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やばい、また暮科だ。
「そ、そんなことないよ」
すぐさま笑顔で振り返るが、声音と同様、その眼差しは凍えそうに冷えている。
「……まぁいい。手が空いたら来てほしいって店長から伝言だ。こっちは良いから行ってこいよ」
「店長って……上月店長?」
「他に誰がいるんだよ」
「いや、そうだけど……でも、いったい何の用だろ」
「お前の勤務態度について、言いたいことでもあるんじゃないのか」
「えぇっ……! う、嘘でしょ? 暮科何かチクったの?!」
思わず、ホールにも届きそうな声を上げそうになり、慌てて口を押さえながら声量を落とす。
(そう言えば……)
普段は遅番がメインのはずの暮科が、今日早番で出ている理由はなんだっけ?
暮科は基本遅番だけど、場合によっては早番で出ることも珍しくない。ただ、よく考えたらその理由を今日は耳にしていない。
いつもなら、誰々の代わり~とか、急遽人が足りないから~とか、聞かなくても自然と知れることも多いのに、今日は思い当たる理由もないし、取り立てて用事が入っているとも聞いていない。
なのに何で、暮科は今日早番で出てるわけ?
(それってまさか、俺を監視する為――?)
えっ、うそ査定? もしかして次のボーナスに響くやつ?
そんな……君の数少ない、数! 少ない! 友達を売るなんて、いったいどう言うつもりなのさ!
確かに仕事の面では暮科はずっと先輩だけど、これでも年齢は同じなんだよ? プライベートでも飲みに行ったりする仲でもあるし、そのへん考慮してくれないと……って、暮科がそんなの考慮してくれるはずないか。特に俺相手になんて。
「ま、まぁ、そうと決まったわけじゃないし……」
「何ぶつぶつ言ってんだよ」
俺は「なんでもない」と力なく首を振り、
「とりあえず、行って来る……」
と、ひとまず二階にある店長の部屋に向かうことにした。
冷えた背中に、愛想の無い見送りを受けながら。
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