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休み時間になり、桐ヶ谷の席の周りには人だかりができていた。やはりその大半は女子であった。
女子達は桐ヶ谷を質問攻めにしていた。身長、体重、好きな食べ物など、知りたくもない情報が、否が応にも隣にいる俺の耳にも入ってくる。耳障りこの上ない。
「ねえ、桐ケ谷くんの趣味って何なの?」
ひとりの女子が興奮気味に尋ねた。
「ゲームだよ」
桐ヶ谷はあっけらかんと答えた。その発言に、俺はちょっとだけ食指が動いた。
「へえ、意外。てっきりなにかスポーツでもやってるんだと思った」
「ううん。ぼく、スポーツは苦手なんだ」
桐ヶ谷の返答に、若干女子達のテンションが下がったような気がした。
「じゃあその分、勉強ができるんだ」
「ううん。勉強も苦手。この学校に転校するときに受けた試験もギリギリでパスしたくらいだし」
無垢な笑顔でそう言う桐ヶ谷に対し、数人の女子が席へ戻って行ったのを俺は見逃さなかった。
「このクラスにゲームが好きな人っていないのかな?」
桐ヶ谷は周囲の同級生達を見回して尋ねた。
「ああ、それなら高野がそうじゃね?」
おせっかいなひとりの男子が俺を名指しした。みんなの視線が俺に向けられる。
「確かお前、中学の頃からleague of carsとかいうゲームにハマってるって前に言ってなかったっけ」
みんなが俺の返答を待っている。俺は無言の圧力に負け、素直に白状した。
「ああ、そうだけど……」
俺が渋々そう言うと、桐ヶ谷は突然席から立ち上がった。その行動に俺も周囲の人間も唖然とするばかりだった。
「きみ、名前は?」
桐ヶ谷は俺を真っ直ぐに見据えている。俺は唐突な質問に戸惑った。
「……は?」
「名前だよ、what's your name!」
流暢な発音でそう聞かれ、俺はようやく名前を聞かれたのだと理解した。
「高野……。高野亮平だけど……」
俺が勢いに気圧されつつもそう言うと、なぜか桐ヶ谷は俺のほうに歩み寄ってきた。そして両手で強引に俺の右手を握り、真剣なまなざしで俺を見ながら言った。
「亮平、ぼくの友達になってください」
突然のストレートな申し出に、俺は思わず素っ頓狂な大声を上げてしまった。
厄介な人物に目を付けられてしまった。俺は今後のことを思うと、面倒でため息が出てしまいそうになるのだった。
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