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──そして、悲しげに笑った。
その顔は、前にも見た。
もう、見たくなかったのに。
赤く染まった唇が弱々しく動く。声にはなっていない。けれど、聞こえなくてもわかる。
──今度は、守ってくれる?
守る? あんな怪物相手に何かできるはずもない。でも。
『花嫁を守るのは男の役目だろう──』
どこかから聞こえる声に頷く。そうだ。僕の役目だ。
『誓え。
全てを捧げろ。
愛なんてチンケなものじゃねぇ、
お前の誇りのためだ』
当然だ。そんなこと、言われなくても分かってる──
『ならばお前は栄光と花嫁の供物。
冒涜の盃を交わすもの。
聖書を火にくべるもの。
白いパンを穢れた血に浸すもの』
そこで、僕の意識は闇に飲まれた。
錆び付いたような声だけが、脳裏に焼きつく。
『俺はお前の罪。
俺はお前の罰。
共に罪を犯そう。俺の肉……』
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