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少々くたびれてはいたが質は悪くないように見える。
かつて牛車の物見から見た、農夫たちの匂い立つような衣とは明らかに違っていた。
意匠も変わっている。
縫い合わせた左右の袖と上前下前の色に濃淡がある。
かといって、破れたり穴が開いたりしたものを塞いだわけではないらしい。
色目を換えているようだ。
どこからこのような発想が出てくるのだろうか。
あえて似た物を探せば宮中で流行り始めた継紙だろうか。
何より変わっているのが、頭周りだ。
烏帽子をかぶらぬばかりか、妙な被り物をしている。
髪は結わず、背中に垂らした袋の中にしまいこんでいるように見える。
頭には露草色の麻布を巻いて、髪の毛を見事なまでに隠している。
しかも、この暑い中、手甲をつけ、革の沓まではいていた。
手甲や脛巾は日焼けや、棘や葉のかぶれ、あるいは漆や虫などから身を守るためのものだ、と聞いたことがある。
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