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「あれはあれで面白いのだが」と、まるで見世物でもあるかのように返してくる。
先ほど襲ってきた山賊は十人はいただろう。
一人取り逃がしたとは言え、それを瞬く間に退治するなど、人の仕業とも思えなかった。
この男こそ、その類のものではなかろうかと今更ながら不安に襲われた。
と、男の足が止まった。
慌てて身構えたが、そうではなかった。
巨大な岩が立ち塞がっていたのだ。
男の様子から、目的地に着いたのだと見当がついた。
右手に回ると、崖らしき場所にでた。
背負われたまま、崖を伝うように道ともいえぬ足場を進む。
夜で幸いだった。明るい刻限であれば大騒ぎしていたであろう。
二間ほど進み、岩と岩の狭い隙間をくぐり抜け、登っていくと柵らしいものが行く手を遮る。
それを通り過ぎると竹林が現われた。
その先に大きく突き出た大岩が見える。
岩下に屋根と壁を兼ねたような茅葺の粗末な納屋のようなものがおさまっていた。
大岩の上から張り出す松の枝が、その下にあるものを覆っている。
まるで、ここを何者からか隠すかのように。
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