第三話  『草の庵』

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第三話  『草の庵』

【輝夜】 「従者が生き返るのならな」 男は、憎らしいほどいきがる様子もなく答えた。 弓の腕からすれば、山の民の可能性も捨てきれない。 だが、人の体を打ち抜きながら、(たかぶ)る様子一つ見せないところを見れば、武士だろう。 若くはあっても、幾度となく(いくさ)を経験すれば度胸もつくに違いない。 恐ろしさもあって山賊たちには目をやらぬようにしていたが、何やら違和感を覚えていた。 ようやく、その正体に気がついた。 目の届く限りではあるが、矢はすべて脚に当たっていたのだ。 まさか、狙って射たというのか。 あらためて男の姿を眺めた。 狩衣に似た掛水干を短く細身に仕立て、(すそ)脛巾(はばき)に込めている。袂の幅も狭い。 奇をてらったように見えるが動きやすそうではある。 袖も庶民の直垂の袖に近い。 色は涼し気な薄浅黄。 月明かりの下でも質感は見て取れる。生地は麻だろう。
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