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出会い
翌日、始業式は滞りなく終わり、俺は3年4組の窓際最後列に着席していた。
クラスは基本的に繰り上がりのため、同級生の顔ぶれも担任も2年生のときと同じだった。ただ教室の場所が2階から3階に変わる。このときの俺は、自分に起こる変化はただそれだけのことだと思っていた。
「それではこれから、このクラスに新しく入る転校生を紹介する」
教壇に立つ担任の松本がそう言うと、クラスはにわかにどよめいた。
「彼は日本人とアメリカ人のハーフで、アメリカから帰ってきたばかりの帰国子女だから、なにか日本のことで分からないことがあったらちゃんと教えてやれよ」
ハーフ、帰国子女というキラーワードに、女子達が一層色めき立った。
「おーい、入りなさい」
松本が廊下に向かってそう促すと、教室の引き戸が開いた。
入ってきたのは、彫りが深くて精悍な顔つきをした、いかにも好青年と言った男子生徒だった。これでは女子達のざわつきが収まらないのも無理はないと思った。
男子生徒は教壇に上がり松本の隣に並んだ。
「じゃあ、自己紹介して」
彼は「はい」と力強く返事をすると、快活な声でしゃべり始めた。
「始めまして、桐ヶ谷丈といいます。産まれてから6歳までは日本にいましたが、それからはずっと父の仕事の都合でアメリカのニューヨークに行っていました。日本にはまだ慣れていないので迷惑を掛けてしまうこともあると思いますが、よろしくお願いします」
アメリカやニューヨークといった横文字の発音が本格的な英語っぽいのが、この男が本当に帰国子女であることを物語っていた。
桐ヶ谷が話し終えてぺこりとお辞儀をすると、教室からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。しかしその大半は女子のものであったことは言うまでもない。
「じゃあどの席に座ってもらおうかな……」
松本が教室内を見渡し、桐ヶ谷の座る席を物色している。
嫌な予感がした。なぜなら俺の隣の席がちょうど空いていたからだ。案の定松本はその席を見つけると、おっと小さく声をあげた。
「きみ、あの席に座りなさい」
松本は俺の隣の席を指差した。
桐ヶ谷は周囲の視線を釘付けにしながらこちらへ向かって歩いてきた。それはさながら、花道を練り歩く千両役者のようであった。
彼は着席する間際、こちらを見やり、アルカイックスマイルを浮かべて言った。
「よろしく」
その自信に満ちた表情と口調は、いかにこの男が今まで順風満帆な人生を歩んできたのかが透けて見えるものだった。この恵まれた容姿によって、これまでにどれだけのいい思いをしてきたのだろう。俺は目の前のパーフェクトヒューマンに対し、思わず嫉妬という名の嫌悪感を覚えたのだった。
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