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お姫様を攫え!
水菜が帰宅する音を、真は階段の上で四つん這いになったまま聴いていた。
ヒールの音が、いつもより冷たく響いている気がした。
しばらくそこにいてゾンビのようにモソッと起き上がり、プライベートスペースのベッドに倒れ込んだ。
机のモニターは付いたままで、
「「ゲームしようぜ!こんな時はゲームだよ!」」
と、真を誘っている気がした。
ヨロヨロと机に座り、ゲームを開始する。
終盤まで出来上がったゲーム。
最後の最後。お姫様を主人公が助けるシーンが、どうも気に入らない。
ざらにあるゲームと重なる。
「ダメだな。つまんねぇ〜。」
ため息を吐いて椅子の背に頭を預けた。
(水菜は、高橋に何て返事をするんだ。
明日かな?お願いします?ごめんなさい?
でも、もう半年……仕事は良いチームワークで仲良くやってる。
俺より一緒の時間は長いかもなぁ…。知らないとこで食事とか行ってて…そうじゃなきゃ……いきなりこの物件どうですか…なんて、言わないよな。)
「水菜は結婚してもここにいてくれるのかな?」
声に出すとリアルに想像が頭を駆け巡る。
結婚した水菜。
俺以外に笑顔を向けて、きっと真面目だから、今までみたいにお弁当は作るんだろうな。旦那と同じ物。服のプレゼントは拒否しそうだ。冷たい眼差しでいりません、とはっきり言うだろう。
椅子から飛び起きる。
「水菜は助けを待つお姫様じゃない…敵に捕まれば自分で逃げようとする。
お姫様が逃げてる最中に、攫っちゃえば良くないか?
そんなエンディングも良いよな?」
上着を取り雨の中、真は外へ出て行った。
(イエスだろうがノーだろうが、その前に攫えばいい!
嫌なら水菜はそう言うし、簡単に攫える女じゃないだろうしな…。)
珍しく強気な真は水菜のアパートに向かった。
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