七瀬 真

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七瀬 真

七瀬 真(ななせ しん)は、面接に浮かない顔を朝からしていた。 ーーセフレまで管理する秘書などいない!ーー と、梨香には言われていたし、この際使えるなら男でもいいかなぁと思い始めた。 「最後です。」 と言われて、下の部屋の映像を見た。 「今時、リクルートスーツ……。」 文句を言う。 親友で共同経営者の立花 幸人は、真面目そうでいいじゃないかと言う。 梨香はいつも通り俺の意見には無視を決めて、彼女を通した。 (あ〜あ、もう、どうでもいいやぁ。面倒だ。) 背もたれに身体を預け、反り返り、頭も後ろを見ていた。 「石原 水菜です。よろしくお願いします。」 名前に反応した。 驚いて椅子から落ちそうになった。 (みずな?みずなって言ったか?) 座り直して目の前の彼女を見た。 間違いなく、あの時の飲み屋の女だ。 ワイシャツにリクルートスーツ、地味でそれでもよく見れば清潔感があり、やっぱり美人だ。 (自覚ないのかな?ラインも綺麗だし、いいとこのお嬢様ぽい。勿体ない。) 幸人が話す間、彼女を観察した。 この二週間、あの飲み屋に一人で通っていた。 彼女は来なかった。 会えたらお金を返して謝ろうと思っていたからだ。 だけど俺の口からは自分でも驚く言葉が出る。 「謝れば正社員にする。」 当然のように彼女は俺に軽蔑の目を向けた。 何でか胸が痛んだ。 「御縁がありませんでした。」 丁寧に、幸人にだけ挨拶をして出て行った。 俺の言葉には何一つ、反応しなかった。 (つ、冷たい女………。) 「いい加減にしろ?何があった?まさかセフレ?一夜の相手か? 彼女のお前を見る目は、明らかに嫌いの目だぞ?」 彼女が出て行ってすぐに、横に座っていた幸人が俺の方を見て呆れて言った。 「嘘だろ…………。」 呆然と答えた。 「彼女にする!彼女…採用する!」 思わず叫んだ。 「はぁ?一夜の相手を採用できるか?」 「相手じゃない。手も繋いでない!見ただろ?さっきの顔。嫌われてる。 何もない。」 必死に否定した。 「何もないのに採用するのか?秘書としてはいいと思うけど、セフレの説明したら逃げんじゃないか?」 「しなくていい!あの子採用。いいよな?幸人。」 押し切って彼女を採用にした。 自分でも何でここまで執着するのか……興味を持ったのは初めてだと思った。
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