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──犬は好きじゃない。寧ろ……嫌い。
「ワンッ!」
「もう……なによポン太。静かにしてくれない?」
昼ドラを嗜みながらソファーに横たわり、菓子を摘み、怠惰を極めていた休日。いつもは二階の部屋でゴロゴロしているが、この犬っころはよく悪戯をするので目が離せない。さっきまで放ったらかしにしていたら、またクッションをガジガジと喰み、中に詰まっていたワタワタがそこら中に溢れかえっていた。
「ワンッ! フッシュ!」
勿論、片付けるのは彼女。そのままにしておくと、両親に「犬の世話も出来ないのかっ!」とどやされるのがいつものパターン。また怒られるのも面倒なので、監視のために今はポン太と同じ一階のリビングに居る。
「ワンワンッ!」
今日は、母は少し遠くに出かけ、父も仕事で家に居ない。一人娘である彼女は留守番兼ポン太の世話を任されていた。賢い犬なら彼女にとって本日はパラダイスだったろう。だが、そう上手く事は回らないものだ。
「キャン! キャンワン!」
もう5年くらい一緒に暮らしているが、ずっとこの調子で全く愛着が湧かない。親が出かけると必ず世話を押し付けられるし、ちょっと目を離すとすぐに粗相をする。そして、たまにこうしてよく吠える。嫌なワンコだ。
「ワンワン!!ワン!」
「あーっ! もうっ! うるっさいなぁ。なんなのよ!!」
億劫そうに彼女は身体を起こす。そして、見ていたドラマを一時停止し、ポン太へ叱咤を食らわす。
(猫も色々引っ掻いたりして面倒だけど、やっぱり犬の方が面倒臭いなぁ。何を求めているのかよく分からないし、よく吠えるし。あーやだやだ。)
「ワン!! ワン!」
「もうっ! ご飯ならまだだよ。」
「キャンキャン!! ワンキャン!!」
「はぁ……毎度毎度こんな面倒押し付けないでよ、ほんッと意味わかんない。」
ため息を吐き、ゴロンと横になった。
「クゥーン……クゥーン……ハッハッハッハッ」
「ちょっと、寄らないでよっ! もう〜。毛がつくでしょ。」
暖かくなってきた今日のこの頃。犬を飼っている人間が、黒い服を着ていたら地獄を見ることになるのは言うまでもない。それは犬に限った話ではないが──。
「ワン!」
「あ、どっかいった。また何か悪戯しようっていうの?」
一つ鳴き声をあげ、タタタタッと走り去っていった。と言っても、部屋の中なので首を回せば何をしているか見える。流石にもう遅いが、躾のために、悪事を働いた時に怒るという方法を実践してみる事にした。
ソファーから少し顔を覗かせ、観察する。
ちょいちょいと飛んで、なにかを取ろうとしていた。
「ん? あ、そうか。散歩か。」
リードを取ろうとしていたようだ。さっきから吠えまくっては消えていき、吠えまくっては消えていきを繰り返していた理由がやっと判明した。ここ3日ほどは母も散歩に連れて行っていない。
「ワンッ!」
目線に気づいたのか、彼女の方を向いて吠えた。
「……面倒くさい……けど、まぁ静かになるかもだしね。」
立ち上がり、リードを取る。首輪にセットし、袋をいくつか持ち、外へ出た。散歩中は、なんとも大人しいものだった。吠えもしない。たまに勝手に少し走って、あとは後ろをついてくる。
「よしよし良い子だぞ〜ポン太。」
(いつもこうなら良いのに。)
大人しいと案外可愛く見えてくる。どこにでもいそうな芝犬だが、彼女は芝犬を写真などで見るのは好きだった。ふわふわの頭を撫で付けると、手をペロペロと舐めてくる。
10分15分ほどでぐるりと辺りを一周し、家へ戻ってきた。玄関で足の裏を拭いてやり、リビングへ犬を戻した。
「はぁっ。」
再びソファーにゴロンと寝転んだ。
すると、ポン太がソファーへ飛び乗ってきた。
「もー、暑苦しいなぁ。」
「クゥン……」
ソファーをガリガリと掘り、彼女のお腹のあたりで器用に体を丸めて寝る体制に入った。
「毛が……まぁ、あとでコロコロすればいっか。」
何だかんだ言って、天邪鬼な飼い主だ。そのまま彼女も一緒に眠りについてしまった。
── ── ── ── ── ── ── ── ── ──
「ちょっと美咲! あんたちゃんとポン太見てなさいって言ったでしょ!」
「……え? なに……?」
母が帰ってきたようだ。そしてなにやら怒っている。怠い起き抜けの身体を起こし、辺りを見回す。
すると、──またもやクッションが無残な姿に変わり果てていた。
それに、勿論服は毛だらけ。どうやら粗相もしている。怒鳴って起こされた上にこの有様。気分は最悪だった。
「もーっ!! やっぱり犬なんて大っ嫌い!!」
結局、彼女は犬を好きになれないのであった。
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