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あなたの愛に包まれながら
身体が動かなくなってから、もうどれくらいが経ちましたかねぇ。
私が起き上がらなくなったあの日、ご主人たちはその瞳からたくさんの涙をこぼしながら私を見つめていらっしゃいました。ご主人たちの使う言葉は、私には理解できませんが、きっと、私が消えてしまうと心配されたのでしょうねぇ。私もすぐにでも消えてしまうものだと思っていましたよ。
けれど、ついに、ここまで生きることができました。ご主人と、ご主人のつがい──パートナーと言うのですか?その二人の匂いが混ざり合った、新たな命がこの家にやってくるまで。その子の匂いを感じることができて、ホッとしましたよ。
さて、ご主人。
そろそろ、時間のようです。
あぁ、ご主人、そんなに泣かないでください。涙の匂いは塩辛くていけません。私まで開かないはずの目から雫が溢れそうではないですか。
あぁ、ご主人。
あなたは今、その体温で私を包んでくださっているのですね。
わかりますよ。ご主人のことですから。それに、ご主人が私のことを可愛がってくれる時には、いつもとは違う匂いがするのですよ。今日はもう──今までで一番の、私の拙い言葉では表せないような匂いが、しています。
あぁ、ご主人。私は幸せ者です。
ご主人の優しさに包まれ、ご主人の愛の匂いを感じながら、向こうへ逝くことができるのですから。
あぁ、でも、もし、神様がいるのならば。
あと少し、あと、ほんの少しでいいのです。この幸せな体験を、私の魂に染み渡らせるだけの時間があればいいのです。
あと、ほんの少しだけ。
このままでいてもいいですか?
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