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序章 『十種神宝』
「荒覇吐様!荒覇吐様!」
悲鳴のような呼びかけに目を覚ます。
つけていたはずの灯明皿の灯も消えている。
魚油が切れていた。
刻は彼誰時であろう。
闇の深さと涼しさから見当をつける。
夜着をはねあげ、錫杖を手に出口に向かうと、大幣が待ちきれぬとばかりに岩屋にかかる幕をあげた。
その顔は色を失い、苦悶に歪んでいた。
「大和の軍勢が押し寄せてまいりました」
岩屋を出て眼下に目をやった。
闇の残る中、軍勢の先鋒は鉄囲峠を越え、集落に迫っていた。
国を囲む鉄囲山の峰を伝い、包囲しようとする一団もある。
わが国の民を一人たりとも逃がすまいとしているのだ。
日の出前の薄暗い湊には、大小数百艘の船が浮かんでいた。
樋ノ口あたりから火の手が上がっている。
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