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幼い僕たちの復讐劇
僕が教室にのこしてきたものが話題になっているのだろう。休憩中くらいは各々自由に過ごせばいいのに、他クラスの生徒までもが校内の話のタネを追いかけに来ている。おかげさまで人の流れに逆らいたい僕は動きづらいことこの上ない。
まあ、まだ慣れていない、というのもあるが。
無神経な生徒たちの間を通り抜け、僕は一心に屋上を目指す。ずっと、ずっと会いたかった彼女に会いに行く。
屋上には鍵がかかっていたが、僕と彼女には関係ない。外に出ると、厚い雲の下で彼女は待っていた。
「……久しぶり」
声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り向く。僕の姿を認めると、その目は大きく開き、鋭く息を吸い込んだ。
「……バカね」
そして風に消えてしまうほど小さな声で呟いた。
「久しぶり。清太」
そうして僕の名前を呼んだ。
何から話せばいいものかわからず戸惑う彼女の様子を見て声をかける。
「心配しなくても、忘れてなんかいなかったのに」
先週の金曜日。2時間目の授業中、ずっと廊下から風が吹き込んでいたのを思い出しながら言う。あの時はまだ11月だったが、カレンダーは風に煽られ3日ほど早く12月の訪れを告げていた。
「バレてたか」
「君がやることなら大体予想はつくからね」
ばつが悪そうな顔をして彼女は俯く。
「12月の3日」
そこで一度言葉を区切り、大きく息を吸い込んで言う。
「今日は君の命日だね」
僕は彼女の目の前で土下座をする。額が地面を擦る感覚はしない。
「ごめん。何もできなくて。僕の兄があんなことをしてしまって……」
思い出したくもないし、思い出させたくもない。
僕に彼女ができたと知った兄は、どこから情報を嗅ぎつけてきたのか、彼女の在籍するクラスと、その中のいじめっ子とをあぶり出した。そして、彼らに度数の高い酒を渡して命じたのである。
彼女を思う存分痛めつけてやれ、と。
結果として彼女は急性アルコール中毒で亡くなってしまった。犯人である彼らは捕まったが、一体どういう教育を受けてきたのか首謀者である兄の存在は、皆決して語らなかった。僕自身が警察に訴えようとしたが、当時僕は足が使い物にならなかった。何故かは言うまでもない。僕の家には怪物が住んでいたのだから。
傍目から見れば僕の罪はない。けれど謝らない訳にはいかなかった。
「ごめん。守ってあげられなくて」
「いいんだよ。もう……あんたが許しを請う必要はないよ」
それに、と続けて彼女は言う。
「あんたは、死んでくれたじゃないか」
「……うん」
階下で教員や生徒達が慌ただしく駆け回っている様子が屋上まで届いている。
「この腐った機関の中で死んでやることが僕の目標でもあったからね。今ごろ僕が遺してきた体が遠巻きに見物されてるんだろう」
僕を見物している人間達を見物してやるのも一興、という気がしたが、それは趣味が悪すぎるだろうから提案するのはやめておいた。
「じゃあ、いこうか」
「うん」
僕と彼女は手を取り合って兄の元へと飛ぶ。
積年の恨みを晴らすため。殺すだなんて生ぬるい。奴らにはそんな一瞬で終わってしまう痛みは与えない。
未来永劫祟ってやる。
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