第三話  『草の庵』

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少々くたびれてはいたが質は悪くないように見える。 かつて牛車の物見から見た、農夫たちの匂い立つような衣とは明らかに違っていた。 意匠も変わっている。 縫い合わせた左右の袖と上前下前の色に濃淡がある。 かといって、破れたり穴が開いたりしたものを塞いだわけではないらしい。 色目を換えているようだ。 どこからこのような発想が出てくるのだろうか。 あえて似た物を探せば宮中で流行り始めた継紙だろうか。 何より変わっているのが、頭周りだ。 烏帽子をかぶらぬばかりか、妙な被り物をしている。 髪は結わず、背中に垂らした袋の中にしまいこんでいるように見える。 頭には露草色の麻布を巻いて、髪の毛を見事なまでに隠している。 しかも、この暑い中、手甲(てこう)をつけ、革の(くつ)まではいていた。 手甲や脛巾は日焼けや、(とげ)や葉のかぶれ、あるいは(うるし)や虫などから身を守るためのものだ、と聞いたことがある。
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