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 北海道砂川市の街のど真ん中に、ずんぐりしたタワーが建っている。高さは200メートルほど。  でも、地下は3000メートル以上もある。かつては炭鉱の縦坑だった場所。  今は宇宙ロケットの発射台である。  城・アストロ(じょう・あすとろ)は気密エレベーターの端の席にいた。シートベルトで体を席に固定する。30席ほどある大型のエレベーターだ。  足首を回した。まだ、クツと足がなじまない。  カツカツと音をたてる固い靴底は、宇宙に履いていけない。足音の出ない新しいクツを用意しなければならなかった。  ポーン、チャイムが鳴った。 「これより、搭乗機へご案内します」  アナウンスの後、エレベーターが動いた。  自由落下で、ほとんど無重力になる。4秒で100メートルも落下するエレベーターだ。  シートベルトをにぎった。浮き上がりそうな体を席に押し付けて耐える。  10秒と少し経って、新しいチャイムが鳴った。重力がかかり始めた。エレベーターが落下速度を調整している。  重力は急に強くなった。エレベーターは減速に入った。体重が倍以上になる。  血が足に落ちて、目の前がかすんできた。目を閉じ、両足を踏ん張る。  重力が少し弱くなった。やがて、慣れた普通の状態となる。エレベーターが停まった。  地上から2分とかからず、発射台の最深部に着いた。ロケットを地上で疑似体験するエレベーターだ。  ポーン、チャイムが鳴った。 「ただ今、搭乗口に到着しました」  アナウンスと共にドアが開いた。ロケットにつながる気密通路だ。  地下3000メートルともなれば、かなり地上より気圧が高い。エレベーターと通路、ロケット内部は地上の気圧に合わされ、搭乗者の身体に負担をかけないようにしている。  アストロは席から立ち上がる。ぎしっ、下半身に着けていたパワーアシスト装具がきしんだ。さっきの減速加重で歪んだのか。  鼻息をひとつ、先行く人達に並んで歩いた。通路を渡り、ロケット搭乗口に行く。
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