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憧れの激写
なんとなく。
誰かに理由を聞かれたらそう答えるしかない。別にこの行為を続けることによって何かを知ろうとか、そんなことを考えていたわけではない。ただ、なんとなく。思いつきで。
私は隠し撮りを始めた。
それもカップル限定で。
手を繋いだり、肩を組んだり、これ見よがしな行動をとっている二人一組の男女を中心に。
なぜだかわからないけれど撮りたくなるものは、きっと誰にでもあるのだ。
空の色、誰も乗ってない電車、ざわざわと揺れる木の枝……。私にとってはそれが手を繋ぐカップルだった。
いわゆる盗撮というやつだった。
でもどこかで公開するわけでもない。誰かに見せるわけでもない。ただただ自己満足で。
人混みの中でイチャつく彼らをとったところで誰にバレるわけでもなかった。
そのうち、カメラロールにたくさんの人の写真がたまってきた。その中でも上手く撮れたものだけを残して他を削除した。翌日になったらまた撮り始めた。
何度も。何度も。
眺めていると不思議な気分になる。
彼らは人目をはばからず、自分たちの幸せのためだけに行動しているのである。周りの人からどう思われるかなど考えもせずに。
というのは、私の偏見かもしれないが、でも一回もバレたことがないのだ。
静寂の中ではやたら目立つシャッター音も人混みの中では話し声よりも小さい。音でバレることはまずないし、彼らは後ろを振り返ったりしないのだ。
盲目的に信じている。繋いだ手を見ているとそうとしか思えない。
彼らは相手を信じきっている。手を取り合い、肩を組み、触れた体温の暖かさが決して変わることのないものだと。
ここにあるのは"世界で一番幸せ"な人々の写真なのだ。例え、相手の人間が変わっている証拠が手のひらの内にあろうと。
……あぁ、そうか。
私は自分には決してできないことに憧れを抱いていたのだろう。
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