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五分程歩いて水菜は小さな店に入って行った。
「歩くの早いよな?息、切れた…。」
ゼーハー言いながら、電柱に隠れてそっと覗く。
入って行ったのは、お店。
すぐにエプロンに三角巾をした水菜が出て来て掃除をしていた。
暖簾には、「食事処 吉」
「あ、バイトしながら就職先を探すと言ってたな…。バイト先か。」
今日も元気そうで安心するが、通り過ぎる人に挨拶する顔は笑顔だ。
それに少しムッとする。
「俺には朝から笑顔はなかったのに…。」
店の中に水菜が入ったのを見てから店の前に近付く。
(開店は10時、7時閉店か。バイト先、ゲット!)
真面目に仕事をする約束だから、取り敢えず会社に戻る。
近いのが有難い…が、体力に自信がない。
商店街の様に店が並ぶ中、自転車屋を見つけた。
この辺りの店は9時開店が多いみたいだった。
開いたばかりだと思われる店に入り、ママチャリを一台その場で購入した。
帰りはそこから、その自転車で帰った。
歩きより速いし楽だし、結構、真は気に入っていた。
少し遅れて戻ると、梨香がおかんむりで社長室で説教が始まる。
「なぁ?梨香。」
「何よ?」
「秘書、戻していいぞ?高橋だったっけ?あの大きな男。」
「え?虐めて辞めさせる気?」
「するかよ!使えるか使えないかは見るけど、辞める辞めないは本人の自由なんだろ?梨香も、俺の秘書だと怒ってばっかで血管切れそうだしな?」
少し笑い真が言うと、梨香はそんな顔、久し振りだなと考える。
「じゃあ、明日から変わる。コーヒー投げるの禁止ね?」
「分かってる。それで今日の俺の昼の予定は?」
「あ、はい。えっ〜各チームのチーフを集めて、ランチミーティングです。」
「ん…。なぁ。明日から昼飯と同時な仕事入れないでもらいたい。
ランチミーティングとか、食事会兼ねて打ち合わせとか。」
「12時から13時は開けろと?」
「いや、時間じゃなくて、飯食べながら話したくない。美味しくないだろ?」
「……。」
少し間が空いて、
「真…そんな食べ物に執着する人間じゃないじゃない。」
と、梨香は呆れて言うが、真はそれに笑顔で答えた。
「俺は、美味しいご飯を知ってしまったんだよ…。」
不敵に笑い続けようとすると、梨香は強制的に終わらせて、
「失礼しましたぁ。」
と、部屋を出て行った。
「チッ…相変わらずだな。人の話は最後まで聞くもんだぞ?」
文句を言ってから仕事に取り掛かった。
明日からの楽しみの為に。
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