第三話  『草の庵』

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    * 男は山を下り、鬱蒼と生い茂る藪の中、およそ人の通るとは思えない場所を進む。 縦に横にと振り回され、虫の垂れ衣は木の枝に引きさかれ、わけのわからぬものが顔に張りついた。 幾度も声を上げたが、男は心配顔ひとつ見せず、そのうち、振り返りもしなくなった。 蚊に刺され、蒸し暑さに辟易する。 時折、何かの気配が感じられた。 蚊の羽音とも違う唸るような音や、聞いたことのない鳴き声、さらには人のすすり泣くような声さえ聞こえてくる。 姿は見えぬが、笹や枯葉を踏みしめながらわたしの目の前を横切るモノもいる。 「あれは何です?」と、尋ねるが、 「悪さはすまい」と、一言で片づけられた。 洛外では魑魅魍魎(ちみもうりょう)が闊歩し、百鬼夜行に出逢った者もいると聞く。 それではないかと、男に念を押す。 「観たいのか」と、訊いてくる。 「御免です。人を喰らう、というではありませんか」と答えると、
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