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神社に乞う渇き
願えば叶うと誰かが言った。
信じて、一心に願えば叶うのだと。
だから願ったのだ。神に、未来に、自分自身に。
だというのに、どうだ。
僕は一向に幸せにならない。
相変わらず通りに出れば奇異の視線が僕を襲う。『お前は誰だ』とでも言うように。
僕からすればその視線を浴びせてくる彼らの方が余程奇異なのだ。
簡単に形容するなら、獣が二足歩行で歩き、言語を喋っている。狼のような毛並みと、虎のようなガタイの良さと、百獣の王のようなその外見に、初めて見たときは腰を抜かした。そして、唖然としているうちに投げられてしまった。打ちつけられた痛みよりも驚きが優った。
その時、たまたまたどり着いたのがこの神社だった。ここには何故だかアイツらが寄り付かない。それに、食料がいくらかある。だからここで過ごそうと決めたのだ。
そして、僕は願った。
どうかここから出してくれ、と。せめてその方法を教えてくれ、と。
だと言うのに僕は一向にここから逃げることが出来ない。一体どういうことか。
僕は確かに正真正銘の人間だ。
……そう、人間だ。確かに人の子なのだ。
…………親。父は、母は、どんな人だったっけ?
その疑問が頭を掠めた途端、濁流のように記憶が押し寄せて来た。
そうだ、僕は、この世界とは違う、向こう側の世界で、確かに願ったのだ。
どうかここから出してくれ、と。
願いは、叶った……?
いや、違う。だって、まだ僕は望んでいる。別の世界へ行くことを。
カタリ、と何かが動く音が聞こえた。
そして、奥へと続く扉──神様がいるのだと思っていた──から、光が溢れ出した。
知っている、ここから僕は別の世界へ行くのだ……。
光は僕を取り囲み、鼓膜が捉えきれないほどの雑音で僕を包み──。
そして、僕は、また願う。
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