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高橋が出勤して秘書室を開けると、そこには既に水菜がいた。 「おはようございます。大丈夫なんですか?」 鞄を置き、スーツの上着を脱いで、定位置に掛けながら聞いた。 「おはようございます。これぐらいどうって事はありません。 腫れも引きましたし、昨日はありがとうございました。」 「いえ、自分は何も…。」 恐縮してから、高橋はスケジュール帳を手に水菜が帰った後の変更の話をした。 「昨日、立花さんから、社長に依頼で、料理サイトのアプリを作る仕事が入ったそうです。相手先と詳しく打ち合わせをと言われています。」 「ベターが終わったので、社長の案件は大きな物一つですね。 それに取りかかっている間に、打ち合わせの日程を決めればいいでしょうか。」 「そう思います。ただ今の大きな仕事、山岡主任チーム、結構苦労しているみたいです。社長が入っても長引くかもしれません。」 「これ以上、大きな案件は来月以降にして欲しいですね。」 水菜はスケジュールを見ながらため息をついた。 「あ、それ、珍しいですね?薄いピンクのグラデーションのスーツ。」 「あ、これですか?社長の買物に付き合って、ついでに買われました。 買って頂いて文句も言えませんし、少し恥ずかしいのですが…。」 「似合ってます!本当に。とても綺麗です。」 心から高橋は言い、水菜を見た。 少し悔しいが、社長のセンスはいいと思えた。 薄いピンクのグラデーションのスーツは、水菜の肌を血色よく見せていたし、大人っぽい細身のシルエットだが色は可愛らしさを引き立てていた。 「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか。 起きているといいですけど…。」 「寝てないんですか?」 「今、料理サイトのアプリの話したでしょう? 多分それを聞いたら夜でも取りかかってしまうと思うので…。」 高橋から順に階段を上がった。 社長室の机の上、スヤスヤと眠る真の顔があった。
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