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1.真田灯
俺には、大切なヤツがいた。
幼馴染みで、気が付いたら隣にいた彼女。
俺がヤクザの息子だからっつって嫌煙されるようになってからも、俺がやさぐれてヤンキーになって更に周りから浮くようになってからも気にせずに話しかけて来るような、奇特な奴だった。
「ねぇ、涼ちゃん」
今日も俺が授業をサボって屋上にいるとそいつはやって来て、寝転がる俺の隣に座り、話しかけてきた。
「いい加減涼ちゃん呼ぶのやめろ。ぱっと聞いたら某大人気漫画の主人公の名前みてぇだろうが」
俺がそう言うと、彼女は不服そうに唇を尖らせた。
「何さ、格好つけようとしちゃって。いいじゃない、涼ちゃんは涼ちゃんだもん! りょーちゃーん!!」
「はぁ……お前な……」
俺が盛大にため息をつくと、彼女──真田 灯はニコッと笑った。
こいつの笑顔は、まるで太陽みたいだ。
キラキラと輝いて、何もかも吹っ飛ばしてくれそうな笑顔──……。
──この笑顔に惹かれてから、何年経つだろう?
俺はふとそんなことを考えた。
いつからだなんて、覚えていない。
だけど、俺は深くは考えようとはしなかった。
気が付いたら、俺はこいつのこの笑顔に惹かれて、こいつは俺のかけがえのない奴になっていた。
ただ、それだけだ。
それ以上もそれ以下もない。
でも、それを伝える気はない。
それを伝えてしまえば、こいつは離れて行っちまう気がしたから。
「太陽が欲しい」と思っても、太陽にはどう頑張ったって手が届かないものだ。
太陽は、こうして見ているだけでいい。
しかし──……。
「ねぇ、涼ちゃん」
「何だ」
俺が返事をすると、灯は嬉しそうに身をぐいっと乗り出してこう言った。
「私たち、付き合おっか!」
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