った。 季節は11月…スーツの上着だけでは寒い。 「コート持ってくれば良かった…。」 後悔しながらドアの前に膝を抱えて座って待っていた。 (俺が…エタエモの社長が、こんな古いアパートの前で何してんのかな?) 頭が冷えるとそんな風に考えた。 (だけど、ここにいれば絶対に水菜が帰って来る。) それでどうしたいか聞かれたら困る。 真には自分の気持ちも行動も理解出来てない。 ただ会いたい。笑ってほしい。 今はそれしか分からなかった。 ポケットのスマホが鳴る。 「はい?」 鼻をすすりながら出ると幸人の声。 『おい!会えたのか?アパートだろ?』 「だからGPSって嫌いなんだよ…。」 スマホを見て吐き棄てる。 『もう、いい加減戻れ。システム作ってほしいし、ウイルス叩いて欲しいんだよ!』 「他にも出来るのはいるだろ?叩く位…。」 『それでも無理っていうのがあるから言ってるんだ!仕事が進まないなら、もう彼女の事は忘れろ。一時の気の迷いだ。梨香にだれか紹介してもらおう。な?笑顔の可愛い子。』 「俺は水菜が笑うのが見たいんだよ!!」 「は?しゃちょ〜じゃなくて……七瀬さん?何でそんなとこに?」 水菜が驚いた顔で真を見ていた。 スマホから聞こえる声を消した。 うるさくて水菜の声が聞こえない。 立ち上がり、話がしたい、と言おうとして声が出ない。 「ちょ…七瀬さん?いつから居たんですか?冷えてる。 とりあえず入って下さい。電気ストーブの前に…」 水菜は慌てて真を触り、冷たい事に気がつくと急いで部屋の鍵を開けて中に入れた。 それだけで真は体温が上がった気がしていた。
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