秋の味覚ジャック・ワサビの乱

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秋の味覚ジャック・ワサビの乱

皆のもの! 今日は魔法の食材を紹介しよう。その名も「ワサビ」だ。なに? 聞いたことがないって? それもそのはず。これは人間界の小さな島国で食されているものだからな。しかし! この革命的たる旨さに舌鼓をうたないなど、人生の120%を損していると言っても過言ではなかろう! 言い過ぎじゃないかって? ふふ……ならば教えてやろう。このワサビストたる俺が! どうだ? これがワサビの原型だ。この太くゴツゴツした部分が根っこだ。ここを食べる。 他の野菜のように切るのかって? そうじゃないんだな! これはなんと、すりおろして食するのだ! しかし、この番組をご覧の皆さんはすりおろし機など持っていないだろう。そもそも人間界にある食物など高級すぎて買うことはできない。 そこで! 俺は革命的な発明をした! そう……あらゆる食べ物をワサビ味に変える魔法を発明したのだ! あの辛み、あの旨み! それをいつでも楽しめる世紀の発明だ! それではその魔法をご覧にいれよう……! 『皆のもの! 今日は魔法の食材を紹介しよう。その名も『ワサビ』だ』 私立メルフィーユ学園高等部の中庭。精霊たちの休憩所でもあるこの場所で、男子生徒が何かを演じている。 そのあまりに奇怪な様子を横目に見るものはいても、話しかけることのできるものはいないらしい。 女子生徒の後を追う中等部の少年も例外ではないようだ。 「先輩。あの、あの先輩は何をしてるんでしょう?」 「ん? ……あぁ、アイツか。アイツはそういうやつなんだ。気にしないでくれ」 女子生徒にとっては日常茶飯事のようで、誰もいない場所に向けて語りかける彼を平然と無視している。 「いや、気になりますよ……なんか『ワサビスト』とか言ってるんですけど。ワサビストって何ですか? うわっなんか変なの出した!」 「気にするな。気にするな……あ、いや、さすがにアレは気になるな。なんだ? あの緑の」 「なんか『ワサビ』っていうらしいですよ。……先輩カメラ見えますか?」 「え? カメラ? 見えないが……どうした?」 「いや、今『番組をご覧の皆さん』って言ってたので……」 「お前よく聞いてるな……。アイツの声がデカイのか。ん? なぁ、アイツ杖を取り出してないか?」 「え? あ、ホントだ。『あらゆる食べ物をワサビ味に変える魔法を発明したのだ!』とか言ってますよ」 「……知ってるか? アイツ、あれでもうちの学年でトップの成績を持ってるんだ」 「え、それがどうしたんですか?」 「嫌な予感がするんだよ……うあっ」 「っ! すっごい強風が吹きましたね! あの人ほんとにすごい魔力を持ってるんだ……」 「……なぁ、お前辛いの平気か?」 「え? まぁ、大丈夫ですけど……」 「弁当を余らせてしまったんだが、食べてくれるか?」 「え、今ここでですか!? まぁいいですけど……あ、パンケーキじゃないですか! いただきまーす」 少年はパンケーキを口に含むと、何とも言えない珍妙な顔をした。 その様子を見た女子生徒は元凶に向け一目散に走る。 「今すぐその魔法を解けドアホぉぉぉおおおおおおお!!!」 かくして、『秋の味覚ジャック・ワサビの乱』が始まったとか。
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