プロローグ

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プロローグ

 俺は宙に浮いたこぼれ球をエアリアルで鮮やかに拾うと、すぐさまブーストを掛け、敵陣の右サイドを突っ込んでいく。  そのままシュートすると見せかけて敵達をこちらにギリギリまで引き付け、絶妙なタイミングで左サイドに走り込んでいた味方へパスを出した。  そいつは的確にシュートを決め、相手チームのゴールを激しく揺らしたのだった。観客達の歓声が巻き起こる。  自室にあるPC画面の前で、俺はその光景をただ無表情で見つめていた。  俺は『league of cars』というゲームをプレイしていた。それは一言で言うと、ジャンプやダッシュが可能なラジコンカーを操作してサッカーを行うゲームだ。  俺は中学のある日を境に、このゲームに取り憑かれたように夢中になった。  何度も繰り返し練習して、新しい技術ができるようになると嬉しくて仕方がなかった。見ず知らずの相手とオンラインでチームを組み、自分の活躍でチームを勝利に導いたときは、興奮と達成感で胸が熱くなった。  ところが時が経つにつれ、次第に自分の実力に限界を感じるようになった。自身の成績によって格付けが変動する、ランクと呼ばれるものも、始めたばかりの頃は順調に上がっていったものの、今では同じところの行ったり来たりを繰り返すようになった。  いくらやっても上手くいかない。このゲームを始めた頃の熱意と喜びは、もう今の俺には残っていないような気がしていた。それでも俺にはこのゲームを止められない理由があった。  このゲームを止めてしまうと、自分の心にぽっかりと穴が開いてしまうような気がしていた。そしてその穴の中に、考えたくもない過去、現在、未来が少しずつ忍び込んできて俺を侵食するような、そんな気がしていた。俺はそれが怖かったのだ。  2000時間――。  俺がこのゲームに費やしてきたこの数字は、俺が青春という貴重な月日をドブに捨てた時間であり、現実から目を逸らしてきた臆病者であることを証明する時間でもあるのだ。  俺は翌日に控えた、高校3年生となる始業式のことを考え、人知れずため息をつくのであった。
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