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「じゃあ、そう言うことで、よろしくね」
「は、はい……」
数分後――。思いのほか早々と店長の部屋を後にして、次に俺が向かった先は、フロアではなく更衣室だった。
「ロッカーは、ここ空いてるから……ここ使って」
「はい」
そしていま、目の前には見慣れない一人の青年が立っている。
(透くん、って言ったっけ……)
俺は着替え始めたその姿をぼんやり眺めながら、たった今聞いてきたばかりの店長の話を思い返していた。
暮科が言ったような内容じゃなかったことは、本当に心底幸いだった。
だからってなにも、こんな現実を望んでいたわけでは……。
(ていうか、ほんとに俺でいいのかな)
通告とも言える、話の内容はこうだった。
彼は、これから一月半の間だけ、店でバイトをすることになった上(こう)月(づき)透(とおる)くん、大学三年生。
今日は来られる時間に来てもらったけど、明日からは早番基本のシフト勤務。接客業は未経験だけど、まぁ何とかなるでしょう。ていうか何とかしてね。
というわけで、木崎くん。ちょっと急だけど教育係、頼んだわよ。
(いやいやいや、全然ちょっとじゃないじゃん! 急すぎじゃん!)
と、まぁ、大まかに言えばそんな感じで、俺はその大役――当社比――を引き受けざるをえなくなったわけで――。
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